相続税の金額を知るためには、国税庁ウェブサイトに掲載されている「速算表」を利用するのが便利です。
ただし、相続税の計算方法を正しく理解していないと、速算表を用いても相続税額を正しく計算できません。
相続税の計算方法について分からないことがあれば、税理士に相談することをおすすめします。
本記事では、相続税の速算表の使い方や、速算表を用いた相続税の計算方法などを解説します。
国税庁のウェブサイトには、相続税の速算表(税率表)が掲載されています。
相続税の速算表は、実際に相続税の額を計算する際に役立ちます。
<相続税の速算表>
法定相続分に応ずる取得金額
税率
控除額
1,000万円以下
10%
-
1,000万円超から3,000万円以下
15%
50万円
3,000万円超から5,000万円以下
20%
200万円
5,000万円超から1億円以下
30%
700万円
1億円超から2億円以下
40%
1,700万円
2億円超から3億円以下
45%
2,700万円
3億円超から6億円以下
50%
4,200万円
6億円超
55%
7,200万円
相続税の速算表は、「法定相続分に応ずる取得金額」「税率」「控除額」の3項目によって構成されています。
以下の式によって、各相続人の相続税額を計算することができます。
「法定相続分に応ずる取得金額」とは、相続税の課税価格を、法定相続分に応じて各相続人へ割り当てた金額を意味します。
たとえば、相続税の課税価格が8,000万円で、法定相続人が被相続人の配偶者Aと子B・Cの計3人であるとします。
この場合、配偶者Aの法定相続分は2分の1、子B・Cの法定相続分は4分の1ずつです。
法定相続分に従って課税価格を割り当てると、法定相続分に応ずる取得金額は以下のようになります。
実際には法定相続分とは異なる割合で遺産を分け合うケースもありますが、相続税の速算表においては、(とりあえず)法定相続分に応ずる取得金額を用います。
「税率」とは、法定相続分に応ずる取得金額に対して掛ける税率を意味します。
相続税には、課税価格が増えるに連れて、段階的に税率が上がる「累進課税」が採用されています。
相続税の速算表における税率は、法定相続分に応ずる取得金額に対して課される税率のうち、もっとも高い率を表したものです。
たとえば、法定相続分に応ずる取得金額が4,000万円である場合、本来の税率は以下のように区分されています。
相続税の速算表では、法定相続分に応ずる取得金額の4,000万円全体に対して、いったんもっとも高い「20%」の税率を適用します。
そのままでは3,000万円以下の部分の税額が高すぎますが、控除額で調整されるようになっています。
「控除額」とは、法定相続分に応ずる取得金額に税率をかけて得た金額から、実際の相続税額を計算するために控除すべき額を意味します。
相続税の速算表では前述のとおり、法定相続分に応ずる取得金額全体に対して、その金額に適用される中でもっとも高い税率をいったんかけます。
その後、低い税率が適用される部分について過剰となっている税額を、控除額を差し引くことによって適正化します。
たとえば、前述の法定相続分に応ずる取得金額が4,000万円であるケースにおいて、全体に20%の税率を適用すると、3,000万円以下の部分は以下の税額が過剰となります。
法定相続分に応ずる取得金額が4,000万円の場合、控除額は200万円で、上記の過剰額と一致します。
したがって「法定相続分に応ずる取得金額×税率」(=4,000万円×20%=800万円)から控除額(200万円)を差し引けば、正しい税額(=600万円)を求めることができます。
速算表を用いた相続税の計算方法と、計算例を紹介します。
速算表を使うタイミングを間違えないようにしましょう。
まずは、相続税の課税価格を以下の式によって計算します。
相続税の課税対象となるのは、以下の財産です。
ただし、以下の財産などは相続税が非課税とされているため、課税対象財産から除外します。
課税対象財産を取得する者が以下の債務を負担する場合に、その債務が確実と認められるときは、相続税の課税価格から控除することができます(=債務控除、相続税法13条、14条)。
課税対象財産の総額から債務控除額を差し引いた額のうち、基礎控除額に達するまでの部分は、相続税が非課税とされています。
相続税の基礎控除額は、以下の式によって計算します。
法定相続人になることがあるのは、被相続人との間で以下の続柄にある人です。
法定相続人は、市区町村役場から戸籍謄本類を取り寄せて確認します。
法定相続人になることがある人は下記のとおりです。
常に相続人になります(民法890条)。
常に相続人になります(民法887条1項)。
被相続人の子が死亡・相続欠格・相続廃除のいずれかによって相続権を失った場合は、その人の子(=被相続人の孫)が代襲相続によって法定相続人となります(民法887条2項)。
また、被相続人のひ孫以降の直系卑属による再代襲相続も認められています(民法887条3項)。
被相続人の子または孫以降の直系卑属である相続人がいない場合に限り、相続人となります。
被相続人との親等が異なる直系尊属がいる場合は、最も親等が近い人のみが相続人となります。
被相続人の子、孫以降の直系卑属または直系尊属である相続人がいない場合に限り、相続人となります。
被相続人の兄弟姉妹が死亡・相続欠格・相続廃除のいずれかによって相続権を失った場合は、その人の子(=被相続人の甥・姪)が代襲相続によって法定相続人となります(民法889条2項)。
なお、相続税の基礎控除額を計算する際には、法定相続人の数について以下のルールが適用されることにご留意ください。
上記の設例では、基礎控除額が「4,800万円」(=3,000万円+600万円×3人)です。
したがって、相続税の課税価格は「1億1,200万円」(=2億円-4,000万円-4,800万円)となります。
上記の方法で計算した相続税の課税価格を、法定相続分に応じて各法定相続人に振り分けます。
設例では、配偶者Aの法定相続分は2分の1、子B・Cの法定相続分は各4分の1です。
したがって、法定相続分に応ずる取得金額は以下のようになります。
上記の方法で計算した法定相続分に応ずる取得金額を速算表に当てはめて、各相続人の相続税額を計算します。
<相続税の速算表(再掲)>
法定相続分に応ずる取得金額
税率
控除額
1,000万円以下
10%
-
1,000万円超から3,000万円以下
15%
50万円
3,000万円超から5,000万円以下
20%
200万円
5,000万円超から1億円以下
30%
700万円
1億円超から2億円以下
40%
1,700万円
2億円超から3億円以下
45%
2,700万円
3億円超から6億円以下
50%
4,200万円
6億円超
55%
7,200万円
法定相続分に応ずる取得金額は、下記となります。
設例では、配偶者Aについて「5,000万円超から1億円以下(税率30%、控除額700万円)」、子B・Cについて「1,000万円超から3,000万円以下(税率15%、控除額50万円)」を適用します。
その結果、各相続人の相続税額は以下のようになります。
各相続人の相続税額を合算して、相続税の総額を計算します。
各相続人の相続税額は、下記となります。
設例では、相続税の総額は「1,720万円」(=980万円+370万円+370万円)となります。
相続税の総額を、実際に取得した財産から負担した債務を控除した額に応じて、相続人や受遺者などに振り分けます。
実際の相続の内容は、下記のようになります。
設例では、1,720万円の相続税が以下のように振り分けられます。
最後に、以下のような加算や控除を適用して、納付すべき相続税額を計算します。
相続税の主な加算・控除
実際の相続分に応じた各相続人の相続税額は、下記のようになります。
※子Cは、相続発生時において16歳11か月とする。
※孫Dは、相続発生時において2歳3か月とする。
設例では、配偶者Aの相続税額が「配偶者の税額の軽減」によって0円になり、子Cの相続税額が「未成年者の税額控除」によって20万円(=10万円×2年)減額されます。
孫Dは相続発生時において2歳3か月ですが、法定相続人ではないので「未成年者の税額控除」は適用できません。
したがって、各相続人が納付すべき相続税額は以下のようになります。
相続税の計算方法は非常に複雑ですが、シミュレーターを利用すれば、大まかな金額を簡単に計算することができます。
ただし、シミュレーターによって計算される相続税額はあくまでも目安です。
正確な相続税額を知りたいなら、税理士に相談することをおすすめします。
相続税の計算に当たって速算表を用いる際には、以下のような不適切な対応をしている例が見受けられます。
このようなことをすると、相続税の金額を正しく計算できないのでご注意ください。
正確に相続税を計算するためには、課税対象財産を漏れなく把握しなければなりません。
被相続人が亡くなった時点で所有している財産のほか、生前贈与・死亡保険金・死亡退職金などにも、相続税が課されることがあるので注意が必要です。
課税対象財産の把握が漏れていると、後に過少申告を指摘されて追徴課税を受けるおそれがあります。
被相続人の遺品や、生前に聞いていた情報などを手掛かりにして、相続税がかかる財産を漏れなく調査しましょう。
相続税を計算するに当たって、債務控除や基礎控除ができることは忘れてしまいがちです。
債務控除や基礎控除を忘れると、本来よりも多くの相続税を納めることになってしまいます。
控除できる債務や基礎控除の計算方法を正しく理解して、適切に債務控除と基礎控除をおこないましょう。
相続税の速算表の誤った使い方として、相続税の課税価格(=課税対象財産の総額-債務控除額)を、いきなり速算表に当てはめてしまうケースがよく見られます。
相続税の速算表を用いるのは、課税価格を法定相続分に応じて各相続人に割り振った後です。
その前の段階で、課税価格の総額を速算表に当てはめてしまうと、誤った相続税額が計算されてしまうので十分ご注意ください。
相続税額の計算や、相続税の申告手続きについては、税理士に相談することをおすすめします。
相続税の計算方法は複雑で、提出すべき申告書類も多岐にわたります。
誤った形で相続税の計算や申告をおこなうと、過少申告を指摘されて追徴課税を受けたり、本来よりも多額の納税をしてしまったりすることになりかねません。
相続税に精通した税理士に相談すれば、正確に相続税の申告をおこなってもらうことができるので、過少申告や過大申告のリスクを防げます。
相続税の計算や申告に加えて、遺産分割などに関するトラブルへの対応も専門家に任せたいときは、税理士と連携している弁護士に相談するとよいでしょう。
遺産分割トラブルなどの法律問題には弁護士が対応しつつ、相続税に関しては連携先の税理士を紹介してもらえるので、窓口一つでさまざまなサポートを受けられます。
相続税の速算表は、相続人などが納付すべき相続税額を計算する際に役立ちます。
しかし、相続税額を正確に計算するためには、複雑な手順を正しく踏まなければなりません。
計算方法が誤っていると過少申告や過大申告をしてしまうおそれがあるので、税理士に相談してサポートを受けましょう。
「ベンナビ相続」には、税理士と連携している弁護士が多数登録されています。
税理士と連携している弁護士に相談すれば、遺産分割などの法律問題と、相続税などの税務をワンストップでサポートしてもらうことができます。
無料相談を受け付けている弁護士も数多く登録されているので、相続税や遺産分割についてお悩みの方は、「ベンナビ相続」を通じてお早めに弁護士へご相談ください。
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