ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ) > 相続コラム > 相続税 > 株式の相続税評価額の算出方法と節税対策|上場株式と非上場株式の違いと注意点
更新日:

株式の相続税評価額の算出方法と節税対策|上場株式と非上場株式の違いと注意点

大倉佳子税理士事務所
大倉 佳子(税理士)
監修記事
注目 相続税に関する弁護士相談をご検討中の方へ
電話・メールOK
夜間・休日も対応
累計相談数
9万件超
相続税に対応できる
弁護士から探せる
相続税の相談にも対応
している弁護士を探す

相続によって株式を取得したときには、相続税を算定するために株式評価をする必要があります。

しかし、株式は上場・非上場とさまざまな種類があるので相続税評価額を適正に算出するのが難しいですし、名義変更手続きや取得後の売却手続き、相続税申告手続きなどの手続きも煩雑です。

素人だけで手続きを済ませようとすると、どこかで瑕疵が生じて相続税などの申告漏れが生じかねません

そこで今回は、株式の相続税評価額の判定方法や名義変更手続きの流れ、株式を相続したときに専門家に相談するメリットなどについてわかりやすく解説します。

上場株式の相続税評価額の算出方法

相続財産に含まれる株式の価額は【1株あたりの株価 × 保有株式数】の計算式で求められます。

保有株式数を把握するのは簡単ですが、時々刻々と株価が変化する上場株式については「1株あたりの株価」を決定するのが簡単ではありません。

そこで、まずは上場株式の相続財産の算出方法について解説します。

「1株あたりの株価」とは

上場株式を相続したときには、「1株あたりの株価」を前提に株式の相続税評価額を算出します。

「1株あたりの株価」とは、株式1株についての金銭的・経済的価値のことです。

上場株式は日々証券取引所で取引されているので、景気や業績を踏まえた需要・供給のバランスで株価が常に変動します。

そこで、どのタイミングの株価を基準にするかによって相続税評価額が大幅に変わってしまうので、相続税評価額を決定する際の上場株式の「1株あたりの株価」は、以下4つの時点のなかでもっとも低い金額を適用するとされています。

  • 相続開始日の終値
  • 相続開始月の毎日の終値の平均値
  • 相続開始前月の毎日の終値の平均値
  • 相続開始前々月の毎日の終値の平均値

終値がもっとも低い時点の株価を相続税評価額の際に用いることによって、相続財産額を減らして相続税を節税することが可能になります。

また、被相続人が複数の銘柄の上場株式を保有していた場合、全ての株式を同じ時期で評価する必要はなく、その株式毎に最も低い金額で評価してかまいません。

株価の調べ方

上場株式の株価は簡単に調べることができます。

たとえば、「JPX(日本取引所グループ)」「Yahoo!ファイナンス」で相続した株式銘柄を検索すると、過去の履歴も含めて株価をチェックできます。

また、ご自身でインターネット検索するのが難しい状況なら、証券会社に残高証明書を発行してもらうだけで、4つの時点の株価を把握することも可能です。

相続発生日が休日の場合

証券会社の取引は「月曜日~金曜日の平日」だけで、土日祝日と年末年始は株式取引はおこなわれません。

つまり、相続開始日(被相続人が死亡した日)が土日祝日や年末年始の場合には、「相続開始日の終値」が存在しないということです。

このように、「相続が発生した日の終値」が存在しないケースでは、「相続が発生した日に近い日の終値」が代用されます。

たとえば、被相続人が日曜日に死亡したときには「月曜日の終値」、3連休の中日に死亡したときには「連休前と連休後の終値の平均値」が「相続開始日の終値」として扱われます。

非上場株式の相続税評価額の算出方法

非上場株式は証券会社で取引されていないので、株価変動をチェックして相続税評価額を決定することはできません。

非上場株式の相続税評価額の算出方法は3種類

非上場株式の相続税評価額を算出する際に必要な「1株あたりの株価」を算出する方法は以下3種類です。

  • 純資産価額方式
  • 類似業種比準方式
  • 配当還元方式

純資産価額方式

純資産価額方式とは、「会社の総資産や負債を原則として相続税の評価に洗い替えて、その評価した総資産の価額から負債や評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いた残りの金額によって株式価額を算定する方式」のことです。

純資産価額方式に基づく具体的な計算方式は以下のとおりです。

  1. 会社が所有する資産を相続税評価額に引き直して「純資産価額の総額」を算出
  2. 1で求めた「純資産価額」から「帳簿価額の純資産」をマイナスして「評価差額」を算出
  3. 「評価差額」に法人税率をかけて「法人税等相当額」を算出
  4. 純資産価額から法人税等相当額を除いた「控除後の純資産価額」を算出
  5. 法人税等相当額を控除したあとの純資産価額を「発行済株式総数」で割って「1株あたりの純資産価額」を算出して「1株あたりの株価」とする

類似業種比準方式

類似業種比準方式とは、「類似業種のマーケットで取引価格が形成されている会社の株価を基に、評価する会社の1株あたりの配当金額・利益金額・純資産価額(簿価)の3つで比準して株式価額を算定する方式」のことです。

類似業種比準方式に基づく具体的な計算方式は以下のとおりです。

  1. 類似業種の上場企業の株価を算出
  2. 評価する企業の1株あたりの配当金額・利益金額・純資産価額(簿価)を算出
  3. 【1の数値】×【2の数値】× 調整率 ×(資本金等の額 ÷ 50円)の計算式で「1株あたりの株価」を算出

類似業種比準方式では、実際の発行済株式総数は考慮されません。

また、調整率は企業規模によって異なり、「大会社0.7」「中会社0.6」「小会社0.5」と決められています。

詳細は「財産評価関係 個別通達目次|国税庁」で確認できます。

配当還元方式

配当還元方式とは、「当該株式を所有することによって受け取る1年間の配当金額を、一定利率(10%)で還元して元本である株式の価額を評価する算定方式」のことです。

採用する算出方法の決め方

非上場株式の相続税評価額を算出するときの原則的な方法は「純資産価額方式」「類似業種比準方式」です。

会社規模によって適用する算出方法が異なり、大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式、中会社は純資産価額方式と類似業種比準方式の併用、という形で棲み分けられます。

直前期末以前1年間の従業員総数が70人以上なら大会社、70人未満の場合には直近期末の帳簿価額・従業員数・取引金額の観点から中会社・小会社に分類されます。

なお、同族株主等以外の株主(会社経営に関与しない少数株主)が非上場株式を取得したようなケースでは、例外的に「配当還元方式」が採用されます。

なぜなら、少数株主が株式を取得したところで経営上の決定権を有するわけでもなく、配当を受ける以外のメリットが存在しないからです。

遺産に株式が含まれる場合の相続税節税方法

日本の相続税は諸外国に比べて高いので、税負担の軽減を目指すなら中長期的な節税対策が不可欠です。

ここからは、相続財産に株式が含まれる場合に有効な節税方法について解説します。

上場株式なら生前贈与が有効

上場株式の相続税の節税を狙うなら「生前贈与」がおすすめです。

生前贈与とは、「相続が発生する前(被相続人が存命中)に、被相続人の財産を別の個人に譲渡すること」です。

たとえば、上場株式の価額が下落したタイミングで生前贈与をしておけば、相続発生時に価額が高騰した上場株式に対して課される高額の相続税を節税できるでしょう。

また、被相続人が上場株式を保有した状態で受け取る配当金は相続発生時に相続財産に組み込まれますが、生前贈与によって事前に相続人などに上場株式を渡しておけば、「生前贈与したタイミングから相続が発生するまでに得られる配当金総額」が相続財産から除かれるので、相続税の節税に役立ちます。

非上場株式の場合は特例を活用

非上場株式を相続などによって取得したケースでは、各種特例制度を活用することで相続税を節税できる場合があります。

発行会社に非上場株式を譲渡した場合の課税の特例

非上場株式は証券会社を通じて一般株式市場で取引できず、非上場株式を現金に換えるのは簡単ではありません。

処分方法が限られた非上場株式を保有し続けるのが煩わしいときには、株式の発行会社に譲渡して処分することも選択肢にあがるでしょう。

ただし、非上場株式を発行会社に買い取ってもらった場合、会社側から交付を受けた金額が、その発行会社の資本金等の額のうちその交付の原因になった株式に対応する部分の金額を超えるときには、超過部分が配当所得とみなされて所得税が課税される点に注意しなければいけません。

このときに役立つのが、「相続により取得した非上場株式を発行会社に譲渡した場合の課税の特例(譲渡対価の全額を譲渡所得の収入金額とする特例)」です。

これは、相続などによって財産を取得して相続税を課税された人が、相続開始日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、相続税の課税の対象になった非上場株式をその発行会社に譲渡した場合、譲渡の対価として発行会社から交付された金額が、その発行会社の資本金等の額のうちその譲渡株式に対応する部分の金額を超えるときであっても、その超過部分の金額は配当所得とはみなされず、発行会社から交付を受ける金銭の全額を「株式の譲渡所得の収入金額」とする特例です。

これにより、譲渡所得金額の15%に相当する金額の所得税まで課税額を節税できます。

さらにこの特例を活用するときには、当該非上場株式を相続などによって取得したときに課される相続税額のうち、当該非上場株式の相続税評価額に対応する部分の金額を取得費に加算して収入金額から控除することも可能です(後述の「相続税額を取得費に加算する特例」)。

非上場株式の納税猶予および免除の特例

非上場株式を相続などで取得したときには「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)」の活用も検討しましょう。

法人版事業承継税制とは、「相続によって非上場株式を取得したのが事業の後継者である場合、一定の要件を満たす場合に限って、非上場株式等に係る贈与税の納税を猶予し、または、納税を免除する制度」のことです。

この特例制度を利用すれば、半永久的に贈与税を回避しながら円滑な事業継続が可能になります。

ただし、法人版事業承継税制には「特例措置」「一般措置」の2種類の制度が用意されており、それぞれ要件充足判断が複雑です。

かつ、この制度を受けようとする場合、特例承継計画を作成し、令和6年3月31日までに提出することが求められています。

相続のタイミングで非上場株式の処理と事業継続の両面で不安が生じた場合には、かならず弁護士などの専門家まで相談ください

株式を相続する方法

株式を相続するときには、所定の手続きが必要です。

上場株式の場合

上場株式の場合には、証券会社や信託銀行で株式の名義変更手続きをおこないます。

相続による名義変更手続きに必要な書類は以下のとおりです。

ただし、証券会社によって更に別の書類を求められる可能性もあるので、事前に証券会社までお問い合わせください。

  • 株式の名義変更請求書
  • 株券がある場合には株券
  • 遺言書もしくは遺産分割協議書
  • 被相続人の戸籍・除籍・原戸籍など
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 相続人全員の印鑑証明書

名義変更せずに放置していると、利益配当の通知を受け取れず、配当を受けることができません。

非上場株式の場合

非上場株式を相続によって取得する場合には、証券会社ではなく株式の発行会社との間で手続きをおこないます。

必要書類は上場株式の場合と同じです。

株式会社に問い合わせれば名義変更手続きについて案内してもらえますが、名義変更だけではなく相続税申告手続きまでの流れを円滑に進めたいなら、弁護士や税理士に相談することを強くおすすめします。

相続した株式を売却する手順

相続によって株式を取得したあとは、株主として当該株式をどのように処分しようが自由です。

なかには、相続によって取得した株式の売却を希望することもあるでしょう。

ここでは、相続によって取得した株式を売却する手順について解説します。

上場株式の場合

上場株式の売却は、「相続によって取得した株式を個人的に売却するケース」「被相続人の株式を相続人全員で一括売却するケース」に大別されます。

まず、ケース1として、株式を相続で取得した相続人が個人的に当該株式を売却するには、上述の方法で証券会社で名義変更手続きをおこなう必要があります。

正式に当該株式の名義人になれば、自由に売却処分することが可能です。

次に、ケース2として、被相続人の株式を相続人全員の意思で一括処分するには、相続人全員の代表者を選出して売却手続きを進める必要があります。

売却手続きを委任された代表者が証券会社で手続きを済ませて売却処分が済めば、対価として得られた現金が遺産分割の対象になります。

売価によって利益が発生した場合、この利益の部分に対して所得税及び住民税(申告分離課税)が発生します。

ケース1の場合では、相続人が、特定口座による申告分離課税において売却時に源泉所得税を選択する(課税関係が口座内で完了)かしないか明確なので、課税関係も相続人毎に完結します。

しかし、ケース2の場合では、相続人代表名義で手続きされますので、売却後の売却金額の分配、利益にかかる所得税及び住民税の納税についてもあらかじめ遺産分割協議書において決めておくことが重要となります。

当該、売却によって派生する国民健康保険等様々な義務が相続人代表名義となって発生することが懸念されます。

保有証券がわからない場合は「ほふり」に問い合わせ

被相続人が保有している株式を把握できないときは、「証券保管振替機構(ほふり)」に問い合わせるとスムーズです。

証券保管振替機構(ほふり)とは、「社債、株式等の振替に関する法律」に基づいて設置される、上場株式や投資信託などの電子化された有価証券の振替その他の総合的な証券決済インフラ業務を取りしきる組織のことです。

登録済加入者情報の開示請求」によって、被相続人がどのような株式を保有していたかわかります。

なお、ほふりに問い合わせをしなくても、配当計算書・支払通知書・株主総会招集通知書などが届けば、被相続人が株式を保有していたことが判明するでしょう。

非上場株式の場合

非上場株式の売却は証券会社経由でおこなうことができないので、相続によって非上場株式を取得した相続人自身が買い手を見つける必要があります。

ただし、非上場株式には「譲渡制限」が付されているケースが少なくないので、株式の発行会社の許可がなければ自由に売却できないケースも少なくありません。

そのため、非上場株式の売却処分を検討するなら、まずは発行会社に問い合わせをして「譲渡制限の有無」「発行会社による買取の可否」を確認するべきでしょう。

なお、譲渡制限付き株式でも発行会社が当該株式を買い取ってくれない可能性もゼロではありません。

相続財産を譲渡した場合の取得費の特例の活用で節税

相続または遺贈によって取得した株式などを一定期間内に譲渡した場合、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算できるので、譲渡所得税を節税できます。

この特例制度を「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」と呼びます。

「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」を利用する要件は以下4つです。

  • 相続や遺贈によって株式などを取得した者であること
  • 株式などを取得した人に相続税が課されていること
  • 株式などを、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること
  • 「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」「譲渡所得の内訳書や株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」を添えて確定申告すること

株式相続における注意点

さいごに、相続によって株式を取得する際の注意点を解説します。

準確定申告が必要な場合がある

株式を相続するケースでは「準確定申告」が必要になることがあります。

準確定申告とは、「被相続人の確定申告を相続人が本人に代わっておこなうこと」です。

被相続人が年度途中で死亡すると、当年分の収入について本人が確定申告できないので、年度開始から死亡日までの収入については相続人が準確定申告をしなければいけません。

たとえば、被相続人が死亡直前に株式を売却して利益を得ていた場合、被相続人が源泉徴収なしの特定口座で株式取引をしていた場合などでは、準確定申告義務が生じる可能性があります。

株式を売却する前には名義変更手続きが必要

相続によって取得した株式を売却するには、上場株式・非上場株式のどちらについても名義変更手続きが必要です。

証券会社や発行会社に連絡をすれば名義変更・売却手続きの流れや必要書類について教えてもらえるので、すみやかにお問い合わせください。

株式の評価額をめぐって相続人同士でもめる可能性も

相続財産に株式や不動産が含まれている場合には、相続人同士で紛争が生じる可能性が高いです。

なぜなら、簡単に割り切れる現金・預貯金と違って、株式や不動産は「評価額が不安定で分割しにくい」という特徴があるからです。

たとえば、株式をどのような配分で分けるのか、将来的に売却するとしてどのタイミングで売却するのか、株価の値動き予想など、相続人全員の意見が合致するのは簡単ではないでしょう。

まとめ|株式の相続税評価額の算出が難しければ専門家に相談

相続財産に株式が含まれている場合には、株式の相続税評価額や取得後の処分について相続人間で争いが生じるケースが少なくありません。

また、相続人が少なく意見が合致している場合でも、株式関係の手続きに慣れていない状況では名義変更手続きや売却手続きに四苦八苦する可能性も生じます。

そこで、相続によって株式を取得したとき(取得することが想定されるとき)には、できるだけ早いタイミングで弁護士や税理士などの専門家に相談することを強くおすすめします。

早期から専門家の支援を受けることによって、遺産分割協議や諸手続きが円滑に進み、相続税の申告漏れも回避できるでしょう。

この記事をシェアする
この記事の監修者
大倉佳子税理士事務所
大倉 佳子(税理士)
税務署勤務を経て2017年税理士登録。女性のあれこれや仕事、時間を大事にしたい人と会社を繋ぐW-HEARTコンサルティング運営。税務用語を身近に理解できる税務事務所をめざした大倉佳子税理士事務所運営。
ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
編集部

本記事はベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。 ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

相続税に関する人気コラム

相続税に関する新着コラム

相談内容から弁護士を探す
弁護士の方はこちら
損をしない相続は弁護士にご相談を|本来もらえる相続対策も、弁護士が適正に判断|あなたの状況に合った損をしない解決方法を、遺産相続に強い弁護士がアドバイスいたします。|お問い合わせ無料