相続財産が一定額を超えると相続税がかかりますが、被相続人の借金は控除が認められています。
住宅ローンなどを引き継ぐ場合、債務控除を適用すると相続税の負担は軽くなるでしょう。
しかし、団体信用生命保険(団信)の加入者が亡くなったときなど、以下のように債務控除できるかどうか疑問に思っている方もおられることでしょう。
債務控除は相続税の負担に大きく影響するので、相続税の計算方法も理解しておく必要があります。
ここでは、ローンの債務控除と相続税の関係、住宅ローンを支払えないときの対処法などをわかりやすく解説していきます。
相続財産にはマイナスの財産も含まれるため、ローンが残っている不動産を相続するときは、返済義務も引き継がなくてはなりません。
ただし、住宅ローンやアパートローンは相続財産から控除できるので、相続税の課税価格が低くなり、税負担も軽くなります。
相続税の課税価格を計算するときは、以下の要領で債務控除してください。
住宅ローンは債務控除の対象になるので、プラスの財産からローンの残債や基礎控除を差し引くと、相続税の課税価格がわかります。
相続税の基礎控除と課税価格は以下のように計算します。
では、遺産総額が8,000万円、相続人が3人、住宅ローンの残債が2,500万円だった場合、課税価格がいくらになるか計算してみましょう。
債務控除がなければ相続税の課税価格は3,200万円になるので、住宅ローンやアパートローンの残債があるときは、必ずプラスの財産から控除してください。
住宅ローンを契約するときは、団体信用生命保険にセットで加入するケースが一般的です。
また、団体信用生命保険の代わりに、一般的な生命保険に加入している方もおられるでしょう。
契約者が亡くなった場合、どちらも住宅ローンの残債をカバーできますが、以下のように相続税の課税対象が変わるので、遺族の相続税負担も異なってきます。
住宅ローンの契約者が団体信用生命保険に加入している場合、契約者が亡くなったときの残債は保険会社が返済します。
ローンの残債がなくなるので債務控除はできませんが、相続人が保険金を受け取るわけではないため、相続税の課税対象は不動産だけになります。
では、相続財産が不動産のみだったと仮定して、相続税がいくらになるか計算してみましょう。
団体信用生命保険の加入者が亡くなった場合、相続税がいくらになるか以下の条件で計算してみます。
なお、住宅ローンの残債は団信加入で0円になりますが、実際は3,000万円あったものとします。
住宅ローンは残債額に関係なく0円となり、相続税の基礎控除は相続人が1人の場合、3,600万円になるので、相続税の課税価格は以下のようになります。
では次に、税率を乗じて相続税を計算します。
ひとまず債務控除なしの相続税を計算できたので、次は同じ条件で生命保険のパターンを計算してみます。
なお、相続税の税率と控除額は国税庁ホームページを参照してください。
住宅ローンの契約者が一般的な生命保険に加入していた場合、本人が亡くなったときに残債があれば、相続税の計算から債務控除できます。
また、死亡保険金は相続税の課税対象になりますが、法定相続人の数に応じた非課税枠もあるので、団信加入のパターンとは以下のように相続税の計算方法が異なります。
では、生命保険の加入者が亡くなり、住宅ローンを債務控除するケースで相続税を計算してみましょう。
なお、死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。
遺産総額は不動産と死亡保険金の合計額になり、基礎控除や住宅ローンの債務控除、死亡保険金の非課税枠を差し引くので、課税価格や相続税は以下のようになります。
ローンの残債や死亡保険金にもよりますが、今回の計算例では団信加入のほうが相続税は高くなりました。
生命保険の場合、住宅ローンは引き続き相続人が支払いますが、安定収入があれば無理なく返済できるでしょう。
しかし、相続税は現金一括納付が原則なので、債務控除によって税額を引き下げ、死亡保険金を受け取ったほうがよいケースもあります。
住宅ローンの契約が連帯債務や連帯保証であれば、団体信用生命保険に加入している場合でも住宅ローンの返済が免除されず、債務控除もできないケースがあります。
また、ローン完済後の抵当権抹消登記は申請を忘れやすいので、以下の点に注意してください。
住宅ローン契約が連帯債務の場合、団体信用生命保険には主債務者しか加入できません。
主債務者が夫、連帯債務者が妻になっている住宅ローン契約であれば、夫が亡くなったときしか団信が適用されないので注意してください。
また、連帯債務の住宅ローンを債務控除する場合、被相続人の負担部分しか控除の対象になりません。
ただし、フラット35の場合は連帯債務者も団信に加入できるので、どちらが先に亡くなってもローンの残債は免除されます。
住宅ローン契約が連帯保証の場合も、団体信用生命保険には主債務者しか加入できないため、連帯保証人が亡くなったときは住宅ローンの返済が残ります。
主債務者が弁済不能になっており、求償しても弁済を受ける見込みがない場合など、一定の条件以外では、連帯保証人は住宅ローンを債務控除できないので注意してください。
被相続人が住宅ローンの返済を滞納していた場合、死亡時に団体信用生命保険が適用されず、ローンがそのまま残ってしまう可能性があります。
住宅ローンを口座振替で返済するときは、団信の保険料も同時に引き落とされているので、残高不足が続くと団信の保険料も滞納となってしまいます。
被相続人が団信に加入していても、必ずローンが完済されるわけではないので注意してください。
住宅ローンを完済したときは、不動産に設定された抵当権の抹消登記が必要です。
抹消登記の手続きは自分でおこないますが、団体加入と生命保険の加入では以下のような違いがあります。
住宅ローンの残債が団信によって完済された場合、金融機関から抵当権抹消登記の必要書類が送付されます。
抹消登記を申請する場合、先に相続登記を済ませておく必要があるので、登記申請書などの書類を法務局に提出し、相続人に所有権を移転させてください。
相続登記が完了したあとは、金融機関から送付された書類を提出し、抵当権を抹消します。
住宅ローンの契約者が生命保険に加入しており、死亡保険金でローンを完済したときは、相続人が金融機関へ連絡して抵当権抹消登記の必要書類を取り寄せます。
あとの流れは団信加入のケースと同じなので、相続登記を済ませてから抵当権の抹消登記を申請してください。
ペアローンやリレーローンで住宅を購入している場合、どちらも契約者の片方が亡くなったときには債務控除を適用できます。
基本的には単独ローンよりも相続税の負担は軽くなりますが、団信の加入状況や持分割合も相続税に影響するので、以下を参考にしてください。
ペアローンで団信にも加入している場合、契約者のどちらか片方が亡くなると、被相続人の負担分が完済されるため、債務控除はできません。
なお、生きている契約者のローン返済は続きますが、相続税の課税対象は被相続人の持分のみとなるため、単独ローンよりも相続税の負担は軽くなるでしょう。
親子でリレーローンを契約している場合、団信の加入状況によって債務控除の扱いが異なります。
親子がどちらも団信に加入しており、親が亡くなるケースでは、親が負担しているローンのみ返済されるため、債務控除の対象にはなりません。
一方、子どもだけが団信に加入しており、親が亡くなった場合は、親の負担分を債務控除できます。
アパートローンも契約者が亡くなったときの残債が債務控除の対象となり、団信に加入していればローンは完済されます。
相続税は団信未加入のほうが低くなる可能性もあるので、以下を参考にしてください。
賃貸アパートなどの建築費用はローンを組んでいることが多いので、オーナーが亡くなったときの残債は相続税から債務控除できます。
団信に加入していればローンは完済されるので、相続人が返済義務を引き継ぐことはありません。
また、賃貸物件を建築した土地は「貸家建付地」となり、自分で使用する場合の自用地よりも評価額が低くなるため、相続税の節税効果も大きくなります。
ただし、賃貸アパートが建築されているエリアは地価が高く、評価額を下げてもある程度の相続税はかかるので、債務控除したほうが節税になるケースもあります。
貸家建付地は以下のように相続税評価額を計算するので、団信加入と債務控除を比較してみましょう。
貸家建付地の相続税評価額は自用地評価額が基準となり、借地権割合などの減額要素を考慮するため、評価額の計算式は以下のようになります。
では、自用地評価額1億円、借地権割合60%、借家権割合30%、賃貸割合100%を条件として、相続税評価額を計算してみましょう。
建物の評価額が6,000万円、アパートローンの残債が5,000万円あり、相続人が1人だとしたら、債務控除したときの相続税は以下のようになります。
次に、債務控除しなかったときの相続税を計算してみます。
このように債務控除なしの場合は相続税が約2.5倍になるので、団信未加入のほうが節税効果は高くなるでしょう。
被相続人が団体信用生命保険に加入しておらず、相続人が住宅ローンを支払えないときは、以下の対処法を検討してください。
相続した住宅ローンの返済負担が重いときは、返済プランの見直しが可能かどうか、金融機関と交渉してみましょう。
確実な返済が見込めるようであれば、返済期間を延長して1回あたりの返済額を低くするなど、返済プランの変更に応じてもらえるケースがあります。
交渉の際には相続人の収入や返済能力が審査されるので、給与明細や源泉徴収票なども準備しておくとよいでしょう。
不動産を失っても特に問題がなければ、売却代金でローンを完済する方法もあります。
ただし、被相続人名義のままでは売却できないので、相続登記を済ませてから不動産会社へ相談してください。
また、「売り急ぎ」になると売却価格が低くなってしまい、ローンの返済額に満たなくなるため、自己資金を持ち出さなければならないケースもあります。
好条件で売却できそうにないときは、相続税の延納や、相続放棄なども視野に入れておく必要があるでしょう。
相続税を現金一括納付できないときは、延納や物納が認められるケースもあります。
ただし、どちらも要件が厳しくなっており、延納の場合は以下のように設定されています。
延納は相続税の分割納付になり、利子税が発生することから、結果的には割高な相続税を納めることになります。
物納は延納も難しい場合に限り認められますが、物納財産には制限があり、以下の優先順位も設定されています。
基本的には、資産価値や換金性が高い財産になるので、抵当権が設定されている不動産などは認められません。
相続放棄すると、預貯金や不動産などのプラス財産を相続できなくなりますが、借金の返済義務も免除されるため、ローンを返済する必要がありません。
ただし、相続放棄は家庭裁判所に申述する必要があり、相続開始を知った日から3ヵ月以内が期限となっています。
また、相続財産を処分したり、ローンの一部を返済したりすると、相続する意思があるとみなされ、相続放棄が認められなくなります。
申述期限までのスケジュールはかなりタイトになるため、自分で対応できないときは早めに弁護士へ相談してください。
限定承認とは、プラスの相続財産の範囲内でローンを返済する方法です。
不動産だけは手元に残せる可能性があるので、借金の返済を免れつつ、自宅を残したいときには検討するべきでしょう。
ただし、限定承認も3ヵ月以内に家庭裁判所へ申述する必要があり、官報公告や債権者対応などの複雑な手続きが連続します。
財産処分の完了までに半年や1年近くかかるケースもあるので、限定承認を検討するときは、必ず弁護士に相談してください。
住宅ローンなどを契約する場合、団体信用生命保険に加入するケースが多いため、ローンの残債を気にする必要はありません。
ただし、債務控除できないときは相続税が高額になるので、税負担がいくらになるのか、正確に把握しなければならないでしょう。
相続税が支払えないときは延納や物納、相続放棄などの選択肢もありますが、自己判断は失敗する可能性が高いので要注意です。
ローンの債務控除や相続税の計算に迷ったときは、できるだけ早めに弁護士へ相談してください。
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