相続税の計算には債務控除が認められているので、借金や特定の費用を相続財産から差し引くと、相続税を節税できたり、非課税になったりするケースがあります。
しかし、債務控除できるもの・できないものの対象範囲はかなり広く、相続税の計算方法もあまり知られていないため、以下のような疑問もあることでしょう。
相続税は課税財産をベースに計算するため、債務控除が税額に大きく影響します。
場合によっては相続税に数百万円~1千万円以上の違いが出るケースもあるので、債務控除の対象を正しく理解しておくとよいでしょう。
ここでは、債務控除できる債務やできない債務、相続税の計算方法などをわかりやすく解説していきます。
相続税の債務控除とは、相続税の課税価格を算出するために、預貯金や不動産などのプラス財産から、借金や未払金などのマイナス財産を差し引くことです。
また、被相続人の債務ではありませんが、葬式費用もプラスの財産から控除できます。
債務控除は相続税の負担に大きく影響しますが、債務控除が不要になるケースもあるので、以下を参考にしてください。
相続税を計算するときは、プラスの相続財産から債務控除をおこない、以下のように課税価格を算出します。
仮に相続財産が1億円、債務控除の対象が3,000万円あり、相続人が1人だった場合の課税価格は以下のようになります。
なお、プラスの相続財産は相続発生時に残っていた財産だけではなく、過去3~7年以内の生前贈与や、相続時精算課税制度の贈与分も含まれるので注意してください。
前述の例では相続財産が1億円ありますが、基礎控除と債務控除により、相続税の課税価格は3,400万円に下がりました。
債務控除しなかったときの課税価格は6,400万円になるので、相続税にどれだけの違いが出るか、実際に計算してみましょう。
債務控除なしの場合は課税価格が高くなり、税率も30%が適用されるため、相続税が約2.5倍になります。
相続税は債務控除の影響が大きいので、税額を計算するときは、必ず被相続人の借金や葬式費用を差し引いておきましょう。
なお、相続税率と控除額は国税庁ホームページを参照してください。
相続財産が基礎控除以下の場合は相続税が発生しないため、債務控除は不要です。
相続税の基礎控除は法定相続人の数によって変わるので、1人の場合は3,600万円、2人であれば4,200万円など、人数が1人増えると600万円ずつ控除額が上がります。
法定相続人を確認するときは、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を調べてください。
債務控除の対象となる債務には以下のような種類があります。
「借金があると相続税が低くなる」と考えている方もおられますが、条件によっては債務控除が認められず、相続税を減額できないケースがあるので注意してください。
被相続人が金融機関や個人などから借入れしていた場合、残債や未払利息が債務控除の対象になるため、プラスの相続財産から控除できます。
借用書や金銭消費貸借契約書だけでは残債と未払利息がわからないので、金融機関などの債権者に問い合わせておきましょう。
被相続人が連帯債務者だった場合、被相続人の負担額について、負担することが明らかになっている金額のみ債務控除の対象になります。
また、ほかの連帯債務者が返済不能になっている場合で、その債務を被相続人が負担することになったときは、その負担額も債務控除が認められます。
被相続人が納付する予定だった税金については、以下の種類が債務控除の対象になります。
被相続人が固定資産税などを納付していなかった場合、本人に課せられた延滞金も債務控除できます。
共有不動産は被相続人の持分割合に応じて債務控除するので、相続発生後に20万円を納付し、持分割合が2分の1だったときは、10万円が債務控除の対象です。
また、被相続人に一定所得があった場合、または消費税の課税事業者だった場合は準確定申告をおこないますが、相続人に課税された税金ではないため、債務控除が認められます。
ただし、準確定申告は相続開始から4ヵ月が期限になっており、期限を過ぎたときは相続人の都合になるため、延滞税などの追徴課税分は債務控除できません。
住民税も被相続人の死亡後に相続人が納付したときは、全てプラスの財産から債務控除できます。
被相続人が老人ホームなどの介護施設に入居していた場合、未払いの介護費用や、退去時の原状回復費は債務控除が認められます。
未払いの医療費も債務控除できますが、死亡診断書や死体検案書の発行手数料は、以下の葬式費用に含めてください。
葬式費用は細かく分類されており、以下の費用が債務控除の対象になります。
葬儀会社からの請求書や領収書は失くさないように保管してください。
また、葬式費用は領収書が残らないものが多いので、お寺に支払った費用や、お手伝いさんへの心付けは日付と名前、金額をメモに記録しておきましょう。
ただし、一般的な葬式費用は150万~200万円程度が相場なので、被相続人の社会的地位などに見合わないあまりに高額な葬式費用であれば、全額の債務控除は認められない可能性があります。
被相続人が賃貸マンションやオフィスビルなどを所有していた場合、入居者から預かった敷金や保証金は退去時に返金するため、相続税の計算では債務控除が認められます。
預り敷金や保証金は専用口座に入金されていることが多いので、一般的な預貯金とは区別しやすいでしょう。
ただし、複利現価率を使って現在の経済的価値に換算しなければならないため、預かったときの額面で債務控除すると、相続税の計算ミスが発生します。
現在価値へ換算する引き直し計算は少し複雑なので、遺産相続に詳しい税理士や、弁護士に計算してもらうことをおすすめします。
被相続人が事業を経営しており、生前に発生した未払金や買掛金を相続人が支払ったときは、相続財産から債務控除できます。
なお、相続人が事業経営に関わっておらず、帳簿類や決算書類などの見方がわからないときは、未払金や買掛金を判断できないケースがあるでしょう。
事業上の債務かどうか判断できないときは、弁護士や税理士に問い合わせてください。
被相続人が生前に使用していた水道高熱費や、電話料金なども債務控除の対象です。
ただし、死亡後に相続人が使用した料金は債務控除できないので、今後使わない水道光熱費などがあるときは、停止の手続きをおこなってください。
また、被相続人が光熱費などを口座振替にしており、通帳に記帳されていなかったときは、金融機関に過去の取引履歴を請求できます。
被相続人が発注していた住宅建築費や、リフォームなどの未払い工事代金については、債務控除できるかどうかを以下のように判断します。
なお、工事期間中に被相続人が亡くなったときは、工事の進み具合や手付金の支払い状況により、未払金として債務控除する、または前払金として処理します。
どちらで処理してよいかわからないときは、弁護士や税理士に問い合わせてみましょう。
相続人が特別寄与料を支払った場合、取得した相続財産から債務控除できます。
特別寄与料とは、相続人以外の親族が被相続人の財産維持や、財産の増加などに貢献していた場合に、相続人に対して請求が認められる労務の対価です。
相続人ではない長男の妻などが、無償で義父母を介護していたケースであれば、特別寄与料を請求できる場合があります。
なお、特別寄与は判断が難しく、遺産分割調停や審判に発展する例も少なくありません。
特別寄与料を請求したい、または特別寄与料を請求されたが支払ってよいかわからないときは、弁護士に相談してみましょう。
以下の債務は債務控除の対象にならないため、相続税を計算するときには十分に注意してください。
また、条件次第で債務控除できる場合があるので、判断が難しいときは、弁護士や税理士などの専門家に相談してみましょう。
被相続人が契約していた住宅ローンに残債がある場合、基本的にはプラスの相続財産から債務控除できます。
ただし、団体信用生命保険に加入していると、契約者が死亡したときにローンの残りが保険金で完済されるため、債務控除はできません。
ごく一般的な住宅ローンであれば、被相続人が団体信用生命保険に加入している可能性が高いでしょう。
被相続人が賃貸物件を所有していた場合、前受金として翌月分の家賃を受け取っていますが、敷金や保証金のように入居者へ返還しないので、債務控除は認められません。
なお、被相続人の準確定申告では負債に計上するので、勘違いしないように注意してください。
被相続人が自宅や賃貸物件の火災保険に加入している場合、保険料は前払いになっていることから、債務控除の対象にはなりません。
被相続人が購入した墓石や墓地、仏壇や仏具は非課税財産になっているため、未払金を債務控除の対象にはできません。
なお、墓石や仏壇などを祭祀財産といい、基本的には非課税ですが、投資対象や商品として所有している場合、相続税の課税対象になる可能性があるので注意してください。
通夜・葬式にかかった費用は債務控除できますが、初七日や四十九日法要、一周忌法要などの費用は債務控除できません。
相続財産の維持管理費は相続人が負担する債務になるため、債務控除の対象にはなりません。
具体的には、相続財産管理人に支払う報酬や、遺産分割協議がまとまるまでに支払った建物の修繕費用や、土地の管理費用などが挙げられます。
保証債務とは、被相続人が別の債務者の保証人になっており、その債務者の代わりに履行する債務ですが、債務控除の対象にはなりません。
ただし、主たる債務者が債務履行できない状況となった場合、弁済不能の部分については債務控除できます。
あまり馴染みのない債務に思えますが、借家やアパートなどの賃貸借契約では、親が子どもの保証人になっているケースがあるでしょう。
被相続人の死亡後に発生する以下の費用については、債務控除できないので注意が必要です。
全て被相続人の債務ではなく、相続人が負担する債務になるため、相続財産からの債務控除はできません。
被相続人の借金や未払金などを相続した場合、基本的には債務控除が認めらます。
ただし、以下の相続人は債務控除が認められない、または一部の債務しか控除できないので確認しておきましょう。
制限納税義務者とは、遺言書または遺産分割協議によって財産を取得した際、日本に住所を有していなかった者を指します。
制限納税義務者が取得した財産は国内財産のみ相続税の課税対象となり、債務控除についても、国内財産に係る以下の債務のみ認められます。
なお、制限納税義務者の該当条件はかなり複雑なので、海外在住の方が高額な国内財産を相続するときは、ひとまず弁護士や税理士に相談しておいたほうがよいでしょう。
特定受遺者とは、不動産や預貯金口座など、遺言書で個別の財産を承継する法定相続人、または法定相続人以外の第三者を指しています。
税法上、特定受遺者となった第三者が被相続人の債務を負担しても、債務控除は認められないので注意してください。
ただし、「財産の2分の1を遺贈する」など、遺言書で取得割合を指定された包括遺贈であれば、受遺者は取得財産から債務控除できます。
相続放棄した人は最初から相続人ではなかったことになり、プラスの財産や負債を相続することがないため、債務控除の対象外となります。
ただし、相続放棄した人が葬式費用を支払っていたときは、被相続人から遺贈された財産の価格から、葬式費用の負担額を債務として控除できます。
債務控除の対象はかなり多いので、相続税を計算するときには十分な注意が必要です。
債務控除を漏らすと相続税の納税負担が重くなり、対象外の債務を控除してしまうと、相続税の過少申告につながります。
過少申告した場合は過少申告加算税のペナルティもあるので、割高な相続税を納めることになるでしょう。
債務控除できるかどうかの判断や、相続税の計算に不安がある方は、遺産相続や税金の専門家に相談してください。
税理士または税理士資格のある弁護士に相談すると、相続税の計算や申告を全てサポートしてくれます。
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