この記事では、納税猶予についてご紹介します。
納税猶予とは、一定の財産に対する相続税の納税が「猶予」されるもので、条件を満たし続けている間は納税を行う必要はありません。
しかも、最終的には納税の義務が免除されるため、積極的に利用しましょう。
この記事で取り扱う納税猶予は以下の通りです。
納税猶予の種類 |
対象となる相続財産 |
農地等を相続した場合の納税猶予の特例 |
農地 |
非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例 |
株式 |
特定山林を相続した場合の納税猶予の特例 |
山林 |
医療継続に係る納税猶予の特例 |
持分あり医療法人への出資 |
ただし、あくまでも一般的な説明ですので、個別の事例においては状況が異なる場合も多くあります。
「この納税猶予は使えるんだろうか?」という疑問については、ぜひ専門家である税理士にご相談ください。
特例農地の農業投資価格を超えた分の相続税の納付が猶予される制度です。
その他の財産と、特例農地の農業投資価格部分については、通常と同様に納付が求められます。
ただし、特例農地の20%以上を譲渡したり、農業経営を廃止したりした場合、猶予は取り消され、2ヶ月以内に猶予額を全額納付することと、利子税の納付が必要になります。
なお特例農地とは、被相続人からの相続または遺贈により、その農業に役立てられていた農地、牧草放牧地、準農地のことを指し、農業投資価格は、「特例農地が恒久的に農業に役立てられる」と仮定した場合に、通常成立すると認められる取引価格のことです。
農業相続人が離農しない限りは、納税が猶予され、農業相続人が死亡したなどの場合に、猶予された相続税・利子税がともに免除されます。
①農業を営んでいた被相続人の農業相続人が、被相続人からの相続または遺贈により、その農業に役立てられていた農地、牧草放牧地、準農地(特例農地)を申告期限内に取得すること
②農業相続人が申告期限までに農業経営を開始し、引き続き農業を営むこと
③期限内に申告書を提出すること
④納税猶予額分に相当する担保(特例の対象となる農地も可能)を提供すること
父の経営していた特例農地を、息子が相続によって取得し、農業経営を継続する場合
三大都市圏の農地のうち、一定の要件を満たしたものが指定される「生産緑地」は、農業利用以外の転用が原則認められませんが、この制度を適用することができます。
ただし、生産緑地の指定期限や、資産価値などによっては、納税猶予を利用するよりも生産緑地の指定を解除して自治体に売却するほうがよい場合もあります。
この点については「今後農業を続けるのか」「売却するといくらになるのか」を調べて判断しましょう。
参考:国税庁|No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例
中小企業の事業承継の円滑化を目的に、都道府県知事の認定を受けた非上場企業の後継者である相続人が、被相続人から非上場企業の株式などを相続・遺贈によって取得し、その会社を経営していく場合には、納付しなければならない相続税のうち、非上場株式などに係る課税価格に対応する相続税の納税が猶予され、相続人が死亡したとき、全部または一部が免除されます。
ただし、それらを譲渡などした場合には、猶予が取り消され、2ヶ月以内に猶予額の全額納付、利子税の納付が必要になります。
参考:国税庁|非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(事業承継税制)のあらまし
⑴会社が以下のいずれでもないこと
①上場会社
②中小企業に該当しない会社
③風俗営業会社
④資産管理会社
⑵先代経営者など贈与者の主な要件
①会社の代表権を有していたこと
②贈与の直前において、贈与者及び贈与者と特別の関係がある者で、総議決権数の50%超の議決権数を保有し、 かつ後継者を除いたこれらの者のなかでも多くの議決権数を保有していたこと
③贈与時において、会社の代表権を有していないこと
⑶後継者である受贈者が以下の条件を満たしていること
①会社の代表権を有していること
②20歳以上であること(令和4年4月1日以降は「18歳以上」)
③相続開始時に後継者及び、後継者と特別の関係がある者で、総議決権の50%超の議決権を保有することとなること
③役員の就任から3年以上を経過していること
④後継者が有する議決権数が、次のⅠかⅡに該当すること(特例措置を利用する場合)
Ⅰ後継者が1人の場合:後継者と特別な関係がある者のなかで、最も多くの議決権数を保有すること
Ⅱ後継者が2人または3人の場合:総議決権数の10%以上の議決権数を保有し、かつ、後継者と特別な関係がある者(他の後継者を除く) のなかで最も多くの議決権数を保有すること
⑷担保
・納税猶予額と利子税の額に相当する担保を税務署に提供する必要があります
被相続人が相続の開始まで社長をしていた中小企業で、相続人である親族や従業員などが後継者になる場合。
一定の被相続人から、特定森林経営計画が検討されている区域内の山林などを相続などにより取得した一定の相続人(林業経営相続人)が、自ら山林の経営を行う場合には、林業経営相続人が納付すべき相続税のうち、特定山林に係る課税価格の80%に相当する相続税の納税が猶予されます。
そして、林業経営相続人の死亡によって、納税は免除されます。
⑴特定山林など
①特定森林経営計画において、作業路網の整備を行う山林として記載されていること
②都市計画法第7条第1項に規定する市街化区域内に所在しないこと
⑵被相続人
①相続開始の直前において、特定森林経営計画が定められている区域内にある山林であって、作業路網の整備を行う部分の面積の合計が100ha以上である山林を所有していること
②死亡の前に以下のいずれかについて農林水産大臣の確認を受けていたこと
Ⅰ特定森林経営計画の達成のため必要な機械その他の設備を利用できること
Ⅱ特定森林経営計画が定められている区域内に存する山林のすべてについて、特定森林経営計画に従って適正かつ確実に経営及び作業路網の整備を行うものと認められること。
Ⅲ特定森林経営計画に従って山林の経営の規模拡大を行うものと認められること
③特定森林経営計画に従って、当初認定起算日から死亡の直前まで経営を適正かつ確実に行ってきた者と農林水産大臣の確認を受けてきたこと
⑶林業経営相続人
①相続開始の直前において、被相続人の推定相続人であること
②相続開始の時から申告期限まで引き続き、相続などにより取得した⑴の特定山林の全てを有し、特定森林経営計画に従った経営を行っていること
⑷担保
相続税の申告書を期限内に提出するとともに、納税猶予税額及び利子税の額に見合う担保(納税猶予の対象となっている山林も可能)を提供すること
参考:国税庁|No.4149 山林を相続した場合の納税猶予の特例
◆適用例
山林経営を行なっていた被相続人から、山林を相続などによって取得した相続人が、自らその山林を経営する場合
■医療継続に係る納税猶予の特例
医療法人に対する出資は出資分の払い戻しを求めることや、解散によって残余財産が出資比率に応じて分配されるため、通常は「相続財産」として、相続税が課税されます。
なお、医療法人に対する出資については、通常の配当が原則認められないために、資産額は大きくなってしますので注意が必要です。
しかし、持分あり医療法人の出資者が被相続人となった場合には、医療の継続が実現できるよう、最長3年の期限内に、持分なし医療法人への移行を目指す医療法人について、移行期間に限り、その出資分にかかる相続税の納税を猶予するという特例があります。
そして、移行が完了すれば、猶予された相続税は全額免除されます。
参考:国税庁|No.4150 医療法人の持分についての相続税の納税猶予の特例
⑴被相続人
医療法人の持分を有していたこと
⑵相続人
被相続人から相続などにより、医療法人の持分を取得したこと
⑶医療法人の持分
相続税の申告期限において、認定医療法人の持分であって、相続税の期限内申告書に、この特例の適用を受けることが記載されていること
⑷申告と担保
期限内に申告書を提出し、猶予税額と利子税の額に見合う担保(ただし、特例を受ける持分の全てを担保とすることも可能)を提供すること
医療法人に対して出資をしていた被相続人から出資分を相続などにより取得した相続人が、法人を解散させるのではなく、持分なし医療法人への移行を図る場合
納税猶予は、本来よりも少ない納税で済むことも多く、利用できる場合は積極的に利用していただきたいですが、注意すべき点がありますので、確認しておきましょう
納税猶予中には「利子税」が加算されます。
これは納税を行わなかった場合に加算される「延滞税」とは異なるもので、「制度の利用料」のようなものです。
納税猶予が続いている間は請求されず、納税猶予が免除された場合には、利子税の支払いも免除されるのが原則ですので、ほとんどの場合には関係ないかもしれません。
しかし、猶予中に納税が猶予された相続財産を処分したりしてしまうと、猶予された相続税額に利子税(平成30年は年利1.6%)が加算されます。
事業を相続することが条件となる納税猶予は、納税猶予が適用される相続財産や、事業内容などを記載した継続届出書の提出が必要となります。
納税猶予の特例を利用する場合に必要な、提供する担保に関する書類です。なお、担保には納税猶予を受ける農地などの財産を提供することが一般的です。
納税猶予は、ある一定の条件を守り続けることで、最終的には納税が免除されますので、実質的には「控除」と同じと捉えることもできるかもしれません。
そのため、納税猶予が適用可能であれば、条件を確認した上で、積極的に利用しましょう。
しかし、納税猶予はどれも適用の条件などが複雑で、それぞれに専門性が求められますので、それぞれの分野において実績のある税理士へ相談することをおすすめします。
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