小規模宅地の特例は、親族から不動産を相続した方が、相続税を安く抑えるために使うことができる特例です。小規模宅地の特例が適用されると、土地の課税対象額が減額され相続税が安くなりますが、二世帯住宅の方で、特例がどのように適用されるのかは気になるところです。
二世帯住宅は、同じ建物に住んでいるが別々の空間で暮らしている家族を指しますが、小規模宅地の特例に関して、主に二世帯住宅している親子間で親から子供へ住宅が相続されるシチュエーションが問題として取り上げられます。
子供と違い、配偶者が相続人となる場合、小規模宅地の特例が適用されやすくなるためです。

もし、税務署から親が住んでいた部分と子供が住んでいた部分が別々であるとみなされた場合、親が住んでいた部分しか小規模宅地の特例は適用されません。
建物全体に小規模宅地の特例が適用される場合と比べて、部分的にしか適用されない場合、相続税が減額される割合は少なくなってしまいますが、二世帯住宅でもどのような場合に建物全体に小規模宅地の特例が適用されるのでしょうか。
今回の記事では、二世帯住宅でも建物全体に小規模宅地の特例が適用される条件や、建物全体に小規模宅地の特例が適用されるために必要なことについて説明していきます。また、配偶者の場合、二世帯住宅でも小規模宅地の特例が適用されやすいため、当記事では子供が相続人の場合を前提に話を進めていきます。
目次
二世帯住宅でも小規模宅地の特例が適用されるためには?
では、早速ですが二世帯住宅でも建物全体に小規模宅地の特例が適用される条件について説明していきます。
小規全模宅地の特例が適用されるための前提条件
まず、建物全体ではなく、相続した不動産自体に小規模宅地の特例が適用されるのかどうかを確認するべきです。子供が相続人の場合、小規模宅地の特例が適用されるためには、以下の条件を満たさなければなりません。
- 同じ棟の建物に親と子が住んでいる
- 建物の敷地の名義が親である
- 子供がその部屋を無償(家賃を払っていない)で親から借りている
- 申告期限(被相続人の死亡後から10ヶ月以内)までに所有者として居住している
小規模宅地の特例の適用要件について詳しくは、「小規模宅地の特例」を参考にしてください。
非分離型と比べて完全分離型が適用されやすい
小規模宅地の特例が適用されるかどうかは、完全分離型の二世帯住宅か、非分離型の二世帯住宅かで異なります。完全分離型の二世帯住宅とは、親子で同一の建物に住んでいるが、建物の構造上、それぞれ住んでいる部屋に行き来することができない住宅です。

それに対して非分離型は、暮らしは別々であるが、建物内部でお互いの住まいに行き来することができる住宅になります。

完全分離型と比べて、非分離型は別々の住まいであることの判定が難しいため、建物全体に小規模宅地の特例が適用されやすい傾向にあります。
区分所有登記されていない建物は適用される
区分所有登記とは、同一の建物でも各部屋が別々の登記である建物です。マンションなど各部屋に別々の世帯が住んでいる建物を想像するとわかりやすいでしょう。ほとんどのケースでは二世帯住宅でも区分所有登記がされていないと、建物全体に小規模宅地の特例が適用されます。
つまりは上の図の場合、親の部屋と子供の部屋が、別々に登記されていない場合に、建物全体に小規模宅地の特例が適用されるということです。
平成25年以前、完全分離型は適用されなかった
しかし、平成25年以前までは、完全分離型の二世帯住宅に関しては、区分所有登記がされていなくても、小規模宅地の特例が適用されるのは親の住まいの部分だけでした。平成26年の相続税法の改正により、完全分離型でも1階と2階に行き来可能な通路がある場合に限り、建物全体に小規模宅地の特例が適用されるようになりました。
非分離型なら区分所有登記されていても適用されやすい
また、区分所有登記されている二世帯住宅でも、建物の構造が非分離型の場合、小規模宅地の特例が適用される傾向にあります。
住まいが別々の棟の場合、適用されづらい

しかし、階層別に分かれている建物と違い、住まいが別々の棟に分かれている場合、小規模宅地の特例が適用されないことがあります。登記が同一、または非分離型の二世帯住宅でも、小規模宅地の特例が適用されづらくなると思ってください。
二世帯住宅が小規模宅地の特例の適用を状況別に確認
同じ二世帯住宅でも、いくつものシチュエーションが考えられるでしょう。そこでシチュエーション別に、二世帯住宅の建物でも小規模宅地の特例が適用されるのかどうかを説明していきます。
建物を増築したが行き来不可の場合
まず、増築した建物の増築した部分に子供が住んでいるが、増築部分を行き来することができない場合、増築部分まで小規模宅地の特例は適用されるのでしょうか。この場合、区分所有登記されていなければ、増築部分まで小規模宅地の特例が適用されます。
反対に、区分所有登記されていない場合、増築部分には小規模宅地の特例は適用されません。
二棟の建物が内部で繋がっている場合
続いて、二棟に分かれた建物に親と子共が別々に暮らしているが、それぞれの住まいが建物内部で繋がっている場合を考えていきましょう。もし、税務署から別々の建物と見なされた場合、特例は適用されません。
しかし、原則、二つの棟が同一の登記の場合、小規模宅地の特例を適用することは可能です。

建物を渡り廊下で繋げた場合
下の図のように、建物内部で繋がっていない別々の棟を渡り廊下で繋げた場合、子供の住まいの部分に小規模宅地の特例は適用されません。

二つの棟が同一の登記でも適用されないと思ってください。
建物内部の行き来不可・登記自体がない場合
では階層別に子供と親が別々に住んでいて、建物内部でそれぞれの部屋に行き来はできないが、登記自体を行っていない場合は、どうなるのでしょうか。まだ登記はしていないので、同一の所有者として登記した場合、建物全体に小規模宅地の特例を適用することが可能です。
区分所有登記された二世帯住宅を同一登記にする方法と利用の際の注意点
以上のことから、区分所有登記された二世帯住宅の場合、建物全体に小規模宅地の特例が適用されづらい傾向にあることがわかりました。そこで同一の登記にする方法を紹介していきます。
共有登記
同一の登記にする方法には、共有登記という方法がありますが、共有登記とは、複数人で一つの建物を共有で登記する方法です。親子の共同名義で、二世帯住宅全体を登記することで、区分所有登記が解除されます。
合併登記
また、合併登記によって二世帯住宅を同一の登記にすることができます。合併登記とは、別々の建物として登記された建物を、1戸の建物として登記し直す方法です。
注意点は贈与税の対象とみなされることがある
しかし、共有登記や合併登記をすると、相続したはずの建物を、相続ではなく贈与されたと見なされる可能性があります。相続税と比べて贈与税は税率が高いため、節税目当てに小規模宅地の特例を適用させようとした意味がありません。
小規模宅地の特例を建物全体へ適用させる目的で、共有登記、合併登記をするためには、素人ではなく税理士に依頼した方が確実です。
相続税額を抑えて相続税申告するなら、相続税専門の税理士に依頼
誰が相続税の申告を行っても、納める相続税額は同じ金額になると思っていませんか? 実は、その考えは間違っています。
税理士業務の中でも「相続税の申告」は非常に特殊なもので相続税の専門的な知識が求められます。税理士ごとに、計算される相続税額が異なることも少なくないのです。
ここでは、「相続税専門」の税理士に依頼することが相続税を抑えることにつながる理由についてご紹介します。
税理士にも得意分野がある
医者に外科や内科などの専門分野があるように、税理士にも専門分野があります。
税理士になるには、「所得税法」「法人税法」「相続税法」「消費税法又は酒税法」「国税徴収法」「住民税又は事業税」「固定資産税」のうち、所得税法と法人税法を含む3つの科目に合格することが求められます。つまり、相続税について勉強せず税理士になった人も数多くいるのです。

一般的な税理士の仕事は法人税や所得税の申告です。全国の年間の相続税申告件数は約10万件なのに対し、税理士は約8万人存在しています。つまり、税理士一人あたりの相続税の申告件数は年間で1~2件程度が実状です。全国に企業が400万社以上あることからも、いかに相続税の申告業務が稀であるか理解できるでしょう。

そのため、相続税の申告を数多くこなしている税理士は少なく、専門的に扱っていない税理士に依頼すると、本来払わずに済んだ税金を支払う事態になりかねません。
相続税を抑えるために必要なこと
相続税を抑えるためには、相続財産(特に土地や家屋)を正しく評価することや、特例・各種控除などを適用させることが必要不可欠です。
相続税の金額を正しく計算するには、もとになる遺産の価値を正しく評価する必要があります。預金や株式といった金銭価値がはっきりしているものであれば問題ありませんが、土地や家屋、さらに車などの一般動産や家財一式などの評価は難しく、税理士や税務署によって解釈が異なることもあり、遺産の価値を過大に評価してしまうこともあるのです。
また、相続税額を抑えるには控除や特例を利用することが不可欠ですが、適用条件が複雑なこともあり、適用できるのに気づかなかったり、適用できるかどうかの判断が困難な場合もあります。

さらに、本来の金額よりも少ない金額を誤って申告してしまうと、税務調査が行われ、延滞税や加算税などの追微課税が発生し、本来よりも高い税金を納めなければならないといった事態になりかねないのです。
相続税の申告は「相続税専門」税理士に依頼
あなた自身や経験の少ない税理士では、正しく申告するのが困難な場合もあるでしょう。そのため当サイト編集部では、相続税を専門に取り扱う税理士に依頼することを強く推奨しています。
依頼した場合は税理士報酬を支払う必要はありますが、それを上回って相続税額を抑えられることも少なくありませんし、ご自身での申告書作成から申告までの一連の手間や税務調査に対処する手間も省けます。

相続税を専門とする税理士は、相続問題解決が得意な弁護士と提携しているケースもあります。
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無料相談も可能ですので、まずはご相談ください。
まとめ
不動産にかかる相続税はバカになりません。二世帯住宅の方は、少しでも税額を減らすために、建物全体に小規模宅地の特例を適用させたいところです。適用させるためには、親と子の住まいを別々の住まいとして税務署から認めてもらう必要があります。
そのために、どのような手続きを行うべきかは相続人の状況によりますが、まずは税務手続きのプロである税理士に依頼すると安心でしょう。