家や土地のようにまとまった金額の財産を相続する際は、相続税がたいへんな金額にならないか心配になるものです。
実際には家を相続するからといって、必ずしも高額な相続税が発生するとは限りません。
むしろ基礎控除や特例・控除の活用によって、相続税がゼロになるケースも多いです。
本記事では家を相続しても相続税がかからないケースや、相続税がかかるか調べる方法、相続税の算出方法、家や土地を相続する際の注意点を解説します。
家や土地の相続でかかる相続税が高額にならないか不安な方は、本記事を参考にしてください。
本記事の内容を理解することで、ご自身のケースにあてはめて相続税が発生するか判断できるようになります。
家を相続しても、必ずしも相続税がかかるとは限りません。
ここでは、家を相続しても相続税がかからない主なケース3つを紹介します。
相続税には、税金がかからない基礎控除額が設定されています。
家を含めた相続財産の総額が基礎控除以下におさまれば、相続税はかかりません。
基礎控除額は次のとおりです。
3,000万円+600万円×法定相続人の数 |
>法定相続人とは、民法が定める相続人のことです。
親族のなかで配偶者は常に相続人となり、そのほかは以下の相続順位によって決められます。
上記順位のうち、最も上位のみが法定相続人となります。
たとえば被相続人の子どもがいれば、被相続人の父母や兄弟姉妹は法定相続人にならないのです。
上記計算式で計算された基礎控除額より遺産総額が低い場合は、相続税はかかりません。
以下の表は、基礎控除額の計算例をまとめたものです。
ご自身で計算される際の参考にしてください。
法定相続人の概要・人数 |
法定相続人の合計数 |
基礎控除額の計算式 |
---|---|---|
配偶者のみ |
1 |
3,000万円+600万円×1=3,600万円 |
配偶者+子ども2人 |
3 |
3,000万円+600万円×3=4,800万円 |
配偶者+親1人 |
2 |
3,000万円+600万円×2=4,200万円 |
子ども4人 |
4 |
3,000万円+600万円×4=5,400万円 |
配偶者であれば、相続税の配偶者控除という制度を利用することができます。
これは、配偶者が相続する場合に、相続税の非課税枠を以下いずれかの高いほうまで引き上げられる制度です。
家を含め配偶者が相続する財産が少なくとも1億6千万円までなら、配偶者控除を適用することで配偶者にかかる相続税をゼロにできるのです。
また法定相続分とは、民法において法定相続人に認められた相続財産の相続割合を指します。
配偶者に割り当てられる法定相続分が1億6千万円以上だった場合、配偶者控除を適用することでその金額まで相続税をゼロにできるわけです。
なお配偶者控除により相続税をゼロにできる場合でも、相続税の申告は必要となりますので注意ください。
家だけでなく土地も相続した場合、小規模宅地等の特例を利用できるケースもあります。
小規模宅地等の特例を利用すると、相続した土地の評価額を最大80%まで減額することができます。
小規模宅地等の特例は、全ての土地に適用できるわけではありません。
利用するためには土地の用途や相続人についての条件を満たしている必要があります。
たとえば、居住用の土地であれば面積330㎡が限度となります。
そのほか、事業に使われている土地や賃貸されている土地も小規模宅地等の特例の対象ですが、要件が異なるため注意が必要です。
居住用の土地に小規模宅地等の特例を利用したいときの要件は、以下表のとおり取得者ごとに異なります。
被相続人の配偶者 |
要件なし |
---|---|
被相続人と同居していた 親族 |
・相続税の申告期限までその土地を保有していること ・相続開始の直前から相続税の申告期限までその家に住んでいること |
被相続人と同居していなかった親族 |
・被相続人に配偶者がいない ・被相続人と同居している法定相続人がいない ・相続した土地を相続税の申告期限まで所有している ・相続開始前の3年間、自分や配偶者や3親等以内の親族などが所有する国内の家に住んでいない ・相続開始時に特例を受ける親族が住んでいた家を、過去に所有したことがない |
なお、小規模宅地等の特例を適用することで相続税がゼロになる場合でも相続税の申告は必要です。
相続税の基礎控除額やさまざまな特例によって、多くの相続人は相続税を支払う必要がなくなっています。
国税庁がまとめた「令和4年分 相続税の申告事績の概要」によれば、全被相続人のうち2022年に相続税が課税された割合は9.6%でした。
つまり全ての遺産相続のなかで、相続税が発生しているのは10%以下ということです。
このぐらい課税割合は低いので、家のように高額な遺産を相続しても必ずしも高い相続税を支払わなくてはいけないわけではありません。
配偶者控除や小規模宅地等の特例などを利用できることから、家を相続しても相続税がかからない方のほうが多いでしょう。
不安な方は、後述する計算方法によってどのくらい相続税がかかるか確かめてみることをおすすめします。
なお、同資料によると2021年の課税割合は9.3%、2020年の課税割合は8.8%で、2022年だけ突出して低かったわけではありません。
家を相続した場合、実際にかかる相続税はいくらになるのでしょうか。
ここでは、簡単に調べる方法を紹介します。
まずは遺言書があるかどうか、必ず確認しましょう。
有効な遺言書がある場合、民法が規定している法定相続分より遺言書の内容が優先されます。
たとえば遺言書に配偶者以外の親族に家を譲ると書いてあった場合、小規模宅地等の特例の適用条件などがかわるのです。
また配偶者控除により、家の相続税をゼロにすることもできなくなります。
このように遺言書の内容によって相続税が発生するか否かがかわるため、まずは遺言書の有無を確認する必要があるわけです。
法定相続人の数を把握して基礎控除額を算出しましょう。
家を含む相続財産の合計額が基礎控除額内であれば、相続税はかかりません。
とくに家を相続する場合、法定相続人が多ければ基礎控除によって相続税がかからない可能性は高くなるでしょう。
たとえば、配偶者と子ども3人が法定相続人であれば、基礎控除額は以下のように計算できます。
3,000万円+600万円×4=5,400万円 |
この例の場合、家を含む相続財産が5,400万円以下におさまれば相続税はかかりません。
家の相続で実際にかかる相続税を計算するためには、家の評価額を算出しなければなりません。
家や土地の詳しい評価額算出方法については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参照してください。
次に、小規模宅地等の特例が適用できるかどうかを確認しましょう。
小規模宅地等の特例は、前述したように相続した土地の評価額を最大80%まで減額することができる制度です。
利用するためには土地の用途や相続人についての条件を満たしている必要がありますが、適用できれば大幅な相続税減額につながります。
居住用の土地の場合は本特例を利用し、面積330㎡を限度に小規模宅地等の特例が利用できます。
本特例の要件については、本記事内「小規模宅地等の特例を適用し、遺産総額が基礎控除額以下におさまる場合」を参照してください。
本特例を適用することで、たとえば3,000万円の土地を相続した場合、最大で3,000万円×(100%-80%)=600万円まで評価額を下げられることになります。
これだけ土地の評価額を下げられると、相続税がかからなくなる可能性も高まるでしょう。
最後に、家を含んだ相続財産の総額が基礎控除額内におさまるかどうか確認しましょう。
相続財産にはさまざまな種類があります。
大きくわけて次の4種類です。
プラスの財産・非課税財産・みなし相続財産の合計からマイナスの財産を差し引いて遺産総額を算出します。
一例として、相続財産が以下の構成だった場合で考えてみましょう。
この例において、相続財産の総額は3,000万円+800万円+1,000万円-200万円=4,600万円です。
次に、法定相続人が配偶者と子ども2人だったとすると、基礎控除額は3,000万円+600万円×3=4,800万円となります。
これらの結果、相続財産総額が基礎控除額以内なので「家に相続税はかからない」と判断できるのです。
親名義の家を相続する際の相続税について、具体的なシチュエーションで考えてみましょう。
ここでは、おおまかな計算方法を紹介します。より詳しい計算方法が知りたい方は以下の記事を参考にしてください。
課税対象となるのは、相続した全ての財産から基礎控除額を引いた額です。
まずは基礎控除額を計算しましょう。
基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。
両親のうち父親のみ存命でその父親が亡くなり、長男と長女が法定相続人であるケースでは、基礎控除額は3,000万円+600万円×2人=4,200万円です。
家を含んだ財産が1億2,000万円だとします。
この場合、1億2,000万円−4,200万円=7,800万円が課税対象額です。
次に、相続税の総額を求めましょう。
相続税の総額は、法定相続分どおりに相続すると仮定して算出します。
今回の例では、法定相続人は長男・長女の2人で、それぞれの法定相続分は1/2ずつです。
そのため法定相続分に基づく、それぞれの相続分は以下のように計算されます。
国税庁が公開している「相続税の速算表」にあてはめると、子どもが6,000万円の相続をする場合の相続税率は30%、控除額は700万円です。
その結果、相続税額は以下のように計算されます。
相続税の総額は、1,100万円+1,100万円で、2,200万円です。
次に実際の相続分に基づき、各相続人にかかる相続税額を求めます。
実際の相続割合が長男60%、長女40%だとしましょう。
すると、各相続人が支払う相続税額は次のようになります。
税額控除などを適用し、最終的な相続税額を算出します。
本例でも、長男・長女に適用可能な税額控除などがあればその分だけ相続税額がおさえられるのです。
利用できる主な税額控除・制度については、次項で紹介するので参考にしてください。
ここからは、相続するにあたって利用できる、主な税額控除の制度について紹介します。
本記事内「配偶者控除の適用によって相続税額がゼロになる場合」でも紹介しましたが、配偶者控除を活用すれば、配偶者の相続税はゼロになる可能性が高いといえます。
たとえば、夫が事業を経営していたり、投資をしていたりして、多額の財産を残して亡くなったような場合に、妻が多額の相続税を支払わなければならないというのであれば、妻の生活が立ち行かなくなってしまうかもしれません。
そのようなことを避けるためにこの特例が設けられています。
配偶者控除は相続税において最も大きな特例です。
配偶者が相続した財産に対する相続税が、次の2つのうち高いほうの金額まで非課税額となります。
たとえば妻と子どもが法定相続人であった場合、妻の法定相続分は財産の2分の1です。
相続財産の総額が300億円であった場合、配偶者の法定相続分は150億円となります。
この場合、1億6,000万円より法定相続分に基づく相続額(150億円)のほうが高いので、妻が相続する遺産額が150億円までなら相続税がゼロになるのです。
配偶者の税額控除を使うことによって、二次相続で相続税が高額になるリスクがある点は注意が必要です。
仮に夫・妻・子どもの3人家族で相続が発生するとして、夫が亡くなったときの相続を一次相続と言います。
そのあと妻もなくなり、子どもが両親の遺産を引き継ぐことを二次相続と呼ぶのです。
たとえば妻と子ども1人が法定相続人で、遺産総額が1億6,000万円未満だったとします。
この場合、配偶者控除を最大限活用するため遺産全てを妻が相続すれば、確かに一次相続の際にかかる相続税をゼロにすることは可能です。
次に妻が夫から相続した遺産にほぼ手を付けずにまもなく亡くなったとしましょう。
夫が亡くなる前から相当額の財産があったとすると、子どもは非常に多額の遺産を受け継ぐことになります。
相続税の税率は相続財産が多いほど高くなるので、このケースでは子どもが遺産を相続した際の相続税が重くなる恐れがあるのです。
結果的に配偶者控除を使わなかったときに比べ、一次・二次の相続でかかる相続税の総額が高くなる例も少なくありません。
これが配偶者の税額控除を使う際に、注意すべきリスクです。
配偶者の税額控除を使った方が相続税を節約できるか否かは、ケースによって異なります。
不安であればあらかじめ税理士などの専門家に相談し、アドバイスを求めるとよいでしょう。
相続人が未成年であれば、未成年者の税額控除を適用することができます。
未成年者控除額の計算式は次のとおりです。
10万円×(18歳−未成年者の年齢) |
たとえば、15歳の子どもが18歳になるまでの年数は3年です。
この場合、10万円に3年を乗じた30万円が控除されます。
相続人が障害者であるときは、障害者の税額控除を適用することができます。
障害の程度によって一般障害者と特別障害者に分かれており、控除額は異なります。
それぞれの計算式は次のとおりです。
相次相続控除とは最初の相続から10年以内に相新しい相続が続いて発生した場合に、相続税から一定額を差し引ける可能性がある制度です。
たとえば父親が亡くなって最初の相続が発生してから数年以内に、その遺産を相続した母親も亡くなったとします。
この場合、一次相続の時点で支払った相続税の一部を、二次相続の相続税から控除できるのです。
実際にどのくらいの金額を控除できるかなどの詳細は、以下記事で詳しく解説しているので興味があれば参考にしてください。
家や土地を相続するにあたって、知っておきたい注意点について紹介します。
家や土地は物理的に分けるのがむずかしいものです。
そのため、複数の相続人で土地を共有分割する方法が取られることもあります。
共有分割とは、分割しにくい財産を相続人同士で共有名義にして受け継ぐ方法です。
しかし、共有分割には将来的なリスクやデメリットがあります。
たとえば、次のようなことが起こりがちです。
家や土地の共有名義にはこのようにリスクが多く、あとでトラブルになることも少なくありません。
共有名義による相続はなるべく避けることをおすすめします。
相続税は、原則的に現金で一括納付しなければなりません。
相続税の納付期限は、相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内です。
どうしても相続税を現金一括納付できない場合は、延納や物納をすることもできます。
延納では相続税を最大20年間で分割払いできますが、利子税が課税されます。
物納とは、現金ではなく不動産などの物で相続税を納めることです。
延納制度を利用しても、相続税を払えない場合に限り物納を選べます。
ただし物納をするにはほかにも要件があり、必ずしも適用できるとは限りません。
現金で一括納付することができない場合や不安がある場合は、まず税理士などの専門家に相談してみましょう。
土地や家など不動産を相続したら、相続税の計算と申告をしなければなりません。
基礎控除額のうちであれば必要ありませんが、各種控除を利用する際は申告が必要です。
また、申告だけでなく不動産は名義変更手続きをしなければなりません。
不動産の名義変更手続きは、法務局でおこないます。
登記申請によって変更することが可能です。
たとえ相続した土地や家を売却する予定であっても、相続登記が必要です。
相続をしたのであれば、名義を被相続人から自分に変更しなければなりません。
家や土地を相続する場合に、必ずしも相続税が発生するわけではありません。
家を含む遺産の総額が基礎控除額以下だったり、控除・特例を適用したりして相続税がゼロになるケースも多いです。
全相続人のうち相続税が発生したケースは10%に満たないというデータもあります。
家を相続して相続税がかかるか否かは、自分で計算して調べることが可能です。
ただし条件が複雑なケースも少なくないので、不安であれば税理士などの専門家へ相談するとよいでしょう。
専門家に相談すれば、特例や控除をどのように活用すれば節税できるかもアドバイスしてもらえます。
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