成年後見制度を利用する場合、後見人に対して報酬を支払うことが多いです。
しかし、その後見人への報酬を誰が支払うのかわからずに悩んでいる方もいるでしょう。
そこで本記事では、成年後見制度の利用を検討している方に向けて以下の内容を中心に説明します。
本記事を確認して誰が後見人の報酬を支払うのかについて理解しましょう。
成年後見人への報酬は、民法第862条に定められているように、被後見人の財産の中から支払われます。
(後見人の報酬)第八百六十二条 家庭裁判所は、後見人及び被後見人の資力その他の事情によって、被後見人の財産の中から、相当な報酬を後見人に与えることができる。
引用元:民法|e-Gov 法令検索
条文は「財産の中から」となっていますが、一般的には被後見人の銀行口座から支払われることが多いです。
なお、仮に被後見人に十分な財産がない場合、後見人に対して報酬は支払われないことになります。
被後見人の財産が少なく報酬を支払えない場合、後見人となった方は以下のような対応をおこないます。
ここでは、被後見人が成年後見人報酬を支払えない場合に後見人がおこなう対応について解説します。
被後見人が生活保護を受給していない場合、まず生活保護の受給申請をおこなうでしょう。
生活保護とは、最低限度の生活を保障するために対象者に対して保護費を支払う制度のことです。
この生活保護の手続きは本人や家族のほか、後見制度で後見人となった方もおこなうことができます。
そして生活保護を受給できるようになったら、後見人は裁判所に対して報酬付与を求める手続きをおこないます。
自治体では、生活保護受給者や要保護者を対象とした「成年後見人等の報酬の助成」をおこなっています。
たとえば、東京都港区では「港区成年後見人等報酬助成事業実施要綱」にて、以下のように支給をおこなうことを規定しています。
被後見人が生活保護を受給していても十分な報酬を支払えない場合は、後見人はこうした自治体の制度を活用することになるでしょう。
公益社団法人 成年後見センター・リーガルサポートでは、成年後見制度を求めている人が適切に制度を利用できるよう「公益信託成年後見助成基金」を設けています。
この公益信託成年後見助成基金による助成は、被後見人が十分に報酬を支払う余裕がない場合に利用できます。
本人に十分な財産がない場合でも、後見人はこのような制度を活用することで報酬を得られるようになっています。
成年後見人への報酬は被後見人が支払う必要がありますが、申し立ての費用は誰が支払うのでしょうか?
ここでは、誰が後見開始の申し立ての費用を負担するのかについて説明します。
後見開始の申し立て費用は家事事件手続法第28条1項に定められているように、原則として申し立て人が支払います。
申し立て費用は800円で、これとは別に後見登記手数料2,600円と送達・送付費用として概ね3,000円前後が必要になります。
また、裁判所が「鑑定が必要」と判断した場合は、鑑定料として10万~20万円程度が必要になるでしょう。
第二十八条 手続費用(家事審判に関する手続の費用(以下「審判費用」という。)及び家事調停に関する手続の費用(以下「調停費用」という。)をいう。以下同じ。)は、各自の負担とする。
家事事件手続法第28条2項には、裁判所は特別な事情がある場合には当事者や利害関係者などに費用を負担させられることが規定されています。
申立書に「手続費用の上申」という欄があり、ここにチェックマークが入っている場合は、申立手数料、後見登記手数料、送達・送付費用、鑑定費用の一部または全部が本人の負担となることがあります。
2 裁判所は、事情により、前項の規定によれば当事者及び利害関係参加人(第四十二条第七項に規定する利害関係参加人をいう。第一号において同じ。)がそれぞれ負担すべき手続費用の全部又は一部を、その負担すべき者以外の者であって次に掲げるものに負担させることができる。
一 当事者又は利害関係参加人
二 前号に掲げる者以外の審判を受ける者となるべき者
三 前号に掲げる者に準ずる者であって、その裁判により直接に利益を受けるもの
成年後見人への報酬は、どのくらいの金額をいつまで支払う必要があるのでしょうか?
ここでは、報酬を支払う期間と相場について紹介します。
後見人への報酬の支払いは、成年後見制度が終了するまで続きます。
成年後見制度が終了するのは、以下のいずれかのときです。
判断能力が回復していないのに勝手に制度を中断したり、報酬の支払いが厳しいことを理由に取り止めたりすることはできません。
成年後見人への報酬額(基本報酬)は、一般的に月額2万円程度とされています。
しかし、財産(現金、預貯金などの流動資産の合計額)が多く管理が複雑な場合は、以下のように増額されることもあります。
被後見人の管理財産額 |
後見人の報酬額 |
1,000万円以下 |
月額2万円程度 |
1,000万円超5,000万円以下 |
月額3万~4万円程度 |
5,000万円超 |
月額5万~6万円程度 |
なお、特別な事情や特別な行為をした場合は、裁判所から付加報酬が認められることもあります。
最後に、成年後見人への報酬の支払いについてよくある質問に回答します。
後見人への報酬は、被後見人の財産の中から支払われます。
仮に被後見人の財産が少なく報酬を支払えない場合でも、家族や親族が報酬を負担することはありません。
家庭裁判所の決めた報酬額に不満があったとしても、被後見人も後見人も不服を申し立てることはできません。
家庭裁判所は、管理する財産額や事務作業の負担などを考慮して後見人の報酬額を決定しています。
次の報酬付与の審判があるまでは、裁判所が決めた報酬額に従う必要があります。
法定後見制度の場合は、一般的に1年に1回まとめて報酬を支払うことになります。
報酬を支払うタイミングは、後見人が裁判所に対して後見事務報告をおこなったあとです。
報酬の前払いは認められていないため、必ず事務報告のあとに被後見人の財産の中から報酬が支払われます。
成年後見人への報酬は、被後見人の財産の中から支払われます。
家族や親族などが後見人の報酬を負担する必要はないので、その点は安心してよいでしょう。
そのほか成年後見制度に関する疑問や候補者選びに関する悩みがある場合は、弁護士に相談するのもおすすめです。
後見制度が得意な弁護士であれば、制度の利用に向けたサポートや後見人としての役割なども依頼できるでしょう。
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