被相続人が死亡した時、相続によって被相続人の財産を承継するのは、法定相続人や受遺者・受贈者です。
ただし、被相続人が生前離婚・再婚を経験してそのタイミングで除籍された子どもがいたり、養子縁組によって迎え入れた子どもがいたりすると、相続関係が複雑になる可能性があります。
そこで今回は、自身が健康なうちに将来的に必ず発生する相続問題の準備をしておきたいと考える方のために、以下の事項についてわかりやすく解説します。
ベンナビ相続では、除籍問題などを専門に扱う弁護士を多数掲載しています。
早い段階で相続問題に着手をした方が幅広い選択肢から予防策を検討しやすくなるので、ぜひこの機会にアクセスしやすい法律事務所までお問い合わせください。
そもそも、戸籍とは、日本国民が出生してから死亡するまでの身分関係を登録して公に証明するための公簿のことです。
現在、戸籍は「一組の夫婦と姓を同じくする未婚の子ども」を単位に作成されます。
戸籍は、「現在戸籍(現戸籍)」「除籍」「改製原戸籍(原戸籍)」の3種類に分類されます。
このうち、除籍謄本は、被相続人が死亡した後の、銀行預金の相続・保険金の相続・不動産をめぐる相続登記手続き・自動車の名義変更・株式の名義変更などの場面で提出が求められるものです。
戸籍上、除籍には以下2つの意味があります。
婚姻・死亡などが起こるたびに戸籍は変動するので、現在戸籍だけを確認しても全ての情報を確認できるわけではありません。
特に、各種相続手続きでは、被相続人が生まれてから亡くなるまでの経緯や被相続人をめぐる人間関係を把握する必要があるため、現在戸籍だけではなく、除籍謄本・改製原戸籍謄本の確認も必要と考えられます。
なお、除籍に関する書類は、除籍謄本・除籍抄本の2種類に区別されます。
除籍謄本は「除籍に記載されている事項の全部が記載されたもの」、除籍抄本は「除籍に記載されている事項の一部のみが記載されたもの」です。
相続手続きは被相続人に関する全ての情報をチェックしなければいけないので、ほとんどの場面で「除籍謄本」が必要とされます。
除籍謄本については以下の記事で詳しく説明しています。
あわせてご一読ください。
除籍されて戸籍から除かれると、相続にはどのような影響が生じるのでしょうか。
ここでは、除籍の原因別に、相続関係に生じる変化について解説します。
夫婦が離婚すると、戸籍筆頭者の戸籍はそのまま残ります。
これに対して、戸籍筆頭者ではない配偶者については、配偶者欄に「除籍」の文字が記載され、除籍の理由として「離婚」の事実が掲載されます。
そして、除籍された配偶者は、以下3つの方式で強制的に戸籍が移動します。
そして、離婚が成立して除籍された場合、元配偶者は法定相続人の地位から外れるので、相続権を失います。
ただし、夫婦が離婚をしたとしても、元配偶者間の間に生まれた子どもは法定相続人であることに変わりはありません。
親が再婚をした場合や、再婚相手との間に子どもが生まれた場合でも、元配偶者との間で授かった子どもは相続権を有したままです。
18歳以上の子どもが親の戸籍から抜ける場合、「分籍」の手続きがされます。
たとえば、親との関係が悪化して縁を切りたいケースや、社会人になったタイミングで独り立ちをするケースなどが挙げられます。
分籍とは、現在の戸籍から抜けて届出人を戸籍筆頭者とする新しい戸籍を作る手続きのことです。
分籍をすると、現在の戸籍の身分事項に「分籍」の事項が記載されて、除籍扱いになります。
分籍後に子どもが結婚・離婚・名前の改名などをしても親の戸籍に表示されることはありません。
また、分籍後の本籍地は子ども自身が自由に決定できるので、戸籍謄本の請求などがしやすい地域に本籍地を設定できます。
ただし一度分籍をすると、原則として元の戸籍に戻れなくなるため、分籍による除籍をする時には慎重な判断が必要です。
なお、分籍によって子どもが除籍されたとしても、戸籍上の取扱いに変化が生じるだけです。
つまり、分籍によって除籍された子どもが法定相続人の地位を失うわけではないということです。
そのため、子どもが分籍によって除籍された場合でも、親が死亡した時、子どもは相続権を有したままだと扱われます。
子どもが死亡すると、死亡した子どもは親の戸籍から除籍されます。
そして、親よりも先に子どもが死亡すると、子どもは相続権を失うので、親が死亡した時には子ども以外の法定相続人などで遺産を配分することになります。
ただし、代襲相続が発生した時には注意が必要です。
なぜなら、親に先行する形で子どもが死亡した事案では、代襲相続によって孫が子どもの相続権を取得するからです(民法第887条第2項)。
なお、代襲相続は子どもが死亡したケースだけではなく、相続人に相続欠格事由が存在するケースや、相続廃除のケースでも発生します。
なお相続廃除とは、被相続人が家庭裁判所に申し立てて遺留分をもっている推定相続人の相続権を失わせる手続きのことです。
このような可能性をふまえ、被相続人よりも先に子どもが亡くなって除籍されている時には、孫世代のことまで考えて遺産の相続方法などを検討する必要があります。
世代差がある事案の相続問題は特にコミュニケーションを図るのが難しくなるため、遺言書作成段階から弁護士などの専門家の力を頼るべきでしょう。
特別養子縁組とは、経済的事情や虐待・遺棄などが原因で子どもの福祉が不当に害されている時に、子どもと実親との間の法的な親子関係を解消して、養子と養親との間に実親子同様の法的な親子関係を作出させる制度のことです(民法第817条の2~)。
まず、特別養子縁組が家庭裁判所に認められると、養子は実親の戸籍から除籍されます。
そして、養子を筆頭者として単独の新戸籍が作成されます。
養子を筆頭者とする新戸籍を作成する時点で、養子の氏は特別養子縁組をした養親のものが付され、父母欄には養父・養母の氏名が掲載されます。
そのうえで、養子は新戸籍から養親の戸籍に入籍をし、最初から親子関係があったかのような記載が戸籍にされます。
民法上、養子縁組制度には普通養子縁組と特別養子縁組制度の2種類が設けられています。
普通養子縁組制度では、実親と子どもとの間の法的な親子関係が継続する一方、特別養子縁組制度は実親と子どもの法的な親子関係が終了する点が異なります。
つまり、養親が死亡した場合に特別養子縁組をした養子は相続権を取得しますが、実親が死亡したとしても養子は相続権を有しないために遺産を承継することはできないということです。
実子・養子が相続人に含まれる場合、どの財産をどのように承継させるかについて争いが生じる可能性があるので、遺言書の作成段階から弁護士などの専門家に相談をして、相続トラブルが発生しないような予防策を講じるべきでしょう。
離婚や分籍によって子どもが除籍された時の法定相続分について、具体的な事例ごとに解説します。
特別養子縁組における実親・実子の関係性を除き、親と子どもの法的な親子関係がなくなることはありません。
そのため、親が離婚をしたり子どもが分籍されたりしても、親が亡くなった時、子どもは常に法定相続人の地位を獲得します。
ただし、子どもが成人したタイミングで分籍されたに過ぎず被相続人の配偶者が存命している場合や、離婚歴のある実親たる被相続人の再婚相手が存命している場合は、子ども及び配偶者の法定相続分はそれぞれ2分の1ずつと扱われます(民法第900条第1号)。
なお、被相続人と再婚相手との間に子どもがいるような事例では、子ども全体に配分される2分の1を子どもの人数で均等に分配します。
また、前妻前夫・後妻後夫との間にそれぞれ子どもがいるような事例では、遺産分割協議がまとまらずに相続トラブルが深刻化するリスクが少なくありません。
したがって、特に離婚・再婚などによって相続関係が複雑化しているようなケースでは、被相続人が死亡する前の段階で丁寧な遺言書を作成しておくことが好ましいといえるでしょう。
両親が離婚をした後、再婚をすることなくそのまま亡くなった場合、子どもが第一順位の法定相続人と扱われます。
また、ひとり親家庭で育った子どもが成人をしたタイミングで分籍をして除籍された後、ひとり親である被相続人が死亡した時も、子どもだけが第一順位の法定相続人です。
このように相続発生時に被相続人に配偶者が存在しないケースでは、被相続人に属する遺産全てを子どもが相続することになります。
相続発生時は、除籍された子どもが原因でさまざまなトラブルが生じる可能性があります。
ここでは、除籍された子どもが原因で生じるトラブルの代表例2選を紹介します。
除籍された時の事情次第では、子どもの電話番号や住所などがわからず、一切連絡をとりようがないという事態が生じかねません。
たとえば、親子間の関係性が悪化して子どもが分籍をして除籍を選択したような事案などが挙げられます。
遺産分割協議は相続人全員が参加しなければいけないので、行方がわからない相続人が存在するだけで相続手続きが難航しかねません。
このようなケースでは、戸籍の附票から子どもの住所を調べて手紙を送る、知人や探偵などを使って行方を探るなどの労力を割く必要に迫られます。
また、これらの手を尽くしても相続人である子どもの連絡先などを把握できなければ、不在者財産管理人制度や失踪宣告制度を利用せざるを得ないでしょう。
被相続人の死亡後、相続人にこのような負担を強いるのは避けるべきだと考えられます。
スムーズな相続を実現するには、生前のうちに除籍された子どもの連絡先を家族などに共有しておいたり、相続について確かな遺言書を作成しておいたりするなどの予防策が効果的です。
詳しくは、遺産相続問題に強い弁護士までお問い合わせください。
被相続人が離婚・再婚を経験しており、前妻前夫との間に子どもがいるようなケースでは、遺産分割協議が難航するリスクが生じます。
たとえば、離婚時の不倫・浮気などが原因で軋轢・感情的なもつれがあると、前妻前夫の子どもが遺産分割協議に積極的に参加してくれない可能性があるからです。
また、そもそも再婚後の相続人からいきなり連絡が来ても嬉しくはないでしょう。
再婚前に授かった子どもの存在が原因で遺産相続問題が深刻化する危険性がある時には、誰に何を相続させたいのかを明確にした遺言書を作成したり、遺留分放棄・生前贈与などの手段を活用した相続発生後のトラブル回避・軽減策を検討したりするべきでしょう。
相続問題に強い弁護士に相談すれば、各家庭が抱える問題に寄り添った現実的な予防策を提案してくれるので、可能な限り早いタイミングで相談することをおすすめします。
離婚後に前妻・前夫との間の子どもを除籍したようなケースでは、相続発生後にトラブルが発生する危険性が高まります。
そこで、子ども世代・孫世代の相続トラブルを回避・軽減するために、終活のひとつとして丁寧な遺言書を作成しておくことを強くおすすめします。
ここでは、遺言書を作成するメリットについて解説します。
遺言書は、遺産に対する被相続人の意思を反映するためのものです。
遺言書は、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3形式に区別されます。
遺言書には、以下のような内容を記載できます。
この中でも、相続トラブルの予防に役立つのが「遺産分割の指定」に関する文言です。
たとえば、「自宅の土地・建物は妻に承継させたい」「預貯金は揉めることなく家族で均等に分け合って欲しい」「経営している事業を長男に引き継がせる代わりに、そのほかの財産は長男以外の相続人に配分させたい」など、被相続人の個別事情を踏まえた遺産分割方法を遺言書に反映させることができます。
ただし、遺言書の内容が法定相続人の遺留分を侵害するような内容だと、相続発生後に相続人間でトラブルが生じかねません。
また、遺言書が形式的な要件を満たしていないと、一部の相続人などが遺言無効確認訴訟を提起するなどして遺産相続トラブルが長期化する可能性もあります。
ですから、被相続人の意思を確実に相続に反映させるためには、時間の余裕がある状況で適切な形式及び内容の遺言書を作成する必要があると考えられます。
遺産相続を専門に扱う弁護士へ相談すれば、被相続人の意向や人間関係を踏まえた有効な遺言書を作成するサポートをしてくれるでしょう。
有効な遺言書が存在していれば、遺言書の内容通りに遺産を配分すれば良いだけなので、相続人や受遺者・受贈者の間で遺産分割方法などについて話し合いをする必要がなくなります。
これに対して、被相続人の意向を示す遺言書が存在しない場合には、相続人などが相続財産の取扱いを決めるために遺産分割協議をおこなわなければいけません。
相続財産の内容がシンプルで、相続人同士の関係性も上手くいっているなら、遺産分割協議もスムーズに終わるでしょう。
これに対して、離婚などが原因で除籍された子どもがいたり、再婚によって相続関係が複雑化していたりすると、遺産分割協議が難航して相続トラブルが長期化しかねません。
以上を踏まえると、子どもや孫世代の相続手続き負担を軽減するためには、終活の一環として被相続人の意向を汲んだ遺言書を作成しておいたり、遺言書を作成する段階で相続人などの考えや気持ちを理解しておいたりすることが重要です。
遺産問題に強い弁護士は遺言書作成段階から関係者の考えや気持ちを配慮してさまざまなケアをしてくれるでしょう。
相続が発生すると、被相続人が予期しない形で、相続人などの間でトラブルが生じることが少なくありません。
特に、除籍された子どもがいたり、離婚・再婚が原因で相続関係が複雑になっていたりすると、被相続人の死亡後に子どもなどが相続手続きの負担を強いられます。
ベンナビ相続では、相続人の中に除籍された方がいる時の相続トラブルや、除籍された子どもの相続権の取扱いなどについて詳しい弁護士を多数掲載中です。
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