遺言書があるときや、相続人が一人しかいないときは遺産相続が自動的に決まるため、基本的に遺産分割協議書は不要です。
しかし、一人が全て相続するケースでも、状況によっては遺産分割協議書が必要になることがあります。
本記事では、遺産を一人が全て相続する際の遺産分割協議書の書き方や注意点などをわかりやすく解説します。
相続人が一人しかいなければ、そもそも遺産分割協議をする必要がないので遺産分割協議書は不要です。
ただし、相続人が自分一人だけでも、相続の状況によっては遺産分割協議書が必要になるので、具体的な内容は以下を参考にしてください。
遺言書がなく、相続人が複数いる場合は、遺産分割協議書の作成が必要です。
また、ほかの相続人が相続分を放棄し、一人だけが全ての財産を受け継ぐ場合も、遺産分割協議書を作成しなければなりません。
たとえば、亡くなった父親の財産を全て母親に渡すため、子どもが相続を辞退するケースであれば、母親の全額相続を認める署名捺印が必要です。
金融機関や法務局などは遺産分割協議書と戸籍謄本を照合しているので、遺産分割協議書に記載されてない相続人がいると、相続手続き受け付けてもらえません。
遺産分割協議書には言った・言わないの水掛け論を防止する役割もあるので、相続人が複数いるときは、必ず作成しておきましょう。
相続人がもともと一人しかいない場合、遺産分割協議書の作成は不要です。
また、相続人が複数いる場合でも、以下のようなケースは遺産分割協議書を作成する必要がありません。
遺言書がある場合は遺産分割協議書が必要なく、遺言書ですべての遺産の分け方が指定されている場合、預貯金や登記等の相続手続きには、遺産分割協議書は必要なく、遺言書を提出します。
相続欠格や廃除となった相続人や、相続放棄した相続人には相続権がないため、遺産分割協議には参加できず、遺産分割協議書に記載する必要もありません。
なお、法定相続分どおりに遺産分割をする場合、遺産分割協議書を提出しなくとも、預金や登記等の相続手続きを受け付けてもらえます。
ただし、あとでトラブルになる可能性もあるので、親族用の遺産分割協議書は作成しておくべきでしょう。
相続分の放棄によって一人が全て相続する場合、遺産分割協議書の書き方は以下のようになります。
被相続人や相続人、相続財産の情報は第三者が見ても特定できる必要があるので、具体的な書き方は以下を参考にしてください。
表題には必ず「遺産分割協議書」と記載します。
書面から遺産分割協議書であることが判明する場合でも、表題は必ず記載しておきましょう。
被相続人の情報は以下のように記載します。
遺産分割協議書に記載する被相続人の氏名や生年月日、住所地などは戸籍謄本や住民票の除票に合わせてください。
被相続人情報の下部には、以下のように相続人全員が遺産分割協議に同意した旨を記載します。
【例文】 被相続人アシロ太郎が令和○年○月○日に死亡したため、相続人アシロ桃子、相続人アシロ一郎は、以下のとおり遺産分割することに同意した。 |
遺産分割協議には相続人全員の参加が必要になっており、一人でも欠けていると遺産分割協議が無効になるので注意してください。
相続分の放棄で一人が全て相続する場合、遺産分割の方法は以下のように記載してください。
【例文】 被相続人アシロ太郎の一切の財産および債務については、全て被相続人の妻アシロ桃子が相続する。 |
被相続人の配偶者が全て相続する旨を明記していれば、子どもの相続分放棄を記載する必要はありません。
分割できる可分債務については、遺産分割協議書へ以下のように記載します。
【例文】 被相続人アシロ太郎の可分債務について、アシロ一郎が被相続人の債権者から弁済を請求された場合、アシロ桃子が当人に代わって可分債務を弁済する。 |
被相続人に完済していない借金がある場合、相続人同士で債務の負担を決定できます。
ただし、法律上は債権者に対して法定相続分に応じた返済義務を負っているため、アシロ桃子が返済できないときは、アシロ一郎に弁済請求されるので注意してください。
遺産分割協議の成立後に新たな財産が見つかる可能性があれば、以下のように記載しておきましょう。
【例文1】 本遺産分割協議書に記載のない財産が後日判明したときは、全てアシロ桃子が相続するものとする。 |
【例文2】 本遺産分割協議書に記載のない財産が後日判明したときは、その財産につき、あらためて相続人全員で分割につき別途協議する。 |
なお、新たに判明した財産を一人で相続する場合、相続税の発生または相続税の追加納付が必要になるケースもあります。
相続人同士の債権債務関係を明確にしておきたいときは、以下のように遺産分割協議書に清算条項を記載してください。
【例文】 本遺産分割協議書の当事者間では、被相続人のアシロ太郎の遺産について本遺産分割協議書に定めるほか、一切の債権債務関係がないことを相互に確認する。 |
清算条項を定めておくと、遺産分割協議の成立後にお金のやりとりでトラブルになるリスクを回避できます。
遺産分割協議の成立日は和暦・西暦のどちらでも構いませんが、必ずカレンダーどおりの日付を記載してください。
「2024年3月吉日」などの書き方では日にちを特定できないため、預金の払い戻しや相続登記等の相続手続きを進めようとしたときに、銀行等に手続きを拒否される可能性があります。
遺産分割協議に全員が同意したら、遺産分割協議書に署名・捺印しておきましょう。
本人の意思による同意を証明できるよう、署名は自書でおこない、捺印には実印を使ってください。
印鑑証明書も添付しておけば、実印であることを証明できます。
遺産を一人が全て相続するときの遺産分割協議書については、以下のひな形を参考にしてください。
なお、遺産分割協議書は手書き作成・パソコン作成のどちらでも構いませんが、署名だけは本人自書がよいでしょう。
遺産分割協議書
氏名 アシロ 太郎 生年月日 1940年5月1日 死亡日 2024年3月1日 本籍地 東京都新宿区西新宿6丁目○番○号 最後の住所地 東京都港区赤坂4丁目○番○号
被相続人アシロ太郎が令和○年○月○日に死亡したため、相続人アシロ桃子、相続人アシロ一郎、相続人アシロ二郎は、以下のとおり遺産分割することに同意した。
第一条 遺産分割の方法 被相続人アシロ太郎の一切の財産および債務については、全てアシロ桃子が相続する。
第二条 可分債務の取り決め 被相続人アシロ太郎の可分債務について、アシロ一郎およびアシロ二郎が被相続人の債権者から弁済を請求された場合、アシロ桃子が当人に代わって可分債務を弁済する。
第三条 本遺産分割協議書に記載がない財産に関する取り決め 本遺産分割協議書に記載のない財産が後日判明したときは、全てアシロ桃子が相続するものとする。
第四条 清算条項 本遺産分割協議書の当事者間では、本書に定める遺産のほか、一切の債権債務関係がないことを相互に確認する。
以上、本書成立の証明として本書三通を作成し、相続人全員が署名捺印のうえ、各自一通を保管する。
2024年3月20日
相続人 アシロ桃子 住所 東京都港区赤坂4丁目○番○号 署名・捺印 相続人 アシロ一郎 住所 神奈川県横浜市中区○○町○丁目○番○号 署名・捺印 相続人 アシロ二郎 住所 東京都大田区蒲田○丁目○番○号 署名・捺印 |
相続人が複数いるケースで一人が全て相続する場合、以下のような注意点があります。
「母親に自宅を相続させたい」と思って子どもが相続放棄したところ、結果的に権利関係が複雑になる可能性もあるので要注意です。
遺産分割協議書を作成する場合、前提として相続人の確定と相続財産の調査が必要です。
相続人が全員揃っていない状況で遺産分割協議をおこなうと、遺産分割協議書を作成しても無効になるので注意してください。
また、相続財産の調査漏れがある場合、あとでトラブルになったり、相続税の無申告や過少申告になったりする可能性があります。
相続放棄するかどうかの判断にも影響するので、財産調査は相続開始直後からスタートしておきましょう。
なお、戸籍収集や財産調査に自分で対応できないときは、弁護士などの専門会に依頼できます。
相続放棄すると、相続権が次順位の相続人に移るので、場合によっては相続争いに発展します。
たとえば、亡くなった父親名義の自宅を母親に相続させるため、子どもが相続放棄した場合、子どもの相続権は被相続人の親が存命であれば親に移ります。
被相続人の親が「自分にも息子の自宅を相続する権利がある」と主張した場合、母親の単独名義で自宅を相続できなくなる可能性があるでしょう。
特定の相続人に財産を集中させたいときは、相続分の譲渡を選択してください。
母親に全ての財産を相続させると、二次相続の相続税が高くなるので注意が必要です。
相続税の申告時に「配偶者の税額軽減」を適用すると、被相続人の配偶者は1億6,000万円まで、または法定相続分のどちらか多い方まで相続税がかりません。
配偶者の税額軽減を最大限に使った場合、母親名義の財産が増えてしまい、二次相続では相続税の基礎控除も減るため、子どもの税負担が大きくなります。
法定相続人の数が減ると、相続税の基礎控除は一人につき600万円減ってしまうので注意してください。
判断能力が低下すると法律行為が制限されるため、認知症の相続人は遺産分割協議に参加できません。
すでに認知症になっている相続人がいる場合は、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立ててください。
被後見人の財産に関する包括的な代理権を有する成年後見人は被後見人の法定代理人になれるので、遺産分割協議に代理参加してもらえます。
未成年の相続人がいる場合、遺産分割協議の際には特別代理人の選任が必要です。
一般的な法律行為は親が法定代理人になりますが、相続の場合は親子に利益相反関係が発生するため、親が子どもの代理人になれません。
特別代理人には職業や資格制限がなく、未成年者との利害関係がなければ問題ないので、叔父や叔母、または弁護士などを家庭裁判所で選任してもらうとよいでしょう。
なお、特別代理人の選任も家庭裁判所へ申し立てる必要があり、選任完了までに1ヵ月程度かかります。
遺産分割協議書を作成するときは、必ず人数分を準備してください。
一人が全て相続する場合、ほかの相続人は自分の相続分を放棄することになるので、あとで気が変わる可能性もあります。
人数分の遺産分割協議書を作成し、それぞれ各自の署名捺印をもらっておけば、トラブルの発生リスクを抑えられるでしょう。
遺産分割協議書に記載ミスがあった場合、原則として相続人全員の訂正印が必要です。
作成者の訂正印だけでは金融機関や法務局が受理してくれないので、相続人や相続財産はミスがないように記載しなければなりません。
ただし、遺産分割協議書の余白部に相続人全員の捨印があると、作成者に訂正権限を与えたことになるので、あとで全員の訂正印をもらう手間が省けます。
相続の辞退などによって一人が全て相続する場合、遺産分割協議書の書き方が複雑になるので要注意です。
相続財産の記載漏れや記載ミスがあれば、最初から書き直す事態にもなりかねません。
遺産分割協議書の作成に時間がかかってしまうと、相続税申告などの期限に間に合わず、預貯金も凍結されたままになるでしょう。
些細なミスでも遺産分割協議書は無効になってしまうので、書き方に迷ったときは必ず弁護士などの専門家に相談してください。
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