亡くなった家族の遺産分割に当たっては、多くの遺産が欲しいあまりに、相続人が詐欺的行為をするケースがしばしば見られます。
ほかの相続人の詐欺的行為により、ご自身の相続分が少なくなってしまうとすれば、あまりにも理不尽でしょう。
遺産分割に関する詐欺的行為に対しては、法的な観点から対応することが大切です。
弁護士のサポートを受けながら、公正な遺産分割の実現を目指しましょう。
本記事では、遺産分割に関する詐欺的行為の手口や、ほかの相続人による詐欺的行為が判明した場合の対処法などを解説します。
遺産分割についてほかの相続人に騙されたと感じている方は、本記事を参考にしてください。
遺産相続の場面では、以下のような詐欺的行為がおこなわれることがあります。
これらの詐欺的行為は、よく調べなければ気づきにくいので、遺産分割をする前にきちんと調査することが大切です。
遺言書の偽造・変造・破棄は、ほかの相続人を騙して遺産を多く取得しようとする者によく見られる手口です。
被相続人から信頼されて遺言書を託された相続人が、自分の利益のために裏切り、遺言書の偽造・変造・破棄に手を染めてしまうケースがあります。
遺言書が存在すれば、原則としてその内容のとおりに遺産を分けなければなりません。
亡くなった被相続人の意思を尊重するためです。
しかし、遺言書の偽造・変造・破棄がおこなわれると、被相続人の意思が相続に反映されなくなってしまいます。
遺言書の偽造・変造・破棄は、遺産分割に関する詐欺的行為の中でも、悪質性が高いものといえるでしょう。
亡くなった被相続人から相続人が生前贈与を受けた場合、原則としてその金額は特別受益に当たり、相続分の計算に反映させる必要があります(民法903条)。
特別受益のある相続人の相続分は減る反面、ほかの相続人の相続分が増えることになります。
しかし、自分の相続分が減ることを避けるため、過去に受けた生前贈与を、ほかの相続人に対して隠すケースがよくあります。
生前贈与が隠された場合、正しい相続分に基づく遺産分割をおこなうことができません。
生前贈与が隠されてしまうと、それをほかの相続人が把握することは容易ではありません。
被相続人の預貯金口座におけるお金の流れなどを、隅々まで調べることが大切です。
遺産を管理している相続人が、ほかの相続人に対して遺産を隠すケースもよく見られます。
公正に遺産分割をおこなうためには、遺産全部の情報を、すべての相続人の間で共有しなければなりません。
遺産の一部を隠す行為は、私利私欲のために遺産分割の公正性を害する悪質な行為といえます。
不動産や自動車などの高値で取引される財産を、「私の方で売却しておくから」などと言って売却したあと、ほかの相続人に対して売却価格を実際よりも低く伝えるケースもあります。
遺産の売却によって得た代金を低く伝えることは、遺産額が実際よりも少ないと騙すことを意味しますので、公正な遺産分割を阻害する悪質な行為です。
相続手続きには、弁護士費用や司法書士費用など、まとまった額の費用がかかるケースが多いです。
相続手続きに関する費用は、相続人の中でもリーダー的な立場の人が支出したあと、ほかの相続人に対してその内容と額を報告し、遺産分割の際に調整・精算するという形の取り扱いがよく見られます。
このような場合において、相続手続きの費用を負担した相続人が、ほかの相続人に対して、費用の額を実際よりも少なく伝えることがあります。
多額の費用を支出したことの見返りに、より多くの遺産を相続できるようにしてもらうためです。
相続手続きの費用を水増しして請求することも、遺産分割をおこなう際に基礎となる事情について、ほかの相続人を騙しているため悪質といえるでしょう。
遺産相続において、多くの遺産を取得するために詐欺的行為をすると、以下の事態を招くことになってしまいます。
ほかの相続人を騙すような行為は、絶対にしてはなりません。
遺言書に関する詐欺的行為は、相続欠格事由に該当します。
具体的には、以下の行為をした場合には相続欠格となり、遺産の相続権をすべて失うことになります(民法891条3号~5号)。
また、遺留分についてもはく奪されます。
ほかの相続人に対して生前贈与や遺産の一部を隠した場合や、相続財産の売却額や手続き費用の額を正しく伝えていなかった場合には、遺産分割が錯誤(民法95条)または詐欺(民法96条)によって取り消される可能性があります。
この場合、遺産分割をやり直さなければなりません。
遺産相続について、ほかの相続人が詐欺的行為をしたのではないかと疑われる場合には、以下の対応をおこないましょう。
一部の相続人による詐欺的行為に対しては、ほかの相続人や関係者と連携して対応することが大切です。
詐欺的行為の疑いが生じた時点で、速やかにほかの相続人や関係者にその内容や対応状況などを共有し、協力して対応しましょう。
一部の相続人による詐欺的行為への対応は、被害の内容がどのようなものであるかによって異なります。
たとえば遺言書の偽造または変造がおこなわれたと思われる場合には、真の遺言書の内容を調査しなければなりません。
具体的には、筆跡鑑定を依頼するなどしてその事実を確定するとともに、ほかに被相続人本人が作成した遺言書が存在するかどうかを確認する必要があります。
遺品として残されているケースもありますが、公証役場や法務局で保管されていることもあるので、心当たりのある場所を漏れなく探しましょう。
遺産の内容や金額について、ほかの相続人に嘘をつかれていた場合には、真の遺産の全体像を調査・把握する必要があります。
また、すでに遺産分割協議書への調印が終わっている場合は、錯誤または詐欺によって遺産分割を取り消したうえで、改めて遺産分割をおこなわなければなりません。
このように、問題状況によって必要な対応は異なります。
どのような対応が必要であるかについては、弁護士にアドバイスを求めましょう。
遺産分割の完了後にほかの相続人の詐欺的行為が判明した場合には、遺産分割をやり直しましょう。
詐欺的行為をした相続人が相続欠格に該当する場合は、それ以外の相続人だけで遺産分割をおこないます。
これに対して、詐欺的行為をした相続人が相続欠格に該当しない場合には、その人も含めた相続人全員で遺産分割協議をおこなわなければなりません。
やり直しの遺産分割協議がまとまったら、すでにおこなわれた遺産分割を取り消し、新たな遺産分割を有効とする旨を明記した遺産分割協議書を作成しましょう。
やり直しの遺産分割協議がまとまらない場合や、一部の相続人が遺産分割協議のやり直しを拒絶している場合は、家庭裁判所に遺産分割の無効確認調停を申し立てましょう。
遺産分割の無効確認調停では、民間の有識者から選任される調停委員が各相続人の主張を公平に聴き取り、それぞれに歩み寄りを促すなどして合意による解決を図ります。
遺産分割を無効とし、新たに遺産分割をやり直す旨の合意が得られれば、調停成立となります。
遺産分割の無効確認調停が不成立となった場合は、地方裁判所に遺産分割の無効確認訴訟を提起しましょう。
遺産分割の無効確認訴訟では、遺産分割の取り消しおよび遡及的無効を主張し、裁判所にその旨を確認する判決を求めます。
その際には、錯誤や詐欺による取り消しの要件を立証しなければなりません。
弁護士のサポートを受けながら、十分な準備を整えたうえで訴訟に臨みましょう。
詐欺的行為がなされたことを理由に遺産分割を取り消す場合には、以下の各点に注意が必要です。
すでにおこなわれた遺産分割を取り消す場合には、錯誤や詐欺に基づく取消権を行使することになります。
遺産分割の取消権は、以下のいずれかの期間が経過すると時効により消滅します(民法126条)。
取消権が時効消滅すると、遺産分割の取り消し・無効およびやり直しを主張することはできなくなります。
ほかの相続人の詐欺的行為が判明したら、遺産分割のやり直しに向けて早めに対応を開始しましょう。
錯誤または詐欺による遺産分割の取り消しは、錯誤・詐欺の事実について善意でかつ過失がなく、取り消し前に法律上の利害関係に入った第三者に対抗できません(民法95条4項、96条3項)。
「善意」とは知らないこと、「過失がない」とは知ることができたにもかかわらず不注意で知らないことを意味し、いずれも法律上の利害関係に入った時点を基準に判断されます。
したがって、遺産分割が完了したあと、取り消される前に遺産を譲り受けた第三者が、その時点で相続人の詐欺的行為について善意無過失であった場合には、その遺産は当該第三者のものになります。
相続人が取り戻すことはできなくなる点に注意が必要です。
なお、遺産分割を取り消したあとで遺産を取得した第三者と相続人の間では、先に対抗要件を備えた方が優先されます。
不動産の場合は登記、動産の場合は引渡しが対抗要件とされています(民法177条、178条)。
遺産分割を取り消すことができる者は、取消権を行使せず「追認」をすることもできます。
追認とは、取り消し得る法律行為を確定的に有効なものとする意思表示です。
遺産分割協議を追認した場合、それ以降は遺産分割協議を取り消すことができません(民法122条)。
なお、明示的に追認の意思表示をしなくても、ほかの相続人による詐欺的行為の存在を知ったあとで、遺産について以下のような行為をした場合には「法定追認」(民法125条)が成立し、遺産分割協議を取り消すことができなくなるのでご注意ください。
遺産分割の結果に基づいて遺産の名義変更をしたあと、遺産分割が取り消しによって無効になると、改めて名義変更をおこなう必要性が生じます。
特に不動産については、名義変更をするたびに登録免許税がかかります。
遺産分割の取り消し・無効によって再度の名義変更をおこなう場合でも、すでに支払った登録免許税は返還されない点に注意が必要です。
ほかの相続人の詐欺的行為により、遺産がその人や第三者に移転してしまった場合には、以下の2段階に分けて対処しましょう。
遺産分割を取り消せば、その遺産分割によって遺産を取得した者は、遺産を保持する権利を失います。
不動産については明渡し、動産については引渡しを求め、遺産へと戻させましょう。
相手方が遺産の明渡し・引渡しを拒否する場合には、訴訟を提起して争うことになります。
錯誤または詐欺の要件を立証できれば、遺産を取り戻せる可能性が高まります。
ただし前述のとおり、錯誤または詐欺に基づく遺産分割の取り消しは、善意無過失の第三者に対抗できない点に注意が必要です。
不動産については、遺産分割の完了時において所有権移転登記(相続登記)の手続きをおこなうのが一般的です。
この場合、のちに遺産分割を取り消したときは、真の所有者に不動産の所有権登記を移転させる必要があります。
原則的には、まず遺産分割に基づいておこなわれた所有権移転登記を抹消し、被相続人名義に戻します。
そして遺産分割が完了したあと、遺産分割の結果に従って不動産を取得する者に所有権登記を移転します。
ただし実務上は、被相続人に登記名義を戻すことなく、やり直しの遺産分割によって不動産を取得する者へ直接登記名義を移転することも認められています(=真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記)。
遺産相続に関して詐欺的行為がなされる事態を防ぐには、以下の対策が考えられます。
遺言書を作成してすべての遺産の分割方法を指定すれば、相続人同士の間で遺産分割をおこなう必要がなくなるので、詐欺的行為のリスクを最小限に抑えられます。
ただし、遺言書が偽造・変造・破棄・隠匿されるリスクは残るので注意が必要です。
遺言書の偽造等を防ぐには、公正証書遺言を作成するのがよいでしょう。
原本が公証役場で保管されるため、遺言書の偽造等を防止できます。
また、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用するのも効果的です。
原本が法務局の遺言書保管所で保管されるため、やはり遺言書の偽造等を防止できます。
また、遺言者本人が死亡したあと、指定した人に対して遺言書の存在を通知してもらえるサービスも利用可能です。
被相続人となる人の財産について、詳しく知っている相続人とそうでない相続人がいると、遺産隠しなどがおこなわれるリスクが高まります。
遺産隠しなどのリスクを抑えるには、すべての相続人が見込まれる遺産の内容を把握しておくことが効果的です。
そうすれば、一部の相続人が遺産を隠すことは難しくなります。
また、被相続人となる人が存命中の段階から、相続が発生したらどうするかを話し合っておくのもよいでしょう。
普段から相続についてコミュニケーションをとっていれば、スムーズに相続手続きを進めることができますし、相続人間の信頼関係も生まれて詐欺的行為が発生しにくくなります。
法律の専門家である弁護士には、実際の相続手続きへの対応に加えて、相続トラブルの予防策についても相談できます。
遺産分割に関する詐欺的行為のリスクを防ぐには、遺言書などによる生前の相続対策が効果的です。
弁護士に相談すれば、家庭の状況に合わせた効果的な相続対策の内容を提案してもらえるでしょう。
相続に関して詐欺的行為がなされた場合、行為者は相続欠格に該当し得るほか、錯誤・詐欺によって遺産分割を取り消せることがあります。
弁護士のサポートを受けながら、遺産分割をやり直して再度公正な形で遺産を分けましょう。
遺産分割に関するトラブルへの対応や、その予防については弁護士に相談することをおすすめします。
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