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遺産を独り占めされたら|全額使いこまれる前にすべき対策まとめ

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相続人が複数いる共同相続の場合、相続財産は相続人間の共有となります(民法898条)。

各相続人は共有する相続財産を勝手に処分できず、ほかの相続人の同意を得たうえで相続財産を管理する必要があります(民法251条以下)。

そのため、相続財産をほかの相続人の許可なく、独り占めにしたり使い込んだりすることは許されません

しかし、実際は遺産分割が適切におこなわれず、相続財産を特定の相続人が独り占めにするようなケースもあります。

本記事では、遺産を独り占めにされた場合の対処法について解説します。

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遺産を独り占めにされたときに最初にやるべき3つのこと

被相続人の遺産を独り占めにされたときに、有効な対策としては以下の3つがあります。

  1. 被相続人の銀行口座を凍結させる
  2. 残高証明書を発行してもらう
  3. 不動産の権利証を受け取る

1.被相続人の銀行口座を凍結させる

被相続人が銀行に預けている預金も、相続財産として遺産分割の対象となります(最判平成28年12月19日 Westlaw Japan 文献番号 2016WLJPCA12199002)。

そのため、被相続人の預金口座から相続人の誰かが勝手にお金を引き出すことは許されません

この場合、被相続人が死亡したことを預金口座のある金融機関に伝えることで、金融機関は預金口座を凍結します。

凍結された預金口座は、基本的に遺産分割協議が成立するまで凍結状態が続きます。

これにより、被相続人の預金を勝手に使い込んだりすることができなくなります。

2.取引履歴・残高証明書の発行を依頼する

金融機関に対して、遺産分割の計算に用いるための資料として「相続発生時と現在の預金の残高証明書」の発行を依頼するという方法もあります。

両時点の残高証明書を発行してもらうことで、被相続人の預金額と、その後の金額や使い込みの有無などを確認でき、使い込みが判明した場合は責任追及ができます

3.不動産の権利証を受け取る

被相続人の遺産に不動産がある場合には、権利証を受け取り管理します。

不動産の権利証を受け取ることで、ほかの相続人に名義を書き換えられたり、売却されたりするリスクを防げるからです。

不動産の権利証は勝手に持ち出されないように、信頼できる相続人に管理してもらいましょう。

不当な主張で遺産を独り占めされたときの対処法

「自分は長男だから遺産は全て継ぐ」「被相続人と同居していたから遺産は全てもらう」といった法的に全く根拠のない主張で、遺産を独り占めする相続人が現れる場合があります

話し合いで解決できればいいですが、説得が見込めないまま遺産を独り占めにされる可能性も考えられるでしょう。

このような不当な主張で遺産を独り占めにされたケースでは、以下の対処法で遺産を回収することを検討しましょう。

遺産分割調停を申し立てる

相続財産の共有状態を解消するため、まずは相続人間で遺産分割協議をします。

遺産分割協議の成立のためには、相続人全員の合意が必要です。

もし遺産分割協議が成立しない場合には、家庭裁判所に対して遺産分割調停を申し立てます(民法907条2項)。

遺産分割協議や遺産分割調停では、相続人間の合意により、使い込まれた分についても考慮して遺産分割を進めることができます

特定の相続人が管理している遺産について、協議などをおこなって自分が取得することになった場合は、引き渡しを求めることができます。

なお、遺産分割調停でも合意できない場合には、遺産分割審判に移ります。

遺産分割審判では、相続人に代わって裁判官が遺産分割の方法を決定します。

不当利得返還請求をおこなう

「特定の相続人が、被相続人の預金口座から勝手に引き出して私的に使用している」などの使い込みが発覚した場合、不当利得返還請求権(民法703条704条)もしくは不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)に基づき、ほかの相続人は使い込まれた金額のうち自己の法定相続分に応じた金額を請求できます

なお、「使い込みの事実が証拠上明らかで、相手方が財産を散逸させる可能性がある」と認められる場合は、保全手続きを利用して相手方の預金口座について仮差し押さえをし、債権を保全するという方法もあります。

遺言書が原因で遺産を独り占めされたときの対処法

たとえば「財産のうちX銀行の預貯金を相続人Aに相続させる」という遺言がある場合、基本的にX銀行の預貯金は遺産分割の対象にならず、相続人Aが受け取ることになります。

このように、遺言によって財産の分割方法を指定することを「指定分割」といいます(民法908条)。

指定分割された財産は指定された相続人のものであり、ほかの相続人は原則として取り戻すことはできません。

ただし、遺言書自体が無効であったり、遺言がほかの相続人の遺留分を侵害している場合には、遺産を取り戻すことができます

遺言書が原因で遺産を独り占めにされたときには、以下の対処法を検討してみましょう。

遺言書の有効性を確認する

被相続人が残した遺言書に効力があるのか確認します。

遺言書が指定された要件を満たしていない場合、その遺言書は無効になるからです。

以下のポイントについて遺言書を確認してみましょう。

  • 作成日が記載されているか
  • 訂正方法に誤りがないか
  • 内容が不明瞭ではないか
  • 署名や捺印がきちんとされているか
  • 被相続人の自筆で作成されているか

上記の要件を全て満たしていない場合、遺言書は無効になります。

そして遺言書の「指定分割」は無視され、通常の遺産分割協議によって遺産を分け合うことになります。

遺留分侵害請求をおこなう

遺言書が有効だった場合には、遺言書に指定されたとおりに財産を分割します。

ただし、遺言によってほかの相続人の遺留分が侵害されている場合には、遺留分侵害額請求により、遺産のうち一定の割合については取り戻すことができます。

遺留分とは、「相続人に対して留保された相続財産の最低限の割合」のことをいいます。

指定分割・遺贈・一定の贈与が遺留分を侵害している場合、侵害されている相続人は侵害している相続人に対して、自身の遺留分の取り戻しを請求でき、これを遺留分侵害額請求(民法1046条)といいます。

遺留分があるのは、被相続人の配偶者・子ども・父母や祖父母などの直系尊属といった、兄弟姉妹以外の相続人です(民法1042条)。

遺留分侵害額請求権には、「相続開始と遺留分の侵害を知ってから1年」もしくは「相続が開始してから10年」の時効があるので注意が必要です。

なお、遺留分の請求については「遺留分減殺請求」という名称で知っている人もいるかもしれません。

こちらは、2019年に改正法が施行されたことで「遺留分侵害額請求」として名称も制度内容も変更されています。

一部の相続人が遺産を隠し持っている場合の対処法

生前に被相続人と同居していた長男などが、遺産を隠すことがあります。

たとえば、相続人が預貯金の残高を開示したときに、その金額が異常に少なかったり、遺産の開示自体に応じてくれなかったりして、遺産を隠し持っていることが疑われる場合です。

このようなケースでは、財産調査をおこない相続人が遺産を隠し持っていないか調べることが大切です。

そして財産調査の結果、開示された遺産以外のものが出てきたときには、以下の対処法を検討します。

遺産分割協議のやり直しを検討する

遺産を隠し持っていることが判明した場合には、隠されていた遺産を加えたうえで、遺産分割協議のやり直しを検討します。

ただし実際に、遺産分割協議をやり直すためには、相続人全員の同意が必要です。

相続人全員の同意が得られない場合には遺産分割協議のやり直しはできないため、調停や訴訟を起こすことを検討します。

弁護士に依頼して調停や訴訟を起こす

相続人全員の同意を得られない場合には、調停や訴訟を起こすことを検討します。

弁護士に依頼して遺産分割を無効にする調停や訴訟を裁判所で起こし、すでに成立した遺産分割を無効にします。

そして、隠されていた遺産を考慮に入れた上で、相続人全員でもう一度話し合い、遺産分割をやり直します。

一部の相続人がすでに遺産を独り占めして使い込んでいる場合の対処法

遺言書がないにもかかわらず、同居していた長男が被相続人の預貯金を引き出して使い込むケースがあります。

このように一部の相続人がすでに遺産を独り占めして使い込んでいる場合、まずは本当に遺産を使い込んでいるのか、事実関係を確認することが必要です。

そして銀行の預金残高など、遺産が把握できる書類を照らし合わせた結果、使い込まれた事実が判明した場合には、取り戻すための行動を起こします。

以下の対処法を検討しましょう。

話し合いで返還を求める

遺産の使い込みが判明したら、使い込んだ相続人と話し合って遺産を返すように説得します。

すでに使い込んでいて返せない場合には、分割払いやほかの財産で代償してもらうことなどを提案して、解決を図ります。

不当利得返還請求訴訟や損害賠償請求訴訟をおこなう

話し合いでまとまらなかった場合には、訴訟の検討に入ります。

不当利得返還請求訴訟や損害賠償請求訴訟のうち、状況に応じて有利になるほうを選びます。

ただし、訴訟をおこなう際には、遺産の返還を求める側が一定の主張を立証する必要があります。

自分だけでは対応しきれない場合もあるため、弁護士に依頼することを含めて検討するとよいでしょう。

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遺産を独り占めされたら弁護士への相談がおすすめ

遺産の独り占めなどの相続トラブルでは、弁護士にサポートしてもらうことも検討しましょう。

ここでは、遺産を独り占めされた場合に弁護士に依頼するメリットや、弁護士費用の相場などを解説します。

弁護士に依頼するメリット

独り占めされた遺産を適切な形で取り戻すためには、相続に関する知識や交渉力などが必要です。

素人同士では、うまく話し合いが進まずに解決が長引いたり、お互いに感情的になってさらなるトラブルに発展する恐れもあります。

弁護士であれば、相続人や相続財産の調査・遺産分割協議・遺留分侵害額請求など、相続手続きの大部分を代行してくれます。

弁護士に依頼することで、法律知識を活かして的確に対応してくれて早期解決が望めるほか、相続手続きにかかる時間的負担・精神的負担が大きく軽減されるなどのメリットがあります。

弁護士に依頼する場合の費用相場

遺産相続でかかる弁護士費用の相場は以下のとおりです。

遺産相続でかかる弁護士費用の相場と内訳

ただし、弁護士費用は依頼内容や法律事務所によってもバラつきがあります。

具体的な金額を知りたい方は直接事務所に確認しましょう。

さいごに

ほかの相続人が相続財産を使い込んでしまったり、遺言によって全ての相続財産を取得したりしても、不当利得返還請求や遺留分侵害額請求などの手段で取り戻せる可能性があります。

自分の場合はいくら取り戻せるのか正しく理解し、時効が成立する前に適切に対処するためにも、まずは一度弁護士に相談することをおすすめします。

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この記事の監修者
葛南総合法律事務所
安藤 俊平 (千葉県弁護士会)
遺言書や相続人間のトラブル防止など相続開始前のご相談から、相続開始後のお悩みまで、税理士・司法書士等の他士業と連携のうえワンストップでご対応可能。LINEから予約可能で、相続放棄に特に注力しています。
ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
編集部

本記事はベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。 ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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