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相続手続きをしなかったらどうなる?放置した際のリスクや相続手続きの期限を解説

長野国助法律事務所
中狹 和孝
監修記事
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被相続人の死亡後は何かと慌ただしく、「何よりも最優先に相続手続きに取り掛かるべき」というのは酷なものでしょう。

ただし、相続に関連した手続きや権利行使については期限が設けられているものが多く、相続手続きをしなかった場合、さまざまなペナルティ・デメリットが生じる可能性があります。

遺品整理や仕事などで日々な何かと忙しいでしょうが、相続手続きにはスピーディーに着手する必要があります。

そこで本記事では、相続手続きをしなかったときに生じるデメリットや、相続手続きに設けられている代表的な期間制限などについてわかりやすく解説します。

被相続人が死亡してしばらく経過しているのに相続手続きを放置して不安を抱えている方や、相続発生後何をすればよいのかわからず途方に暮れている方は、ぜひ参考にしてください。

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相続手続きをしなくてもすぐに不利益を被ることはない

相続は、被相続人の死亡によって発生します(民法第882条)。

そして、一度発生した相続の効力は一定期間の経過によって消滅することはありません。

そのため、相続手続きをしなかったとしても、手続きを怠ったことを理由にいきなり不利益が生じることは考えにくいでしょう。

たとえば、仕事や家事が原因で相続手続きをするタイミングが多少遅れたとしても、相続財産が国に没収されたり、遺産が減少したりすることはありません。

また、相続手続きのなかには期限が短期間で設定されているものもありますが、これらの期間を経過したあとでも手続きを受け付けてもらえます。

以上を踏まえると、すぐに大きなデメリットが生じるわけではないといえるでしょう。

ただし、放置したままにするとさまざまなリスクが生じることになる

ただし、相続によって被相続人の財産関係に変化が生じる以上、相続手続きをいつまでも放置し続けるとデメリットが生じるリスクがある点に注意が必要です。

たとえば、被相続人名義の預貯金口座が凍結されると口座残高は眠ったままになります。

また、被相続人名義の不動産について複数の共同相続人で承継したあと、共同相続人のひとりが死亡したり認知症を発症したりすると、いざ不動産をめぐる権利関係を明確にするために登記手続きをおこなおうとしても過大な時間・労力を強いられかねません。

さらに、遺産相続をめぐるトラブルへの対応をスピーディーにおこなわなければ、適切な権利主張ができなくなることもあります。

なお、場合によっては相続手続きを意図的に怠っているなどと判断された場合、一定のペナルティが科されるおそれもあります。

したがって、被相続人が亡くなったあとは何かと忙しなく気持ちの整理をするのにも時間を要するとは思いますが、可能な限り早い段階で相続手続きを済ませることを強くおすすめします。

相続人自身だけで手続きを履践するのが難しい場合は、相続問題に強い弁護士の力を借りるのも選択肢のひとつでしょう。

相続手続きを放置したままにするリスク

ここからは、相続手続きをしなかったらどのようなリスクが生じるのかについて具体的に解説します。

不動産の相続登記をしなかった場合

所有者不明土地が全国的に増加した結果、周辺の環境悪化や民間取引・公共事業への弊害が生じるようになったことから、不動産の相続登記をめぐるルールが抜本的に改正されました。

2024年(令和6年)4月1日から、相続人は相続によって土地・建物を取得したことを知った日から3年以内に相続登記手続きをおこなうことが義務付けられました。

また、遺産分割で不動産を取得した場合も、遺産分割から3年以内に協議内容どおりの登記手続きを済ませなければいけません。

それでは、不動産の相続登記をしなかったらどうなるのかについて解説します。

不動産の売却・活用ができない

相続によって不動産の実質的な所有者になったとしても、不動産を処分するには不動産登記の名義人でなければいけません。

そのため、法人登記手続きが未了で不動産名義が被相続人のままだと、当該不動産を売却・賃貸したり、そのほかの方法で有効活用することが一切できないままになってしまいます。

たとえば、建物は築年数が増えるにつれて資産価値が下がります。

そのため、相続登記手続きをしないまま売却できずにいると、経済的損失を被っているといえるでしょう。

また、不動産は所有するだけで固定資産税・その他維持費が発生するため、コスト負担を強いられます。

相続した不動産を少しでも高い金額で売却するためにも、なるべく早い段階で相続登記および売却活動をおこないましょう。

先に登記した第三者に所有権を奪われる

例外的な場面を除き、不動産に関する権利を第三者に主張するためには、土地・建物の権利者である旨の登記をして対抗要件を備える必要があります(民法第177条)。

そして、相続によって不動産の権利を承継した場合については、自らの法定相続分を超える部分については登記をして対抗要件を備えなければ、法定相続分を超える部分の権利の取得を第三者に主張することができません(民法899条の2)。

つまり、仮に相続によって不動産を承継したとしても、相続登記をしなかったら第三者に対して自らの法定相続分を超える範囲について不動産の正当な権利者であると主張できないということです。

さらに、相続登記手続き未了のまま第三者が先に登記手続きを済ませてしまうと、当該第三者が不動産の権利者であると判断され、不動産の所有権を主張できなくなってしまいます。

たとえば、遺言によって不動産の全てを承継していた場合において、ほかの相続人が単独で相続登記をおこなってその相続人の持ち分を第三者に譲渡し、その第三者が当該持ち分の登記を得た場合、第三者に登記された持ち分の部分については権利を主張することができません。

権利関係が複雑化し、相続にかかる手間が増える

不動産の相続登記手続きをしない期間が長期化すると、不動産をめぐる権利関係が複雑になる危険性が高いです。

たとえば、被相続人の死亡によって二人の子どもA・Bが共同で不動産を相続したケースについて考えてみましょう。

相続発生後すぐに相続登記手続きを済ませれば、A・Bそれぞれの共有名義であることを公示でき、当該不動産を売却することが可能になります。

一方、A・Bが相続したタイミングで相続登記手続きをせずに被相続人名義のままだと、仮にA・Bいずれかが死亡してさらに相続・代襲相続が発生したときに、不動産をめぐる権利関係が複雑になってしまいます。

この状況でいざ売却に踏み出そうとしても、遠縁の相続人と連絡をとったり、共有者全員から同意書を受け取ったりする必要があるので、かなりの労力を強いられかねません。

場合によっては、誰が不動産の権利者であるかを把握することさえ難しくなる可能性も考えられます。

したがって、不動産を相続したときには、権利関係がシンプルな段階で即座に相続登記手続きをおこない、権利関係と実態に齟齬がない状態にしておくのが賢明です。

次に引き継ぐ子や孫の手間が増える

相続登記をしなかったまま長期間が経過すると、次に引き継ぐ子や孫が相続する際の手間が増えてしまいます。

たとえば、不動産を取得した相続人が死亡して子ども世代が相続人になったとき、親世代の不動産登記が済んでいなければ、不動産を処分するために不動産の権利関係をめぐる変動全てを追跡する負担を強いられます。

子ども世代・孫世代に登記手続きの負担を押し付けないためにも、相続が発生した段階で確実に相続登記手続きを済ませておくべきでしょう。

10万円以下の過料が科される

2024年4月1日から相続登記の申請が義務付けられています。

これにより、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記をしなければいけません。

また、令和6年4月1日より前に相続した不動産のうち、相続登記がされていないものについては、令和9年3月31日までに相続登記を済ませる必要があります。

これらの義務に違反して、正当な理由なく相続登記手続きをしなかった場合は、10万円以下の過料が科される可能性があります(不動産登記法第164条)。

老朽化した不動産の事故により、損害賠償が必要となる可能性がある

相続によって取得した建物の老朽化が進み、倒壊などによって第三者の身体・財産に損害を加えると、不法行為に基づく損害賠償責任を追及される可能性があります。

また、不法投棄などによって近隣に迷惑をかけたときにも、同じく民事上の賠償責任が発生しかねません。

相続によって実質的に所有権を取得した以上、「相続登記を済ませていないから不法行為に基づく損害賠償責任は追及されない」という言い訳は通用しないので注意しましょう。

特定空き家に指定され高額な固定資産税が課される可能性がある

相続登記手続きもせず、また、相続によって取得した建物を無人のまま放置し続けると、行政から特定空き家の指定を受けて、改善勧告が出される可能性があります。

特定空き家とは、現状のまま放置すると倒壊など著しく保安上危険になるおそれがある状態の空き家、著しく衛生上有害になるおそれがある状態の空き家、適切な管理がおこなわれていないことが原因で、著しく景観を損なっている状態の空き家、その他、周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切な状態にある空き家のことをいいます(空き家対策の推進に関する特別措置法第2条第2項)。

加えて、特定空き家指定されると、住宅用地の特例措置の適用から外されて固定資産税の優遇措置を受けることができなくなるので、固定資産税額が従来の数倍に増額されかねません。

「被相続人が死亡して何かと忙しいから」「相続登記手続きは難しいので自分ではできないから」という理由で相続登記手続きおよび建物のメンテナンスなどを放置し続けると、税制上の不利益を強いられるので、可能な限り早いタイミングで相続登記手続きを完了させるようにしましょう。

預金の名義変更や解約払い戻しをしなかった場合

被相続人の死亡によって預貯金を相続した場合、口座に残っている金銭を使うためには、各金融機関が定める所定の相続手続きをおこなわなければいけません。

金融機関側が口座名義人の死亡を知ると、その時点で口座の凍結処理がとられ、相続手続きなどをおこなわなければ、キャッシュカードや通帳があったとしても現金の引き出しや口座振替・引き落としが一切できなくなります。

金融機関によって定められている手続きの詳細は異なりますが、以下の流れで相続手続きを進めることが一般的です。

  1. 相続手続きの申し出
  2. 必要書類の準備
  3. 必要書類の提出
  4. 払戻しなどの手続き

ここでは、被相続人名義の預貯金に関する相続手続きをしなかったらどうなるのかについて解説します。

休眠口座扱いとなり、一部が民間公益活動に利用される

2018年に施行された民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律により、10年以上入出金履歴のない預貯金口座は凍結されてしまいます。

そして、休眠口座扱いになると、休眠口座の残高の一部は預金保険機構に移管されて、民間公益活動のために活用されます。

なお、休眠口座扱いになったとしても、当該金融機関に通帳・取引印・本人確認書類などを持参すれば、預金を引き出すことは可能です。

ただし、休眠口座から預貯金を引き出すためには一定の時間を要することが多いので、休眠口座扱いになる前に所定の相続手続きを完了させることを強くおすすめします。

払い戻しを受けられなくなる

被相続人の預貯金については、消滅時効にも注意が必要です。

銀行に対する預金債権については5年、信用金庫・信用組合に対する預金債権は10年で消滅時効が完成し、預貯金の払い戻しを受けることができなくなってしまうからです。

ただし、実務上はきちんと手続きをすれば、金融機関は支払いに応じてくれることが多いようです。

とはいえ、払い戻しを受けられなくなるような事態はできる限り回避するのが賢明でしょう。

株式の名義変更をしなかった場合

被相続人が株式を保有していた場合には、どのくらいの株式を相続するのか調査し、相続人間でどのように分けのるかを遺産分割協議したうえで名義変更をする必要があります。

上場株式の場合は、証券会社や信託銀行の窓口で名義変更の手続きをおこないます。

一方、非上場株式の場合は、発行会社と直接やりとりして名義を書き換えます。

もし、相続財産の中に証券会社などで管理されていない上場会社の株券が含まれている場合は、証券保管振替機構に連絡して手続きを進めましょう。

株式の名義変更手続きをおこなわなかった場合、次のような事態が起こる可能性があるため、できる限り早めに手続きをおこなうようにしましょう。

配当金を受け取れず、株主権も行使できなくなる

株主としての権利を行使できるのは、基準日の時点で株主名簿に掲載されている人物です。

つまり、相続によって取得したはずの株式の名義変更手続きをしなかった場合、配当を受け取る権利、議決権を行使する権利、株主総会に参加する権利、株主総会の招集通知を受け取る権利など、一切の株主権を行使できないということです。

したがって、被相続人から承継した株式の名義変更手続きをしないままだと、配当金を受け取れないなど株式をめぐる全ての権利を行使することができず、結果として株式を所有している意味がなくなるといえるでしょう。

所在不明株主と判断され、株式が買い取られたり売却されたりする

相続によって取得した株式の名義変更手続きをせず、5年以上の間、株式会社側から送付される株主総会招集通知などが届かなかったり、会社からの配当の受領がなかったりすると、「所在不明株主」と判断されます。

所在不明株主に該当すると判断されると、当該株式が強制的に株式会社に買い取られたり、競売にかけられたりします会社法第197条)。

これによって、せっかく相続で取得した株式について一切株主権を行使する機会が剥奪されてしまいます。

なお、買い取りや競売によって発生した売却代金については10年間、株式の発行者に対して請求することが可能です。

相続税を滞納した場合

相続財産の総額が相続税の基礎控除額を超過する場合には、相続の開始があったことを知った日(被相続人が死亡した日)の翌日から10ヵ月以内に相続税の申告・納付をしなければいけません。

ここでは、相続税の申告手続きをしなかったり、申告内容に誤りがあったりしたときのペナルティについて解説します。

なお、相続財産の評価や相続税の計算は、相続手続きに慣れていない一般人にはハードルが高いのが実情です。

相続財産の構成内容が複雑だったり遺贈や贈与税対策の関係で相続税の算出が難しかったりするときには、最初から相続問題に強い弁護士や税理士の力を借りることを強くおすすめします。

延滞税や不申告加算税が課せられる

納付期限までに適切な金額の相続税を申告・納付しなければ、以下のようなペナルティが課されます。

  • 延滞税:相続税の法定納付期限から完納までの日数に応じて加算されるペナルティ。延滞期間2ヵ月以内分は年利率2.4%、延滞期間2ヵ月以上分は年利率8.7%で算定される(令和5年度)
  • 無申告加算税:納付期限までに申告しなかった時に課されるペナルティ。最大30%加算。
  • 過少申告加算税:本来納付するべき金額よりも少額の相続税を申告した時に課されるペナルティ。最大15%加算。
  • 重加算税:意図的な脱税などの悪質な事案を対象に課されるペナルティ。最大40%加算。

以上に挙げたペナルティを踏まえると、相続税は必ず期限までに申告・納付する必要があり、利用できる節税制度は積極的に活用するべきだと考えられます。

税制に詳しくない素人だけでは適切な相続税納付手続きができない可能性が高いので、相続が発生したらできるだけ早い段階で弁護士・税理士へ相談し、アドバイスをもらいましょう。

財産が強制売却される

相続税や延滞税・加算税を滞納した状態が続くと、相続税の納税義務者名義の財産が差し押さえられて、強制売却されてしまうおそれがあります。

たとえば、滞納額が高額な場合、滞納者名義で購入したマイホームが換価処分の対象になる可能性も否定できません。

したがって、相続税の申告・納付手続きにミスがあった場合には、できるだけ早いタイミングで税務署と連絡をとって、相続税の滞納分の支払い方法や支払い期限について交渉をする必要があります。

相続人としての権利を行使しなかった場合

相続手続きには、さまざまな期限が設けられています。

相続財産の構成内容やほかの相続人との関係次第では、期間内に適切に権利行使をしなければデメリットが生じる可能性も否定できません。

ここでは、相続手続きをしなかったような場合には、次のようなリスクが考えられます。

相続放棄・限定承認の権利を失い、高額な負債を背負う可能性がある

相続人は、相続開始のときから、預貯金や不動産などのプラスの財産だけではなく、借金・ローン・公共料金などの支払い義務などのマイナスの財産も含めた全ての財産が相続の対象になります(民法第896条)。

そのため、相続財産の内容に鑑みてマイナス財産を承継したくないなら、期間内に限定承認もしくは相続放棄の手続きを履践する必要があります(民法第921条第2号)。

したがって、相続放棄もしくは限定承認といった相続手続きをしなかったら、高額な負債を負うことになる可能性があります。

このことからも、相続が発生したときには、最優先で相続財産の内容を確認する作業が重要です。

遺留分侵害請求権を失い、遺留分を請求できなくなる

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる、遺言によっても奪うことができない遺産の一定割合の留保分のことです(民法第1042条)。

そして、生前贈与や遺言書によって遺留分を侵害される事態が発生したとき、遺留分権利者は遺留分侵害額請求権を行使することによって、遺留分侵害者から金銭を取り戻すことができます。

ただし、遺留分侵害額請求権はいつまでも行使できるわけではなく、「相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知ったときから1年間」もしくは「相続開始のときから10年間」で権利行使できなくなる点に注意が必要です(民法第1048条)。

そのため、遺留分を侵害するような遺言書が存在するような事案において、相続手続きをしないまま一定期間が経過すると、本来受け取ることができたはずの遺産を承継できなくなってしまう可能性があります。

相続権を侵害されても、相続回復請求権を行使できなくなる

相続回復請求権とは、本来相続人ではない表見相続人が相続財産を占有して真正相続人の権利を侵害している場合に、相続財産の回復を請求するための権利のことです(民法第884条)。

相続回復請求権は、「相続権を侵害された事実を知ったときから5年間」で消滅時効が完成、もしくは「相続開始のときから20年」で除斥期間にかかります。

したがって、被相続人の死亡後に相続回復請求権を行使しなかったら、一定期間の経過によって表見相続人に相続財産を奪われるリスクが生じる可能性があります。

譲渡された相続分を取り戻したくても、相続分の取戻権を行使できなくなる

共同相続人のひとりが遺産分割協議前に自分の相続分を第三者に譲り渡してしまったとき、ほかの共同相続人は、第三者にその価額および費用を償還することによって、譲渡済みの相続分を譲り受けることができます。

これを相続分の取戻権といいます(民法第905条第1項)。

相続分の取戻権は、見ず知らずの第三者が遺産分割協議に介入する事態を回避するために認められた制度です。

遺産分割協議の多くは家族・親族間でおこなわれるものですが、特に血縁関係もない人物が遺産分割の話し合いに参加することで円満な交渉が難航しかねないからです。

ただし、相続分の取戻権は、共同相続人が相続分の譲渡がおこなわれたことを知ったときから1ヵ月以内に行使しなければいけません(民法第905条第2項)。

被相続人の死亡後から遺産分割協議までの慌ただしい中で設けられている期限が短いため、相続分の取戻権の行使および円滑な遺産分割協議を希望するのであれば、相続発生後すぐに弁護士へ相談することをおすすめします。

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期限のある主な相続手続き

ここでは、期間制限が設けられている主要な相続手続きを解説します。

相続分の取戻し|1ヵ月以内

相続分の取戻権を行使できるのは、「共同相続人のひとりが自身の相続分を第三者に譲渡したことをほかの共同相続人が知った時から1ヵ月以内」です(民法第905条第2項)。

相続分の取戻権は、譲受人に対して取戻権を行使する旨の通知をしただけで効果が発生します。

相続分の取戻権の効果が発生するか否かについて、譲受人の承諾は不要です。

ただし、相続分の取戻権を行使する旨を通知する際に、相当の価額・費用を支払わなければいけません。

相続分の譲渡が無償でおこなわれたケースでも価額・費用の償還は必要になるので注意しましょう。

相続放棄・限定承認|3ヵ月以内

相続放棄および限定承認の期間制限は、「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヵ月以内」です(民法第915条第1項)。

相続放棄および限定承認をするには、家庭裁判所における申述手続きが必要とされます(民法第938条民法第924条)。

申述先は、相続人の住所地ではなく、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

また、相続放棄および限定承認の判断をするためには、相続財産の調査を済ませておく必要があります。

なぜなら、相続財産の全体像が明らかになってはじめてどの相続手続きを選択するべきかについて判断できるからです。

被相続人が死亡して何かと慌ただしい中、3ヵ月という短期間で相続財産の調査や家庭裁判所への申述手続きの準備をするのは簡単ではありません。

3ヵ月という期間制限を遵守できなければ単純承認したとみなされてしまう以上、相続発生後は念のために弁護士へ相談をして、少なくとも相続財産の調査や相続するか否かの判断について、アドバイスをもらうことをおすすめします。

準確定申告|4ヵ月以内

準確定申告とは、被相続人の生前の所得に対する確定申告のことです。

1月1日から死亡日までに確定した被相続人の所得金額および税額を計算したうえで準確定申告書を作成し、被相続人の住所地を管轄する税務署へ提出する必要があります。

準確定申告の申告・納付期限は、「相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヵ月以内」と定められています。

期限を過ぎると延滞税・加算税のペナルティが課されるので、確定申告をめぐる手続きに不慣れな方は、税理士や弁護士に一任することをおすすめします。

相続税の申告・納税|10ヵ月以内

相続税の申告・納付手続きの期限は、「相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヵ月以内」です。

相続税の申告期限を守らなかったり、申告内容に誤りがあったりしたときには、延滞税や加算税などのペナルティが課されます。

相続税の申告をするには、それまでに相続財産の調査を済ませたうえで、遺産分割協議によって承継方法を決定しなければいけません。

また、相続財産に不動産・株式が含まれる場合には、これらの価額を適切に評価する必要があります。

さらに、相続をめぐる人間関係が複雑なケースでは、遺産分割協議のために連絡先のわからない相続人を探し出すなどの労力を割かなければいけないこともあるでしょう。

そもそも、相続税の計算方法は複雑ですし、生前から節税対策に力を入れていたようなケースでは贈与税との関係にも配慮しなければいけません。

万が一計算間違いがあって過少申告になると延滞税などのペナルティの対象になってしまうので、事前に弁護士・税理士へ相談したうえで、ミスなく相続税の申告・納付手続きを済ませるよう努めましょう。

遺留分侵害額請求|1年以内

遺留分侵害額請求権を行使できる期間には以下のような制限が定められています(民法第1048条)。

  • 遺留分権利者が相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年間
  • 相続開始のときから10年間

ただし、遺留分侵害額請求権を行使せざるを得ない事案では、遺留分権利者と受遺者・受贈者との間で相続財産をめぐるトラブルが深刻化する可能性が高いと考えられます。

たとえば、受遺者・受贈者側に遺留分侵害額請求の行使について口頭で伝えたとしても、あとから「そのような話は聞いていない」と主張されて、消滅時効の完成を主張されかねません。

そのため、遺留分侵害額請求権を行使する際には、配達証明付き内容証明郵便を活用するのがおすすめです。

内容証明郵便による催告だけでも消滅時効の完成を猶予できるので、そこから6ヵ月以内に和解成立を目指すか、民事訴訟の提起を検討しましょう。

相続登記|3年以内

令和6年4月1日以後に不動産を取得した相続人は、「不動産の所有権の取得を知った日から3年以内」に相続登記の申請手続きをしなければいけません。

また、遺産分割協議によって不動産を取得した相続人は、「遺産分割が成立した日から3年以内」に相続登記手続きを済ませる必要があります。

正当な理由なく相続登記義務に違反した場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。

なお、令和6年4月1日以前に相続によって不動産を取得したケースについても、相続登記義務は課されます。

3年間の猶予期間が与えられているので、令和9年3月31日までに相続登記を済ませましょう。

死亡保険金の請求|3年以内

死亡保険金とは、死亡保障付きの生命保険に加入している場合に、被保険者の死亡によって受取人に支給される保険金のことです。

死亡保険金の請求期限は各保険会社の約款次第ですが、一般的には、「死亡保険金の支払事由が発生した日の翌日から3年間」と定められています(保険法第95条第1項)。

ただし、3年の消滅時効期間が経過したあとでも、死亡保険金の請求を認めてくれるケースが大半です。

「被相続人が死亡してから3年以上過ぎてしまったから」という理由だけで死亡保険金の受け取りを諦めるのではなく、速やかに保険会社まで連絡し、手続きを進めましょう。

相続回復請求|5年以内

相続回復請求権を行使できる期間には、以下のような制限が加えられています(民法第884条)。

  • 相続人またはその法定代理人が相続権を侵害された事実を知ったときから5年間
  • 相続開始のときから20年間

相続回復請求権が問題になるケースとして、廃除や欠格事由の存在によって相続人の地位を失った人物がそれを秘匿したまま遺産分割協議に参加する事案が挙げられます。

相続廃除や欠格事由の存在については戸籍の全部事項証明書に記載されているため、遺産分割協議をスタートする前に、必ず遺産分割協議参加者の戸籍謄本の内容を確認しましょう。

また、表見相続人に対して相続回復請求権を行使せざるを得ないような事案では、示談交渉の段階から弁護士に代理してもらうことで紛争の早期解決を実現しやすくなるでしょう。

相続手続きに関するよくある質問

最後に、相続手続きについてよく寄せられる質問をQ&A形式で紹介します。

相続手続きは自分でもできますか?

相続手続きは、相続人だけで進めることも可能です。

相続人本人が相続手続きをおこなえば、専門家への依頼料を節約できるでしょう。

ただし、すでに相続発生から一定期間が経過したような事案では、スピーディーに手続きを進めなければいけないケースも少なくありません。

また、相続関係が複雑な事案では、相続手続きに不慣れな相続人が曖昧な知識で手続きに関与することでミスが生じるリスクも想定されます。

以上を踏まえると、相続が発生したら、どのような事案でも念のため一度は弁護士などの専門家に意見を求めておくほうがメリットが大きいと考えられます。

相続手続きをめぐる些細な不安にも回答してくれますし、相続手続き全てを一任してしまうことも可能です。

安全・安心に相続手続きを済ませたいと考えているのであれば、ぜひ近くにある相続問題に注力している法律事務所までお問い合わせください。

相続するものがなくても相続手続きは必要ですか?

相続手続きは、相続財産が存在する場合に実施するものです。

つまり、相続するものがなければ相続手続きは必要ありません。

ただし、現実には預貯金、不動産、自動車、株式、借金、その他財産的価値のある遺産など、何かしらの財産は存在していることがほとんどです。

そのため、被相続人が死亡したら、まずは相続する財産の全容を把握することが先決です。

このとき、相続問題の実績豊富な弁護士に依頼すれば、スピーディーかつ確実に相続財産の調査を済ますことができるでしょう。

さいごに|相続手続きにはスピード感が必要!不安なら弁護士に依頼しよう

相続手続きをしなかったら、相続に関連する権利行使が制限されたり、過料や税制上の不利益などのペナルティが課されたりしかねません。

遺品整理や気持ちを落ち着かせるためにある程度の時間は必要でしょうが、時間に余裕が出てきたタイミングで相続手続きに着手することをおすすめします。

ベンナビ相続では、相続手続きをはじめとした相続問題に強い弁護士を多数掲載中です。

所在エリアや相談内容、実績などの諸項目から弁護士や法律事務所を絞り込んで探すことができるため、できるだけ早いタイミングで信頼できそうな法律事務所までお問い合わせください。

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この記事の監修者
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中狹 和孝 (東京弁護士会)
経験年数50年以上の弁護士を始め、中堅、若手の弁護士がバランスよく在籍。円満な解決を目指すべきか、調停・裁判を通して主張するべきかなど、多角的な視点から最適かつ柔軟な解決策を提案している。
ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
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本記事はベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。 ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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