相続時精算課税制度と暦年課税は、どちらも贈与に関する税制度のことです。
これらをうまく活用することで節税対策もできるため、相続や贈与を控えている方は理解することが必須です。
なかには、「相続時精算課税制度と暦年課税は、併用できないのか?」と、気になる方もいるでしょう。
結論からいうと、相続時精算課税制度と暦年課税は、原則として併用することはできません。
本記事では、これらの制度の基本的な仕組みから、どちらを選ぶべきか、さらには併用可能なお得な制度まで具体的に解説していきます。
資産の承継を考える際に、最も効果的な税金対策を見つけ出すための指針となるよう、専門的な知識をわかりやすく紐解いていきましょう。
相続や贈与に関わる税金の計算は複雑です。
なかには、節税対策として相続時精算課税制度や暦年課税(暦年贈与)を併用したいと考える方も多いでしょう。
本章では、相続時精算課税制度と暦年課税が併用できるのかについて解説します。
相続時精算課税制度を選択した場合、原則として暦年贈与との併用はできなくなります。
贈与税は、1年単位で贈与に対して課税されますが(暦年贈与)、税務署に届出書を提出すれば相続時精算課税制度に変更することができます。
ただし、相続時精算課税制度に変更すると、二度と暦年贈与に戻すことができなくなってしまう点には注意しなければなりません。
贈与の計画を立てる際には、将来の相続を見据えたうえで、どちらの制度を利用するかを慎重に決める必要があります。
ただし、贈与者が異なる場合には、この制限は適用されません。
たとえば、ある方が父親からの贈与に対して相続時精算課税制度を利用している場合でも、母親や祖父母からの贈与については、暦年課税の規定を利用することが可能です。
贈与者ごとにこれらの制度を分けて考えることで、法律が許容する範囲内で最大限の節税効果を得ることができます。
相続や贈与に伴う税金の対策として、相続時精算課税制度と暦年課税(暦年贈与)のいずれかを選択することが重要です。
どちらの制度もその特性が異なり、個々の状況に応じて適切な選択が求められます。
ここでは、それぞれの制度を選ぶべき状況について詳しく見ていきましょう。
相続時精算課税制度を選ぶほうがよいのは、主に以下のケースに当てはまる場合です。
具体的にご自身のケースと照らし合わせて検討してください。
暦年贈与を選びたい場合、まず前提として贈与期間を確保できることが重要です。
そのため、贈与者が比較的若く、長い間贈与できる場合に選ぶとよいでしょう。
また、親子で同居しているケースなどで小規模宅地等の特例を適用したい場合は、暦年贈与を選びましょう。
これは、相続時精算課税制度では、小規模宅地等の特例が使えないためです。
そのほかにも、具体的に暦年課税を選ぶほうがよいケースは次のとおりです。
相続時精算課税制度を利用する際にも、特定の条件下で非課税措置が適用されるケースがあります。
これらの非課税措置は、相続時精算課税制度と併用して利用することが可能です。
以下で、その3つの制度について詳しく見ていきましょう。
住宅取得等資金の贈与を受けた場合には、非課税制度の利用が可能です。
住宅取得等資金の贈与に関する非課税措置は、直系卑属から贈与を受けた資金を住宅の取得やリフォームに使用する場合に、一定額まで贈与税が非課税となる制度です。
なお、非課税限度額は以下のとおりです。
限度額 |
|
省エネ等住宅の場合 |
1,000万円まで |
それ以外の場合 |
500万円まで |
この非課税枠は、相続時精算課税制度とは独立しており、併用することが可能です。
教育資金の一括贈与を受けた場合にも、相続時精算課税制度と併用が可能です。
教育資金の一括贈与に関する非課税措置は、教育資金を贈与者(受け取る側の直系尊属である父母または祖父母など)から一括で贈与を受けた場合に適用される制度です。
この制度を利用することで、贈与された教育資金に対して、一定の非課税枠(1,500万円まで)が設けられています。
教育資金の一括贈与の非課税措置も、相続時精算課税制度と併用することが可能であり、贈与税の節税に役立ちます。
結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合も非課税措置の利用が可能です。
この非課税措置は、受贈者(結婚・子育て資金管理契約を締結する日において18歳以上50歳未満の方)が、結婚・子育て資金に充てるために直系尊属である父母や祖父母などから信託受益権を取得した場合、取扱金融機関の営業所などを経由して結婚・子育て資金非課税申告書の提出などをすることにより、贈与税が非課税となる制度です。
結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税措置では、1人につき合計1,000万円までの金額については非課税となります(結婚のための費用は300万円が限度額です)。
この非課税措置も、相続時精算課税制度との併用が可能で、贈与税の負担を軽減することができます。
ここでは、相続時精算課税制度と暦年課税(暦年贈与)の基本的な仕組みと、これらの主な違いについて、改めておさらいしましょう。
ここでは、相続時精算課税制度と暦年課税の具体的な仕組みについておさらいします。
相続時精算課税制度は、2,500万円まで贈与税が非課税になる代わりに相続税が課される制度です。
生前贈与で受け取った2,500万円までは特別控除となり、贈与した方が亡くなった際に、受け取った額を相続財産と合算して相続税を計算する方法を取ります。
2024年には法改正がおこなわれ、2,500万円のほかに年110万円までの基礎控除も認められることとなりました。
暦年課税は、1年間(1月1日から12月31日まで)に受ける贈与の合計額が110万円を超える場合にのみ贈与税が課される制度です。
つまり、110万円を超えない範囲であれば、贈与税を納税する必要はありません。
ちなみに、暦年贈与は受遺者ごとに課税されるため、両親からそれぞれ贈与があった場合は、原則として両親合わせての贈与額で計算されます。
「父から60万円、母から60万円」の贈与を受けた場合は120万円の贈与と計算されるため、贈与税がかかる点には注意が必要です。
あらためて、相続時精算課税制度と暦年課税の違いを下表で確認してみましょう。
項目 |
相続時精算課税制度 |
暦年課税(暦年贈与) |
贈与する側(贈与者) |
贈与をした年の1月1日において60歳以上である直系尊属(父母または祖父母) |
誰からの贈与でもよい |
贈与される側(受贈者) |
贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の推定相続人および孫 |
誰が受け取ってもよい |
贈与税の非課税枠 |
基礎控除年間110万円 相続開始するまで特別控除2,500万円 |
基礎控除年間110万円 (贈与を受ける人ごとに) |
控除額を超えた場合の税率 |
一律20% |
10〜55% |
届出の要否 |
初年度は相続時精算課税選択届出書を提出する 110万円を超えたら申告する |
110万円を超えたら申告する |
以上のように、相続時精算課税制度と暦年課税には制度の内容に大きな違いがあります。
ここまで解説したとおり、これらの併用はできないため、よく比較してどちらを選ぶべきかを検討しましょう。
ここでは、相続時精算課税制度と暦年贈与(暦年課税)に関するよくある質問に回答します。
一度、相続時精算課税制度を提出してしまうと、その選択をあとから変更することはできません。
選択する制度については、事前にしっかりと検討し、適切な判断をする必要があります。
相続時精算課税制度は、被相続人となりうる両親それぞれからの贈与に対して個別に適用することが可能です。
つまり、一方の親から受けた贈与について相続時精算課税制度を利用した場合でも、もう一方の親からの贈与についても同様に制度の適用を受けることができます。
父方と母方それぞれから相続を受ける場合は、2,500万円×2人で計算し、合計5,000万円までは非課税にすることが可能です。
2024年以降は、相続時精算課税制度を選ぶほうが有利になるケースが増えると考えられます。
ここまでにも解説したとおり、2024年からは相続時精算課税制度の非課税枠が、それまでに2,500万円に加えて年110万円の基礎控除も新設されたためです。
また、その基礎控除分は相続財産に加算されない点にも注目すべきです。
また、暦年贈与の持ち戻し期間(相続開始前の一定期間の贈与を相続財産に加算する期間)が相続前3年間から7年間に拡大されました。
そのため、多くの場合は相続時精算課税制度のほうが有利になることが多くなります。
相続や贈与をおこなう予定のある方は、相続時精算課税制度や暦年課税といった制度を上手に使い分けることで、税負担を軽減し、資産移動を効果的におこなうことができます。
ただし、相続時精算課税制度と暦年課税は併用できません。
また、一度相続時精算課税制度を選択すると、以後の贈与には全て相続時精算課税が適用される点にも注意が必要です。
重要なのは、これらの制度を自分や家族の状況に合わせて選択し、適用することです。
相続や贈与に関する計画を立てる際には、適切な制度を選択し、家族の財産を守りながら税負担を最小限に抑えることを目指すことが重要です。
税制は変更されることがあるため、必要に応じて弁護士や税理士からのアドバイスを求めることをおすすめします。
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