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家族信託は遺留分の対象になる?判例・判決も参考にしてわかりやすく解説

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家族信託とは、財産の管理や運用、処分を家族に任せる生前対策のひとつです。

高齢化が進む近年、注目されている制度でもあります。

しかし、家族信託によって財産管理を任せられた人や利益を受ける人は、その他の相続人の遺留分を侵害することにならないのか、気になる方もいるでしょう。

本記事では、家族信託は遺留分侵害額請求の対象になるのかどうか、過去の判例などを紹介しながら解説します。

よかれと思っておこなった家族信託が原因で、相続人同士の争いが勃発してしまわないように、この記事を読んで家族信託と遺留分の関係性を理解しておきましょう。

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家族信託は遺留分の対象になる? 過去の判例を元に解説

そもそも家族信託が遺留分の対象になるかどうかは、状況によっても異なります。

ここからは、家族信託と遺留分の関係性を、過去の判例や判決とともに解説します。

家族信託は死亡保険金と同じみなし相続財産

家族信託で受託者に託す財産のことを、信託財産といいます。

信託財産の利益を得る信託受益権は、みなし相続財産のひとつとして扱われます。

みなし相続財産とは、被相続人の死亡によって受け取る財産のことです。

被相続人の死亡後に発生する死亡保険金も、みなし相続財産のひとつです。

たとえば、信託財産の委託者と受益者が親、財産を管理する受託者がその子どもだった場合、親の死亡後に財産の受益者が子どもに移るのであれば、信託財産はみなし財産として扱われることになります。

最高裁の判例を前提とすると「死亡保険金は遺留分の対象外」

みなし財産のひとつである死亡保険金は、最高裁の判例を前提とすると遺留分の対象外であると考えられます。

最高裁では死亡保険金に関して、以下のように判決を下しています。

被相続人が自己を保険契約者及び被保険者とし,共同相続人の1人又は一部の者 を保険金受取人と指定して締結した養老保険契約に基づく死亡保険金請求権は,その保険金受取人が自らの固有の権利として取得するのであって,保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく,これらの者の相続財産に属するものではないというべきである

【参考】最高裁判所 平成16年10月29日判例

民法上、みなし財産は遺産には該当しません。

上記の判例からもわかるとおり、生命保険金は贈与などで受け取る財産とは異なり、受取人固有の財産となります。

そのため、基本的には遺留分の対象外です。

同じみなし相続財産でも、家族信託が遺留分の対象外とする最高裁判例はない

家族信託の信託受益権は、死亡保険金と同じみなし財産です。

しかし、だからといって最高裁判所の判例の中には、家族信託が遺留分の対象外だとする明確なものはありません。

そのため、みなし財産だからといって、安易に遺留分の対象外と判断することはできないといえるでしょう。

また、相続人同士の公平性が保たれていない状態であれば、家族信託も遺留分の対象となることも考えられます。

家族信託が遺留分の対象とする地裁の判決はある【東京地裁平成30年9月12日判決】

本判決では家族信託について、「遺留分制度を潜脱する意図の信託制度利用は、公序良俗違反で一部無効」としています。

遺留分潜脱目的で家族信託を利用したことが明らかで、家族信託によってその他の相続人の権利を著しく侵害する結果となっている場合は、家族信託は遺留分の対象だとみなされる可能性があるのです。

なお、本件は控訴審で和解が成立しており、最高裁で司法判断が下されているわけではありません。

とはいえ、地方裁判所の判決を見る限り、家族信託は死亡保険金と異なる解釈がされる可能性も十分にあるといえるでしょう。

【結論】遺留分回避を目的とした家族信託は今後も無効とされる可能性がある

最高裁判所の判例、東京地方裁判所の判決から判断すると、遺留分回避を目的とした家族信託は今後も無効とされる可能性があります。

そもそも家族信託は、遺留分の請求を回避するための制度ではありません。

あくまで家族による柔軟な財産管理や、亡くなったあとの相続手続きの負担を減らすために利用されるものです。

遺留分回避を目的とし、特定の相続人が著しく有利になるような家族信託であれば、裁判所の判断で無効になることも考えられます。

つまり、家族信託を使って極端な相続をすることは認められないということです。

争いを防ぐためにも、法定相続人には最低限の遺産を残すなどの配慮も大切だといえるでしょう。

通説によれば、二次相続以降なら遺留分は発生しない

通説によると、家族信託でも二次相続以降なら遺留分は発生しないといわれています。

二次相続とは、一度目の相続(一次相続)で相続人となった方が、その後亡くなった際に発生する相続のことです。

たとえば父・母・子どもといった家族構成で、父が亡くなった場合、母と子が父の遺産を相続する段階を一次相続といいます。

その後、母も亡くなった場合に発生するのが、二次相続です。

一次相続の段階では、相続人は家族信託の受益者に対しての遺留分請求ができる可能性があります。

しかし、一次相続の段階で受益権の承継は完了しているとみなされるため、その後に二次相続が発生しても、遺留分は請求できないと考えられているようです。

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家族信託と遺留分でもめないためにできる対策

家族信託は、相続手続きをスムーズにおこなうために有効な手段のひとつです。

一方で、遺留分で争いが勃発する可能性もあります。

相続人たちのことを考えて家族信託を利用したのに、それが理由でもめてしまったら元も子もありません。

ここからは、思いがけない紛争を予防するためにできる対策を解説します。

家族でしっかり話し合っておく

1つ目の対策は、事前に家族でしっかり話し合っておくことです。

家族信託では、法律上は相続人の遺留分を侵害する内容での信託契約が可能です。

しかし、法定相続人には被相続人の遺産を取得する権利があります。

法律上問題が無いからといって、ほかの相続人から不満が出ることが明らかな信託契約をおこなうのは、望ましくありません。

本格的な家族信託の手続きに入る前に、家族できちんと話し合いをしておくべきでしょう。

それぞれの意思を把握しておくことで、もめ事を防げるかもしれません。

生前贈与や生命保険も活用して財産を受け継ぐ

2つ目の対策は、生前贈与や生命保険も活用して財産を受け継ぐということです。

遺留分を請求された場合、基本的には侵害額を現金で払うことになるでしょう。

その場合、まとまった現金がなければ信託財産の一部を売却して、資金を捻出することになるかもしれません。

これは、被相続人の本意ではないはずです。

生前贈与や生命保険で受託者・受益者に財産を渡しておけば、万が一その他の相続人から遺留分を請求されても、支払う現金を用意できるでしょう。

全ての財産を家族信託にしない

3つ目の対策は、全ての財産を家族信託にしないことです。

被相続人の財産の全てを家族信託化してしまうと、ほかの相続人たちの遺留分を確実に侵害することになります。

相続人の権利を奪うことになり、争いの元になるでしょう。

一部の財産だけを家族信託化しておけば、遺留分請求をされる可能性もなくなるかもしれません。

遺言書で相続人へメッセージを残す

4つ目の対策は、遺言書で相続人へメッセージを残すことです。

遺言書には、被相続人のメッセージを記すことができます。

これを付言事項といいます。

「遺留分の請求をしないでほしい」という内容の付言事項を残せば、相続人たちの心に訴えかけることができるでしょう。

付言事項に法的な効力はありません。

しかし、最期のメッセージとして残すことで、相続人たちも冷静な判断ができるかもしれません。

さいごに|家族信託と遺留分でトラブルになりそうな場合は専門家へ相談

家族信託が遺留分の対象になるかどうかは、裁判所でも判断が難しいものです。

明確な決まりがないからこそ、最初からもめない内容で信託契約をおこないましょう。

家族信託を考えているなら、弁護士など専門家への相談がおすすめです。

専門家に相談すれば、受託者や受益者の手元に遺産がきちんと残る形で信託契約を進めてくれるでしょう。

亡くなったあとのもめ事を、防げるかもしれません。

家族信託は近年注目されている制度ですが、手続きは非常に複雑です。

遺産の適切な管理と相続をおこなうためにも、家族信託や遺留分でトラブルになりそうな場合は専門家へ相談しましょう。

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この記事の監修者
長野国助法律事務所
横澤 康平 (東京弁護士会)
経験年数50年以上の弁護士を始め、中堅、若手の弁護士がバランスよく在籍。円満な解決を目指すべきか、調停・裁判を通して主張するべきかなど、多角的な視点から最適かつ柔軟な解決策を提案している。
ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
編集部

本記事はベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。 ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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