家族の高齢化にともない、認知症などの対策として家族信託の利用を検討している方も多いでしょう。
家族信託は成年後見制度よりも自由度が高く、使い勝手のよい制度ではあるものの、比較的新しい制度だからこそ以下のような不安もあるでしょう。
本記事では、家族信託は本当に危険な制度なのかを解説するとともに、家族信託を利用して後悔してしまうケースや、トラブルの回避方法なども紹介します。
家族信託で発生しやすいトラブルの原因を知り、失敗を避けて上手に活用しましょう。
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家族信託は相続対策として有効ですが、知識不足や準備不足によるトラブル事例などもあるほか、贈与税・所得税・相続税などの思わぬ税金が発生するケースなどもあります。
ここでは、家族信託のメリット・デメリットについて解説します。
家族信託の主なメリットとしては以下のとおりです。
認知症になると、原則として口座凍結されて自由に自己の財産処分ができなくなります。
家族信託では、委託者と受託者の間で契約によって財産の管理・処分に関する取り決めができるため、成年後見制度とは異なり委託者の意思を反映させた財産管理ができます。
自分が元気なうちに信託契約を締結して受託者を指定しておけば、自らの希望どおりの財産管理・処分が可能になり、口座凍結などで困らずに済みます。
子どもがいない夫婦の場合、「自分達の老後の生活を誰に支えてもらうのか」は悩ましい問題です。
このようなケースでは、親しい甥や姪などを受託者として家族信託契約をし、老後の生活を支えてもらうという選択肢が考えられます。
自分達が亡くなったあとの受益者を甥や姪にしておけば、気持ちよく引き受けてくれるかもしれません。
相続人ではない孫や親族などに財産を渡したい場合、遺言によって財産を渡す「遺贈」という方法があります。
しかし、遺贈の場合、二次相続の相手を指定することができません。
たとえば「一度妻に相続させて、妻が死亡した場合には長男に財産を承継させる」というような、いわゆる後継ぎ遺贈の遺言は民法上無効です。
家族信託であれば、受益者連続信託という形で受益者を承継させることができます。
なかには「障害のある子どもがおり、自分が亡くなったあとに生活していけるか不安」という方などもいるでしょう。
そのような場合でも、遺言によって自分の財産を信頼できる親族などに信託し、受益者を子どもに設定することで将来の生活を守ることができます。
ほかにも「残されたペットが心配」というようなケースでも、信託財産にペットを加えて、信頼できる親族などに飼育費用に相当する財産を信託することもできます。
家族信託のデメリットとしては以下のとおりです。
家族信託をおこなう場合、どのような内容にするのか十分に話し合ったのち、合意内容について信託契約書を作成するなどの手続きが必要です。
信託財産に現金や預金が含まれる場合は、管理するための専用口座を開設するなどの対応もしなければいけません。
このように、家族信託では時間や手間がかかってしまうというのがデメリットとしてあります。
家族信託についてスムーズに話し合いなどが進めばよいですが、なかには主張がぶつかって手続きが難航したり、家族間で深刻な対立が生まれたりする場合もあります。
主なトラブルについては「家族信託でよくある失敗・トラブル事例7つ」で後述しますが、少しでもトラブルの不安がある場合は弁護士などに相談することをおすすめします。
家族信託は比較的新しい制度であり、なかには危険ではないかと不安になる方もいるでしょう。
しかし、家族信託の制度自体に危険性はなく、「危険だ」「後悔した」などと言われるのは、主に受託者とのトラブルや親族間でのトラブルなどが原因といえます。
ここでは、家族信託がきっかけでトラブルになってしまうケースや、家族信託の利用を後悔してしまうケースなどについて紹介します。
家族信託で「財産の管理や処分を任せる受託者を誰にするのか」を親族間で相談せずに決めたりした場合、受託者以外の親族が不満をもつことがあります。
その理由として、家族信託には将来の遺産相続を見据えた手続きという面もあり、ほかの親族からすれば「将来相続できるはずの財産が減ってしまう」というように思えるからです。
特定の誰かを受託者にした場合にも、同様の問題が生じることがあります。
このように、家族信託をおこなうことで親族間で不公平感や不満感が生じ、将来の相続などについて争いになる恐れがあります。
選ばれた受託者が親族争いに巻き込まれると、受益者のための円滑な財産管理・処分は難しくなるでしょう。
家族間でのトラブルを避けるためにも、家族信託を利用する際は親族間で十分話し合って受託者を決めることが大切です。
家族信託にて受託者を決めることができても、必ずしもその受託者が適正な財産管理・処分をしてくれるとはかぎりません。
受託者一人では負担が大きくて失敗してしまったり、受託者に権限が集中することで家族仲が悪化したりすることもあります。
特に委託者が高齢のケースでは、やがて判断能力の低下・喪失が予想されます。
その場合、財産の管理処分が適正におこなわれているかを委託者自身で定期的に確認するのは難しくなるでしょう。
受託者次第で家族信託がうまくいくかどうかは大きく左右されるため、もし不安な場合は「信託監督人」や「受益者代理人」を付けることも検討しましょう。
信託監督人とは、受益者の利益を保護するために、受託者が信託目的に従って適正に業務を遂行しているかを監視・監督する人のことです。
受益者代理人とは、受益者に代わり、権利を行使する立場の人のことです。
家族信託では、委託者が元気なうちに契約するため、財産の管理・処分が長期にわたることが予想されます。
そのため、信託契約の内容が時間を経過するにつれて状況に合わなくなることもあり、資産の内容によっては管理や処分が困難になることもあります。
たとえば「新たな不動産を購入した」というようなケースなどが該当します。
長期の契約になることも見越して、契約内容を変更する際の方法についても定めておきましょう。
家族信託は長期にわたり継続する制度です。
契約内容を変更することはできますが、慎重に取り決めたうえで実行しましょう。
家族信託を検討しているなら、その分野が得意な弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
行政書士でも家族信託契約書の作成代理はできますが、契約内容の相談はできません。
弁護士や司法書士であれば的確なサポートが望めますが、なかには家族信託を取り扱った経験のない事務所などもあるため、選ぶ際は注意が必要です。
専門家選びを誤った場合、自分に合った相談先にたどりつくまでに契約内容の大きな変更を余儀なくされるなど、無駄に費用と時間を費やすリスクがあります。
家族信託では、受益者を子どもや孫に順番に承継させることもできます。
そのような信託契約を「受益者連続型信託」といいます。
受益者連続型信託は、信託法第91条によって以下のように定められています。
第九十一条 受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定め(受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定めを含む。)のある信託は、当該信託がされた時から三十年を経過した時以後に現に存する受益者が当該定めにより受益権を取得した場合であって当該受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでの間、その効力を有する。
引用元:信託法第91条
受益者連続型信託では「最初の信託から30年を経過すると、新たな受益権の承継は1度しか認められない」というルールがあり、これを30年ルールといいます。
したがって、二次や三次の受益者を設定しても、必ずしも最後まで連続するわけではないということに注意が必要です。
家族信託にて金銭の管理をおこなう場合、銀行にて「信託口口座」を開設する必要があります。
ただし、全ての銀行で信託口口座を開設できるわけではなく、普段利用している金融機関では対応していない場合もあります。
家族信託をおこなう際は、各金融機関のホームページなどで対応しているかどうか確認しておきましょう。
家族信託をおこなうと、状況によっては贈与税・所得税・相続税などの税金が発生する可能性があります。
税金ごとに金額の計算方法や課税対象などは異なるため、税金について不安な場合は税理士に相談することをおすすめします。
家族信託契約は、自分で考えて作成することもできます。
しかし、複雑な内容の契約なので、弁護士などの専門家に相談せずに作成すると以下のようなリスクがあります。
遺留分とは、一定の相続人に認められている「遺言でも奪えない遺産の取り分」のことをいいます。
基本的には遺産の半分が遺留分となり、民法で定められた法定相続分の割合に基づいて留保分を考えます。
たとえば「被相続人に配偶者がおらず、相続人が子ども2人だけ」という場合は、それぞれ4分の1ずつ遺留分があります。
信託財産は、形式的には委託者の財産ですが、実体上は受益者の財産とみなされます。
そのため、受益者が死亡すると、信託財産はほかの相続財産と同様に扱われ、遺留分の対象になるとされており、実際そのように判断された裁判例などもあります(平成30年9月12日東京地裁判決 Westlaw Japan 文献番号 2018WLJPCA09128002)。
信託契約を作成する場合には、遺留分にも配慮するなど、将来起こりうる相続トラブルを防ぐための工夫が必要です。
それらの配慮を怠ると、遺留分侵害額請求の火種を作ってしまいます。
家族信託契約では、記載すべき項目が多数あります。
十分な知識がないまま自分で作成すると、抜け漏れが生じて受託者の財産管理・処分に支障をきたす可能性があります。
インターネット上や書籍では家族信託契約のひな型が掲載されているため、「ひな形どおりに作成すれば、自分で簡単に契約書作成できる」と思う方もいるかもしれません。
しかし、実際の家族信託では家族ごとに財産や受託者の状況などが異なるため、一般的なひな型をそのまま利用するだけでは足らない恐れがあります。
信託不動産の管理・運用・処分方法や、費用の支出の取り決めなど、ひな型に載っていなくても記載すべき項目は多数あります。
記載内容の漏れや誤りで受託者の財産管理・処分に支障をきたさないよう、契約書作成の際は弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
家族信託では、本来信託財産を管理すべき受託者が自己の利益を図るために契約したりして、「利益相反行為」として無効になる可能性があります。
たとえば、受託者が信託財産を不当に安い金額で購入して受託者名義にすることや、受託者個人の債務を担保するため信託財産に抵当権を設定することなどは、利益相反行為です。
利益相反行為とみなされると、その行為が無効となったり、取り消されたりする可能性があります。
金銭的価値のある財産であれば、基本的には信託財産の対象となります。
一方、農地・預金債権・年金受給権など、原則として勝手に譲渡できない財産権は信託財産の対象外であり、債務なども信託財産にはできません。
抵当権がついている不動産については、金融機関との協議によって信託財産とすることが可能です。
ただし「ローンの支払いが滞ってしまった」というようなケースでは、抵当権が実行されて信託財産が失われるというリスクもあります。
家族信託では、契約によってさまざまな内容の取り決めができる一方で配慮すべき事柄も多く、親族間のトラブルを生んだり契約そのものが無効になってしまったりするリスクもあります。
ここでは、家族信託のトラブルを回避する方法を紹介します。
家族関係が複雑な場合や資産が多い場合などは、弁護士などの専門家の助言が必要不可欠です。
家族信託は自力でも手続きはできますが、できるだけトラブルを防ぐためにも、法的視点から判断できる専門家に相談することをおすすめします。
特に、家族信託が得意な弁護士や司法書士に依頼すれば、リスクを最小限に抑えることができます。
家族信託を弁護士や司法書士に依頼した場合、一般的な費用の目安は以下のとおりです。
費用は信託財産の内容や依頼先事務所などによっても異なります。
具体的な金額については、依頼を検討している弁護士や司法書士に直接確認しましょう。
家族信託を検討している方にとって、家族は最も身近で頼りになる存在でしょう。
「自分の財産は大事な家族に一任したい」と思うのは自然なことです。
しかし、長期にわたって財産を管理し、場合によっては処分することは思っている以上に大変です。
また、家族関係や資産内容が複雑なほど、利害関係が対立しやすくなります。
委託者や受託者それぞれの状況だけでなく、資産の価値も時間の経過とともに変化します。
家族信託のデメリットやリスクを含めて、家族間でしっかりと話し合うことが大切です。
家族信託契約の資産内容によっては、管理・処分が複雑で受託者の負担が重すぎる場合もあります。
また、利害関係者としては「信託財産が受託者によって適切に管理されているか」を定期的に確認しておきたいところです。
たとえば、賃貸不動産の管理などのように、資産価値が大きくて管理が複雑な場合などは、信託監督人や受益者代理人を設定するのがよいでしょう。
家族信託とあわせて検討される制度として「成年後見制度」があります。
成年後見制度も、本人の財産を管理する制度です。
家族信託と大きく異なる点は「成年後見人以外は、たとえ家族でも財産の管理処分ができなくなる」ということです。
また、成年後見人は本人に代わって法律行為をおこなえるという点も特徴です。
成年後見制度では身上監護権などもあり、もし本人が判断能力の低下によって悪徳業者と契約してしまった場合などでも、取消権を行使して契約を取り消すことができます。
家族信託では、委託者と受託者の間で財産に関する取り決めができ、成年後見制度などと比べても自由度の高い制度といえます。
一方、家族信託では長期の財産管理が想定され、その間に受託者や管理財産の状況が変化する恐れがあることも留意しておくべきでしょう。
家族信託の公平性や透明性を保ち、委託者の希望に沿った財産管理を実現するためにも、まずは家族信託が得意な弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士であれば、依頼者にとって最適な手段をアドバイスしてくれるだけでなく手続きもサポートしてくれて、不備なくスムーズな家族信託が望めます。
当サイト「ベンナビ相続」では、家族信託について解決実績のある全国の弁護士を掲載しており、初回面談料0円の事務所も多くあるので一度相談してみましょう。
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