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相続人に認知症の人がいる場合はどうする?家族にできる対応策とは

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親族が亡くなり遺産相続が発生したものの、相続人の中に認知症を患っている方がいることで、思うようにコミュニケーションが取れないことや、遺産分割がスムーズに進まないことに悩んでいる方もいるのではないでしょうか。

相続人に認知症の方がいる場合、その症状によっては遺産分割協議をおこなえないことがあるので注意が必要な状況といえます。

本記事では、相続人に認知症の方がいる場合の遺産相続の進め方について解説します。

認知症の相続人がいるケースにおける注意点や、対策方法についても解説しているので、ぜひ参考にしてください。

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目次

認知症の相続人がいるとどうなる?まず確認すべきことと3つの問題点

相続人に認知症の人がいると、通常どおりの遺産相続がおこなえないケースがあります。

以下では、認知症の相続人がいる場合にまず確認すべきことと、それにともない発生する3つの問題点を紹介します。

【まず確認すべきこと】認知症でも意思能力があるとみなされれば問題はない

相続人に認知症の方がいると、遺産分割協議ができないなどさまざまな問題点が生じることがあります。

しかし、これらの問題点が発生するのは、認知症を患っているからではなく、認知症によって意思能力を有していなかった場合です。

意思能力を有さない場合に法律行為をおこなったケースでは、無効となることが民法第3条の2によって取り決められています。

第三条の二

法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

引用:民法|e-Gov法令検索

そのため、相続人に認知症の方がいる場合、まずはその相続人が意思能力を有しているかどうかを確認するようにしましょう。

もし、意思能力を有しているといえる状態であれば、認知症の診断を受けていても問題なく遺産分割を進めることが可能です。

【問題点①】遺産分割協議ができない

認知症の方が相続人にいる場合の大きな問題点は、遺産分割協議をおこなうことができない点です。

遺産分割協議は、相続人間で遺産の分け方を話し合う手続きのことを指します。

ただし、遺産分割協議をおこなうためには相続人全員が参加することが必要です。

もし認知症の相続人がいて、相続の方針について意思表示をできない、つまり意思能力を有していないといえる状態である場合、遺産分割協議は無効となる可能性があります。

【問題点②】認知症の相続人は相続放棄ができない

認知症の相続人が意思能力を有していないと判断された場合、おこなった法律行為が無効となってしまいますが、その中には相続放棄の手続きも含まれます。

ほかの相続人が代わりに手続きをおこなう、といった方法も用いることができないため注意してください。

【問題点➂】ほかの相続人も含め限定承認ができなくなる

遺産相続の手続きには、相続することでプラスになる財産の範囲内でマイナスの財産も相続する限定承認と呼ばれるものがあります。

当然、限定承認も法律行為に該当するため、意思能力を有していない相続人は手続きをおこなうことができません。

また、限定承認をおこなう場合、相続人全員が共同しておこなう必要があります。

そのため、相続人に意思能力を有していない方が含まれるケースでは、ほかの相続人も限定承認をおこなうことはできません

認知症の相続人がいる場合の2つの対処法

相続人が認知症によって意思能力を有していない場合、遺産分割協議がおこなえないなど、遺産相続に大きな影響を与えます。

しかし、遺産相続そのものがおこなえなくなるわけではありません。

以下では、認知症の相続人がいる場合の遺産相続について2つの対処法を紹介します。

1.法定相続分どおりに分割する

認知症の相続人がいると、遺産分割協議をおこなうことはできません。

ただし、遺産の相続自体はおこなうことができ、法定相続分どおりの遺産分割となります。

法定相続分とは、民法によって定められた相続人ごとの遺産相続の割合です。

法定相続分の割合は、相続人と被相続人の続柄によって以下のように定められます。

 

法定相続分

相続人の組み合わせ

配偶者

子ども

父母

兄弟姉妹

配偶者と子ども

2分の1

2分の1

-

-

配偶者と父母

3分の2

-

3分の1

-

配偶者と兄弟姉妹

4分の3

-

-

4分の1

2.成年後見制度を利用して遺産分割協議をおこなう

法定相続分による相続で遺産相続の方針がまとまらない場合など、認知症の相続人がいたとしても遺産分割協議をおこなう必要があるケースがあります。

このような場合においては、成年後見制度を利用し、認知症の相続人に後見人をつけることで遺産分割協議を実施しましょう。

成年後見制度とは、判断能力が低下してしまった人に対して、法律行為へのサポートをおこなう人を後見人として選任する制度のことです。

後見人がいることで意思能力を有していない人でも法律行為をおこなえるようになり、遺産分割協議についても実施できるようになります。

そのため、認知症の相続人がいる場合において遺産分割協議をおこないたいなら、相続人に後見人を選任する手続きを進めましょう

法定相続分での遺産分割をするデメリット

相続人が認知症だとしても、法定相続分における遺産分割をおこなうことは可能です。

しかし、法定相続分で遺産分割することにはいくつかのデメリットが存在します。

1.不動産を共有せざるをえない

法定相続分で不動産を相続する場合、法定相続分の割合を踏まえたうえで共有した状態で相続することになります。

不動産を共有した形で相続するデメリットは、売却や賃貸などをおこなう際に共有している相続人全員の合意が必要になる点にあります。

売却や賃貸などに不動産を動かすことは、契約を含む法律行為となるため、意思能力を有していない認知症の相続人はおこなえません。

そのため、不動産を法定相続分によって相続したとしても、不動産を動かす際に結局は後見人をつける必要があります。

2.預金の相続手続きがストップしてしまう可能性がある

被相続人の預金を相続する際には、銀行での手続きが必要となります。

ただし、法定相続分による相続によって相続する財産が明確になっていたとしても、相続人単独で手続きをおこなうことは基本的にできません

法定相続分による相続をおこなうケースにおいても、相続人による合意を示せる書類が必要となることがあります。

ただし、相続人に認知症の方がいる場合はその合意をうまく得られない可能性があるでしょう。

「預金の仮払制度」により、各相続人が預金の一部を事前に引き出すことは可能

被相続人の預金を引き出すことができるのは、原則として遺産分割が終了してからとなります。

しかし、遺産分割が終了する前にも、当面の生活費や葬儀費用といった観点からお金が必要になることも珍しくありません。

このような背景から、2019年7月より遺産分割前の相続預金における払い戻し制度が定められています。

相続預金の払い戻し制度は、家庭裁判所による判断を受けておこなうものと、家庭裁判所の判断を受けずにおこなうものの2パターンが存在します。

家庭裁判所の判断を受ける場合は家庭裁判所により認められた金額まで払い戻しを受けることが可能です。

家庭裁判所の判断を受けない場合は、「当該銀行にある預貯金額×3分の1×法定相続分」もしくは「150万円」どちらか少ない額までであれば払い戻すことができます。

3.相続税を軽減する特例を利用できない

遺産分割協議をおこなうことによって、相続税の軽減措置を受けられる制度があります。

たとえば、「小規模宅地等の特例」では、被相続人の所有していた宅地などに対して、一定の要件を満たしていれば最大80%も評価額を下げることができ、相続税の負担を軽減することが可能です。

ただし、遺産分割協議がまとまらない場合は利用できません。

なお、小規模宅地等の特例を利用したいものの、申告期限までに遺産分割協議が間に合わない場合は「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付することで、実質的に分割協議の完了まで3年間の猶予が与えられることになります。

申告期限後3年以内の分割見込書は、遺産分割が相続税の申告期限までに間に合わない際に、その後3年以内に遺産分割ができる見込みであることを申告できる書類です。

小規模宅地等の特例以外にも、以下に挙げた特例を受けたい場合に活用できます。

  • 配偶者の税額軽減
  • 特定計画山林の課税価格の計算の特例
  • 特定事業用資産についての相続税の課税価格の計算の特例

相続が開始してから認知症の相続人に後見人をつける場合、選任までに時間がかかるので申告期限後3年以内の分割見込書の活用を検討しておきましょう。

法定相続分どおりの相続が選ばれるケース

以下のような状況であれば、法定相続分で相続してしまい、手続きの手間を軽減させることもひとつの選択肢といえます。

  • 相続財産に不動産が含まれない
  • 認知症を患っている相続人の年齢から、次の相続が近く発生する可能性がある

また、上記で紹介した法定相続分での相続によるデメリットが気にならないようであれば、法定相続分で相続しても問題ありません。

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成年後見制度を利用して遺産分割をするデメリット

法定相続分で相続することにはデメリットがありますが、成年後見制度を利用する場合でもデメリットといえるものがあります。

1.後見人が選任されるまでに時間がかかる

成年後見制度を利用する場合、後見人の選任までに時間がかかることを覚えておきましょう。

実際に後見人が選任されるまでには、一般的には1~2ヵ月程度、長いと3ヵ月以上かかることもあります。

相続税の申告期限は、相続の開始を知ったタイミングから10ヵ月以内と定められているため、なるべく早く制度の利用を申し立てる必要があるといえるでしょう。

2.一度制度を利用すると被後見人が亡くなるまで続く

成年後見制度の利用は相続の際に限らず、一度利用すると被後見人が亡くなるまで続くことになります。

後見人は選任後、契約行為をはじめとした法律行為や日常生活における財産管理などにおいて代理権をもつことになるため、被後見人や家族が財産を自由に使えなくなってしまうことを認識しておきましょう。

3.後見人へ報酬を支払い続けねばならない

後見人を選任した場合、後見人への報酬が発生します。

後見人への報酬は管理する財産の種類や金額によっても異なりますが、毎月2万円~6万円程度となることが一般的です。

4.親族が後見人になれる可能性は低い

成年後見人になるために、特別な資格や要件は存在しません。

そのため一般的には親族はもちろんのこと、弁護士・司法書士などの法的な知識をもつ人などが後見人として選任されます。

ただし、後見人に親族が選任されるのはそのうち20%ほどです。

また、親族が後見人になった場合、その親族が相続人であれば、遺産相続においては別途特別代理人の選任手続きが必要となります。

特別代理人を別途選任することは、被後見人の代理人として相続に対して適切な判断をおこなえるようにすることにつながります。

5.遺産分割協議において融通が効きにくい

後見人には弁護士や司法書士などの法律の専門家が選任されることが多く、相続人が出した要望が被後見人のためになるかどうかを適切に判断されます。

そのため、遺産分割協議において融通がきかず、希望が通らない可能性があることを覚えておきましょう。

成年後見制度が選ばれるケース

以下のようなケースについても、成年後見制度を利用することをおすすめします。

相続の発生に備えて、早めに制度の利用を検討しておくのも選択肢にあがるでしょう。

  • 預貯金の管理
  • 身上監護
  • 介護保険の契約(介護施設への入居とあわせて)
  • 所有不動産の売却

認知症の相続人がいる場合に知っておきたい注意点

相続人に認知症の方がいる場合は、以下のポイントにも注意しましょう。

1.法律書類の代筆はNG

認知症の相続人に代わって、遺産分割協議書への署名をはじめとする法律書類へ代筆をおこなうことは許されません。

代筆が明らかになってしまった場合、遺産分割協議が無効になるほか、私文書偽造罪に問われる可能性もあります(刑法第159条)。

2.相続税の申告期限に注意しながら進める

認知症の相続人がいる場合、成年後見制度の利用を検討するなど一般的な場合より手続きに時間がかかることが考えられます。

相続税の申告期限は、遺産相続の開始を知った日の翌日から10ヵ月以内と定められています。

申告期限に注意しながら、余裕をもって申告できるように手続きを進めるようにしましょう。

3.相続後のことも考えておく

認知症の相続人がいることを理由に、遺産分割協議をおこなわず法定相続分での相続をおこなうことは選択肢にあがります

しかし、認知症で意思能力を有していない方は、遺産相続以外に日常生活のなかでもさまざまなリスクを抱えていることが想定できます。

現状を踏まえたうえで、必要に応じて成年後見制度の利用を検討するなど、相続後の生活も意識した対応をおこないましょう。

認知症の相続人がいても困らないようにするための対策

認知症の相続人がいる場合、成年後見制度の利用は解決策として挙げられるひとつの手段ですが、手続きに時間がかかるのがネックです。

そのため、相続が発生する前段階からできる対策をおこなっておくのも選択肢といえます。

1.遺言書を作っておく

被相続人が遺言書をあらかじめ作っておくことは相続の際の対策として挙げられます。

被相続人による遺言書が存在し、相続人がその内容に納得している場合、遺産分割協議をおこなう必要ありません。

また、認知症の相続人がいたとしても遺言書の内容に沿った方針で遺産分割をおこなえます。

そのため、法定相続分による遺産分割だと後々の手続きが手間になる不動産を含む相続についても、比較的スムーズにおこなえるでしょう。

なお、遺言書には複数の作成方法が存在するほか、相続人それぞれに法律で定められた最低限の相続財産である遺留分の加味がされていなかった場合は、ほかのトラブルが生じてしまう可能性があります。

もし、遺言書を作成するのであれば専門家である弁護士に相談することも検討してください。

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2.家族信託を利用する

家族信託は財産を信頼できる家族に託し、管理・運用をおこなってもらう制度です。

成年後見制度は財産を保護することを目的とした制度になるため積極的な資産運用をおこなうことはできませんが、家族信託は運用が目的に含まれていることから、積極的に資産運用をおこなったり相続対策をしていったりすることが可能です。

あらかじめ手続きをおこなっていくことで、相続が発生した際にも引き続き財産の管理・運用をおこなえます。

3.任意後見制度を利用する

任意後見制度は、ご自身が元気なうちに財産管理や身上監護に関する後見人を定めておき、意思能力が不十分となってしまったタイミングで、後見人が財産管理・身上監護を開始する手続きです。

あらかじめ手続きをしておくことで相続が発生した際に認知症を患っていたとしても、余裕をもって相続手続きを進めることが可能です。

ただし、成年後見制度と同様に、親族が後見人となった場合に別途特別代理人を立てる必要があることや、後見人へ報酬が発生する点などに注意しなくてはいけません。

4.生命保険へ加入しておく

生前に生命保険に加入しておき、保険金の受取人をあらかじめ定めておくこともおすすめです。

受取人に支払われた保険金は受取人固有の財産であり、遺産相続の対象にはなりません

また、被相続人が亡くなってから比較的すぐに保険金が支払われるため、入院費の支払いや葬儀費用に充てることも検討できます。

5.生前贈与をしておく

被相続人の生前に生前贈与をおこなっておくことも選択肢にあがります。

生前贈与は贈与する対象を選べるため、認知症を患っている相続人を無視して贈与することが可能です。

ただし、ケースによっては贈与税がかかってしまうケースや反対に控除や特例を利用できる場合もあるので、相続問題に注力している弁護士に相談することをおすすめします。

さいごに|認知症の相続人がいる場合の対処法は弁護士に相談

認知症の相続人がいる場合、症状の程度にもよりますが遺産分割協議がおこなえないなど、遺産分割においてさまざまな影響があります。

ただし、成年後見制度を利用することで遺産分割協議をおこない、遺産分割をしっかりとおこなうことも可能です。

このように相続人が認知症を患っていると遺産相続が複雑化することが考えられます。

遺産相続で悩んでしまう場合は、専門家である弁護士に相談することを検討してください。

弁護士への相談をおこなうことでスムーズかつ確実な遺産相続が可能になるでしょう。

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この記事の監修者
葛城法律事務所
葛城 繁 (大阪弁護士会)
相続問題を中心に分野を問わず幅広い法律問題に対応。
『ご依頼者の利益が最大限になるためのサポート』となることを心掛け、的確なアドバイスを伝えられるよう客観的視点を忘れず、日々、業務と向き合っている。
ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
編集部

本記事はベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。 ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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