相続を受けることになり、相続税の申告が必要な状況になったものの、自分で手続きをおこなえるものなのか気になって調べてみたという方も多いのではないでしょうか。
相続税の申告は複雑だと聞いており、自分ではできないのではないかと考えているケースも少なくありません。
しかしながら、専門家に依頼する際の費用を抑えるためにも、できる限り自分で手続きをおこないたいと考えるのは当然です。
ただ、実際本当に自分で申告をおこなえるのか、どのような場合に専門家に依頼すればよいのかわからない方もいるでしょう。
本記事では、相続税の申告を自分でおこなうためのステップや注意点などについて解説します。
相続税の申告は、基本的には自分でおこなうことができます。
ただし、相続税の申告は複雑な手続きや税法の知識が必要な場合があるため、専門知識がない場合や相続の状況が複雑な場合は、税理士や税理士法人などの専門家に依頼するのがおすすめです。
なお、以下のようなケースの場合は比較的、簡易的な手続きになる場合が多いので、ご自身による申告も可能です。
自分で相続税申告をおこなうのに向いているケースも存在します。
これらのケースにあてはまらない場合は、書類に不備が発生してしまったり、手間とコストが多くかかってしまったりする可能性があります。
自分で相続税申告をおこなうのに向いているケースは、以下のとおりです。
相続人が1人の場合には、仮に申告内容を間違えたとしても、ほかに相続人がいないため誰にも迷惑をかけることはありません。
しかし、申告内容を間違えると税務署からの指摘や追徴課税の可能性があります。
そのため、相続税の申告は正確におこなう必要があります。
相続税の申告には専門的な知識や経験が必要な場合もありますので、不安や疑問があれば税理士や弁護士などの専門家に相談するのがおすすめです。
遺産額が少ない場合、相続税の負担も軽減されます。
相続手続きにおいて誤りがあっても、追加で納める税金は少ないと考えられますので、安心して進めてよいでしょう。
時間的・体力的に余裕がある場合も、ご自身で相続申告をおこなうのに向いています。
相続税申告は必要書類や手続きも多く、税務署などの窓口にも何度も足を運ばなければならないこともあります。
そのため、平日に一定の時間が取れるのであれば、ご自身による相続申告を検討してもよいでしょう。
自分で相続税申告をおこなうのに向いておらず、税理士などの専門家に手続きを依頼したほうがよい場合もあります。
これらのケースにあてはまる場合は、早い段階で専門家に相談することをおすすめします。
なお、自分で相続税申告をおこなうのに向いていないケースは以下のとおりです。
相続人が複数いる場合には、相続税申告は複雑になります。
自分で手続きをおこなうとミスをする可能性が高く、ほかの相続人にも不利益をもたらすこともあるでしょう。
そのため、そのような場合は専門家である税理士に依頼するのがおすすめです。
また、相続税は一生に数回しか関わることのない税金です。
計算方法も複雑なため、相続税申告が初めてで知識がない場合、相続発生後の10ヵ月はあっという間に過ぎてしまいます。
さらに、相続税の申告には、平日昼間にしか対応できない手続きが多くあります。
たとえば、銀行で残高証明書を取得したり、役所で土地の評価を確認したり、税務署で申告書の作成について相談したりする必要もあるでしょう。
これらの機関は平日夜間や土日は休業しているため、自分で申告書を作成する場合は、平日昼間に時間を割かなければなりません。
相続税の申告は、相続した遺産の総額が基礎控除と呼ばれる相続税の非課税枠を超える場合におこなう必要があります。
相続した遺産の総額が基礎控除以下であれば、相続税申告は不要です。
なお、相続税申告は、相続開始の日の翌日から10ヵ月以内に、税務署に提出する必要があります。
万が一、ご自身による相続申告の必要性判断が難しい場合は、以下の「相続税の申告要否判定コーナー」もおすすめです。
こちらであれば、法定相続人の数や相続財産を入力するだけで簡単に判定できます。
相続税の申告は自分でおこなうことが可能ですが、いくつかのステップに分けて手続きをおこなう必要があります。
必要書類の準備や調査など、さまざまな作業が発生するため、漏れがないようにおこないましょう。
相続税の申告を自分でおこなうためのステップは、以下のとおりです。
相続税の申告をする前にまず、被相続人の遺言書の有無を確認しましょう。
なお、自宅で保管してある遺言書は勝手に開封してはならず、家庭裁判所で検認する必要があるので、注意しましょう。
また、相続税の申告書にはいくつかの書式があり、遺言書や相続財産の内容によって必要な書式が異なります。
相続税の計算方法や申告書の記載内容も異なる可能性があるため注意が必要です。
遺言書の詳細については、こちらの記事も参考にしてください。
遺言書の内容を確認したら、相続人を調査・確定していきます。
相続はほとんどの場合、身内の間で決めることが多いでしょう。
しかし、遺産の名義変更をするときなどに関しては、銀行や法務局、証券会社などが相続関係を確認するために、戸籍の提出を求めます。
これは、家族関係について他人には明確にわからないためです。
戸籍をはじめ多くのの書類を用意するのは面倒かもしれませんが、相続関係を客観的に証明するためにも大切なことになります。
なお、相続人の調査については、こちらの記事も参考にしてください。
相続人を調査・確定したら、相続財産の調査・確定に移行します。
相続財産の有無を確認し、内容を調査していきます。
相続財産には土地や預貯金などのプラスの財産と、借金やローンなどのマイナスの財産が存在するため、どちらも把握しておかなければなりません。
また、相続財産には金融資産や不動産、株式など、さまざまな形態のものが含まれます。
相続財産の価値を算定する際には、財産評価基本通達に基づいて相続税評価額を算定することが多いです。
相続税評価額とは、相続税を計算するために必要となる財産の評価額のことで、不動産の場合は、路線価や固定資産税評価額などを参考にして算出されます。
たとえば、不動産を相続する場合、その不動産の路線価や固定資産税評価額などを参考にして、基本通達に基づいて相続税評価額を求めます。
このようにして、相続財産の価値を客観的に評価することができます。
なお、相続財産の調査については、こちらの記事も参考にしてください。
プラスの相続財産には、貯金や土地、投資信託や貴金属などさまざまなものが含まれます。
これらの財産状況を全て把握しなければ、相続税の正確な申告ができないため慎重に調査する必要があるでしょう。
相続財産はプラスの財産だけではありません。
住宅ローンを組んでいる場合や借金をしている場合など、さまざまなマイナス財産が発生していることも考えられます。
相続税を申告するうえでマイナスの財産も重要になるため、必ず把握しておくようにしましょう。
ここまでの調査や確認が済んだら、遺産分割協議をおこないます。
遺産分割協議とは、相続人が相続財産の分配について話し合い、合意することです。
相続人のあいだで合意が成立したら、遺産分割協議書を作成して署名捺印します。
遺言書がある場合は、遺言書の内容に従って相続財産を分けるため、遺産分割協議は必要ありません。
なお、遺産分割協議についてはこちらの記事も参考にしてください。
ここまで完了したら、いよいよ実際に相続税の申告書を作成していきます。
相続税の申告書を作成する際には、相続税の計算が必要になります。
そもそも相続税とは、相続した財産に対して課される税金のことです。
相続した財産の価値から、非課税の部分や債務、葬儀代などを引いた金額が課税対象となります。
しかし、相続税には一定の金額までは非課税となる基礎控除が設けられています。
基礎控除を超える相続財産がある場合には相続税が発生し、基礎控除以下の場合には相続税は免除されます。
なお、相続財産に関わる基礎控除金額の計算方法は、以下のとおりです。
相続税の計算方法については、こちらの資料も参考にしてください。
申告書は、これまで確認・調査してきた相続財産状況や被相続人の債務状況などを基に作成していきます。
詳細な計算書や明細書が必要になるケースもあるため、状況に応じて用意するようにしましょう。
なお、申告書の作成方法については、こちらの資料も参考にしてください。
相続財産の内容にもよりますが、状況に応じてさまざまな書類が必要になることがあります。
申告時の必要書類は、以下のとおりです。
なお、申告時の必要書類については、こちらの資料も参考にしてください。
申告書の作成が完了したら、税務署に提出して相続税を納付します。
なお、相続税の納付は金融機関でもおこなうことが可能です。
相続税の申告書が完成してしまえば、あとは税務署に提出して相続税を納付するだけなのですが、いくつか注意点もあります。
申告を自分でおこなう場合、手続き内容や提出スケジュールなど全てご自身で管理しなければなりません。
なお、相続税の申告を自分でおこなう際の注意点は、以下のとおりです。
相続税の申告および納税は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヵ月以内におこなわなければなりません。
この期間を過ぎてしまうと、無申告加算税や延滞税などが、ペナルティとして科せられる可能性があります。
葬儀や遺産分割などの手続きに時間がかかることもありますが、それらを理由に申告を延期することは難しいでしょう。
そのため、相続人が複数いる場合は早急に申告を済ませ、迅速に対応するのがおすすめです。
相続税においては、民法と税法で相続財産の範囲が異なります。
相続税法では相続財産の課税範囲について、以下のように定められています。
(相続税の課税財産の範囲)
第二条
2 第一条の三第一項第三号又は第四号の規定に該当する者については、その者が相続又は遺贈により取得した財産でこの法律の施行地にあるものに対し、相続税を課する。
引用元:相続税法|e-Gov法令検索
条文に記載されている「第一条の三第一項第三号又は第四号の規定に該当する者」とは、無制限納税義務者(居住・非居住)のことで、日本国内に居住する人や国内に居住していなくても一定の要件を満たす人が当てはまります。
相続税法に記載のあるとおり、相続税では全ての相続財産が課税対象となります。
しかしながら、相続財産でない場合であっても相続税がかかるケースもあるため注意が必要です。
なお、取り扱いに注意が必要な相続財産は、以下のとおりです。
相続税の計算方法は複雑で、相続財産の評価や納税方法にも注意が必要です。
しかし、相続税にはさまざまな特例や税額控除があり、適切に活用すれば相続税の負担を軽減することができます。
たとえば、配偶者が相続によって取得した遺産額が一定の金額より少ない場合に、相続税がかからない配偶者の税額軽減や、相続人が相続した住宅を自己の居住用として使用する場合に、その住宅の評価額を一定割合で減額できる小規模宅地等の特例などです。
これらの特例や税額控除を適用することで、相続税がゼロになるケースもあります。
ただ、これらの特例や税額控除を受けて相続税がゼロになったとしても、相続税申告はしなければならないため注意が必要です。
相続税の申告などの税金の手続きで間違いがあった場合、ペナルティとして以下のような付帯税が課せられる可能性があるため注意が必要です。
相続税の申告を自分でおこなう場合、記載漏れなど意図的な無申告状況でなくても税務調査の対応が必要になるケースがあります。
また、申告金額が過少であると判断された場合や、申告義務があるにもかかわらず意図的に無申告である場合は、実地調査がおこなわれるでしょう。
なお、相続税に関する実地調査件数は、以下のとおりです。
|
令和元年 |
令和2年度 |
令和3年度 |
実地調査件数 |
10,635件 |
5,106件 |
6,317件 |
令和元年には1万件を超えていた調査数は、令和2年は新型の感染症の影響もあり、かなり少なくなっています。
しかし、令和3年には徐々に調査件数は増加傾向にあり、今後は新型感染症流行前の調査件数にまで、調査数が増加する可能性も考えられるでしょう。
相続税申告は自分でおこなうこともできますが、専門家に依頼することでよりスムーズにミスなく申告を進めることができます。
税理士に依頼することで、適切な申告書の作成や節税対策の提案など、相続税に関するさまざまな手続きを一任できます。
また、税理士は相続人や遺産分割協議書の作成もおこなえるため、相続にともなうトラブルや紛争も未然に防ぐことができます。
さらに、税理士は相続税の申告や納付に関する手続きを代行してもらえるため、相続人は時間や労力を節約できるでしょう。
弁護士は、相続税の計算方法や節税対策の専門知識があるため、相続人の負担を軽減することができます。
また、弁護士は、相続財産の分割や遺産分割協議書の作成など、相続に関する法律問題を解決することも可能です。
相続トラブルが発生した場合でも、弁護士に対応を任せられるため安心でしょう。
相続税申告は、期限や手続きが厳格に定められており、ミスや遅延があると重い罰則が課せられる可能性があります。
相続税申告を弁護士に依頼することで、漏れなく確実に相続申告を進められます。
相続税申告は自分でおこなうことはできますが、比較的簡単におこなえるケースと自分でおこなうには難しいケースがあります。
相続税申告はおこなわなければならない作業も多く、申告漏れなどをしてしまうとペナルティを課せられる可能性もあります。
しかしながら、必要書類等を自己判断で用意し、全ての手続きを自分だけで進めるのは難しい場合もあります。
そのため、相続申告を自分でできるかよく検討したうえで、少しでも不安があると判断した場合は、早い段階で税理士や弁護士などの専門家に相談するのがおすすめです。
費用はかかりますが、相続税申告の作業を一任でき、トラブル対応も全ておこなってくれます。
手間や時間をかけることなく、ミスのない申告ができるため、ペナルティの心配もありません。
相続税申告の状況について慎重に判断して、確実な申告ができるよう検討しましょう。
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