相続によって遺産を引き継いだ場合、相続人は「相続税」の申告・納付が必要になる可能性があります。
そのため、原則として、「所得税」の問題である確定申告は不要です。
ただし、取得した遺産を売却したり、収益物件を相続して賃料などを得たりした場合には、相続人自身が確定申告を求められる可能性もあります。
期限内に適切な形で手続きを履践しなければ、延滞税・加算税などのペナルティを強いられかねません。
そこで今回は、相続後の確定申告について不安を抱いている方のために、以下の事項について分かりやすく解説します。
相続に関連して、必要になる可能性がある税金申告手続きは以下3つです。
相続した遺産が基礎控除額を超える場合は、相続税申告が必要です。
相続税の基礎控除額は、「3,000万円+(600万円×法定相続人)」という計算式で算出されます。
たとえば法定相続人が母親+子ども2人であれば、相続税の基礎控除額は以下のとおりです。
この場合、相続遺産が4,800万円を超えた場合に相続税申告が必要となります。
相続税の申告期限は、「被相続人が死亡したことを知った日(通常、被相続人の死亡日)の翌日から10ヵ月以内」と定められています。
期限日が土日祝日に当たるときには、これらの日の翌日が申告期限と扱われます。
相続税の申告書の提出先は、「被相続人の住所地を所轄する税務署」です。「財産を取得した相続人の住所地を所轄する税務署」ではないのでご注意ください。
準確定申告とは、「死亡した人の生前の所得に対する確定申告」のことです。
そもそも、所得税は、毎年1月1日~12月31日までの1年間に生じた所得に対して課される税金です。
自分で所得金額に対する税額を算出したうえで、翌年2月16日~3月15日までの間に申告・納税をする必要があります。
しかし、死亡した本人は自分で申告・納付することはできません。
そのため、被相続人に代わって、相続人が1月1日~死亡した日までに確定した所得金額及び所得税額を計算したうえで、「相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内」に申告・納付をしなければいけないとされています。
準確定申告書の提出先は、「被相続人の死亡当時の納税地の税務署長」です。相続人が2人以上いる場合には、各相続人が連署によって準確定申告手続きをしなければいけません。
なお、以下のケースに該当する場合には、基本的に準確定申告手続きは不要です。
ただし、これらに該当するとしても、準確定申告が必要になったり準確定申告をすることで還付金を受けられたりする可能性があります。
ここにあげた以外にも準確定申告が必要だったり、準確定申告をして還付金が受け取れたりするケースがあります。不安であれば、税理士に相談するとよいでしょう。
確定申告とは、「毎年1月1日~12月31日までの1年間に生じた所得の金額と、それに対する所得税などの額を計算して確定させる手続き」のことです。
源泉徴収された税金や予定納税額などがある場合には、確定申告手続きを経ることによって過不足額が精算されます。
相続によって財産を取得したケースは「相続税」の課税対象です。そのため、原則として、相続をした件についての相続人の確定申告は不要です。
ただし、相続した財産の種類や相続後の財産の取扱い次第では、確定申告を要する場合があり得ます。相続について確定申告が必要になるケースについては、次項で解説します。
相続によって財産を承継したときは、原則として所得税の確定申告は必要ありません。
所得税は給与や事業所得年金などにかかる税金であり、相続財産は所得税の対象外だからです。
しかし、相続をきっかけにして以下にあげる所得が発生した際は確定申告が必要となります。
確定申告をしないままだと、後日税務調査によって所得税の申告漏れが発覚し、延滞税などのペナルティを課されるリスクに晒されるのでご注意ください。
譲渡所得とは、「土地、建物、株式、ゴルフ会員権などの資産を譲渡したときに生じる所得」のことです。
相続によって取得したこれらの財産を売却したときには、譲渡所得についての確定申告が必要になります(事業用の商品などの棚卸資産や山林などを譲渡した場合には、譲渡所得として扱われません)。
計算式 |
課税譲渡所得金額 = 収入金額 -(取得費 + 譲渡費用)- 特別控除額 |
---|---|
費用例(土地や建物を譲渡したとき) |
・取得費(設備費、改良費、リフォーム代金など。ただし、遺産分割の訴訟費用などは含まれない) ・譲渡費用(土地や建物を売るときに発生した仲介手数料、売主負担の印紙税、土地を売るときにその上の建物を取り壊したときの取り壊し費用及び建物の損失額など) |
特別控除額(土地や建物を譲渡したとき) |
・収用等により土地建物を売ったときの特例(5,000万円) ・マイホームを売ったときの特例(3,000万円) ・被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(3,000万円) ・特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合の特例(2,000万円) ・特定住宅地造成事業等のために土地等を譲渡した場合の特例(1,500万円) ・平成21年及び平成22年に取得した土地等を譲渡したときの特別控除(1,000万円) ・農地保有の合理化等のために農地等を譲渡した場合(800万円) ・低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除(100万円) |
税率(土地や建物を譲渡したとき) |
・5年超の長期譲渡所得:20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%) ・5年以下の短期譲渡所得:39.63%(所得税30%、復興特別所得税0.63%、住民税9%) |
一時所得とは、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の所得であって、労務・役務の対価としての性質や資産の譲渡による対価としての性質を有しない一時的な所得」のことです。
一般的な一時所得の例としては、懸賞や福引の賞金品、競馬や競輪の払戻金、法人から贈与された金品、遺失物拾得者や埋蔵物発見者の受ける報労金などが挙げられます。
【相続に関係する一時所得の例】
計算式 |
一時所得の金額 = 総収入金額 - 収入を得るために支出した金額 - 特別控除額 |
---|---|
費用例 |
一時所得を受ける行為をするためや、一時所得を生じた原因に伴って直接要した金額 |
特別控除額 |
最高50万円 |
税率 |
一時所得金額の1/2相当金額を給与所得などのほかの所得額と合計して総所得金額を算出した後、所定の所得税率を乗ずる |
不動産所得とは、「土地や建物などの不動産の貸付け、借地権などの不動産の上に存在する権利の設定及び貸付け、船舶や航空機の貸付けによって得られた所得」のことです。
収益を生み出す遺産を相続した場合、「1月1日~相続が発生した日までに生じた収入」については被相続人の収入として準確定申告の対象になります。
その一方で、「相続が発生した日以降の収入」については、その遺産を相続した相続人の収入として確定申告義務が生じます。
計算式 |
不動産所得の金額 = 総収入金額 - 必要経費 |
---|---|
総収入金額例 |
・家賃、賃料 ・承諾料、名義書換料、更新料、頭金などの名目で受領する金銭 ・敷金、保証金、礼金など、返還を要しないもの ・共益費などの名目で受け取る電気代、水道代、掃除代、施設管理費など |
費用例 |
・固定資産税 ・損害保険料 ・減価償却費 ・修繕費など |
税率 |
不動産所得の金額に給与所得などのほかの所得額と合計して総所得金額を算出した後、所定の所得税率を乗ずる |
事業所得とは、「農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人のその事業から生じる所得」のことです。
不動産の貸付けや山林の譲渡による所得は、原則として不動産所得や山林所得に分類されます。
計算式 |
事業所得の金額 = 総収入金額 - 必要経費 |
---|---|
総収入金額例 |
・事業から生じる売上金額 ・金銭以外の物や権利その他の経済的利益の価額 ・商品を自家用に消費した場合や贈与した場合のその商品の価額 ・商品などの棚卸資産について損失を受けたことにより支払いを受ける保険金や損害賠償金など ・空箱や作業くずなどの売却代金 ・仕入割引やリベート収入など |
費用例 |
・売上原価 ・給与、賃金 ・地代、家賃 ・減価償却費など |
税率 |
課税対象の事業所得金額ごとの税率を乗ずる(5%~45%) |
相続人自身が確定申告を実施するときの流れについて解説します。
まずは、ご自身が確定申告をする必要があるのかについて確認します。
繰り返しになりますが、相続によって財産を承継することで必ずしも確定申告が必要となるわけではありません。
死亡保険金を受け取ったり相続した不動産を売却したりすることで、所得が発生し確定申告が必要となる可能性があるのです。
相続の有無に関わらず、確定申告が必要なケースは以下4つのパターンです。ご自身が各要件を満たすかをご判断ください。
区分 |
内容 |
---|---|
①給与所得がある場合 |
・給与の収入金額が2,000万円を超えている ・給与を1ヵ所から受けている、かつ、その給与の全部が源泉徴収の対象になる場合において、各種所得金額(給与所得を除く)の合計額が20万円を超えている ・給与を2ヵ所以上から受けている、かつ、その給与の全部が源泉徴収の対象になる場合において、年末調整をされなかった給与の収入金額と、各種所得金額との合計額が20万円を超えている ・同族会社の役員やその親族などで、その同族会社からの給与以外に、貸付金の利子、店舗・向上などの賃貸料、機械・器具の使用料などの支払いを受けている ・給与について、災害減免法により所得税などの源泉徴収税額の徴収猶予や還付を受けている ・在日の外国公館に勤務する方や家事使用人の方などで、給与の支払いを受ける際に所得税などを源泉徴収されないことになっている |
②公的年金などの雑所得のみの場合 |
公的年金などの雑所得の金額から所得控除を差し引いても残額がある |
③退職所得がある場合 |
外国企業から受け取った退職金など、源泉徴収されないものを受け取っている |
④①~③以外の場合 |
各種所得の合計額から各種控除を差し引いても残額がある |
相続人自身が確定申告をする必要がある場合、確定申告に向けて必要書類を準備します。
確定申告の際に必要になる書類として、以下のものが挙げられます。
確定申告に必要な書類などの準備が終わったら、実際に確定申告書を作成して提出します。
確定申告書は税務署や国税庁のホームページからダウンロード可能です。
確定申告の期限は、「翌年の2月16日~3月15日」です。期限内に申告・納付手続きを履践しない場合には、延滞税などのペナルティが課されます。
確定申告書の提出方法として、以下3つのやり方が用意されています。
相続によって財産を取得したときに確定申告を要するのか不安なときには、税理士への相談・依頼がおすすめです。
なぜなら、税理士のサポートを受けることによって、以下3つのメリットを得られるからです。
税理士は税務のプロです。
確定申告に必要な書類の種類や、利用できる控除制度についてアドバイスを期待できるので、最大限節税を意識した正確な内容で所得税の申告手続きをおこなえます。
また、万が一後々税務署から調査が入ったとしても、事前に税理士へ相談をしておけば、税務署対応を任せることも可能です。
確定申告を税理士に依頼すれば、申告作業の手間・負担を節約可能です。
たとえば、普段の領収書の整理や記帳から税理士に任せておけば、経理作業に労力を割くことなく本業に集中できるでしょう。
相続によって財産を取得したようなケースでは、遺産分割や相続税の申告・納付手続き、各種控除制度など、さまざまな専門知識を要する場面に遭遇することが多いです。
特に、過大な財産を相続したような事案で相続税の申告・納付手続きを適切におこなわなければ、延滞税・加算税などの罰金の負担まで強いられかねません。
このような事情を踏まえると、相続によって財産を取得したようなケースでは、念のために一度は税理士や弁護士に相談をして、相続税や所得税の申告手続きの見立てについてアドバイスをもらっておいた方が安全だと考えられます。
無料相談の機会を設けている税理士事務所・法律事務所も多いので、出来るだけ早いタイミングで相談ください。
最後に、相続と確定申告についてよく寄せられる質問についてQ&A形式で紹介します。
毎年1月1日~12月31日までの1年間に生じた所得について、翌年2月16日~3月15日までの間に確定申告をおこない、所得税納付を済まさなければいけません。
期限内に確定申告が間に合わなかった場合、加算税・延滞税の負担が上乗せされます。
e-Taxを利用すれば自宅からでも確定申告ができるので、時間に余裕のあるタイミングで申告手続きを終わらせましょう。
事業所得や不動産所得がある人が確定申告をするときには、白色申告・青色申告のどちらかを選択する必要があります。
青色申告(65万円控除) |
青色申告(10万円控除) |
白色申告 |
|
---|---|---|---|
内容 |
3月15日までに青色申告承認申請書・開業届を提出することで税制上の優遇措置を受けることができる確定申告方法 |
青色申告以外の簡易勘弁な確定申告方法 |
|
提出書類 |
・確定申告書 ・青色申告決算書 ・貸借対照表と損益計算書 ・第三表(分離課税用) ・第四表(損失申告用) |
・確定申告書 ・青色申告決算書 ・第三表(分離課税用) ・第四表(損失申告用) |
・確定申告書 ・収支内訳書 |
保存帳簿 |
・総勘定元帳 ・仕訳帳 ・現金出納帳 ・売掛帳 ・買掛帳 ・固定資産台帳 |
・現金出納帳 ・売掛帳 ・買掛帳 ・固定資産台帳 ・経費帳 |
・法定帳簿 ・任意帳簿 |
記帳方法 |
複式簿記 |
簡易(単式)簿記 |
簡易(単式)簿記 |
メリット |
・青色申告特別控除(65万円) ・青色事業専従者給与 ・赤字3年間繰越 ・減価償却資産(30万円未満)は一括経費 |
・青色申告特別控除(10万円) ・青色事業専従者給与 ・赤字3年間繰越 ・減価償却資産(30万円未満)は一括経費 |
確定申告の手続きが簡単 |
事業所得、不動産所得、山林所得がある場合には、帳簿の備え付けや保存が義務付けられています。
これに対して、譲渡所得や一時所得しか存在しないケースでは、必ずしも帳簿は必要とされません。
ただし、その場合でも確定申告が必要か否かは、1年間の収入を集計して確認する必要があります。そのため、あとで集計ができるように書類などを残しておきましょう。
相続や遺贈によって取得した財産を、相続税の申告期限までに、国・地方公共団体・特定の公益法人(国立大学法人、日本司法支援センター、社会福祉法人など)に寄付したときには、寄付をした財産や支出した金銭を相続税の対象から外すことができます。
また、確定申告の際に寄付金控除を利用すれば、払い過ぎた所得税が還付される可能性もあります。
たとえば対象となる寄付金額が50万円だった場合、50万円-2千円=49万8千円の控除が可能です。(ただし控除可能な寄付金額は、その年の総所得金額などの40%相当額まで)寄付金控除を受けたい場合は、確定申告をする必要があります。
相続によって財産を取得したとしても、その分についての確定申告は原則不要です。
ただし、遺産を売却して利益を得たようなケースでは確定申告義務が課される場合がありますし、被相続人の所得について準確定申告が必要になる場合も少なくありません。
税法のルールは複雑で、ご自身だけで確定申告の要否を判断できない場合も多いでしょう。
税理士や弁護士に相談すれば、相続税や所得税、遺産をめぐるトラブルなどについて総合的なアドバイスを期待できます。
期限までに余裕のあるタイミングで念のために相談ください。
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