親から相続した不動産を売却した場合、多くの方が気になるのは確定申告が不要かどうかではないでしょうか。
結論からお伝えすると、相続不動産を売却したときの譲渡所得がマイナスなら、確定申告は不要です。
ただし、譲渡所得の特例を利用するときや不動産の損益通算をおこなう場合は確定申告が必要になります。
そのため、譲渡所得がマイナスであれば必ず確定申告が不要になる、というものではない点に注意しましょう。
本記事では、相続した不動産の売却において確定申告が不要になるケースや譲渡所得の計算方法、特例利用時の注意点を解説します。
記事を最後まで読めば、自分のケースが確定申告すべきケースかどうかがわかり、スムーズに売却後の手続きを進められるでしょう。
相続不動産を売却した際、譲渡所得がマイナスになり譲渡損失が発生するなら譲渡所得税の確定申告は不要です。
譲渡所得税は、不動産の売却によって発生した利益である譲渡所得に対して課税されるものであり、課税対象となる利益がなければ課税しようがないためです。
ただし、不動産の売却以外にも以下のような所得があるときは、確定申告をしなければなりません。
譲渡所得がマイナスになるときでも、原則として上記のようなほかの所得と相殺する「損益通算」はできません。
なお、居宅として利用していた相続不動産を売却し、居住用の不動産を新たに購入した場合に発生した譲渡損失については、一定の要件を満たすことで損益通算ができるようになる特例もあります。
相続した不動産を売却したときの譲渡所得は、以下の計算式で算出できます。
譲渡所得=売却額ー(取得費+譲渡費用) |
確定申告の際に適切な譲渡所得税を申告・納付するためには、まず譲渡所得を計算する必要があります。
なお、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」などの控除を受ける場合は、ここから控除額を差し引きます。
控除額を差し引いた時点で譲渡所得がマイナスになるなら、譲渡所得税は課税されません。
控除額を差し引いても譲渡所得がプラスになったときは、算出した金額に税率をかけて税金を計算します。
税率は、譲渡した年の1月1日における不動産の所有していた期間によって以下のように異なります。
所有期間 | 区分 | 税率 | ||
---|---|---|---|---|
所得税 | 復興特別所得税 | 住民税 | ||
5年超 | 長期譲渡所得 | 15% | 0.315% | 5% |
5年以下 | 短期譲渡所得 | 30% | 0.63% | 9% |
たとえば以下のケースなら、譲渡所得税は101万5,750円です。
ケース① |
---|
・売却額:3,000万円 ・取得費:2,000万円 ・譲渡費用:500万円 ・不動産の所有期間:6年(長期譲渡所得) |
譲渡所得税額の計算 |
---|
譲渡所得:3,000万円ー(2,000万円+500万円)=500万円 譲渡所得税:500万円×20.315% |
譲渡所得の計算に必要な売却額・取得費・譲渡費用については、以下でそれぞれ詳しく解説します。
売却額とは、土地や建物を実際に売却したときの代金のことです。
そのほか、売却から年末までの分の固定資産税・都市計画税が支払われたときや、金銭ではなく権利や物を受け取った場合は、その金額も売却額に含めます。
取得費とは、不動産の購入価格や購入手数料などの資産取得に要した金額に、その後支出した改良費・設備費を加えた合計額から減価償却費を差し引いた金額のことです。
なお、取得費を算出する際は、土地と建物を分けて計算します。
なぜなら、年数によって劣化しないと考えられる土地に対し、建物は年々劣化し価値が減少していくためです。
そのため、土地は「購入価格=取得費」として計算すればよいですが、建物は減価償却費の計算をおこなう必要があります。
建物の減価償却費は、以下の流れで計算します。
耐用年数とは、建物が資産価値を保てる年数のことをいい、償却率とは価値が減少する割合のことをいいます。
たとえば、木造住宅の耐用年数・償却率は以下のとおりです。
耐用年数 | 償却率 |
---|---|
33年 | 0.031 |
耐用年数・償却率は、国税庁のホームページで確認できるので、住宅の種類ごとの数値を確認し、以下の式を用いて計算しましょう。
減価償却費=建物の取得費×0.9×償却率×経過年数(購入から売却までの保有年数) |
たとえば以下のケースなら、減価償却費は558万円です。
ケース② |
---|
・建物の購入価格:2,000万円 ・耐用年数:33年(木造住宅) ・償却率:0.031 ・経過年数:10年 |
減価償却費の計算 |
---|
減価償却費=2,000万円×0.9×0.031×10年 |
なお、経過年数については、10年3ヵ月・10年6ヵ月というように端数が出る場合、6ヵ月以上なら1年とカウントし6ヵ月未満は切り捨てます。
減価償却費を計算したら、取得費を計算します。
取得費の計算 |
---|
建物取得費=2,000万円ー558万円=1,420万円 |
なお、土地は時間の経過によって劣化することはないので、減価償却はおこなわず、購入価格がそのまま取得費になります。
上記のケースの場合、土地の取得費が1,000万円なら、建物の取得費と合わせた2,420万円が取得費の総額です。
譲渡費用とは、不動産を売却する際にかかる必要経費のことです。
譲渡費用には、たとえば以下のものが該当します。
譲渡費用に該当するかどうかは、客観的に見て譲渡に必要な費用だったかという点で判断されます。
以下のような費用は譲渡費用には該当しません。
譲渡所得がマイナスにならなくても、確定申告が不要になるケースもあります。
ここでは、売却した不動産の譲渡所得が低いために、確定申告が不要になったケースを2つ紹介します。
ひとつ目は、築年数が経過しており売却価格が低かったケースです。
ケース③ |
---|
・実家の所有者だった母が亡くなった ・息子であるAさんとその兄・弟の3人が共同で相続 ・実家が空き家になってしまうため、売却し3人で分配した |
このケースでは、Aさんたち兄弟姉妹が相続した実家は築年数が経っており、低い価格でしか売却できませんでした。
そのため、譲渡所得が少なく、ほかの所得と合計してもそれぞれ20万円以下であったため、確定申告をおこなう必要はありませんでした。
このように、譲渡所得とほかの所得の合計が20万円以下だった場合、譲渡所得がプラスでも確定申告は不要です。
なお、給与所得を得ている場合、確定申告を不要とするにはさらに以下のような条件も満たさなければなりません。
また、所得が20万円以下でも住民税は申告する必要があります。
もうひとつは、取得費や譲渡費用が著しく高額になったケースです。
ケース④ |
---|
・マンションの所有者である父が亡くなった ・一人娘であるBさんが単独で相続した ・別に住まいがあるためマンションは売却した |
このケースでは、マンションの売却価格が高額であったため、Bさんはどれだけ税金がかかるのかを心配していました。
しかし、亡き父がマンションを購入した際に高額の取得費がかかっていたため、結局譲渡所得はゼロになり、確定申告は不要となったのです。
このように、売却価格が高額だからといって譲渡所得税も高額になるとは限りません。
譲渡所得を正確に計算してもらいたいなら、税理士に相談するとよいでしょう。
相続不動産の譲渡所得と確定申告に関して、以下の3つの注意点を知っておきましょう。
それぞれのポイントについて、詳しく解説します。
相続不動産の場合、取得費が不明なケースも珍しくありません。
取得したのがずいぶん前であるために資料が失われてしまっていたり、購入時に交わした売買契約書を被相続人がどこに保管していたかがわからなかったりといったことがあるためです。
ただし、購入金額がわからないときでも、売却価格の5%を概算取得費として計算できるため、譲渡所得の計算はできます。
なお、その場合は譲渡所得が高額になる可能性がある点に注意が必要です。
たとえば、以下のケースで考えてみましょう。
ケース⑤ |
---|
・土地の売却金額が2,000万円 ・取得費が1,000万円 ・譲渡費用が500万円 |
上記のケースでは、取得費がわかっていれば譲渡所得は500万円で済みますが、概算取得費で計算すると1,900万円と高額になります。
これを踏まえると、被相続人となる親や祖父母が不動産を所有しているなら、元気なうちに売買契約書や住宅ローンの金銭消費貸借契約書といった資料の保管場所や、購入金額を確認しておくのがよいでしょう。
確認できなければ、預金通帳の出金記録や、登記事項証明書の乙欄に記載されている抵当権の債権額を取得費の根拠にする方法もあります。
相続不動産を売却した場合、一定の要件を満たすことでさまざまな特例が利用できる可能性があります。
特例を利用する際に注意したいのは、特例の利用によって確定申告が必要になる点です。
たとえば、売却で得た利益から一定額を控除できる特例を利用した場合、譲渡所得税が非課税になっても確定申告をおこなわなければなりません。
なお、相続不動産を売却した際に利用できる特例には、主に以下のものがあります。
相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例 | 一定期間内に相続財産を売却した場合、納付した相続税のうち一定金額を取得費に含めて計算できる特例。 売却価格ー(取得費+譲渡費用+取得費加算額) |
---|---|
居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例 | 相続不動産に居住したあとに売却した場合、要件を満たすことで所有期間にかかわらず譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例。 |
被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例 | 所有者が亡くなり空き家になった不動産を相続人が売却した場合、要件を満たすことで譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例。 |
マイホームを売ったときの軽減税率の特例 | 相続不動産に居住したあとに売却した場合に、不動産の購入から売却年の1月1日時点で所有期間が10年を超えるなどの要件を満たすことで、長期譲渡所得の税額を軽減税率で計算できる特例。 ・6,000万円以下の部分:14.21% ・6,000万円を超える部分:20.315% |
要件や手続き方法などの詳細は、国税庁のホームページを確認してください。
相続不動産の売却で譲渡損失が出た場合、確定申告は不要です。
しかし、譲渡損失の繰越控除を利用して損益通算をおこなうのであれば、確定申告が必要になります。
損益通算とは同じ年の利益と損失を相殺すること、譲渡損失の繰越控除とは、その年に控除しきれなかった損失を、翌年から3年にわたって繰り越せる特例のことをいいます。
たとえば、譲渡損失の繰越控除を利用できるのは以下のようなケースです。
ケース⑥ |
---|
・相続不動産を売却し、500万円の譲渡損失が生じた ・同じ年にほかにも不動産を売却し、譲渡所得が2,000万円ある |
この場合、2,000万円から500万円を控除できます。
なお、相続不動産によって生じた損失については、通常は損益通算をすることができません。
相続不動産で生じた譲渡損失を損益通算するには、一定の要件を満たす必要があるので、詳しくは国税庁のホームページを確認してください。
本記事では、相続不動産の売却で確定申告が不要になるケースや、譲渡所得の計算方法について解説しました。
相続不動産を売却したときの譲渡所得がマイナスなら、確定申告は不要です。
また、マイナスでなくても、譲渡所得が低いために確定申告が不要になるケースもあります。
ただし、「相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例」や「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」といった特例を利用するのであれば、譲渡損失が出た場合でも確定申告が必要になる点に注意しましょう。
譲渡所得や譲渡所得税の計算は自分でもできますが、確定申告では正しい金額を申告しなければなりません。
相続不動産の売却に伴う税金の悩みは、税理士に相談することをおすすめします。
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