成年後見制度を利用したいが、家族も成年後見人になれるか、疑問に思っていませんか?
成年後見制度とは、認知症などにより判断能力が不十分になってしまった成年被後見人の財産管理や身上監護する人を選任する手続きです。
成年後見人には、家族や親族でもなることができます。
本記事では、成年後見制度の基礎知識と家族がなれるケース・なれないケース、なった場合の注意点について解説します。
本記事を読めば、成年後見制度の基礎知識から誰を候補者にすべきか、考えることができようになります。
成年後見制度でお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
成年後見人には、成年被後見人の財産管理や身上監護の役割があり、家族でもなれます。
まずは、成年後見人の基礎知識から解説します。
成年後見人の役割は、被成年後見人の財産の管理と身上の監護です。
なお、成年後見人制度には、以下2つの種類があります。
成年後見人になるために必要な資格はありません。
認知症など、判断能力が不十分になった本人の家族ももちろん成年後見人になることができます。
そのほかに、弁護士、司法書士、介護福祉士など法律や介護の専門家に成年後見人を依頼することも可能です。
基本的に成年後見人には、親族などの身近な支援者を選任することが本人の利益保護の観点や専門家への報酬負担の観点から望ましいとされています。
以下のように資格が不要な成年後見人になれない人もいます。
民法に定められた成年後見人になれない条件を「欠格事由」といいます。
欠格事由にあてはまる場合には、成年被後見人の財産管理を任せることができず、身上監護も適切におこなえない可能性が高いとして、法律で制限しているのです。
たとえば、破産者であると、自分のために成年被後見人の財産を横領する可能性があるでしょう。
また、過去に解任された人には、解任されるだけの理由があったと推測できるため、再度成年後見人になることはできません。
一般的に成年後見人にはどのような人がなるのでしょうか。
最高裁判所事務総局家庭局の「成年後見関係事件の概況―令和5年1月~12月―」によると、成年被後見人の親族が成年後見人になったのは7,381件であり、全体の約18.1%と報告されています。
そのため、実際には親族以外の人が成年後見人になるケースが大半を占めているといえるでしょう。
そこで、以下では成年後見人の選任方法や最高裁判所の見解を参考に、家族が選任される可能性について見ていきましょう。
成年後見人制度は、家庭裁判所に後見開始の審判の申立てをすることで開始されます。
そして、申立てをすると成年後見人を家庭裁判所が選任します。
家庭裁判所が後見人を選任するにあたって、被後見人にとって最も適任であると思われる人を選任することになります。
申立ての際には、法律上または生活上の課題や財産状況等も考慮されます。
そのため、家族では法律上の問題が解決できない場合や財産管理が困難な状況だと、弁護士や司法書士、社会福祉士など成年後見制度の職務や責任ついて専門的な知識を有する専門家に依頼する必要がでてくるでしょう。
このような事情から、被後見人の親族ではなく、弁護士などの専門家が成年後見人に選任されるケースが多くなっていると考えられます。
なお、家庭裁判所が選任した成年被後見人の判断について、不服申立てすることはできません。
そのため、納得できないからといって別の後見人に変えることはできないのです。
実際に成年後見人に選任されるのは、親族以外の人であることが多いです。
しかし、最高裁判所の方針としては、親族が望ましいと考えているようです。
最高裁と専門職団体との間で共有した後見人等の選任の基本的な考え方
◯ 本人の利益保護の観点からは,後見人となるにふさわしい親族等の身近な支援者がい
る場合は,これらの身近な支援者を後見人に選任することが望ましい
◯ 中核機関による後見人支援機能が不十分な場合は,専門職後見監督人による親族等後
見人の支援を検討
◯ 後見人選任後も,後見人の選任形態等を定期的に見直し,状況の変化に応じて柔軟に
後見人の交代・追加選任等を行う
最高裁判所は、親族など身近な支援者を後見人に選任することが望ましいと考えていることから、被後見人にとって適切な親族がいれば、家族が後見人に選任される可能性もあるでしょう。
実際に家族が選任されるケースは、全体の2割以下です(最高裁判所事務総局家庭局の「成年後見関係事件の概況―令和5年1月~12月―」)。
なぜ最高裁判所は、親族が後見人になることが望ましいと考えているのに家族が選任されるケースが少ないのでしょうか。
東京家庭裁判所後見センター「後見センターレポートvol.21(令和2年1月)」によると、下記の理由から家族以外が選任されているとされています。
さまざまな事情で家族以外が後見人に選任されるケースが多いものの、親族内に適切な人がいれば家族が後見人に選任される可能性は十分あるでしょう。
ここからは、家族が成年後見人になれないケースを8つ紹介します。
成年後見人の欠格事由に該当する場合には、成年後見人になれません。
欠格事由は、法律上定められているものであるため、不服があっても受け入れなければなりません。
また、欠格事由は法定後見制度だけでなく、任意後見制度のいずれにも適用されます。
そのため、任意後見制度で本人に選んでもらったとしても欠格事由がある場合には、選任されないので注意が必要です。
成年被後見人本人が多額の財産を所有している場合、家族が成年後見人になれない可能性があります。
たとえば、多額の財産や賃料収入など事業にかかわる収入がある場合、家庭裁判所は親族を成年後見人に選任することを避ける傾向があります。
なぜなら、財産の管理が複雑になるだけでなく、一定の専門知識などが必要になるからです。
また、成年後見人は年に一度、家庭裁判所に対して本人の収支状況を報告しなければなりません。
この収支状況等の報告も親族では難しいと考え、選任を避けていると考えられます。
流動資産の種類が多い場合や金額が高額な場合には、家族以外の人が成年後見人に選任されることが多いです。
年間の収入と支出が多額になると、専門知識のない家族や親族では1年に一度の収支報告義務や書類作成が困難であると家庭裁判所は判断します。
成年後見人には、本人の財産を管理するという重要な役割があるのにその役割を果たすことができなければ、成年後見制度が無意味なものになってしまいます。
このような理由から流動資産の種類が多く、高額な場合には専門知識のある弁護士や司法書士などが成年後見人に選任されます。
遺産分割などで本人と候補者の間に利害関係があると判断される場合、家庭裁判所は親族の選任を避ける傾向にあります。
たとえば、既に亡くなった夫の遺産分割がおこなうために後見制度を利用しようとしたケースです。
この場合、妻である自分と子どもが相続人となります。
そして、自分の成年後見人の候補者として同じ相続人である子どもを選ぶと選任が認められないことがあるのです。
相続人が成年後見人になると、子どもが遺産を多く取得し、成年被後見人本人が取得する遺産が減少する可能性が高いと判断されるからです。
このように法律上の利害関係があるケースでは、家族が成年後見人になることは難しいでしょう。
候補者の経済状況が悪い場合にも成年後見人に選ばれない可能性が高いです。
実際に親族を成年後見人に選任したケースで、故意であるかどうかにかかわらず、本人の財産を不正に支出してしまうケースがあります。
欠格事由に破産者が含まれていることからもわかるように、財産の管理の任せる以上、不正が起こらないようにしなければなりません。
そのため、候補者の経済状況が悪い場合には、家族であっても成年後見人になれる可能性が低くなります。
親族の中に候補者が成年後見人になることに対して反対している人がいる場合、親族以外の人が成年後見人に選任される可能性があります。
後見制度は、将来の遺産相続にも関係するため、親族が反対している候補者を後見人に選任するとトラブルになる可能性が高まります。
家族を後見人に選任したい場合は、あらかじめほかの親族にも事情を説明して納得してもらう必要があるでしょう。
本人と候補者が疎遠な場合も選任されないことがあります。
成年後見人は、財産管理だけでなく、身上監護もおこないます。
そのため、本人と候補者の関係が疎遠であり、身上監護が難しい場合には、成年後見人としての役割を果たすことができません。
ただし、遠方に住んでいるからといって絶対に選任されないというわけではありません。
しかし、本人が口座を有する地方銀行の支店がない場合など財産管理が困難なケースや病院・施設のカンファレンスに参加できないなどの事情があると選任されるのが難しくなってしまいます。
被後見人と候補者の生活費が十分に分離されていない場合にも成年後見人に選任されない可能性が高いです。
成年後見人には、財産管理の責任があります。
生活費などが十分に分離されていないと、どこまでが成年被後見人本人の財産でどこからが自分の財産かわからなくなってしまいます。
そのような状況では、適切な財産管理をすることができず、不正が起こる可能性があるとして家族が選任されないことがあるのです。
家族が成年後見人になった場合、メリットとデメリットがそれぞれあります。
そこで、2つのメリットと3つのデメリットを紹介します。
家族が成年後見人になる2つのメリットは、以下のとおりです。
家族が成年後見人になると、専門職に依頼した場合に発生する報酬の負担がありません。
弁護士や司法書士など専門職に依頼した場合、毎月2万円~4万円程度の支払いが必要になります。
家族が成年後見人になることで本人の経済的負担を減らすことができるでしょう。
また、家族であれば信頼関係があり、財産や身上監護に対して安心感があります。
弁護士や司法書士など専門職であっても、第三者に自己の財産の管理を任せる不安はあるでしょう。
そのような不安も家族であれば、自分の状況や性格を知っているため、安心して任せることができるのです。
家族が成年後見人になる大きなメリットがあります。
しかし、下記の大きなデメリットも存在します。
成年後見人には、裁判所への定期的な報告義務があり、選任された家族に大きな負担がかかってしまいます。
この報告義務は、専門職に依頼した場合だけでなく、家族が成年後見人になった場合であっても発生します。
そのため、日頃から収支を把握して書類を作成し、報告するという負担が発生するのです。
また、親族同士が不仲の場合、トラブルに発展するリスクもあるでしょう。
たとえば、成年後見人が本人の財産を横領しているのではないかと疑われ、親族から嫌がらせを受けるケースです。
弁護士や司法書士など第三者に依頼した場合にはあまり起こりませんが、家族・親族だからこそトラブルになってしまうこともあるでしょう。
トラブルが予想される場合には、家族以外の第三者に依頼することをおすすめします。
家族を成年後見人にすると、財産の使い込みなど不正が起こる可能性があります。
実際に故意の有無にかかわらず、不正が起こるケースがあります。
家族だと、明確に本人と自分の財産の線引きができず、不正するつもりはなかったのに不正にあたる行為をしてしまったということもあるでしょう。
家族を選任すると成年後見人に大きな負担が生じたり、トラブルや不正が起こる可能性があります。
そのため、まず弁護士に相談してから誰を成年後見人に選任するのか、慎重に考えましょう。
家族が成年後見人になる場合は、注意しなければならないことがいくつかあります。
トラブルにならないためにも、ここで注意点をしっかりおさえておきましょう。
成年後見監督人とは、成年後見人の後見事務を監督する人をいいます。
一般的に弁護士や司法書士などが家庭裁判所によって選任されます。
成年後見監督人は、家族が成年後見人の場合に選任されることが多いです。
なぜなら、家庭裁判所は、家族では専門的な知識がなく、高額な財産の管理や書類作成が困難であると判断し、成年後見人のサポートが必要であると考えるからです。
成年後見監督人を選任することで成年被後見人の財産管理や身上監護をより一層確実なものにし、不正が起こらないようにします。
なお、成年後見監督人が選任された場合、報酬金を支払わなければならないため、本人に経済的負担が生じる点にも注意が必要です。
成年後見人は、一度選任されるとなかなか辞めることができません。
成年後見人にも辞任することは認められていますが、自分の都合で辞任することはできず、裁判所の許可を得る必要があります。
また、成年後見人を辞任する場合には、新たな成年後見人の選任が必要になり、後任の成年後見人を家庭裁判所が選任するまでは辞任が認められません。
そのため、一度選任されたら成年被後見人本人が亡くなるまで成年後見人を続ける覚悟が必要です。
なお、成年後見人を解任したい場合でも、不正な行為や著しい不履行などが家庭裁判所に認められない限り、解任は難しいでしょう。
そのため、自分が成年後見人になる場合だけでなく、家族に成年後見人を依頼する場合には家族とよく話し合って慎重に決めることが大切です。
成年後見人であっても本人の財産を処分する際には、家庭裁判所の許可が必要なことがあります。
たとえば、居住用不動産の売却や賃貸借契約をおこなう場合には、家庭裁判所の許可が必要になります。
不動産の処分などによって本人の財産に不利益が生じないようにするためです。
居住用でない不動産の処分はこの限りでないものの、成年後見監督人が選任されている場合、後見監督人の同意が必要です。
成年後見人はあくまで本人の財産を保護するため管理している立場であることから、自由に財産を扱うことはできません。
相続対策や財産の管理・運用・処分を検討しているなら、成年後見制度を利用するのではなく弁護士に相談することをおすすめします。
家族や親族が成年後見人にならない場合、専門家に成年後見人を依頼することになります。
そこで、専門家に成年後見人を依頼した場合のメリットとデメリットを紹介します。
専門家に成年後見人を依頼すると、不正のリスクが軽減され、家族に手間がかかりません。
家族以外の第三者が成年後見人になることで使い込みなどのリスクを抑えることができ、安心して財産の管理を任せることができます。
また、家庭裁判所への年一度度の報告義務も、専門知識を有する弁護士や司法書士に依頼することでスムーズに手続きを終わらせることができます。
ただし、専門家が後見人だからといってトラブルが絶対に発生しないわけではありません。
最近では、専門家による成年後見のトラブルも話題になっているので、どんな人が選任されるかはよく注意しましょう。
専門家に成年後見人を依頼する最大のデメリットは、費用がかかることです。
成年後見人の報酬は、家族以外が後見人になると必ず発生します。
報酬額は、財産額などを考慮して決定されますが、月2万円~5万円程度が一般的です。
報酬は、成年後見制度を利用し続ける限り、毎月発生します。
年間で考えると年24万円~70万円前後の費用を本人の財産から支払わなければなりません。
加えて、訴訟や遺産分割など財産管理・身上監護以外の特別な業務に対応した場合、業務相当額の報酬の支払いが必要になることも覚えておきましょう。
任意後見制度とは、本人の判断能力が十分にあるうちに、将来判断能力が不十分になったときに備えて事前に後見人を選任する制度です。
任意後見人制度は、本人と任意後見人の候補者が公証役場へ行き、公正証書で契約を締結することで成立します。
そのため、裁判所の介入なしで家族が後見人になることが可能です。
ただし、任意後見が開始されるのは、公正証書で契約を締結した時点ではありません。
本人の判断能力が不十分になり、家庭裁判所へ申し立て、任意後見監督人を選任した時点で開始されます。
また、任意後見制度を利用したとしても欠格事由にあてはまる場合には、後見人になれないことにも注意が必要です。
任意後見制度であれば、裁判所の介入なしに家族を後見人に選任できるため、確実に家族に後見人になって欲しい場合にはおすすめの方法といえるでしょう。
家族信託とは、本人の判断能力が十分な間に家族間で信託契約を締結し、家族に財産の管理を任せる制度です。
家族信託の大きな特徴として、資産の管理権を子どもの世代に移転することで資産凍結リスクを回避し、相続後の遺産分割までを担うことができる点が挙げられます。
つまり、父親が認知症になってしまい、後見制度では売却できなかった不動産も、家族信託であれば売却し現金化することができるのです。
また、成年後見制度のように裁判所や後見人など第三者の介入がなく、家族内で完結するため、最近では利用者数が増加傾向にあるといわれています。
なお、家族信託を利用しても任意後見制度との併用が可能です。
そのため、財産に関しては家族信託を利用し、身上監護については任意後見制度を利用するといった柔軟な運用も可能です。
いずれにせよ、財産状況や家族状況によって適切な制度が異なるため、一度弁護士に相談することをおすすめします。
成年後見制度とは、判断能力が不十分になってしまった家族の財産や身体を守るための制度です。
そのため、誰が成年後見人になるかは、今後のためのとても重要なことです。
家族が成年後見人になることで安心を得られることもあれば、財産状況によって弁護士や司法書士が成年後見人に選任されることもあります。
家族がどうしても後見人になりたい場合には、任意後見制度の利用も検討する必要があります。
一度後見人になると、簡単にはやめられないため、家族とよく話し合ったうえで弁護士に相談するようにしましょう。
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