家族が知的障害を抱えていたり、認知症の症状が進行していたりする場合は、成年後見制度の利用を検討しましょう。
成年後見制度は認知症や精神上の障害などにより判断能力が低下した人を支援するための制度で、制度の恩恵を受ける人のことを成年被後見人、支援をおこなう人のことを成年後見人といいます。
本記事では成年後見制度や成年被後見人について詳しく解説していきます。
制度を利用するための流れや利用するための注意点について解説するのでぜひ参考にしてください。
成年後見制度において、成年被後見人・被保佐人・被補助人はそれぞれ特徴が異なります。
以下、成年被後見人の概要と、被保佐人・被補助人との違いをみていきましょう。
成年被後見人とは、認知症・知的障害・精神障害などにより法的な判断能力が不十分であり、成年後見制度において支援を受ける人のことです。
精神障害・認知症・知的障害などを抱えている人は、自身の法的権利や金銭的利益を管理する能力が不十分な状態になっていることがあります。
このような状況では、契約内容を十分に理解しないまま契約をおこなってしまったり、何らかの詐欺被害にあったりすることが考えられます。
成年後見制度はこのような状態にある人およびその財産を適切に保護、管理し、日常生活を管理するための支援をおこなうために設立された制度です。
(成年被後見人及び成年後見人)
第八条 後見開始の審判を受けた者は、成年被後見人とし、これに成年後見人を付する。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
成年後見制度においては、制度を利用する人の状況において、成年被後見人・被保佐人・被補助人の3つの類型に区分されます。
支援の必要性が高い順から成年被後見人・被保佐人・被補助人と続き、それぞれの概要は以下のとおりです。
また成年後見制度では、支援する側に代理権・同意権・取消権を与えます。
代理権 | 不動産の売買など、財産に関連した重要な行為を本人に代わりおこなう権限 |
同意権 | 不動産の売買など、財産に関連した重要な行為を本人がおこなう際に、同意を示す権利 ※同意を得ずにおこなわれた行為は取り消すことができる |
取消権 | 本人がおこなった法律行為が本人にとって不利益である際に、取り消すことができる権利 |
成年被後見人・被保佐人・被補助人の支援者が、上記全ての権限を与えられるわけではありません。
それぞれ以下のような権限の違いがあります。
成年後見人 (成年被後見人の支援者) |
保佐人 (被保佐人の支援者) |
補助人 (被補助人の支援者) |
|
代理権 | ◎ | ○ ※家庭裁判所が認めた行為のみ |
○ ※家庭裁判所が認めた行為のみ |
同意権 | × | ○ ※民法13条1項の行為に対して |
○ ※民法13条1項の一部の行為に対して |
取消権 | ◎ | ○ ※民法13条1項の行為に対して |
○ ※民法13条1項の一部の行為に対して |
※民法13条1項の内容は、以下で引用しています。
成年後見人に同意権がないのは、仮に成年被後見人に同意をしてもそのとおり法律行為がおこなわれる可能性が著しく低いためです。
そのため成年後見人に同意権は必要ないと考えられることから、同意権が与えられていません。
成年被後見人・被保佐人・被補助人のどの類型が適応されるかは、主治医の診断結果などをもとに家庭裁判所が判断をおこないます。
(保佐人の同意を要する行為等)
第十三条 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
一 元本を領収し、又は利用すること。
二 借財又は保証をすること。
三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
四 訴訟行為をすること。
五 贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法(平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
七 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
八 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
九 第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。
十 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
成年後見制度を利用することで、成年被後見人は後見人に以下の3つの行為をおこなってもらうことが可能になります。
成年後見人は、成年被後見人のお金や財産の管理や運用をおこなう責任をもつことになります。
財産の管理には、銀行口座の管理、不動産や車など資産の管理や売却、その他税金の申告や年金の申請、遺産分割協議への参加などが含まれます。
(財産の管理及び代表)
第八百五十九条 後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。
引用:民法 | e-Gov法令検索
成年後見人は、成年被後見人の介護や医療に関する契約をおこなう責任をもっています。
具体的には、病院での手続きや支払い、介護保険の認定申請などが含まれます。
ただし、手術への同意など成年被後見人の生命に関わることには契約をおこなうことができません。
(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮)
第八百五十八条 成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
引用:民法 | e-Gov法令検索
成年後見人は、成年被後見人の郵便物の管理をおこなうことが求められます。
また、平成28年10月の法改正により、成年後見人へ成年被後見人宛の郵便物を転送することが可能になりました。
転送が可能になることによって、同居していない成年被後見人であっても、クレジットカードの利用明細や株式の配当通知などを速やかに確認することができるようになり、財産の管理などにも役立てることが可能になります。
なお、転送の期間は6ヵ月が上限とされていますが、この期間で成年被後見人の財産状況を把握できない事情がある場合は、期間の延長が認められることがあります。
(成年後見人による郵便物等の管理)
第八百六十条の二 家庭裁判所は、成年後見人がその事務を行うに当たって必要があると認めるときは、成年後見人の請求により、信書の送達の事業を行う者に対し、期間を定めて、成年被後見人に宛てた郵便物又は民間事業者による信書の送達に関する法律(平成十四年法律第九十九号)第二条第三項に規定する信書便物(次条において「郵便物等」という。)を成年後見人に配達すべき旨を嘱託することができる。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
成年後見制度を利用すると、成年被後見人は契約などの法律行為をひとりでおこなうことができなくなります。
ただし、以下の行為については成年後見制度の利用後もおこなうことが可能です。
スーパーやコンビニなどで商品を購入するような行動は、売買契約が成立しているとみなされる法律行為です。
成年被後見人は法律行為をおこなうことができませんが、日常生活に必要な日用品の購入など一般的な生活行為であれば、その対象からははずれ、自分ひとりでおこなうことができます。
成年後見人が、これら行為を取り消すことはできません。
(成年被後見人の法律行為)
第九条 成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
成年後見制度を利用することで成年後見人が得る権利は、財産の管理やそれに関する契約の代理権です。
婚姻や養子縁組をはじめとした身分行為について、代理で手続きをおこなうことはできません。
ただし例外として、離婚や婚姻の取り消しなどについて訴えをおこしたりおこされたりする場合には、成年後見人が代理人を務めることが可能です。
(成年被後見人の婚姻)
第七百三十八条 成年被後見人が婚姻をするには、その成年後見人の同意を要しない。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
(婚姻の規定の準用)
第七百九十九条 第七百三十八条及び第七百三十九条の規定は、縁組について準用する。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
(人事訴訟における訴訟能力等)
第十四条 人事に関する訴えの原告又は被告となるべき者が成年被後見人であるときは、その成年後見人は、成年被後見人のために訴え、又は訴えられることができる。ただし、その成年後見人が当該訴えに係る訴訟の相手方となるときは、この限りでない。
引用元:人事訴訟法 | e-Gov法令検索
成年被後見人は自らの意思で選挙権および被選挙権を行使できます。
なお、以前まで成年被後見人は選挙権および被選挙権をはく奪されていましたが、平成25年5月に公職選挙法が改正され、以後選挙権および被選挙権を有するようになっています。
成年被後見人は自分で遺言書を作成できますが、以下3つの条件を全て満たさなくてはなりません。
ただし、立会いを依頼できる医師を2名以上確保するのは難しいなどの理由があり、実際のところほとんどおこなわれることがありません。
(成年被後見人の遺言)
第九百七十三条 成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
成年後見制度を利用するためには、大きく以下の4ステップを経ていくことになります。
以下ではそれぞれのステップについて詳細に解説をおこないます。
成年被後見人になるためには、後見開始等の申し立ての準備が必要です。
申し立てをおこなう際は、医師の診断書や、本人の財産状況がわかる資料などを用意する必要があります。
資料の準備が整ったら、後見開始の申し立てをおこないます。
申し立て先は管轄の家庭裁判所で、申し立てを受けた家庭裁判所によって、成年被後見人の状況を確認し成年後見制度の利用が妥当かどうか判断する審理が開始されます。
審理では申立人・後見人候補との面接や親族への意向照会などもおこない、総合的に事情を考慮し成年後見を開始すべきか判断するのです。
より詳細に本人の判断能力を確認する必要があると判断した場合は、医師による鑑定がおこなわれる場合もあります。
なお成年後見人は家庭裁判所により選任されますが、申し立ての際に本人の親族を候補者として指定することも可能です。
成年後見制度を申し立てる際には、書類の作成費用や申し立ての手数料として以下の費用がかかります。
また、申し立てを司法書士に依頼した場合は別途10万円程度の費用が発生します。
あくまで目安となりますが申し立ての際の参考にしてください。
成年後見制度の申し立てをおこなうと、家庭裁判所により審判がおこなわれます。
審判では、成年被後見人の状況や後見の必要性などが審議され、適切な判断が下されます。
成年後見制度の利用が妥当と判断されたら、家庭裁判所から東京法務局へ登記の依頼がおこなわれます。
この登記を後見登記と呼び、後見人の氏名や権限などが記載されるのです。
後見登記が完了し、登記番号が通知されたら、法務局で登記事項証明書を取得します。
この証明書は、預金の解約時など後見人の権限を証明する際に必要です。
成年後見制度を利用する際は以下の注意点を確認しておきましょう。
成年被後見人になると、自身でおこなった法律行為は成年後見人により取り消すことが可能になります。
成年被後見人として行動を制限されることは、思わぬ損失を産まないために必要な場合もありますが、個人としての自由や独立性に影響を与える可能性もあります。
制限される代表的な行為には以下があげられます。
成年後見制度の利用を開始すると、その後自由に後見をやめることはできません。
後見を終了するには、成年被後見人の判断能力が回復することが求められ、基本的には死亡するまで継続します。
遺産相続など特定の問題の解決のために利用を検討する場合もあるかと思いますが、成年後見制度に関する十分な理解を持ち、長期的な視野で考えることが重要です。
後見人は、被後見人の財産や資産を管理する責任がありますが、不正な行為をおこなわれるリスクもあります。
後見人が財産を不適切に使用したり、悪用したりする可能性があるため、後見人の選定は慎重におこなう必要があるといえるでしょう。
最後に成年被後見人についてのよくある質問と回答を紹介します。
後見開始の申し立ては被後見人になりたい人本人でもおこなうことができます。
申し立てができる人には本人、配偶者、四親等のうちの親族があげられるほか、市区町村長が申し立てることも可能です。
成年被後見人になっても、マイナンバーカードの申請や住民票の取得などの一般的な手続きは原則として可能です。
ただし、実際には後見開始後は被後見人自身でこれら手続きをするのは難しいと考えられます。
代わりに後見人による代理申請や代理請求が可能です。
成年後見制度を活用することで、精神障害や認知症などを抱えている親族の思わぬ損失を防げる場合があります。
また、そのほかにも遺産相続の際の手続きの代行などさまざまな場面で役立つこともあるでしょう。
ただし、制度を利用するためには制度の適用範囲や細かいルールを詳しく把握しておく必要があります。
また制度の利用を申し立てる際は裁判所での審判が必要になるため手続きに戸惑ってしまうことも考えられます。
もし成年後見制度の利用や成年被後見人に関する疑問や質問がある場合は、専門家である弁護士に相談することが重要です。
本記事や弁護士からのアドバイスを参考に、成年後見制度の活用を目指しましょう。
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