認知症や障がいなどを理由に、判断能力が低下してしまった人をサポートする制度として任意後見制度があります。
任意後見制度を利用することで、判断能力が低下した人による誤った財産運用や不要な契約などを避けることができたり、遺産相続手続きが必要な際にスムーズに進めることができたりなどのメリットがあります。
任意後見制度を利用するためには、財産管理をおこなう任意後見人と、任意後見人の働きを監督する任意後見監督人を選任する必要があります。
ただ、それぞれの違いや候補者をどのように選んだらよいかわからないと悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では任意後見制度における任意後見監督人について詳しく解説します。
任意後見監督人を選任する際の手続きや、任意後見監督人を選ぶ際のポイントなど詳細に解説するのでぜひ参考にしてください。
そもそも任意後見制度とは何かについて詳しく知りたいという方は、以下記事が参考になります。
任意後見監督人は、任意後見制度において任意後見人を監督する役割として選任される人のことを指します。
任意後見制度では任意後見契約の締結により、あらかじめ任意後見人を定めることができ、被後見人の事理弁識能力の低下が生じた場合に、任意後見の発動を裁判所に申し立てることで、任意後見人に対して被後見人の財産や利益を管理する権限が与えられます。
任意後見監督人は、任意後見人がきちんと役割を果たしているか、被後見人の財産を悪用するなどしていないか監督し、被後見人の利益を守るために選任されるのです。
以下では任意後見監督人の詳細な役割や選任できる人の要件について解説していきます。
任意後見契約は任意後見監督人が選任されることによってはじめて効力を生じます。
後見人に選任された人は任意後見監督人の監督の下で、後見人としての役割を果たすことになります。
任意後見監督人の役割や仕事内容は以下のとおりです。
主な業務は任意後見人の監督です。
一般的には3ヵ月に一度のペースで後見人から報告を受けることで、後見人が役割を果たしているか確認をおこないます。
また、任意後見監督人自体も家庭裁判所に定期的な報告をおこなう必要があります。
報告の頻度は一般的には年1回程度です。
また、特殊な状況においては任意後見監督人が任意後見人に代わって、被後見人の代理や後見人としての職務を果たすことがあります。
たとえば、遺産相続において被後見人と後見人がどちらも相続人になる場合、遺産分割協議などにおいて利益相反が生じます。
このような状況においては任意後見監督人が被後見人の代理を務めることで手続きをおこないます。
以下の条件にあてはまる人は、任意後見監督人になれません。
逆にいうと、任意後見監督人は特別な資格は必要ないので、上記要件にあてはまらなければ誰でもなれます。
条件があえば被後見人の親族でも任意後見監督人になることができますが、弁護士や司法書士といった専門職の第三者が選ばれるのが主流です。
任意後見監督人を選任し、任意後見制度の利用を開始するためには、以下で紹介する5つのステップを踏む必要があります。
申し立てに必要な主な書類は、以下のとおりです。
なお、提出する被後見人の診断書は家庭裁判所が定める様式のものである必要があります。
また、被後見人の財産に関する資料には、通帳の写しや残高証明書、不動産登記事項証明書などが含まれます。
通帳の写しを用意する際には、表紙および見開き1ページ目、また直近2カ月分の記載がわかるようにコピーをおこないましょう(東京家庭裁判所の場合)。
なお、各家庭裁判所によって必要資料が異なる場合がありますので、確認するようにしましょう。
書類を用意したら、家庭裁判所に申し立てをおこないます。
申し立ては、被後見人の住所地を管轄する家庭裁判所を対象に、持参もしくは郵送によって提出が可能です。
なお、任意後見監督人選任の申し立ては被後見人本人以外にも、以下の人がおこなうことができます。
このうち任意後見受任者とは、後見が開始された時点で任意後見人になる人のことです。
任意後見制度利用の申し立てがおこなわれると、家庭裁判所は申し立てを審理し、任意後見監督人を選任します。
任意後見監督人が選任されると、後見人あてに裁判所から選任の結果が通知されます。
また、任意後見を開始したことと任意後見監督人の情報は、家庭裁判所からの依頼を受けて法務局によって登記されます。
任意後見監督人が選任されると、任意後見契約の効力が発生します。
これにより、後見人の仕事が始まり、被後見人の財産や利益を適切に管理し、保護するための対応をおこないます。
任意後見監督人は家庭裁判所によって選任されますが、申立人により希望を出すことが可能です。
ただし、必ずしもその候補者が選ばれるわけではありません。
以下では任意後見監督人の候補者を自分で選びたい場合のポイントについて紹介します。
家庭裁判所が任意後見監督人の選任をおこなう際には、原則として被後見人の陳述を聞き、選任についての同意を確認します。
この際に任意後見監督人の候補者などの希望を任意後見契約公正証書に記載しておくことで、原則として本人の希望を尊重して選任されることが期待できます。
任意後見監督人の候補者を選ぶ際には、家庭裁判所が任意後見監督人を選任する際の基準を理解したうえで選ぶようにしましょう。
家庭裁判所の選任基準には以下のようなものがあります。
任意後見監督人には弁護士や司法書士などの専門家が選任されるケースが多々あります。
そのため、任意後見監督人を選ぶ際には、信頼できる弁護士や司法書士などに依頼することで選任される確率があがると考えられます。
任意後見監督人を選任した場合、報酬の支払いが必要です。
報酬の相場は月1万~3万円ほどですが、被後見人の所持する財産の額によって変動します。
以下では任意後見監督人への報酬額の決まり方を紹介します。
任意後見監督人への報酬額は家庭裁判所が決定します。
報酬額は、任意後見監督人が管理することになる被後見人の資産状況や監督の事務内容を考慮して決められます。
管理財産額が5,000万円以下の場合、任意後見監督人への報酬の相場は月1万~2万円程度で、年間で換算すると12万~24万円が相場となります。
また、管理財産額が5,000万円を超える場合、任意後見監督人への報酬の相場は月2万5,000~3万円程度で、年間で換算すると30万~36万円が相場です。
管理財産額 | 任意後見監督人への報酬の相場 |
---|---|
5,000万円以下の場合 | 月額1万〜2万円程度 |
5,000万円を超える場合 | 月額2万5,000〜3万円程度 |
任意後見監督人への報酬は、被後見人の口座から支払われます。
申し立てをおこなった親族が支払う必要などはないため、理解したうえで制度の利用をおこないましょう。
任意後見監督人と任意後見人には、主に仕事内容・なれる人・報酬額の3点で違いがあります。
まず、仕事内容について、任意後見監督人は主に任意後見人の業務を監督し、任意後見人がきちんと役割を果たしているかチェックします。
任意後見監督人が直接財産管理をおこなうことは基本ありませんが、任意後見人が急病の場合などで対応できない場合は、任意後見人の権限内で被後見人を保護するための事務をおこなう必要があります。
一方、任意後見人の役割は被後見人の財産管理や身上保護です。
身上保護とは簡単に言うと、被後見人の生活や医療・介護にかかわるサービスの選択や契約手続きをおこなうことをさします。
具体的には、医療や介護サービスの選択・各種手続きや住居の選択・契約手続きなどです。
次に、任意後見人・任意後見監督人いずれになる場合も特別な資格は必要ありません。
ただ配偶者や親族は任意後見監督人になることができません。
任意後見監督人になることが多いのは、弁護士や司法書士といった専門家です。
最後に報酬額はどちらの場合においても裁判所が定めることになりますが、任意後見監督人の報酬は月1万~3万円、任意後見人の報酬は月2万~6万円と違いがあります。
比較項目 | 任意後見監督人 | 任意後見人 |
---|---|---|
仕事内容 | 任意後見人の業務の監督 | 被後見人の財産や利益の管理 |
なれる人 | 判断力のある成人であれば誰でも可能 | 親族や配偶者はなることはできない (弁護士や司法書士などの専門家がなることが多い) |
報酬額 | 月1万~3万円 | 月2万~6万円 |
最後に任意後見監督人に関するよくある質問とその回答を紹介します。
任意後見監督人の解任は、不正行為や著しく不適切な行為がおこなわれた場合や、役割遂行に適さないと判断される場合に限り可能です。
ただし解任を決定するのは家庭裁判所であり、被後見人の親族などが「気に入らない」というだけでは認められません。
任意後見監督人に報酬を支払わないことはできません。
なお、任意後見監督人への報酬は被後見人の財産から支払われますが、実際に支払いの対応をおこなうのは財産の管理をしている後見人の役割となります。
後見人が任意後見監督人への報酬を支払わない場合、後見人としての役割を果たしていないことになるので、後見人から解任される可能性があります。
もし、監督人に対して何かしらの不満がある場合は、適切な手続きに基づいて解任請求をおこなったり、後見センターの担当者に相談したりするなどの対応をおこないましょう。
家庭裁判所が任意後見監督人を選任しないケースは存在します。
家庭裁判所は、任意後見人をあとから交替させることができません。
そのため任意後見人が不適任であると考えられる場合は、選任しないことで実質的に任意後見の開始申請を却下するのです。
任意後見人が不適任と判断された場合は、新しい任意後見人を選任して再度任意後見監督人選任の申し立てをし直す必要があります。
任意後見制度を利用するためには、制度の概要や後見人と任意後見監督人の違い、手続きの流れなどをしっかりと理解する必要があります。
また、任意後見監督人になれる人は配偶者や親族を除いた多くの人ですが、実際には弁護士や司法書士などの専門家が選任される可能性が高いことを覚えておきましょう。
任意後見制度の利用や任意後見監督人の選任で悩んでいるなら弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談することで、専門的な知見からアドバイスをもらったり、任意後見制度を利用するための申し立てをサポートしてもらったりできます。
本記事や弁護士からのアドバイスを参考に任意後見制度の利用を検討してみてください。
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