など、兄弟の中に養子がいることが原因で相続をめぐる不安が生じることもあるでしょう。
確かに、養子と実子には親との血の繋がりの有無という違いがあるのは事実です。
その一方で、法律上は実子・養子ともに同じ「子ども」としての地位を有します。
そのため、「養子だから相続権がない」「養子は実子よりも相続順位が後順位になる」ということはありません。
ただし、誰に相続権があるかなどの具体的な相続関係によっては、養子の兄弟が原因で相続分の計算が複雑になり得ます。
そこで今回は、養子の兄弟がいる場合の相続関係をパターン別に解説します。
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養子の兄弟が相続関係にどのような影響を及ぼすのかを理解するために、まずは、養子と相続の基本ルールを解説します。
養子は、養子縁組の日から、養親およびその血族との間において、血族間と同一の親族関係が生じます(民法第727条)。
つまり、養子と実子が同じ兄弟として存在する場合、養子も実子も同じように法律上の「子ども」として扱われ、同一の相続分・法定相続順位を有するということです。
そのため、「養子だから被相続人の財産を承継する権利はない」「養子は実子よりも相続順位が劣後する」というのは誤りです。
養子縁組とは、血縁関係とは一切関係なく、人為的に法律上の親子関係を発生させる制度です。
養子縁組によって成立した親子関係は、「養親」「養子」と呼ばれます。
一方、血縁関係に基づく親子関係は「実親」「実子」と称されます。
そして、養子縁組には、「普通養子縁組」「特別養子縁組」の2種類が存在します。
養子縁組の要件をはじめさまざまな違いがありますが、相続においては実親の相続人になれるかどうかが決定的に異なります。
それぞれの違いについては、下表のとおりです。
項目 | 普通養子縁組 | 特別養子縁組 |
---|---|---|
養親の婚姻要件 | 単身者・独身者でも可(養親の婚姻は必須ではない)。 | 夫婦共同縁組(婚姻している夫婦共同で養親になること) |
養親の年齢要件 | 成年(婚姻している未成年者を含む) | 夫婦双方が20歳以上で、どちらか一方が25歳以上 |
実父母の同意の要否 |
親権者の同意が必要。 ただし、15歳以上の養子については自分の意思で判断できる。 |
実父母の同意が必要。 ただし、虐待などの理由があるときにはこの限りではない。 |
養子縁組の要件 |
特になし。 ただし、養子になる者が未成年者・成年後見人などに該当する場合には家庭裁判所の許可が必要になることもある。 |
実父母による監護が困難・不適当な事案で、子どもの利益のために特別養子縁組が必要であること。 |
実父母による監護が困難・不適当な事案で、子どもの利益のために特別養子縁組が必要であること。 | 当事者間の合意のうえ、戸籍法上定められた手続きを履践する。 | 家庭裁判所の審判手続き(6ヵ月以上の監護状況を基に判断される) |
実父母との関係性 | 継続する | 消滅する |
実父母の相続人になれるかどうか | 可能 | 不可 |
戸籍の父母欄の記載 | 実父母・養父母どちらも記載 | 養父母1組の氏名のみ |
戸籍の続柄の記載 | 養子、養女 | 長男、長女(実子と同じ) |
戸籍の身分事項欄の記載 | 養子縁組の記載あり | 「民法第817条の2」と記載(養子縁組の記載はなし) |
離縁 | 原則として当事者間の協議によって可能 | 原則として離縁は不可 |
普通養子縁組は、人為的に養親・養子間に法律上の親子関係を発生させると同時に、実親との相続関係も継続させる制度です(民法第792条以下)。
養親が亡くなったときだけではなく、実親が死亡したときにも養子は相続権を有します。
たとえば、再婚相手の連れ子と養子縁組をするケース、子どもがいない夫婦が子どもを引き取るケースなどが挙げられます。
特別養子縁組は、実親との親子関係を断ち切ったうえで、人為的に養親・養子間に法律上の親子関係を作り出す制度です(民法第817条の2以下)。
そのため、特別養子縁組によって養子になった子どもは、実親が死亡したとしても相続権を有することはありません。
特別養子縁組が利用されるのは、経済的な困窮や親からの虐待など、子どもの利益が著しく害される場合に限られます。
兄弟の中に養子と実子が混在する事案の相続関係を理解するには、個別の状況に応じて丁寧にルールを確認する必要があります。
ここでは、養子の兄弟がいる場合における相続関係について、パターン別に解説します。
親の遺産を相続する子どもの中に実子・養子が混在しているパターンをめぐる相続関係について解説します。
大前提として、養子と実子の相続分割合は同じです。
たとえば、遺産総額1,000万円、被相続人の配偶者・長男(養子)・長女(実子)が法定相続人のケースについて考えてみましょう。
まず、配偶者と子どもの相続分は「配偶者1/2、子ども1/2ずつ(複数いる場合は人数で按分)」です。
つまり、配偶者が500万円、長男長女が合計で500万円がそれぞれの取り分となります。
そして、実子と養子のあいだで相続分の割合に違いはありません。
そのため、長男(養子)・長女(実子)がそれぞれ250万円ずつ(全体の1/4)の遺産を相続することになります。
養子の兄弟が片親とのみ養子縁組をおこなっている場合、ケースによって相続分割合が異なります。
まず、養子縁組をおこなっている親が亡くなったケースでは、養親との親子関係は実子と同じため、養子は、通常どおりほかの兄弟と同等の相続分を有します。
一方、養子縁組をおこなっていない親が亡くなったケースでは、養子には相続権が発生しません。
そのため、実子のみが相続する(養親である親が健在の場合はその親と1/2ずつ相続する)ことになります。
被相続人の死亡によって相続権を取得する人物が、相続が発生したタイミングで被相続人よりも先に死亡していた場合、その人物に子どもがいれば、子どもが代襲相続人として相続権を取得します。
ただし、養子・実子が相続関係に混在する状況において、相続発生時に養子が死亡しており、かつ養子に子どもがいるがいる場合の相続関係は、「養子になったタイミング」がポイントになる点に注意が必要です。
まず、養子になったあとに子どもが生まれていた場合、その子どもは養子縁組によって人為的に親子関係が成立したあとに新たに家族関係に加わったとして、代襲相続人の資格を得ます。
一方、養子になる前に子どもが生まれていた場合(子どもがいる人物を養子として迎え入れた場合)、養子の子どもは養子縁組によって設定された家族関係に直接的に加わったとはいえないので、代襲相続人になることはできません。
なお、「実子の子ども」と「養子の子ども」がどちらも代襲相続人になる場合、両者の相続分は同じです。
「養子の子どもだから」という理由で相続割合が減ることはありません。
ほかの兄弟が死亡したときにも、養子である兄弟に相続権が回ってくることがあります。
具体的には、相続人になれる第1順位である被相続人の子どもがおらず、かつ第2順位である被相続人の直系尊属がすでに他界しているときにはじめて、第3順位である被相続人の兄弟姉妹に相続権が回ってきます。
養子である兄弟が片親とだけ養子縁組をしている場合、実子とは片親だけが共通する状態であることから、養子のことを半血兄弟といいます。
これに対し、実子のことを全血兄弟といいます。
半血兄弟の相続分は、全血兄弟の1/2と扱われます(民法第900条第4号)。
したがって、たとえば、3人兄弟の一人が亡くなり、相続人が実子の兄弟と養子の兄弟のみ(被相続人の配偶者はすでに他界している)の場合、実子が2/3、養子が1/3の相続分を取得します。
具体的には、全血兄弟の実子と半血兄弟の養子が合計で900万円の遺産を引き継ぐようなケースでは、実子が600万円、養子が300万円の財産を相続できます。
なお、もし亡くなった兄弟に配偶者がいた場合は、配偶者が3/4、実子である全血兄弟が1/6(2/12)、養子の半血兄弟が1/12を相続することとなります。
養子の兄弟が亡くなったときに発生する相続関係は、養親・養子がどのような方法で養子縁組をしたかによって異なります。
なお、養子の兄弟が死亡したケースも、もともと血縁関係にあった兄弟が養子にいったケースも考え方は同じです。
普通養子縁組では、養親・養子間に法律上の親子関係が生じると同時に、実親・実子間の親子関係も残ったままです。
したがって、普通養子縁組の方法で養子になった人物が死亡して相続が発生したときには、養親側・実親側の双方が相続権を有することになります。
たとえば、普通養子縁組で養子になった被相続人に配偶者・子どもがおらず、かつ養親・実親全員が死亡しているケースでは、養親側・実親側の兄弟姉妹全員が第3順位の法定相続人として相続権を取得します。
そして、実親側の兄弟姉妹と養親側の兄弟姉妹との間で、法定相続分に違いはありません。
もし相続財産総額が1,000万円、実親側の兄弟姉妹が2人、養親側の兄弟姉妹が3人いたとすれば、兄弟姉妹5人がそれぞれ200万円ずつ遺産を相続すると扱われます。
なお、養親側・実親側の兄弟が遺産分割手続きに関与する場面では、遺産分割協議が難航したり、相続人の連絡先がわからず、各種相続手続きの期限までに遺産分割協議を進めることができなかったりするケースが少なくありません。
遺産分割手続きの時間・労力をできるだけ回避・軽減したいと考えているのであれば、相続問題に強い弁護士へ一度相談することをおすすめします。
特別養子縁組は、養親・養子間に法律上の親子関係を創出するタイミングで、実親・実子間の親子関係を消滅させる制度です。
そのため、特別養子が死亡したときには、実親側の家族関係は相続関係に一切関与することなく、養親側だけで相続手続きを進めることになります。
たとえば、特別養子である被相続人に配偶者・子どもがおらず、養親・実親双方が死亡しているケースについて考えてみましょう。
このケースでは、仮に実親側の兄弟姉妹が存命中であったとしても、特別養子縁組によって家族関係が切れているので、実親側の兄弟姉妹が相続権を取得することはなく、相続権を有するのは養親側の兄弟姉妹だけです。
遺産総額が500万円、養親側の兄弟姉妹が2人いるなら、それぞれ250万円ずつを承継します。
特別養子縁組の事案では、虐待や育児放棄などの事情が絡んで人間関係に亀裂が入っていることが多いため、相続が発生したときに実親側の親族などから根拠のない請求や嫌がらせをされるリスクが生じかねません。
相続問題に注力している弁護士に依頼をすれば、遺産相続手続きに関するアドバイスだけではなく、無関係の第三者からの請求などへの対応策なども実施してくれます。
少しでも不安があるときには、可能な限り専門家の力を借りることをおすすめします。
養子が絡む遺産相続問題は、さまざまな理由から深刻なトラブルが生じる可能性が考えられます。
たとえば、実子の兄弟の中には、養子の兄弟が法定相続権を有することによって相続分の割合が減少することに不満を感じる方もいるでしょう。
「養子で途中から家族に入っただけなのに、自分と同じ金額相続できるのはおかしい」「遺産分割協議では養子よりも実子である自分の意見が尊重されるべきだ」「養子なのだから相続放棄をするべきだ」などの意見を主張されると、遺産分割に関する話し合いがなかなかまとまらず、場合によっては遺産分割調停・遺産分割審判に至るまで紛争が長期化しかねません。
このように、相続関係の民法上のルールでは養子に相続権が認められる場合でも、感情的なもつれが原因で遺産相続問題が深刻化するケースも少なくありません。
遺産分割方法がまとまらないと、いつまでも相続財産を承継できず、各種相続手続きの時間的な余裕もなくなることが想定されます。
養子の兄弟が絡む相続が発生した際には、トラブルに発展する前に相続問題に注力する弁護士へ相談をすることをおすすめします。
養子の兄弟が相続に絡むような事案では、当事者全員がさまざまな感情や考えを抱くため、相続トラブルが深刻化するリスクが高くなります。
特に、養子が原因で相続分が減ることに実子側が抵抗を示しているような事案、親の離婚・再婚が原因で双方の家族関係が円滑ではないような事案では、遺産分割協議はスムーズに進みにくいと考えられます。
ですから、「自分が死亡したあとに実子・養子の兄弟間でトラブルが生じるのは避けたい」と希望するなら、終活の一環として遺産問題のノウハウに長けた弁護士に遺言書の作成を依頼するのがおすすめです。
また、被相続人の死亡後、養子・実子の兄弟間で交渉が難航しそうな気配があるときには、遺産分割協議がスタートする前に専門家にアドバイスを求めるとスムーズです。
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