養子縁組が原因で、相続トラブルに発展してしまうケースは珍しくありません。
しかし、そのトラブルには対策できるものも多く、生前の準備が非常に重要になります。
そこで本記事では、養子縁組を検討している方に向けて、以下の内容について説明します。
本記事を参考に、養子縁組が原因の相続トラブルを防止できるようになりましょう。
民法と相続税法では、養子の取り扱いが異なります。
ここでは、相続における養子縁組の基本ルールについて説明します。
民法上、実子と養子の相続権に差は設けられておらず、いずれも第1順位の法定相続人となります。
(嫡出子の身分の取得)
第八百九条 養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得する。
(子及びその代襲者等の相続権)
第八百八十七条 被相続人の子は、相続人となる。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
養子縁組をした場合、養子は実子と同じ身分を得ることになります。
養子を含め被相続人の子どもが複数人いる場合は、同じ法定相続分となります。
民法上、養子にできる人数に制限はありません。
一方、相続税法上は、以下のように法定相続人となる養子の人数に制限が設けられています。
2 前項の相続人の数は、同項に規定する被相続人の民法第五編第二章(相続人)の規定による相続人の数(当該被相続人に養子がある場合の当該相続人の数に算入する当該被相続人の養子の数は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める養子の数に限るものとし、相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続人の数とする。)とする。
一 当該被相続人に実子がある場合又は当該被相続人に実子がなく、養子の数が一人である場合 一人
二 当該被相続人に実子がなく、養子の数が二人以上である場合 二人
引用元:相続税法 | e-Gov法令検索
養子縁組が原因の相続トラブルには、以下のようなものがあります。
ここでは、養子縁組が原因で起こり得る相続トラブルについて説明します。
養子縁組により、法定相続人が増えた場合、配偶者や実子から反感を買う可能性があります。
相続人が配偶者と子ども1人の場合、法定相続分はそれぞれ2分の1ずつとなります。
しかし、養子が増えた場合、子どもの法定相続分はそれぞれ4分の1に減ってしまいます。
このことから実子は反感を覚えてしまい、遺産分割協議などが難航してしまう可能性が高いのです。
孫を養子にした場合は、相続税の2割加算が適用されます。
そのため、ほかの人を養子にする場合に比べ相続税の負担が重くなります。
節税対策のために養子縁組にしたのに、かえって相続税が増えるなどのトラブルがないよう注意しましょう。
養子縁組は、相続税対策として用いられることもあります。
しかし、養子縁組により不当に相続税を回避した場合、不当減少養子と判断されるリスクがあります。
不当減少養子と判断された場合、その養子を相続税法上の法定相続人に含めることができなくなります(相続税法第63条)。
その結果、相続税の基礎控除額が少なくなり、相続税が発生してしまう可能性があるでしょう。
養子がいる場合に多い相続トラブルを防止するためには、以下のような方法が考えられます。
ここでは、被相続人ができる養子縁組による相続トラブルを回避する方法について説明します。
養子縁組をする場合、法律上、親族の同意は必要ではありません。
しかし、相続トラブルに発展する可能性が高いため、事前に相続人に説明しておくことが望ましいです。
「なぜ養子を迎えるのか」「相続ではどうしてほしいのか」などを十分説明しておくようにしましょう。
養子を迎えている場合は、相続トラブルを防止するために、遺言書を残しておくことをおすすめします。
遺言書があれば遺産分割協議をする必要がなくなるため、話し合いが進まないなどのトラブルを回避できます。
また、遺言書に自分の思いを書き残しておくことで、ほかの相続人が受け入れてくれる可能性が高まるでしょう。
生前に養子縁組を解消しておくことで、相続トラブルを防止できます。
たとえば、再婚相手の連れ子と養子縁組を組んでいる場合、その子どもとの養子縁組を解消しておくといったことが考えられます。
ただし、養子縁組を解消するには協議が必要になり、相手が拒否した場合は調停や訴訟などが必要になります。
養子縁組以外にも、以下のような方法で第三者に財産を渡すことができます。
ここでは、養子縁組以外の方法で、ほかの人に自分の財産を渡す方法をそれぞれ解説していきます。
生前贈与をおこなうことで、第三者に自分の財産を渡すことができます。
ただし、贈与する財産を被相続人が使うことができなくなるので注意が必要です。
また、基礎控除額を超えると贈与税が発生してしまうという点にも注意しましょう。
死因贈与とは、贈与者と受贈者の間で契約を交わし、贈与者の死亡とともに効力が発生する贈与のことです。
また、受贈者に対して何かしらの義務や負担などを強いられる負担付死因贈与契約にすることができます。
生前贈与とは異なり、被相続人が生きている間は財産を自分のものとして扱えることがメリットでしょう。
遺贈とは、遺言書を使って財産を受遺者に渡す方法のことです。
相続人だけでなく、孫や内縁の妻など、相続人以外の人にも財産を渡すことができます。
また、生前贈与や死因贈与と異なり、被相続人(遺言者)の意思だけで成立させることができます。
生命保険の受取人は、原則として被保険者の配偶者と2親等以内の親族とされています。
しかし、昨今は内縁関係や同性のパートナーを受取人に指定できるケースが増えています。
死亡保険金の受取人をこのような方に指定すれば、無理に養子縁組をしなくても財産を渡すことができます。
被相続人となる方は、養子縁組をするにあたって以下の注意点も知っておくべきでしょう。
ここでは、相続トラブル以外の養子縁組の注意点を説明します。
養子縁組を解消するためには、原則として養親と養子が話し合い、役所に離縁届を提出する必要があります。
しかし、養子が離縁に応じないこともあり、その場合は離縁調停や離縁訴訟で離縁を求めることになります。
ただし、訴訟を提起したとしても、法律上の離縁理由を証明できない場合には離縁するのが難しいでしょう。
(裁判上の離縁)
第八百十四条 縁組の当事者の一方は、次に掲げる場合に限り、離縁の訴えを提起することができる。
一 他の一方から悪意で遺棄されたとき。
二 他の一方の生死が三年以上明らかでないとき。
三 その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
養子は、被相続人の財産を相続することもできますし、相続放棄をすることもできます。
そして、相続放棄をされた場合、被相続人が望む相続が実現できなくなってしまうのです。
養子の相続放棄を防ぐには、養子縁組の前に養子候補者と十分話し合い、相続に関する意向や考えを確認しておくことが重要になるでしょう。
養子の子どもが代襲相続できるかどうかは、以下のようにその子どもが生まれた時期によって異なります。
養子縁組により法律上の親子関係が生じる前に生まれた子どもは、代襲相続ができません。
一方、養子縁組のあとに生まれた養子の子どもは、代襲相続者になる可能性があるので間違えないようにしましょう。
養子縁組が原因で起こる相続トラブルの多くは、事前に対策をしておくことで回避することができます。
しかし、対策をしようと思っても、遺言書の作成方法や内容を間違えるとかえってトラブルが大きくなります。
そのため、養子縁組や相続対策などを検討しているなら、一度、弁護士に相談しておくことをおすすめします。
弁護士に相談・依頼をすれば、相続トラブルの防止に役立つ遺言書を作成できるようサポートしてくれます。
また、そもそも養子縁組をするべきか、ほかの解決策が適しているかなどのアドバイスもしてくれるでしょう。
まずは「ベンナビ相続」で相続トラブルの解決が得意な弁護士を探して、相談してみることをおすすめします。
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