生活保護の受給中に遺産相続を控えており、生活保護は打ち切られないのか、そもそも遺産相続はできるのかなど、さまざまな疑問や不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
実際のところ、生活保護を受けている人者であっても遺産相続はできます。
しかし、遺産相続の内容によっては生活保護が受給停止・廃止になる可能性もあるので、できる限り早い段階で信頼できる弁護士に相談し、今後の対応について助言してもらうことが大切です。
本記事では、生活保護受給者が遺産相続する際に知っておくべきポイントを詳しく解説します。
生活保護費の返還請求がおこなわれるケースや、生活保護受給者が遺産相続をする際の主な相談先なども紹介するので、ぜひ最後まで目を通してみてください。
生活保護受給者であっても遺産相続自体はできます。
相続人として遺産を引き継ぐことは、相続権がある全ての人に認められている権利であり、生活保護を受給しているかどうかは関係ありません。
ただし、遺産相続によって生活保護受給者の生活状況が変化する場合、生活保護の受給資格を満たさなくなる可能性がある点には注意しておきましょう。
遺産相続にあたって相続税が発生する場合は、通常通りに納税する必要があります。
生活保護者であっても、相続税の納税義務があることに変わりありません。
なお、相続税が発生するのは、相続する財産の額が相続税の基礎控除額を超えたときです。
基礎控除額は法定相続人の人数によって変動しますが、少なくとも3,600万円は控除されるので、実際には相続税が発生しないケースも多くあります。
しかし、相続財産に不動産が含まれる場合などは、財産の額が基礎控除額を上回り、相続税が発生することもあるので十分注意しておきましょう。
生活保護受給者も遺産相続は可能ですが、金額によっては生活保護の受給が廃止・停止される可能性はあります。
そもそも生活保護制度は、最低限度の生活を保障するための制度です。
遺産を相続したことで生活に困窮しなくなった場合には、生活保護の受給が廃止・停止されます。
なお、生活保護の受給が「廃止」されると生活保護受給者ではなくなるので、税金の免除などが受けられなくなる点にも注意してください。
また、遺産相続後に再び困窮するような状況に陥った場合、「停止」状態なら再申請によってすぐに生活保護費の支給が再開されますが、「廃止」となった状態では再度審査がおこなわれることも覚えておきましょう。
(基準及び程度の原則)
第八条
保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。
2 前項の基準は、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて、且つ、これをこえないものでなければならない。
引用元:生活保護法| e-Gov法令検索
(保護の停止及び廃止)
第二十六条
保護の実施機関は、被保護者が保護を必要としなくなつたときは、速やかに、保護の停止又は廃止を決定し、書面をもつて、これを被保護者に通知しなければならない。
第二十八条第五項又は第六十二条第三項の規定により保護の停止又は廃止をするときも、同様とする。
引用元:生活保護法| e-Gov法令検索
相続する財産が生活保護費を下回る少額であれば、生活保護に影響しません。
相続した財産を使っても最低限度の生活を維持できないようなら、引き続き生活保護費を受給できます。
たとえば、現金を相続したものの1ヵ月の生活費に満たない場合は、生活保護に影響を与えないことがほとんどでしょう。
ただし、状況次第では一定期間だけ生活保護費が減額となるようなケースも考えられるので、あらかじめ専門家や行政機関に相談しておくことが重要です。
相続財産がいくらまでなら生活保護の受給が続けられるかという点については、具体的な基準がありません。
ただし、財産を相続したものの、6ヵ月以内に再び保護を要する状態になることが予想される場合は、「停止」にとどまるケースが一般的です。
一方、6ヵ月を超えて保護を要しない状態が継続すると予想される場合は、「廃止」になることがあります。
そのため、100万円の預貯金を相続するのであれば、6ヵ月分の保護費の額を超えてしまい、生活保護の受給が「廃止」になる可能性も十分あるでしょう。
とはいえ、個々のケースによって判断が変わることもあるので、担当のケースワーカーと相談することが大切です。
居住用不動産など生活に必要なものであれば、相続しても生活保護は支給され続けます。
たとえば、親名義の家に住みながら生活保護を受給している中で親が亡くなり、家を相続するケースなどが該当するでしょう。
家を相続する場合でも生活に必要であることが認められれば、そのまま生活保護費を受け取ることができます。
ただし、持ち家がある状態で別の建物を相続した場合や、資産価値が高く換金可能な建物を相続した場合は、受給が停止・廃止されることもあるので注意が必要です。
ここでは、遺産相続をする際に生活保護費が返還請求される可能性のあるNG行為を3つ紹介します。
生活保護費の不正受給はしてはならず、刑事責任を問われるリスクがあるため、正しく相続手続きを進めることが大切です。
福祉事務所に遺産相続することを隠していると、生活保護費の返還を請求されるかもしれません。
相続による収入の変化は、生活保護費の受給可否や受給額の決定に大きな影響を与えます。
そのため、遺産相続によって収入が増えたにもかかわらず、生活保護費をそのまま受給していたことが発覚すれば、当然、返還を求められることになるでしょう。
法律上も収入の変動があった場合には、福祉事務所に届出をおこなわなければならないことが定められています。
(届出の義務)
第六十一条
被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。
引用元:生活保護法| e-Gov法令検索
遺産相続をして財産が手に入るのにもかかわらず生活保護の受給申請をした場合も、生活保護の返還を求められることがあります。
生活保護は、最低限度の生活を過ごす基準の収入等がない方が利用できる制度です。
そのため、ある程度の財産を相続することがわかっていたにもかかわらず、生活保護の受給申請をおこなった場合は虚偽の申請とみなされ、生活保護は即座に廃止となります。
状況次第では、過去に受給した保護費を遡って返還請求され、刑事責任を問われる可能性もあるので十分注意してください。
相続が発生する可能性がある場合は、早めにケースワーカーに相談しましょう。
状況に応じて、受給継続の判断や、財産管理に関する適切な手続きを案内してもらえます。
生活保護が打ち切られないために、合理的な理由がないにもかかわらず、意図的に相続財産を減らすのもNG行為です。
生活保護は、生活が成り立たないほどの経済的困窮者を支援する制度であり、相続財産を隠したり、移動させたりして意図的に収入や資産を減らそうとする行為は、本来の趣旨から大きく外れます。
場合によっては、生活保護費の返還を求められるだけでなく、詐欺罪の罪に問われ、刑罰を受ける可能性も否定できません。
生活保護費の受給中に相続が発生するときは、地域の福祉事務所や弁護士などの専門家に相談し、適切な対応を助言してもらうことが大切です。
相続放棄を考える場合、その選択が生活保護に与える影響を理解することが重要です。
ここでは、生活保護受給者が相続放棄する際に知っておくべきポイントを解説するので参考にしてください。
生活保護の受給者でも相続放棄すること自体は可能ですが、場合によっては生活保護を打ち切られてしまう可能性があります。
生活保護は、資産や能力、その他あらゆるものを生活維持のために活用することを要件としておこなわれるものです。
それにもかかわらず、相続放棄をする理由がない状況で、生活保護を維持することを目的として意図的にあえて相続放棄を選択し、財産を活用できない状態にしてしまうと、生活保護の受給要件を満たさなくなるおそれがあるので十分注意しておきましょう。
生活保護受給者が相続放棄をしたとしても、必ず生活保護が打ち切られるわけではありません。
ここでは、生活保護受給者の相続放棄が問題にならないケースについてそれぞれ解説していきます。
借金をはじめとしたマイナスの財産がプラスの財産を上回る場合は、相続放棄しても問題にはなりません。
生活保護制度の趣旨は、最低限の生活を保障し自立を助けることです。
生活に役立つ資産があれば原則として相続を求められますが、借金を相続してしまうような場合は、むしろ相続放棄したほうが受給者の自立に資すると判断されることがあります。
処分が困難な不動産が相続財産に含まれる場合も、基本的に相続放棄は問題にならないでしょう。
たとえば、利用価値の低い農地や古い家屋などを相続すると、管理費用がかかり生活費の負担が増えてしまう可能性があるためです。
生活保護制度の目的は受給者の最低限度の生活を保障することにあるため、かえって生活環境を悪化させかねない資産があれば相続放棄も認められます。
ただし、相続財産の内容や受給者の生活環境を総合的に勘案する必要があるため、相続放棄を検討する際は、担当ケースワーカーなどに相談して適切なアドバイスを受けることが重要です。
次に、生活保護受給者が遺産相続をする際の主な相談先を紹介します。
それぞれに受けられるサポートの内容が異なるので、自身が置かれている状況にあわせて適切に使い分けましょう。
生活保護受給者が遺産相続をする場合は、まずケースワーカーに相談してみましょう。
ケースワーカーに相談すれば、遺産相続が生活保護に与える影響についてアドバイスしてくれます。
普段からやりとりのあるケースワーカーであれば、相続に関するプライベートな問題も相談しやすいはずです。
また、福祉事務所への報告をはじめ、今後必要になる手続きに関しても個別具体的なサポートを得られます。
生活保護受給者が遺産相続する場合は、弁護士に相談してみるのもよいでしょう。
弁護士に相談すれば、遺産相続全般のアドバイスを受けることができます。
遺産相続が生活保護に与える影響を法的な観点から助言してもらえるだけでなく、ほかの相続人との交渉や遺産分割協議書の作成、相続放棄の手続きなどを全て任せることも可能です。
生活保護受給者にとって遺産相続は、その後の生活を大きく変える要因にもなりかねないので、手遅れになる前にできるだけ早く弁護士に相談することをおすすめします。
生活保護を受給している中で遺産相続が生じた場合は、なるべく早く弁護士に相談しましょう。
相続は、生活保護の受給資格や受給額に大きな影響を与えるものです。
適切に対応しなければ、生活保護費が大幅に減額されたり、生活保護そのものが打ち切られたりすることもあるかもしれません。
そのため、弁護士に相談し、適切なアドバイスをしてもらうことが大切です。
場合によっては、相続放棄をおこなわなければならないケースもありますが、弁護士に相談・依頼していれば面倒な手続きを全て任せられます。
相続に関係する相談がしたいときは、ベンナビ相続で弁護士を探すのがおすすめです。
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無料相談に対応している弁護士だけをピックアップすることもできるため、費用面が気になる方は有効に活用してみてください。
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