遺産分割協議証明書とは、遺産分割協議の結果に対して相続人が合意したことを証明するための書類です。
しかし、似たような名前の書類に遺産分割協議書があり、どのような違いがあるのかや、それぞれどのようなタイミングで使うのか、よくわからないという方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、遺産分割協議証明書について詳しく解説します。
遺産分割協議書との違いや、遺産分割協議証明書を作成するメリットについても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
遺産分割協議証明書と遺産分割協議書は、どちらも遺産相続における遺産分割協議の結果を記した書類ですが、作成方法などに違いがあります。
以下では、遺産分割協議証明書の役割を詳しく解説したうえで、遺産分割協議書との違いについて紹介します。
遺産分割協議証明書とは、遺産分割協議の結果、どのような内容で相続人が合意したのかを証明する書類です。
遺産分割協議証明書を作成する際には、遺産分割協議の結果をまとめて記載し、遺産分割協議証明書を用いる相続人が署名・押印をおこないます。
遺産分割協議証明書は、遺産分割協議の結果を証明するものとして、以下のような相続手続きに用いることが可能です。
遺産分割協議の結果をまとめ、その内容を証明する書類としては、遺産分割協議証明書と遺産分割協議書の2つがあります。
2つの書類の大きな違いは、署名・押印をおこなう人にあります。
遺産分割協議証明書は、その書類を使用する相続人一人だけが署名・押印しますが、遺産分割協議書は相続人全員の署名・押印が必要となります。
そのほかの違いとして、遺産分割協議証明書は署名・押印した相続人の相続財産のみを記載すればよいのに対して、遺産分割協議書には相続財産の内容を全て記載しなくてはいけません。
それぞれの違いを比較すると、下表のようになります。
遺産分割協議証明書 |
遺産分割協議書 |
|
署名押印する人 |
特定の相続人のみ |
相続人全員 |
署名押印する用紙 |
それぞれ別の用紙 |
同じ用紙 |
掲載する内容 |
遺産分割協議で決まった全ての内容を掲載するのが推奨されているが、署名・押印する相続人が取得する財産についてのみ掲載した場合も有効 |
遺産分割協議で決まった内容全て |
作成日 |
各相続人が署名・押印した日 |
遺産分割協議の合意がおこなわれた日付 |
作成数 |
相続人の人数分が必要 |
1通でも良い |
遺産分割協議証明書を作成することには、以下3つのメリットがあります。
では、それぞれのメリットを詳しく見ていきましょう。
遺産分割協議証明書を作成するメリットに、比較的簡単に作成できることが挙げられます。
記載する遺産分割の内容は自身が相続する財産のみに限られ、署名・押印も自身のもののみで作成が完了します。
一方、遺産分割協議書を作成するには、全ての相続財産を記載し、相続人全員分の署名・押印が必要です。
相続手続きには期限が設けられているものもあるため、時間をかけずに作成できることは、遺産分割協議証明書を選択する大きな理由になるでしょう。
遺産分割協議証明書であれば、相続人の数が多くても短時間で作成できます。
遺産分割協議証明書は、相続人がそれぞれ別の用紙に署名・押印する形式です。
そのため、相続人全員がひとつの用紙に署名・押印をおこなう遺産分割協議書とは異なり、遠方に住む相続人や連絡の取りづらい相続人がいた場合でも、遅滞なく作成作業を進めることができます。
わざわざ相続人同士が集まったり、郵送したりする手間を考えると、遺産分割協議証明書を活用することで大きな時間短縮になるはずです。
遺産分割協議証明書のメリットのひとつは、紛失などのトラブルが起きても大きな問題にはなりにくい点です。
遺産分割協議証明書は、各相続人が別々の用紙で作成しているので、その一枚だけを作成し直すだけで済みます。
一方、遺産分割協議書は、ひとつの書類に相続人全員の署名・押印を集めていく必要があるため、紛失や破損などのトラブルが生じると、再作成に手間と時間がかかってしまうのです。
たとえば、書類管理が苦手な方などには、遺産分割協議証明書の作成をおすすめします。
一方で、遺産分割協議証明書を作成することには、以下のようなデメリットも存在します。
メリットとデメリットの両方を確認したうえで、遺産分割協議証明書を利用するべきかどうかを判断するようにしましょう。
協議が十分におこなわれない可能性がある点は、遺産分割協議証明書のデメリットといえるでしょう。
遺産分割協議証明書は、各相続人が個々に作成できるものです。
そのため、相続人間でのコミュニケーションがうまく取れていないケースでは、十分な合意形成がおこなわれないまま、遺産分割協議証明書が作成されてしまうことがあります。
しっかりと内容を確認し合意をしたうえで、署名・押印をおこなうようにしましょう。
遺産分割協議証明書は相続人がそれぞれ作成するため、協議内容に虚偽のものが含まれていたり、署名や押印が偽造されていたりする可能性があります。
そのため、各相続人が作成した遺産分割協議証明書は、お互いにしっかりと確認し合うことが必要です。
また、押印に関しては印鑑登録証明書の提出をお願いするのも、対策のひとつになるでしょう。
遺産分割協議証明書は相続人それぞれが作成できますが、最終的には、全員分の遺産分割協議証明書が揃わなければ、遺産分割の効力は生じません。
一人でも遺産分割協議証明書の作成が止まってしまうと、その後の手続きを進めることもできなくなってしまうため、事前にその重要性について確認したり、期日を決めたうえで対応してもらったりすることが大切です。
以下のようなケースにおいては、遺産分割協議書ではなく遺産分割協議証明書を作成することをおすすめします。
相続人が遠方にばらばらに住んでいる場合など、全員で集まることが困難なケースであれば、遺産分割協議証明書を作成することをおすすめします。
全員分の署名・押印が必要になる遺産分割協議書とは異なり、遺産分割協議証明書は相続人それぞれが作成できるため、署名・押印を集める手間を減らすことが可能です。
相続人の数が多く、相続人が一同に介するタイミングを作りづらいケースにおいても、遺産分割協議証明書の作成がおすすめです。
遺産分割協議書の場合は、一枚の用紙に相続人全員が署名・押印していくことになるので、相続人の数が多ければ多いほど完成までに時間がかかります。
一方、遺産分割協議証明書であれば、各相続人が作成した書類を一つに集めるだけで済むので、大幅な時間短縮が可能です。
また、相続人それぞれのタイミングで作成ができるため、仕事や育児が忙しい人でも比較的対応しやすいといえます。
遺産分割協議証明書の作成は相続人それぞれがおこなうため、なかなか連絡がつかない相続人の対応を一旦後回しにするという選択肢がとれます。
まずは、連絡の取れる範囲の人から遺産分割協議証明書を作成してもらうことで、ストレスなく作成を進めていけることでしょう。
しかし、相続人全員から揃わないと結局遺産分割の効力が生じませんので、たとえば1つの遺産不動産を相続人の誰かに集約するような事案では、遺産分割協議証明書ではなく、相続分譲渡証書で、特定の誰かに相続分を寄せて、連絡が取れない相続人だけに遺産分割調停の申立てをするなどの方策が考えられます。
以下では、遺産分割協議証明書のひな型を紹介します。
遺産分割協議証明書は、自身が相続する財産を記載する場合と、全相続人の相続財産を記載するものの2パターンがありますが、以下では全相続人の相続財産を記載するパターンを紹介します。
遺産分割協議証明書 被相続人 アシロ太郎 本籍地 東京都新宿区西新宿⚫️丁目⚫️番⚫️号 最後の住所地 東京都新宿区西新宿▲丁目▲番▲号 生年月日 昭和⚪️年⚪️月⚪️日 死亡年月日 令和×年×月×日 被相続人アシロ太郎(以下「被相続人」という。)の遺産相続につき、相続人全員で遺産分割協議をおこない、以下のとおり遺産分割協議が成立したことを証明する。 1.次の不動産は相続人アシロ一郎が相続する。 (1)土地 所 在 東京都新宿区西新宿⚫️丁目 地 番 ⚫️番⚫️号 地 目 宅地 地 積 ⚫️⚫️⚫️.⚫️⚫️㎡ (2)建物 所 在 東京都新宿区西新宿⚫️丁目⚫️番地⚫️号 家屋番号 ⚫️番⚫️ 種 類 居宅 構 造 鉄筋コンクリート造陸屋根2階建 床面積 1階 ▲▲.▲▲㎡ 2階 ▲▲.▲▲㎡ 2.次の預貯金は相続人アシロ次郎が相続する。 (1)預貯金 ××銀行××支店 普通預金 口座番号××××××× 口座名義人 アシロ太郎 3.本書に記載のない遺産および遺産分割後に判明した遺産は、負債も含めてアシロ次郎が相続する。 令和×年×月×日 住所 大阪府××市××町×番×号 生年月日 昭和⚪️⚪️年⚪️月⚪️日 相続人(次男) アシロ次郎 (印) |
遺産分割協議証明書を作成する際は、以下の項目を押さえるようにしましょう。
また、記載する際に注意すべきポイントについてそれぞれ紹介します。
まずは、被相続人の情報を記載します。
必要な項目は以下のとおりです。
これらの項目は、戸籍や住民票の除票を参考に記載すれば問題ありません。
続いて、相続人それぞれが相続する財産を記載します。
記載する際には曖昧な記載を避け、どの相続人がなんの財産を相続するのかはっきりと記載しましょう。
続いて、遺産分割協議証明書を作成した日付を記載します。
なお、遺産分割協議証明書は相続人それぞれが作成しますが、作成年月日を無理に統一する必要はありません。
上記の項目を記載したら、相続人の情報を記載します。
必要な項目は以下のとおりです。
なお、住所や氏名は手書きで記載するのが望ましいですが、パソコンで入力し印字したものでも有効となります。
最後に、氏名の隣に実印で捺印します。
なお、修正が必要な点や誤りが発覚した際に備えて、捨印するようにしていれば、後々スムーズに修正対応をおこなえます。
遺産分割協議証明書を作成したあとは、以下の流れで手続きを進めます。
自身が代表して遺産分割協議証明書を作成する場合は、各相続人に署名・押印してもらう必要があります。
ただし、いきなり家に押しかけたり証明書を郵送で送ったりしてしまうと、トラブルが生じる可能性があります。
署名・押印をしてもらう際には、遺産分割協議の内容にしっかりと合意をしてもらったうえで、あらかじめ話を共有し対応してもらうようにしましょう。
押印してもらった印が実印であることを証明するためには、印鑑登録証明書の添付が必要となります。
そのため、遺産分割協議証明書に署名・押印を求める際に、あわせて受け取るようにしましょう。
遺産分割協議証明書に署名・押印してもらい、全員分が揃ったら各種相続手続きに利用できます。
弁護士や司法書士といった専門家に相続手続きを依頼する場合は、相続人全員分遺産分割協議証明書をまとめて預けてしまえば、問題なく対応してもらえます。
遺産分割協議証明書は、本来遺産分割協議をおこなったうえで作成するものです。
しかし、遺産分割について話が十分におこなわれていないまま、いきなり遺産分割協議証明書が送られ、署名・押印を求められるケースも存在します。
もし遺産分割協議証明書がいきなり送られてきた場合は、内容をしっかりと確認したうえで慎重に署名・押印をおこないましょう。
できれば遺産分割協議証明書を送ってきた相続人や、ほかの相続人に状況を確認してから対応を検討するのが好ましいといえます。
もしよくわからないまま署名・押印し、返送してしまった場合、遺産分割協議の内容に合意したとみなされます。
たとえ不利な条件であったとしても、あとから「記載内容がよくわからないまま署名捺印をしてしまった」といった主張は認められないことが考えられます。
記載内容が理解できず不安がある方は、弁護士などの専門家への相談を検討してください。
最後に、遺産分割協議証明書についてのよくある質問とその回答を紹介します。
相続放棄をした人は、遺産分割協議証明書を作成したり署名・押印したりする必要がなくなります。
相続放棄は、相続人としての権利がはじめからなかったものとして扱われるようになる手続きです。
そのため、相続に関する手続きは一切おこなう必要がなくなります。
ただし、相続放棄したことを証明できる相続放棄受理証明書は、家庭裁判所にて取得しておきましょう。
ほかの相続人が相続手続きを進めるなかで必要になる場合があります。
なお、相続人全員が相続放棄をおこなった場合も、遺産分割協議証明書の作成は不要です。
相続人が一人であればそもそも遺産分割そのものが発生しないため、遺産分割協議証明書の作成は不要です。
遺産分割協議の成立日は、遺産分割協議証明書の中で最も遅い日付となります。
なお、遺産分割協議証明書に記載する作成年月日の記載は、相続人ごとにばらばらでも問題ありません。
遺産分割協議証明書は、遺産分割協議での合意内容を示す書類であり、さまざまな相続手続きに用いることが可能です。
相続人それぞれが別々の用紙に署名・押印すれば済むので、遺産分割協議書よりも簡単に作成できます。
ただし、遺産分割協議証明書を作成する場合であっても、十分な話し合いがおこなわれたうえで合意を得る必要があることは、遺産分割協議書の作成と変わりません。
遺産分割協議証明書の作成や遺産分割の手続きそのものに対して不安がある場合は、弁護士などの専門家への相談を検討するようにしましょう。
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