不動産相続に関する弁護士相談をご検討中の方へ
共有名義の不動産を所有しており、もう片方の名義人が亡くなった場合、「相続登記はどのように進めればよいのか?」と戸惑う人は少なくありません。
自分の持ち分には変動がない場合でも、亡くなった人の持ち分については法定相続人による名義変更が必要であり、そのまま放置してしまうと後々トラブルに発展するおそれもあります。
そこで本記事では、共有名義で片方が死亡した場合の相続登記についてわかりやすく解説します。
トラブル回避のためのポイントについても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
共有不動産をスムーズに管理・処分していくためにも、早い段階で正しい手順を把握し、必要に応じて専門家の力を借りることが大切です。
共有名義不動産の一方の名義人が死亡した場合、故人の共有持分については基本的に以下のように処理することになります。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
前提として、共有名義のうち一方が亡くなった場合、その人の持分は故人の相続人に引き継がれます。
たとえば、父と長男で5,000万円の二世帯住宅を購入し、それぞれ2,500万円ずつ負担したことによって2分の1ずつの共有持分となっているようなケースはよくあります。
この状態で父が死亡した場合「父の分の持分は長男が引き継ぐ」というのは誤りです。
父の持ち分については、長男以外も含めた父の法定相続人にあたる家族に引き継がれることになります。
共有名義不動産の持分は、被相続人の死亡によって「相続財産」の一部となり、預貯金、動産、株式などのほかの財産と同様に、相続手続きの対象となります。
そのため、相続人はほかの相続財産と同様に、不動産の共有持分をどう引き継ぐかを協議・調整しなければなりません。
そして、相続によって登記名義を変更する際は、戸籍謄本や遺産分割協議書など必要書類をそろえ、法務局で相続登記をおこなう必要があります。
なお、共有名義のまま放置しておくと、不動産の処分や担保設定ができないほか、将来的にさらなる相続が重なることで手続きが煩雑になるリスクもあります。
そのため、共有名義の不動産についても早めに遺産分割協議をおこない、名義変更をおこなうことが大切です。
被相続人に法定相続人が一人もいない場合、その共有持分は民法第255条に従って、最終的にはもう一方の共有者に帰属します。
ただし、被相続人に内縁の妻や療養看護に努めた人などの特別縁故者がいる場合は、財産分与の申し立てにより特別縁故者に共有持分が分与されるケースもあります。
共有名義人の片方が亡くなった場合の相続登記までに必要な手続きの流れは、以下のとおりです。
なお、詳しい流れについて知りたい場合は、以下の記事も参考にしてください。
相続手続きは、まず被相続人が遺言書を残しているかどうかの確認から始めましょう。
公正証書遺言がある場合は、公証役場で原本を保管しているため、比較的簡単に内容を確認できます。
一方、自筆証書遺言や秘密証書遺言が見つかった場合は、家庭裁判所で検認の手続きを受けなければなりません。
検認を行ったうえで、遺言書が法的に有効であれば、そこに書かれたとおりに相続登記を進めることができ、遺産分割協議を省略できます。
ただし、形式不備で無効となる場合もあるため、内容の確認は慎重におこないましょう。
遺言書の有無にかかわらず、相続の際は相続人と相続財産の全容を把握する必要があります。
まず、相続人を調査するためには、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取得し、誰が法定相続人にあたるかを確認します。
また、不動産の相続では固定資産評価証明書や名寄帳などを取得して、対象不動産の内容や評価額を把握しておくことが重要です。
共有名義の持分だけでなく、その他の財産や借金の有無も確認しなければ、後々の協議や相続放棄などに影響を及ぼすため、必要に応じて専門家の手も借りながら正確な調査をおこないましょう。
相続人の調査が終わったら、その情報をもとに法定相続人を確定させます。
相続の際は、法定相続分に従う場合や遺産分割協議をおこなう場合にかかわらず、必ず全相続人の同意が必要です。
相続人のなかに行方不明者がいたり、音信不通の人物が含まれたりする場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任や失踪宣告を申し立てるなど、別途対応をおこないましょう。
遺言書がない場合、相続人全員による遺産分割協議をおこない、共有持分の承継先を決定します。
不動産の持分については「誰が引き継ぐか」「共有状態を継続するか」「売却して現金化するか」などさまざまな選択肢があり、相続人の意見が対立して協議が長引くケースも多いため、速やかに協議に移ることが重要です。
なお、遺産分割協議では相続人全員の合意が必要であり、1人でも反対者がいると成立しません。
協議がまとまったら「遺産分割協議書」を作成し、署名・押印とともに、印鑑証明書を添えて登記申請に用います。
内容に不安がある場合は、司法書士や弁護士に相談するのも有効です。
相続登記は、法務局に対して相続人が被相続人の共有持分を承継したことを申請する手続きです。
2024年4月以降、不動産の相続登記は義務化されており、原則として「相続が開始してから3年以内」に登記しなければなりません。
正確な手続きをおこなわないと登記が完了せず、後々の売却・処分ができなくなるため、専門家のサポートを受けながら進めると安心です。
共有名義の不動産を相続した際、相続登記の手続きは以下の4ステップに従って進めていきましょう。
それぞれについて、具体的に解説します。
不動産の相続の際は「遺産分割協議によって相続」「法定相続分によって相続」「遺言書によって相続」の3パターンがあります。
相続登記をする際には、状況に応じて適切な書類を準備しましょう。
| 必要書類 | 遺産分割協議によって相続する場合 | 法定相続分によって相続する場合 | 遺言書によって相続する場合 |
|---|---|---|---|
| 登記申請書 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 不動産の固定資産評価証明書 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本 | 〇 | 〇 | ※被相続人の死亡時の戸籍のみ |
| 被相続人の住民票除票または戸籍の附票 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 相続人全員の戸籍謄本 | 〇 | 〇 | - |
| 相続人全員の印鑑証明書 | 〇 | - | - |
| 不動産取得者の戸籍謄本 | - | - | 〇 |
| 不動産取得者の住民票 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 遺産分割協議書 | 〇 | - | - |
| 遺言書 | - | - | 〇 |
これらの書類を集めるために、発行手数料などで5,000円〜3万円ほどかかります。
相続登記には「登録免許税」という費用が発生します。
登録免許税は不動産の固定資産税評価額を基に計算され、相続による所有権移転登記の税率は「不動産の評価額 × 0.4%」です。
たとえば、評価額が1,000万円の不動産であれば、登録免許税は4万円になります。
不動産の評価額は、市区町村役場で取得できる固定資産評価証明書によって確認できます。
次に、法務局へ提出する登記申請書を作成します。
申請書に記載する項目は、以下のとおりです。
記載ミスや不備があると、登記が受理されない場合もあるため、法務局の記載例を参考にしながら慎重に作成しましょう。
とくに、共有名義となっている不動産の相続登記の場合、「持分」について、共有者ごとの正確な割合を反映させる必要があります。
必要に応じて弁護士などの専門家の助言も受けながら、遺産分割の内容に沿った申請書を作成しましょう。
必要書類と登記申請書を揃えたら、法務局へ提出して登記申請をおこないます。
提出方法は「窓口提出」「郵送」「オンライン申請」のいずれかですが、初めての相続登記の場合は窓口が安心です。
申請後、問題がなければ1週間~1ヵ月半程度で登記完了となり、登記識別情報通知書が発行されます。
申請書の内容について不備の連絡が来た場合は速やかに対応しましょう。
不動産の共有名義人の一方が死亡した場合、その持分は相続財産となり、相続税の課税対象になります。
相続税は「相続した財産の価額」に応じて課税されるため、不動産全体ではなく、被相続人の「持分」にのみ課税される点がポイントです。
たとえば、土地と建物を夫婦で2分の1ずつの共有で所有しているケースにおいて、夫が亡くなった場合、夫の持分である2分の1の価額が相続財産となり、その部分に対して相続税が課されます。
仮に不動産の評価額が2,000万円だった場合、相続する夫の持分(1,000万円)に対して、基礎控除額などを差し引いたうえで相続税が計算されます。
ここで注意すべきなのは、「全体の価値ではなく持分に課税される」という点を理解しておかないと、相続税負担を過大に見積もってしまう可能性があることです。
また、不動産は現金と違って分割しにくいため、納税資金の確保が難しくなる場合もあります。
状況に応じて、不動産を売却して納税資金を確保するなどの対策も検討する必要があると覚えておきましょう。
相続税の詳しい計算方法や、不動産を相続する際の節税方法などについては以下の記事も参考にしてください。
共有名義の不動産は、所有者の一方が死亡した際に「誰がどの割合を相続するか」「売却や管理をどうするか」などを巡って、相続人間でトラブルになりやすい傾向があります。
そのため、相続発生後に慌てて対応するのではなく、生前に備えておくことが、将来の相続トラブルを防ぐカギです。
ここでは、共有名義不動産の相続トラブルを回避するための4つの方法について解説します。
相続トラブルの予防策としてもっとも基本かつ有効なのが、遺言書の作成です。
遺言書で「誰に相続させるか」「どのように処分してほしいか」を明確に記しておくことで、争いを未然に防げます。
遺言書には自筆証書遺言、公正証書遺言などの種類がありますが、確実性を高めたい場合は公証人の立ち会いのもとで作成される「公正証書遺言」がおすすめです。
遺言書があれば遺産分割協議が不要になる場合もあるため、スムーズな相続手続きにもつながります。
生前のうちに共有持分を子や配偶者に贈与することで、相続時の共有状態を避けるという方法もあります。
たとえば、夫婦で共有名義だった不動産について、夫が生きているうちに妻に全持分を贈与すれば、夫の死後は不動産に関する相続手続きが不要になります。
ただし、生前贈与には贈与税がかかる場合があるため、税負担とのバランスを慎重に検討することが大切です。
年110万円以下であれば贈与税が非課税となる暦年贈与や、相続時精算課税制度を活用する方法など、節税しながら贈与する手段もありますが、税理士など専門家に相談しながら進めるとよいでしょう。
相続トラブルを根本的に防ぐには、共有状態そのものを解消しておくことも検討しましょう。
たとえば、夫婦の共有名義になっている不動産について、どちらか一方が他方の持分を買い取って単独名義にすれば、相続時に共有者が死亡してもその不動産は単独所有のままとなり、ほかの相続人との協議も不要になります。
また、将来的な相続が複雑になると判断した場合には、早めに不動産そのものを売却して現金化しておくのも一つの手です。
現金であれば分割もしやすく、トラブルが起こる可能性も低くなるでしょう。
特に共有名義の不動産は売却や活用に制限が多いため、早めの判断が重要です。
高齢化社会となっている近年、注目されているのが「家族信託」です。
家族信託とは、契約内容に基づいて自分の財産の管理・運用を家族に任せる制度です。
認知症対策として使われることが多いですが、実は自分が亡くなったあとの財産の相続方法についても指定できます。
所有者が元気なうちに信頼できる家族に不動産管理を託しておくことで、死亡後の混乱やトラブルを回避できます。
たとえば、自分と妻の共有名義となっている不動産を、家族信託によって自分の持分は長男に相続させると指定することが可能です。
特に共有不動産に複数の相続人が関与する場合には、家族信託は有効な選択肢です。
ただし、利用には専門知識が必要なため、弁護士や家族信託専門士などの専門家に相談して進めましょう。
本記事では、共有名義不動産の所有者の片方が死亡した時の相続登記の方法や、相続トラブルを回避するための具体的な対策などについて詳しく解説しました。
共有名義の不動産で共有者が死亡した場合、共有持分は自動的にもう一方の共有者に移るわけではなく、法定相続人による遺産分割協議や登記申請が必要になります。
また、共有状態のままでは処分・売却に制限が生じ、後々トラブルに発展することもあります。
そのため、生前から遺言書の作成や家族信託、共有持分の整理などの対策を検討しましょう。
不動産相続のトラブルを避けるためにも、専門家に早めに相談して対処するのがおすすめです。
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