民法では、一定期間の経過など所定の要件を満たした場合、所有権などの権利を取得できる「取得時効」という制度が設けられています(民法162条、163条)。
取得時効が完成して、権利を取得することを「時効取得」と呼びます。
つまり、もともと自己が所有するものでなくても、長い間持ち続けて一定の要件を満たしていれば自分のものになるということです。
遺産相続において、相続財産である土地などを長年放置していたところ、誰かに占有され時効取得が問題になるといったケースもあるでしょう。
権利関係について正しく把握するには時効取得に関する知識が必要不可欠です。
弁護士であれば時効取得に関するトラブルについても依頼者の代理人として問題解決にあたってくれるため、自力での対応が不安な人はサポートしてもらうことをおすすめします。
本記事では、時効取得制度の概要や完成要件、時効取得についてトラブルになった場合の対応や注意点などを紹介します。
自分のケースは時効取得できる?とお困りの方へ
長年にわたって自分が管理している土地や建物を時効取得したい。でも自分のケースは時効取得できるのかな?と悩んでいませんか。
結論からいうと、時効取得についてお悩みなら、弁護士に無料相談することをおすすめします。自分では時効取得できると思っていても、思わぬところでトラブルになることもあるので、プロの意見をもらっておくと安心です。
時効取得について、弁護士へ相談することで以下のようなメリットを得ることができます。
- 自分のケースが時効取得の要件を満たすか判断してもらえる
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この記事に記載の情報は2024年07月19日時点のものです
時効取得とは|制度の概要
民法162条は、所有権の取得時効について定めています。
取得時効では一定の要件を満たすことで、他人の土地や建物の所有権を取得することができます。
このことを時効取得といいます。
ここでは、時効取得の制度概要について解説します。
時効取得という制度がある理由
時効取得が認められると、本来の権利者が権利を失うことがあります。
たとえば、AがBの土地を時効取得した場合、Aが土地の所有権を取得する一方、本来の所有者Bは土地の所有権を失います。
このように、本来の権利者が権利を奪われてしまうような制度がなぜ存在するのか以下で解説します。
法律関係の安定を図るため
ある事実状態が長期間継続すると、それは真実の権利関係を反映したものであると社会に受け取られることが多いといえます。
したがって、それを覆すと社会を混乱させる可能性があります。
そのような事態を避けるためにも、時効制度が設けられていると考えられています。
権利関係の証明が難しい場合に救済するため
長期間継続した事実状態については、真実の権利関係に合致している可能性が高いといえます。
しかし、時間の経過によって権利関係を証明できる資料がなくなり、その証明が困難になるおそれがあります。
このような権利関係の証明の困難を救済するために、時効という制度が設けられているとも考えられています。
「権利の上に眠る者は保護に値しない」という考えがあるため
長期間継続した事実状態がある場合、「その権利者は権利行使を長期間怠っている」という見方もできます。
そして、長期間にわたって権利行使を怠っているような人は権利を失っても仕方がないと考えることができます。
このような考え方は、「権利の上に眠る者は保護に値しない」と表現され、時効という制度が設けられている理由の一つです。
時効取得できる権利・できない権利
ここでは、時効取得できる権利とできない権利について解説します。
時効取得できる権利
所有権・地上権・地役権・永小作権・不動産賃借権などは時効取得の対象になります。
ただし、時効取得に必要な要件は、それぞれの権利によって異なるため、確認することが必要です。
時効取得できない権利
抵当権・留置権・先取特権・1回的な給付を目的とする債権などは時効取得の対象になりません。
また、取消権や解除権などの形成権についても、1回の行使で権利が消滅するため、時効取得の対象になりません。
時効取得についてさらに詳しく知りたい人は、弁護士に相談してみることをおすすめします。
初回相談無料の事務所も多くあるので、気軽に相談してみましょう。
所有権の取得時効の完成要件5つ
所有権の取得時効が完成するための要件としては、主に以下の5つがあります。
- 所有の意思のある占有であること
- 平穏かつ公然の占有であること
- 他人の物を占有していること
- 占有が一定期間継続していること
- 占有開始時に善意無過失であること(短期取得時効の場合)
ここでは、各要件について解説します。
①所有の意思のある占有であること
占有とは物に対する事実的支配のことを指しますが、「所有者のように物を排他的に支配しようとする」所有の意思のある占有でなければ取得時効は成立しません。
所有の意思の有無は、その人の内心によって決定されるのではなく、その物を占有することになった原因や事情によって外形的・客観的に決定されます。
たとえば、売買契約に基づいて物を占有することになった場合は「所有の意思がある」といえます。
売買契約は、所有権の移転を目的とする契約だからです。
一方、賃貸借契約に基づいて物を占有することになった場合は、「所有の意思がある」とはいえません。
賃貸借契約は、物を使用するための契約であって、所有権の移転を目的とする契約ではないからです。
所有の意思を持った占有を「自主占有」、所有の意思を持っていない占有を「他主占有」と呼びます。
所有権の取得時効は自主占有の場合にのみ成立し、他主占有の場合には成立しません。
②平穏かつ公然の占有であること
平穏とは強迫や暴行によるものではないことを指し、公然とは隠していないことを指します。
つまり、強迫や暴行を用いずに占有し、占有している物を隠匿していないことが必要です。
具体的にどのようなケースであれば該当するのか詳しく知りたい人は、無料相談などを活用して弁護士に相談しましょう。
③他人の物を占有していること
民法162条では、取得時効の対象を「他人の物」と定めています。
しかし、永続する事実状態の尊重という観点から、判例においては自分の物を時効取得することもできるとされています。
したがって、厳密には、「他人の物」であることは取得時効の成立要件とはなりません。
④占有が一定期間継続していること
取得時効が成立するためには、一定期間途切れることなく占有が継続している必要があります。
なお、占有を開始した時点の占有者の主観によって期間は異なり、善意無過失である場合は短期取得時効として10年(民法162条2項)、悪意や過失がある場合は長期取得時効として20年(民法162条1項)です。
⑤占有開始時に善意無過失であること(短期取得時効の場合)
10年の短期取得時効が成立するためには、占有開始時に占有者が善意かつ無過失であることが必要です。
ここでいう善意とは、「自分に所有権がある」と信じたことです。
無過失とは、「自分に所有権がある」と信じたことに過失がないことです。
要件の推定
時効取得の要件は多くあるものの、占有していれば「所有の意思」「善意」「平穏」「公然」は推定されます(民法186条1項)。
また、ある時点の占有とそこから20年(短期取得時効の場合は10年)経過時の占有を証明できれば、その間は占有が継続していたことが推定されます(民法186条2項)。
したがって、取得時効の完成を主張する側は、ある時点の占有とそこから20年(短期取得時効の場合は10年)経過時の占有を証明するだけで済み、残りの要件については取得時効の完成を否定する側がこれを満たしていないことを証明する必要があります。
短期取得時効の完成を主張する場合は、以上に加えて無過失も証明する必要があります。
「要件を証明するために何をすればよいかわからない」という人は、弁護士にサポートを依頼しましょう。
弁護士であれば、取得時効の完成要件を満たしているかどうかのチェックや、証明のために必要な対応をアドバイスしてくれるほか、手続きの代理を依頼することもできます。
また、相続での必要書類に関するアドバイスや遺産分割協議などにも対応しており、司法書士や税理士などの専門家と比べると相続分野でのサポート範囲が幅広いことも特徴です。
>土地の時効取得手続きについて知る
時効取得についてトラブルになった場合の対応例
時効取得に関するトラブルには、さまざまなものがあります。
ここでは以下のようなケースについて、対応の一例を解説します。
- 背景①:Aは土地を購入して生活を始めたが、隣接するBの土地の一部も使用していた
- 背景②:Aは自分の土地だと認識してBの土地の一部を使用していた
- 背景③:その後、Bがこの部分の土地をCに売却した
上記のようなケースで、AがBの土地の一部を時効取得するためには、不動産の所有者の情報等を帳簿(登記簿)に記載する登記手続が必要になります。
以下では、Aの立場からの対応について解説します。
取得時効を援用する
Bの土地の一部について取得時効が完成している場合、Aは取得時効を援用します。
時効の援用とは、時効によって利益を受けようとする意思表示のことです。
時効の援用によって、時効の効果が確定的に発生すると考えられています。
時効完成のタイミングを確認する
このケースのように不動産の時効取得の場合、登記の問題もあります。
このケースでは、土地の売却が取得時効の完成の前なのか後なのかによって登記の要否が異なります。
取得時効の完成前に土地が売却された場合
取得時効の完成前にBがCへ土地を売却した場合は、Aは登記をしなくてもCに時効取得を主張できます。
取得時効の完成後に土地が売却された場合
取得時効の完成後にBがCへ土地を売却した場合は、Aは登記をしなければCに時効取得を主張できません。
つまり、この場合は、AとCのうち「先に登記をした人が所有権を獲得できる」ということになります。
裁判所に対する仮処分命令の申立て
時効取得のトラブルでは、裁判所に対し、処分禁止の仮処分命令の申立てをおこなうこともあります。
たとえば、Bに対して土地の処分を禁止する仮処分命令が発令された場合、Bは土地の譲渡など一切の処分ができなくなります。
この場合は、BやCと交渉して問題解決を図り、それでも解決が難しいようであれば訴訟を提起する、といった流れが想定されます。
ただし、当事者同士でトラブルを解決しようとすると、かえって話がこじれて問題が複雑化することもあります。
なるべくスムーズに問題解決したい場合は、弁護士にサポートしてもらうのが有効です。
時効取得について知っておくべき4つの注意点
ここでは、時効取得に関するポイントを解説します。
1.賃借人は所有権を時効取得できない
賃借人として物を占有している場合、所有の意思のある占有にはあたらないため、その物の所有権を時効取得することはできません。
2.不法占拠者でも所有権を時効取得できる
たとえば、土地を不法占拠された状態が長く続けば、その土地は不法占拠者に時効取得される可能性があります。
不法占拠であっても所有の意思のある占有にあたるからです。
ただし、「他人の土地であることを知っている」という状況で不法占拠している場合には、長期取得時効として20年間の占有が必要となります。
3.時効取得すると抵当権が消滅する
土地などの売買によって所有権が移転した場合、その土地に設定されている抵当権も所有権と一緒に移転します。
しかし、抵当権が設定されている土地などを時効取得した場合、その抵当権は原則として消滅します(民法397条)。
4.別荘は時効取得に注意する
普段生活している家などに比べて、別荘は人の出入りが少なく不法占拠に気付きにくいため、時効取得されるリスクに注意する必要があります。
特に、隣地との境界線が曖昧な場合、他人の占有状態が既成事実化して時効取得が成立しないよう気を付けなければなりません。
さいごに|時効取得の問題は弁護士に相談するべき
もともと自分の所有物ではなくても、所有の意思や占有期間などの要件を満たしている場合に、時効を援用すれば所有権を取得できます。
しかし、法律の知識がなく取得時効の成立要件を満たしているかどうか判断できないこともあるでしょう。
弁護士であれば、法的視点から的確なアドバイスが望めるほか、主張・立証などの対応も依頼できるので、まずは一度相談してみましょう。