事業承継に関する弁護士相談をご検討中の方へ
会社を経営する親が亡くなり、相続時の税金についてこのような不安を抱えている方は多いのではないでしょうか。
会社を相続する際は、相続税や贈与税が発生する可能性があるため、正しい知識を身に着けておかなければ、損をしてしまう可能性もあります。
そこで本記事では、会社の相続にかかる税金の基本を一つひとつ丁寧に解説していきます。
税理士・弁護士に相談する前に知っておきたい基礎知識から、賢い節税対策、万が一納税資金が足りなくなった場合の対処法まで、網羅的に紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
会社の相続と聞くと、建物や機械、従業員などをそのまま引き継ぐイメージがあるかもしれません。
しかし、税金の観点から見ると、少し違った捉え方をする必要があります。
まずは、その基本的な考え方から見ていきましょう。
会社は法律上、「法人」という一人の人格として扱われます。
そして、会社そのものを個人が所有するというよりは、会社の所有権を証明する「株式」を持つことで、会社を支配・経営しています。
つまり、会社のオーナーである親は、株式の大部分を保有することで、会社全体の経営権を握っているのです。
したがって、「会社を相続する」ということは、この「会社の株式」を親から引き継ぐことを意味します。
会社の株式を相続する際は、以下2つの税金がかかります。
どちらのタイミングで株式を引き継ぐかによって、かかる税金の種類と、そのあとの対策が大きく変わってくることを覚えておきましょう。
なお、税率だけを見ると相続税よりも贈与税のほうが高く設定されているため、「生前贈与を使う意味はないのでは?」と思うかもしれません。
しかし、相続と贈与のどちらの形で会社を引き継ぐべきかは、個々のケースによって異なります。
以下で紹介する各税金の計算方法も参考にしながら、税理士などの専門家への相談も検討してください。
相続税の計算は非常に複雑で、最終的には税理士などの専門家に依頼するのが一般的です。
しかし、計算の全体的な流れを理解しておくことで、専門家との相談もスムーズに進み、漠然とした不安を解消することができます。
ここでは、相続税がどのように計算されるのか、3つのステップに分けて見ていきましょう。
会社相続の相続税を計算する際は、まず株式の評価額の算出をおこないます。
株式の評価方法は、その株式が証券取引所に上場しているか、していないかでまったく異なります。
以下では、それぞれのケースにおける評価方法を見ていきましょう。
親の会社が上場している場合、株価が毎日公開されているため評価は比較的簡単です。
ただし、株価は日々変動するため、どの時点の価格を使うかで評価額が変わってしまいます。
そこで、相続税の計算では相続人にとって最も有利になるように、以下の4つの価格のうち、一番低いものを選ぶことが認められています。
このルールは、たまたま亡くなった日の株価が一時的に高騰していた、といった不公平が起きないようにするための、いわば「安全装置」のようなものです。
親の会社が上場していない場合、株式は市場で取引されていないため、上場株式のように決まった価格はありません。
そのため、会社の財産や利益の状況などから、国が定めたルールに従って株価を計算する必要があります。
具体的な計算方法は、以下の3つです。
会社の規模によっては、これらの方法を組み合わせて評価することもあります。
非上場株式の評価は非常に専門性が高く、どの方法を用いるかによって納税額が数千万円単位で変わることもあるため、専門家である税理士に相談することが不可欠です。
会社の株式の評価額がわかったら、ほかの財産と合わせて遺産の合計額を算出します。
会社の株式以外に預貯金や土地・建物といった不動産、自動車、生命保険金など、プラスの財産を全て洗い出しましょう。
同時に、借入金や未払金といったマイナスの財産も調査し、プラスの財産の合計額から差し引きます。
こうして、相続税の計算の基礎となる遺産総額が確定します。
遺産総額が確定したら、いよいよ税額の計算に入ります。
ここでもいくつかのステップがあります。
相続税には、誰にでも適用される非課税枠があり、これを「基礎控除」と呼びます。
遺産総額がこの基礎控除額以下であれば、相続税はかからず、申告も不要です。
相続税の基礎控除額の計算方法は、以下のとおりです。
|
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数) |
次に、基礎控除額を差し引いたあとの金額(課税遺産総額)を、法律で定められた相続割合(法定相続分)に従って、各相続人が取得したものとして仮に分けます。
仮に分割した各相続人の取得金額に、下の速算表の税率をかけて、それぞれの税額を計算します。
そして、全員分の税額を合計して「相続税の総額」を算出します。
|
法定相続分に応ずる取得金額 |
税率 |
控除額 |
|
1,000万円以下 |
10% |
- |
|
3,000万円以下 |
15% |
50万円 |
|
5,000万円以下 |
20% |
200万円 |
|
1億円以下 |
30% |
700万円 |
|
2億円以下 |
40% |
1,700万円 |
|
3億円以下 |
45% |
2,700万円 |
|
6億円以下 |
50% |
4,200万円 |
|
6億円超 |
55% |
7,200万円 |
最後に、算出した「相続税の総額」を、実際に各相続人が遺産を取得した割合に応じて分け合います。
これで、一人ひとりが実際に納めるべき相続税額が確定します。
ここからは、会社の株式相続にかかる相続税について、上で紹介した手順に沿って実際に計算してみましょう。
想定するケースは、以下のとおりです。
|
被相続人 |
父親(会社の経営者) |
|
法定相続人 |
息子1人のみ |
|
相続財産 |
株式10,000株、株式以外の相続財産合計5,000万円 |
|
会社の株価 |
①相続発生日の終値:7,200円 ②相続発生月の毎日の終値の月平均額:7,300円 ③相続発生月の前月の毎日の終値の月平均額:7,000円 ④相続発生月の前々月の毎日の終値の月平均額:7,600円 |
この場合、まず株式の評価額は、①~④の一番低い金額である③の7,000円となります。
そのため、相続財産は株式10,000株×7,000円+株式以外5,000万円の合計12,000万円となります。
そして、法定相続人は息子一人のため、相続税の基礎控除額は3,600万円です。
以上を踏まえて相続税額を計算すると、以下のようになります。
|
(7,000万円+5,000万円-3,600万円)×30%-700万円=1,820万円 |
つまり、1,820万円を納税しなければなりません。
今回は、簡単な例で計算しましたが、実際の相続税の計算では相続人が増える、相続財産がさまざまあるなどさらに複雑になると考えられます。
そのため、弁護士や税理士などに相談することをおすすめします。
相続税の計算手順について、さらに詳しく知りたい場合は、下記の記事を参考にしてください。
ここからは、同じケースで父親が株式をあなたに一括で生前贈与した場合を考えてみましょう。
想定するケースは、以下のとおりです。
|
贈与者 |
父親(会社の経営者) |
|
受贈者 |
息子(30歳) |
|
贈与内容 |
会社の全株式を贈与、特例税率を適用、暦年贈与を想定 |
|
相続税評価額 |
7,000万円※相続税の計算例と同じ |
この場合、贈与税額は以下のように計算できます。
|
(7,000万円-110万円※暦年贈与の非課税枠)×55%※特例税率-640万円※控除額=3149.5万 |
相続税の場合の1,820万円だったことを考えると、約1,047万円も納税額が増えており、その差は歴然です。
この計算例からも、計画なく一度に大きな財産を生前贈与することが、いかに大きな税負担を招くかわかるでしょう。
そのため、生前贈与によって会社を引き継ぎたい場合は、一括で贈与するのではなく、小分けにして贈与するなどの方法を検討することが大切です。
なお、贈与税額の計算方法は、以下の記事も参考にしてください。
相続税や贈与税の計算方法がわかったうえで「どうすれば税金の負担を少しでも軽くできるのか?」という点が気になる方も多いのではないでしょうか。
ここからは、会社の株式を引き継ぐ際に役立つ、代表的な4つの節税対策を紹介します。
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
事業承継税制は、後継者不足に悩む中小企業の円滑な事業承継を支援するために国が設けた制度です。
簡単にいうと、「あなたが会社をしっかりと経営し続けるなら、株式を引き継ぐ際の相続税や贈与税の支払いを一旦待ち(納税猶予)、将来、次の後継者に会社を引き継いだら、待っていた税金は全額免除しますよ」というものです。
ただし、この制度を利用するには、適用後5年間は会社の代表であり続けることや、従業員の雇用を維持することなどの厳しい条件があります。
途中で会社を売却したりすると、猶予されていた税金を利子とともに一括で納付する必要があるため、慎重な判断が必要です。
なお、事業承継税制は、一定の中小企業の非上場株式等を対象とする制度であり、都道府県知事の認定など所定の手続きが必要です。
現在は、適用対象や猶予割合を拡充した「特例措置」(令和9年12月31日までに贈与・相続が行われる場合)と、それ以外の「一般措置」が併存しているため、どの枠組みが使えるかは必ず最新の制度を確認する必要があります。
相続税や贈与税は、「株式の評価額×税率」で計算されます。
つまり、計算の基となる「株式の評価額」を合法的に引き下げることができれば、納税額を圧縮できるのです。
具体的には、以下の方法によって会社の評価額を引き下げられる可能性があります。
ただし、これらの方法にはリスクも伴うので、実際におこなうかどうかは慎重に判断しましょう。
生前贈与の中でも、年間110万円の非課税枠を活用した「暦年贈与」は非常に有効な節税対策です。
これにより、何年にもわたって株式を少しずつ後継者に移転させていけば、贈与税の負担を抑えつつ、トータルの相続税負担を軽減できる可能性があります。
ただし、毎年同じ日に同じ金額を贈与し続けると「定期贈与」とみなされ、合計額に課税されるリスクがあります。
そのため、贈与の都度、贈与契約書を作成したり、贈与する日や金額を毎年少し変えたりする対策が有効です。
また、相続開始前7年以内におこなった生前贈与(一定の経過措置あり)については遡って相続財産として扱われる制度もあるので、必ずしも全てのケースで節税効果があるわけではないことを覚えておきましょう。
相続財産のほとんどが非上場の株式や不動産である場合、高額な相続税を支払えるだけの現金を用意できないケースもあります。
この問題を解決する有効な手段が、生命保険の活用です。
生命保険には、相続税対策として2つの大きなメリットがあります。
万全の対策を立てていても、どうしても納税資金が用意できないという事態も考えられます。
そんなときは、以下のような対処法を検討しましょう。
それぞれの方法について、詳しく解説します。
相続した非上場株式の一部を会社自身に買い取ってもらい、納税資金を確保する方法です。
通常、株主が会社に自社株を売却すると、売却益はみなし配当と判断され、最大55%の高い税率が課される可能性があります。
しかし、相続によって取得した株式を相続税の申告期限の翌日から3年以内に会社へ売却した場合に限り、税率約20%の譲渡所得として扱われる特例があります。
この特例を使えば、比較的損をせずに納税資金を用意できるでしょう。
なお、この特例を受けるには、売却前に「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」を発行会社に提出し、発行会社から所轄税務署へ提出してもらう必要がある点にも注意が必要です。
不動産など相続したほかの財産や、あなた自身がもともと所有している個人資産を売却して、納税資金を作る方法です。
ただし、相続税の納税期限は相続開始から10ヵ月と短いため、特に不動産の売却は期限に間に合わない可能性もあります。
どうしても現金での一括納付が難しい場合は、以下のような国が用意している救済制度を利用することも検討しましょう。
銀行などの金融機関では、相続税支援ローンといった、相続税の納税資金専用のローン商品を取り扱っている場合があります。
国の延納制度の利子税よりも、金融機関のローンの金利の方が低いケースもあり、その場合は金融機関からの借り入れを検討する価値があります。
本記事では、会社の相続にかかる税金の基本から具体的な計算方法、節税対策、そして万が一のときの対処法までを解説してきました。
会社の相続は株式の相続であり、株式を中心に考えなければなりません。
しかし、税額の基礎となる株式の評価額を把握することは簡単ではなく、法的な知識が要求されます。
本記事で紹介した内容は、あくまで基本的な知識です。
特に非上場株式の評価や、どの節税対策があなたの会社にとって最適かという判断は、会社の状況やご家族の構成によって大きく異なります。
会社の相続という大きな節目を乗り越えるためには、専門家の力が不可欠です。
会社の相続で悩んでいる場合は、ぜひ一度事業承継に注力する税理士に相談してみてください。
本記事のうち税法の解釈・税額計算は一般的な説明にとどまるものであり、個別の税務判断、個別の税額計算、申告内容などは税理士にご相談ください。
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