親が亡くなり、自分が相続人となったけれど、相続する遺産はほとんどないというケースもあります。
このような場合でも、相続に関連する手続きは必要なのでしょうか。
実際に遺産がまったくない場合であれば、手続きをおこなう必要はありません。
しかし、本当に遺産がないのかどうかは、きちんと調査すべきでしょう。
また、調査の結果、申告しなくてよいケースだったとしても、相続に関連する必須の手続きもあります。
本記事では、確認すべき財産にはどのようなものがあるのか、どんな手続きが不要あるいは必要なのかなどを紹介します。
相続する遺産がなければ、相続の手続きをおこなう必要はありません。
しかし、そのようなケースはまれです。
相続に関する手続きは期限付きであるものが多く、期限を過ぎてから財産が発見されれば相続人が不利な状況に陥ってしまいかねません。
期限内にきちんと調査を進めましょう。
相続財産に含まれるのは、プラスの財産だけではなく、マイナスの財産も含まれます。
それを踏まえると、まったく財産がないというケースは、実はほとんどありません。
プラスの財産とマイナスの財産には、どのようなものがあるのでしょうか。
次の章で確認していきましょう。
相続が必要かどうかは、プラスの財産とマイナスの財産どちらも確認したうえで判断しなければなりません。
ここからは、主なプラスの財産とマイナスの財産を紹介します。
財産を確認する前提として、財産を受け継ぐ方々のことを相続人、亡くなられて財産を譲る側の方を被相続人といいます。
プラスの財産として確認しておくべきものの例を以下にしめします。
それぞれの具体例を見てみましょう。
銀行や郵便局の口座にある預貯金はプラスの財産です。
被相続人名義の預貯金はもちろん、家族などの名義になっていても、実質的には被相続人のものである預貯金もあるでしょう。
そのようなものも、被相続人が保有するプラスの財産として手続きを進めることになります。
また、現金としては、被相続人の財布に入っているもの以外にも金庫などがあれば、中身を確認する必要があります。
家や土地も、プラスの財産です。
被相続人が貸家・マンション・戸建住宅・共同住宅・店舗・工場・駐車場などを持っていないか確認しましょう。
土地としては、宅地以外にも、農地・山林・牧場・池などがあげられます。
土地そのものだけでなく土地に付随する権利、たとえば、借地権・借家権・定期借地権・地上権などもプラスの財産です。
ただし、住宅ローンが残っている場合などは必ずしも総額がプラスになるわけではありません。
ローンについては次節のマイナスの財産を確認してください。
国債証券や株式など、有価証券も確認しておくべきプラスの財産です。
有価証券には、個人向け国債・地方債・社債・株式・証券投資信託・不動産投資信託など、さまざまな種類があります。
有価証券を取り扱っている機関も多岐にわたり、証券会社・銀行・労働金庫・信託銀行・信用組合・生命保険会社などさまざまです。
そのため、投資や資産運用をおこなっていない相続人にとっては、どれが有価証券なのか判断できない可能性があります。
被相続人の財産を整理しているときに、証券と書かれた資料が見つかった場合や、何の書類かよくわからないものが見つかった場合などは、専門家に相談するとよいでしょう。
自動車・テレビ・貴金属・骨董品などの家財もプラスの財産です。
5万円以下の家財は家財一式として鑑定します。
個々に5万円以上の値が付くような家財であれば、それぞれを評価します。
相続品の評価を専門におこなっているサービスなどに任せるのが適切でしょう。
被相続人が自営業をしていた場合は、事業用財産も相続の対象となるプラスの財産です。
機械器具・農耕具・商品・原材料・売掛債権などが事業用財産にあたります。
友人や親族をはじめ、被相続人が第三者にお金を貸していた場合は、貸付金債権がプラスの財産となります。
また税金の還付金や、まだ受け取っていない収入・報酬も該当します。
損害賠償請求権や慰謝料請求権も債権としてプラスの財産と考えられます。
被相続人の職業や活動内容によっては知的財産を持っている可能性もあります。
たとえば、著作権・特許権・意匠権・商標権などです。
生命保険は原則として相続の対象となる財産ではないため、保険の契約に指定された受取人のみが保険金を受け取る権利をもちます。
ただし、ある相続人が生命保険の受取人となっていて、保険金を受け取ると他の相続人との間に是認することができないほど著しい不公平が生じるときは、保険金も相続の対象となる場合があります。
保険金の額や遺産に占める割合などを確かめ、他の相続人を交えて相続に注力する弁護士へ相談することをおすすめします。
被相続人が所有している立竹木は、手入れや伐採がされていて市場に供給しており、山林所得の対象になる場合には財産として相続の対象となります。
また、ゴルフ会員権もプラスの財産として相続の対象となることが多いです。
財産に付随する占有権・形成権なども承継することとなります。
マイナスの財産として確認しておくべきものとしては、以下のようなものがあります。
それぞれの具体例を見てみましょう。
金融機関や知人などからの借金、住宅ローンや自動車ローンなどの割賦契約月割賦金、クレジットカード債務など、借入金はマイナス財産の典型です。
水道光熱費・通信費・リース料・医療費など、未払いのまま残っている場合は、マイナス財産として相続の対象となります。
土地や建物を借りている場合には賃借料なども、マイナス財産として相続すれば、解約をしない限り支払いを引き継ぐことになります。
所得税・住民税・固定資産税・土地計画税・贈与税・国民健康保険料なども相続の対象です。
支払われていない段階で相続をすれば、マイナス財産として相続人が引き継ぐことになります。
保証債務や連帯債務とは、借金やローンの保証人になっている場合に発生する支払い義務のことです。
これらもマイナスの財産として相続対象であるため、被相続人が保証人になっていないかどうかを確認することが大事です。
ただし、責任限度や責任期間の定めがない信用保証や身元保証の場合は、原則として相続されません。
部屋や土地を他人に貸している場合、敷金や保証金を預かっていることが多いでしょう。
一時的に預かっているだけであるため、賃貸人の退去などに際して返金する必要があります。
また、被相続人が事業をしていた場合であれば、買掛金が残っていることも少なくありません。
相続をすれば、相続人が支払わなければならない点も把握しておきましょう。
プラスの遺産がなくマイナスの遺産だけがある場合、あるいはプラスの遺産があってもマイナスの遺産のほうが多くなってしまう場合、検討すべき手続きがあります。
ここからは、相続放棄と限定承認について説明します。
相続放棄をすると、遺産を全て放棄できます。
ただしプラスの財産も受け取れなくなるため、注意が必要です。
マイナスの財産が多い場合、相続をしてしまえば、被相続人の借金の返済などを相続人がすることになります。
そのため、返済できる見込みがない場合などは相続放棄をするのがよいでしょう。
次の限定承認という方法もありますが、限定承認に比べて相続放棄のほうが、手続き時の負担が少ない傾向があるというメリットがあります。
手続き期限は、相続の開始があった事実を知ったときから3ヵ月以内と定められています。
被相続人の最後の住所地が管轄する家庭裁判所において申述しなければなりません。
申述に必要な書類は次のとおりです。
ただし、申述者と被相続人との関係性により、必要書類の詳細が異なるため、手続きの前に裁判所のホームページなどで確認しましょう。
限定承認とは、被相続人のプラスの遺産の範囲内でマイナスの遺産を相続する手続きです。
この手続きを利用すれば、プラスの遺産を超えている分のマイナス遺産を引き継ぐ必要がありません。
マイナスの遺産のほうが少なければ手元に遺産が残り、マイナスの遺産のほうが多い場合はプラスの遺産を限度として引き継ぐため、プラスマイナスゼロになるのです。
とても便利な手続きのようですが、限定承認は相続人全員が共同しておこなう必要があるため、相続放棄よりも複雑です。
手続き期限は、相続の開始があった事実を知ったときから3ヵ月以内です。
被相続人の最後の住所地が管轄する家庭裁判所において手続きをしなければなりません。
申述に必要な書類は次のとおりです。
ただし、申述者と被相続人との関係性により、必要書類の詳細が異なるため、手続きの前に裁判所のホームページなどで確認しましょう。
相続において、不当な理由で遺産が減ったり、なくなったりすることがあります。
たとえば、不平等な遺言や生前贈与によって、自分がほかの相続人と比較して不利な相続内容となった場合です。
また、ほかの相続人が遺産を使い込んでしまっていたという場合もあるでしょう。
あるいは、本来は相続人ではない方が相続をし、自分の相続財産が侵害された場合も、対処が必要です。
それぞれ、どのような対処法があるのか見てみましょう。
不平等な遺言や贈与によって遺留分を侵害された場合には、遺留分侵害額請求権を行使できます。
遺留分とは、民法で定められている、確実に相続できる遺産の取得割合です。
そのため、いくら遺言でほかの相続人に遺産を全て譲ると書かれていたとしても、遺留分が認められている方々は遺産を相続することができます。
遺留分を受け取る権利を持つのは、兄弟姉妹以外の法定相続人で、具体例は以下のとおりです。
これらの法定相続人から遺留分を侵害している方に対して、遺留分の取り戻しを請求できます。
この権利を遺留分侵害額請求権といいます。
ただし、遺留分侵害額請求権は、1年または10年で失効します。
いずれに該当するかは条件によって異なります。
また、生前贈与のかたちで遺留分が侵害されていた場合も、同じように遺留分侵害額請求権を行使できます。
相続人に対してなされたものであれば相続開始から10年前までが、遺留分侵害額請求の対象です。
相続人以外に対してなされたものについては、相続開始から1年前がその対象です。
ほかの相続人による遺産の使い込みがあった場合、相続人は使い込んだ相手に対して損害賠償請求または不当利得返還請求をおこなうことができます。
遺産が使い込まれなかったら受け取れたはずの法定相続分については、使い込みのせいで受け取れなくなった損害として、不法行為に基づく損害賠償請求が可能です。
交渉によって取り戻すこともできますし、訴訟を提起することもできます。
勝訴すれば、裁判所が遺産を使い込んだ方へ、遺産の返還や損害賠償を命じるため、本来の相続人が各自の法定相続分に応じて遺産を取り戻せます。
また、使い込んだ相手は不当に利益を得ていることになるため、不当利得に該当します。
遺産は本来、相続人全員が遺産分割によって分け合うものだからです。
不当利得を得た方のせいで不当に利益を失っている相続人は、受益者に対して不当利得の返還請求ができます。
こちらも、交渉によって取り戻すこともできますし、訴訟を提起することも可能です。
いずれにしても請求できる金額は、相手が使い込んだ金額のうち請求者が法定相続するはずであった金額となります。
ほかの相続人に損害を与える意図がない場合や、相続人全員の遺産であることを知らずに使い込んでいた方であれば、素直に話し合いや返金に応じるでしょう。
しかし、自分だけが不当に利益を得ているのだとわかっていて使い込んでしまうような相手であれば、自分たちで交渉をしても返してもらえない可能性があります。
そのため、特定の相続人が使い込みをしていた場合は、弁護士に相談するのがおすすめです。
交渉してもらうこともできますし、訴訟をしなければならない場合でも依頼できるため安心です。
相続を得意とする法律事務所のなかでも、遺産の使い込みに注力している弁護士に相談すると、取り戻せる確率は高まるでしょう。
遺産の使い込みに注力している弁護士を探すには、全国の法律事務所を検索できるポータルサイト「ベンナビ相続」の利用がおすすめです。
相談したい分野として「遺産・財産の使い込み」を選択し、得意な法律事務所を検索してみましょう。
実は遺産を相続する権利を持っていなかったという方に対して、遺産が分配されてしまうというケースもあります。
戸籍上は相続人であったとしても、相続欠格や相続廃除によって相続人としての権利を失うことがあるのです。
たとえば、被相続人を死亡させた場合や被相続人に対して虐待をしていた場合などです。
このような方を表見相続人と呼びます。
表見相続人が侵害した財産を取り戻すため、相続人などは訴えを起こせます。
この権利を相続回復請求権といいます。
相続回復請求権を行使できるのは、相続権を正式に有する真正な相続人のほか、遺言執行者や相続財産管理人などです。
相続回復請求権には時効があり、相続権の侵害された事実を知ってから5年が過ぎると行使できなくなります。
気づいていなかった場合でも、相続開始の時から10年が過ぎると除斥期間が過ぎてしてしまうため、注意が必要です。
相続する遺産が少ない場合の相続税申告について、説明します。
遺産の額が相続税の基礎控除内であれば非課税となるため、相続税はかかりません。
そのため、相続税の申告をする必要もありません。
基礎控除の金額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で算出できます。
相続財産が基礎控除額以下となり、相続税の申告が不要となるケースがある一方、自己判断で申告しなくてもよい判断していた場合、財産の見落としや計算間違いなどが起こる可能性があるため注意が必要です。
万が一、財産の総額が基礎控除を超えていたら、税務署から相続税の支払いを命じられます。
また、延滞税や加算税がかかり、本来よりも多く税金を支払わなければならなくなることがあります。
被相続人の財産が全て明らかでない場合や相続人が多い場合などには、相続財産の調査や相続税の計算を専門家に依頼するのがおすすめです。
相続税がかからない場合でも、特例制度を利用する際には、相続税の申告をしなければなりません。
相続税の控除制度や特例には、次のようなものがあります。
それぞれについて、どのような制度なのかを簡単に説明します。
配偶者控除とは、配偶者の税額を軽減するものです。
配偶者であれば取得した遺産額が一定以下の場合は非課税となります。
一定以下とは、次のいずれかを指します。
配偶者控除を受けるためには、納税地を所轄する税務署に、税額軽減の明細を記載した相続税申告書を提出しなければなりません。
また、遺産分割協議書の写し・相続人全員の印鑑証明書等の提出も必要です。
また、戸籍上の配偶者であることや、相続税の申告期限までに遺産分割が完了していることなどの条件もあります。
配偶者控除を受けるには細かいルールがあるため、なるべく専門家に相談するのがよいでしょう。
小規模宅地等の特例を活用すれば、被相続人や同一生計親族が住んでいた宅地や事業用宅地を相続する際、評価額を最大80%減額ができます。
この特例の適用を受けるためには、特例の適用を受けたい旨を相続税申告書に明記し、小規模宅地等に係る計算書類や遺産分割協議書の写しなどと一緒に、納税地を所轄する税務署に提出しなければなりません。
小規模宅地等の特例も配偶者控除と同様、適用には細かい条件が設定されています。
内容をきちんと理解するには、専門家への相談がおすすめです。
被相続人が死亡日まで農業を営んでいたこと、または生前一括贈与をしたことなど、一定の要件を満たしたうえで申告すれば農地の相続税が猶予されます。
状況によっては、相続税が免除されるケースもあります。
農地を相続した場合は、詳しい要件を確認しましょう。
相続人が相続した財産を、国や地方公共団体など特定の公益財団法人に寄付した場合は、寄付した財産の金額によって、一定の相続税が非課税となります。
この特例も申告しなければ適用されないため、寄付をする場合は忘れずに申告しましょう。
【相続税の申告が必要になる控除制度・特例】
冒頭でも述べたように、遺産がなければ相続の手続きをおこなう必要はありません。
しかし、親族が亡くなった場合には、相続以外にもやらなければならない手続きがあります。
被相続人の死亡を知った日から7日以内には、死亡届の提出や埋火葬許可申請が必要です。
被相続人の死亡から14日以内には、住民票の抹消届や世帯主の変更届を提出しなければなりません。
また、年金受給の停止も必要です。
国民年金は死亡日から14日以内、厚生年金は死亡日から10日以内に手続きをしなければなりません。
それぞれ、手続きをおこなう窓口や必要書類が異なるため、早めに確認をして準備や手続きを進めましょう。
引き継ぐ遺産がない場合でも、しなくてはならない手続きはあります。
また、申告しなければ受けられない特例もあります。
あとから損をしていたことがわかったり、不利になったりしないよう、しっかり確認することが大事です。
自分の状況ならどのようなケースに当てはまるのかを判断しきれないときは、弁護士に相談してみましょう。
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相続は多くの手続きを伴う複雑な作業となるケースが多いため、専門家を頼ることをおすすめします。
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