自分の遺言を希望通りに実現するために、遺言執行者の選任を考えている方も多いでしょう。
遺言執行者は、信頼できる人に依頼したいところですが、その際「相続人の一人に遺言執行者を頼んでもよいのか?」と疑問に感じる方もいるはずです。
結論から伝えると、遺言執行者と相続人が同一人物であっても法律上は問題ありません。
ただし、遺言執行者の選び方に失敗すると、相続トラブルが起きやすいので注意してください。
本記事では、遺言執行者と相続人を同一にしたときのトラブルや、弁護士を遺言執行者にするメリットなどをわかりやすく解説していきます。
遺言執行者と相続人が同一人物であっても、法的にはまったく問題ありません。
ただし、相続人同士は利益相反の関係になるため、遺言執行者の相続人がほかの親族から妬まれたり、相続手続きに協力してもらえなかったりする可能性があります。
なお、旧民法では遺言執行人と呼ばれており、「相続人の代理人」としての性質が強かったため、法改正によって2019年7月以降から遺言執行者に変更されています。
遺言執行者と相続人が同一人物の場合、以下のようなトラブルになる可能性があります。
場合によっては相続手続きが停止するため、遺言執行者にはある程度の専門知識が必要です。
遺言執行者と相続人が同一になると、ほかの相続人から「自分だけに有利な遺言執行をしているのではないか?」と疑われるケースがあります。
また、想定していた財産をもらえなかった相続人がいると、遺言無効確認訴訟を起こし、遺言執行者の業務を妨害する可能性も考えられます。
遺言執行者と仲の悪い相続人がいる場合、「自分の相続手続きを優先しろ」「仕事が遅い」などと嫌味を言われてしまう場合もあるでしょう。
相続人の中から遺言執行者を選んだ場合、相続手続きがスムーズに進まないケースもあります。
相続手続きにはある程度の専門知識が必要なので、不慣れな方が対応すると、高確率で書類の作成ミスや添付漏れが発生するでしょう。
戸籍謄本の読み解きや相続財産の名義変更はもちろん、推定相続人の廃除などにも対応できるかどうかが遺言執行者選びのポイントになります。
遺言執行者を相続人から選ぶときは、以下の点に注意してください。
一般的な指定方法は遺言書になるので、公正証書遺言を作成し、遺言執行者の業務を明確にしておくとよいでしょう。
遺言執行者を相続人の中から指定する場合、できるだけ早いタイミングで本人に打診してください。
相続手続きや遺言執行に詳しい方でも、いきなり遺言書で指定されると、遺言執行に対応できないでしょう。
遺言書で遺言執行者を指定するときは、必ず公正証書遺言を作成してください。
自筆証書遺言に遺言執行者の住所・氏名などを明記しても、相続財産などの書き方を間違えると、遺言書そのものが無効になる可能性があります。
公正証書遺言は法律の専門家である公証人が作成するため、作成ミスのおそれがなく、法的な有効性も担保されます。
なお、遺言書を公正証書にする場合、以下の費用と証人二名が必要になるので、早めに段取りしておきましょう。
遺産総額 |
公正証書遺言の作成費用 |
加算額 |
100万円以下 |
5,000円程度 |
- |
100万円超~200万円以下 |
7,000円程度 |
- |
200万円超~500万円以下 |
1万1,000円程度 |
- |
500万円超~1,000万円以下 |
1万7,000円程度 |
- |
1,000万円超~3,000万円以下 |
2万3,000円程度 |
- |
3,000万円超~5,000万円以下 |
2万9,000円程度 |
- |
5,000万円超~1億円以下 |
4万3,000円程度 |
- |
1億円超~3億円以下 |
4万3,000円程度 |
5,000万円までの超過分につき1万3,000円加算 |
3億円超~10億円以下 |
9万5,000円程度 |
5,000万円までの超過分につき1万1,000円加算 |
10億円超 |
24万9,000円程度 |
5,000万円までの超過分につき8,000円加算 |
証人になってくれる人がいないときは、公証役場で手配してもらえます。
遺言執行者を相続人から選ぶ場合、本人の年齢や健康状態を考慮しておく必要があります。
相続手続きにはある程度の時間がかかり、金融機関や法務局などは平日しか対応していないため、定年退職した親族を遺言執行者に指定するケースが多くなっています。
しかし、持病のある方や、高齢な方が遺言執行者になると、遺言執行の途中で入院したり、亡くなったりするおそれがあるので要注意です。
遺言執行者を弁護士に依頼すると、以下のようなメリットがあります。
相続人の中に適任者がいないときや、遺言執行を確実に進めたいときは弁護士に依頼してみましょう。
遺言執行者を弁護士に依頼すると、相続手続きの手間と労力から解放されます。
親族が遺言執行した場合は相続財産の調査漏れが発生しやすく、期限付きの相続手続きに間に合わない恐れもあるので、大きなプレッシャーがかかってしまうでしょう。
弁護士が遺言執行者になると、相続人の負担が軽くなり、平常どおりの仕事や家事に専念できます。
弁護士は遺言執行を遅滞なく進めてくれるので、相続財産を早く有効活用できます。
相続後に売却したい不動産があるときや、収益化したい土地がある場合、相続手続きが遅くなると売りどきを逃してしまい、建材などが高騰するケースもあるので要注意です。
預貯金解約の手続きも早めに済ませておけば、相続税や固定資産税の納税資金になり、被相続人の借金も清算できるでしょう。
弁護士が遺言執行者になると、「遺言書に納得できない」などの不満が親族に向けられないため、相続争いを回避できます。
相続財産は法定相続分どおりに分けられないケースが多いので、一部の相続人から不満が出そうであれば、親族以外の第三者を遺言執行者にしておくべきでしょう。
また、もともと相続人同士の仲が悪い場合も、遺言執行者には弁護士が適任です。
遺言執行者に弁護士を指定すると、法的なトラブルに対処してもらえます。
たとえば、遺言書の作成段階から弁護士に関わってもらった場合、遺言書の無効を主張する相続人がいても、法的な有効性を証明してくれます。
また、一部の相続人が遺言無効確認訴訟を起こした場合でも、遺言執行者に弁護士を指定していれば、敗訴するリスクはほぼないでしょう。
遺言執行者に弁護士を指定すると、一般的には30~100万円程度の費用がかかります。
弁護士費用は遺産総額によって変わるので、以下を参考にしてください。
遺産総額 |
弁護士費用 |
300万円以下 |
30万円程度 |
300万円超〜3,000万円以下 |
24万円+遺産総額の2% |
3,000万円超~3億円以下 |
54万円+遺産総額の1% |
3億円超 |
204万円+遺産総額の0.5% |
弁護士に相談すると法律相談料もかかりますが、初回は無料相談になるケースが多いでしょう。
なお、弁護士が法律事務所以外で活動すると、1時間あたり1万1,000円程度の日当がかかります。
財産調査費用などの実費も発生するので、相談する際には細かな費用もよく確認してください。
遺言執行者の選任方法には以下の3種類があり、一般的には遺言書で指定します。
相続人に適任者がいないときは、弁護士や司法書士などの専門家に依頼できるので、具体的な指定方法は以下を参考にしてください。
遺言書で遺言執行者を指定する場合、以下のように記載します。
遺言執行者には職業や資格制限がないので、未成年者と破産者以外であれば、遺言書に記載するだけで指定が完了します。
なお、遺言執行者は複数人を指定しても構いません。
誰を遺言執行者に指定してよいか迷ったときは、遺言書で「遺言執行者を指定する人」を決める方法もあります。
遺言書による遺言執行者の指定がなかった場合、家庭裁判所に申し立てると遺言執行者を選任してもらえます。
申立先は遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所になり、相続人や受遺者、遺言者の債権者などが申立人となって以下の書類を提出します。
遺言執行者に推薦したい候補者がいるときは、家事審判申立書に氏名・住所・連絡先を記載しておきましょう。
なお、家事審判申立書は裁判所のホームページからダウンロードできます。
遺言執行者が辞任するときや、解任する場合は家庭裁判所の手続きが必要です。
具体的には以下のような手続きになるので、遺言執行に問題がないかどうかチェックしておくべきでしょう。
遺言執行者に以下のような正当事由があれば、家庭裁判所の許可を得た場合に限り、辞任が可能です。
ただし、家庭裁判所から辞任許可決定が出るまでの間は、遺言執行を継続しなければなりません。
遺言執行者の業務怠慢など、以下のような理由があれば、相続人や受遺者は家庭裁判所に解任を請求できます。
遺言執行者の解任審判には時間がかかるので、損害に対処できるよう、遺言執行者の職務執行停止や、職務代行者選任の審判も申し立てておくとよいでしょう。
遺言執行者と相続人は同一人物でも問題ありませんが、確実に遺言執行してくれる人を選ばなければなりません。
知識不足や時間不足で相続手続きに対応できない場合、預金解約や相続登記が完了しないため、ほかの相続人とトラブルになってしまうでしょう。
遺言執行者の選び方を失敗すると、遺言書を作成した意味がなくなるので注意が必要です。
確実な遺言執行を実現したいときは、まず弁護士に相談してください
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