後継者への事業承継をスムーズにおこなうために、適切な事業承継計画を立てようと考えている方は多いででしょう。
最良の形で事業承継するためには、ポイントやタイミングを押さえて事業承継計画を作成することが大切です。
少しでも早く事業承継したいからと焦って計画を進めると、事業承継後にトラブルになる可能性もあります。
事業承継計画書・事業承継計画表を作成することで、適切な後継者の選定・従業員や金融機関などからの支援や協力の獲得・事業承継税制の特例の利用などが望めます。
この記事では、事業承継計画の立て方や計画開始のタイミング、事業承継計画書・事業承継計画表の作成方法などを解説します。
適切な事業承継計画を立てたい経営者や、スムーズに事業承継したいと考えている経営者は参考にしてください。
事業承継を進める際は、事業承継計画書・事業承継計画表があると便利です。
作成方法について特に指定はありませんが、中小企業庁ホームページなどにあるひな形を利用するのがよいでしょう。
事業承継計画書には、経営計画・事業承継の時期・スムーズな事業承継を実現するために必要な対策などを盛り込みます。
事業承継計画書を見れば、事業計画・会社の株式・現経営者の状況・後継者の状況などについて把握できるように作成することが大切です。
事業承継計画は、数年から10年程度で円滑に事業承継することを目標に策定します。
事業承継計画表には、年度ごとの売上高・営業利益・株式関係・役職の変更・株式や財産の分配・持ち株・後継者教育などを細かく記載します。
事業承継で経営者が変わる際は従業員や取引先などから理解を得られない場合もあり、誰が見ても納得できるように細部まで明確にしておくことが大切です。
後継者に関しても、「誰を後継者にするか」「どのように経験を積ませるか」などの具体的な計画を立てなければなりません。
もし後継者に引き継ぐ株式を一部生前贈与するような場合には、「何年までに何%ずつ相続させるのか」などについても具体的に決定することが大切です。
ここでは、事業承継の計画を立てる際のポイントについて解説します。
まずは、現在の会社を取り巻く状況を正確に把握する必要があります。
経営者自身の健康状態なども鑑みながら、網羅的に把握することが大切です。
確認しておきたい内容は以下のとおりです。
会社の経営資源として、売上高・営業利益・従業員数・従業員の年齢から予測される人数変動・資産額・キャッシュフローの現状と今後の見込みなどを把握しましょう。
たとえば、従業員が足りなければ、事業承継後の経営をスムーズに進めるためにも採用を強化しなければなりません。
会社の現状を正確に把握しないまま進めてしまうと、事業承継をした際に従業員数や資産などが減少し、後継者に重い負担がかかる恐れがあります。
会社の経営リスクとして、競合他社との営業利益の差・会社の負債・競争力などの把握も必要です。
もし会社が多額の負債を抱えている場合は、事業承継をするまでにどれだけ負債を減らすべきなのかを考えておかなければいけません。
また、世の中の動向や自社の競争力などを改めて把握しておくことも大切です。
競合他社との競争に勝っていても、何らかのタイミングで状況が変わって負けてしまうこともあります。
営業利益が変動する可能性なども十分に予測・把握しながら、最適なタイミングで事業承継をおこないましょう。
経営者の健康状態によっては、早い段階で事業承継が必要な場合もあります。
持病の悪化などの問題を抱えている場合は、医師とも相談したうえで事業承継するタイミングを決めましょう。
また、事業承継の際に後継者に引き継ぐものについても把握しておく必要があります。
具体例としては、経営者が保有している自社株式・個人名義の土地・建物・負債などです。
後継者については、複数いる候補のなかから誰か1人を選ばなければならないということもあります。
跡継ぎ争いなどのトラブルを回避するためにも、できるだけ早いうちに後継者候補をあげておくことが大切です。
なお、後継者は親族以外の人でも問題なく、社内や社外で後継者になり得る人がいるかどうか調査します。
もし親族以外から後継者候補を検討する場合、経営者としての適性・能力・年齢・経歴・意欲などについても調査が必要です。
法定相続人の株式の保有状況や、法定相続人同士の人間関係などを把握しておくことも大切です。
誰にどれだけの財産を相続するのか・相続の際に相続税は発生するのか・どのように納税するのか、などを把握しておきましょう。
事業承継の計画を実行する最適なタイミングは、自社株式の評価をおこなう決算が終わったあとです。
事業承継計画を策定するためには株式の評価が必要であり、決算後は事業計画の見直しを図る時期でもあるため、現況を踏まえて事業承継計画を立てることができます。
事業承継については、必ずしも最初に立てた計画どおりに進むとはかぎりません。
場合によっては、進捗状況や今後の見込み修正などを踏まえて、計画変更が必要なこともあります。
毎年、決算後に事業承継計画の見直しや進捗確認ができる体制を整えておくと、事業承継がスムーズに進みます。
事業承継計画を開始するのに最適な年齢は状況によって異なりますが、「経営者が60歳になったタイミング」がひとつの目安です。
なぜなら、60代からは健康状態に問題が起こりやすくなるといわれているからです。
厚生労働省の「令和2年(2020)患者調査の概況」によると、60代前後で通院・入院する人が増え始め、65歳以降は一気に増加しています。
もし経営者が突然亡くなるようなことがあれば、残された親族や従業員は混乱し、業績が悪化して倒産に至る恐れもあります。
60歳から事業承継の計画を始め、遅くとも70歳までには事業承継できるように進めることが大切です。
もし後継者候補の年齢が高い場合は、さらに早い段階で計画を立てたほうがよいでしょう。
事業承継計画表に経営者と後継者の年齢を記入しておくと、いつまでに事業承継するべきかイメージしやすいでしょう。
事業承継の計画を立てる前に、会社の状況を見直す「磨き上げ」をおこなうことも重要です。
磨き上げをおこなうことで自社の価値や魅力・課題などを把握でき、より良い企業に成長できるというメリットがあり、磨き上げの例としては以下のとおりです。
特に資金繰りに苦戦している場合は、後継者にとっても大きな負担がかかります。
まずは借入金の圧縮を最優先にし、後継者の負担を減らしましょう。
場合によっては、税理士などのサポートを受けつつ、経営改善計画策定支援事業なども利用しましょう。
売上高や借入金などについて大きな問題がない場合でも、企業内に小さな問題が起きていないか十分に調査しましょう。
たとえ小さな問題でも、放置していると大きな問題に発展する恐れもあります。
事業承継のタイミングで大きな問題に発展するようなことがあれば、後継者の負担も大きくなります。
また、「会社の内部統制がとれていない」という場合には、後継者のモチベーション低下につながる恐れがあります。
磨き上げで見つかった問題は、たとえ小さな問題でも早めに対策しておき、後継者に引き継ぐ前に解決するものとして取り組む必要があります。
事業承継の方法としては、親族内承継のほか、従業員への承継やM&Aなどもあります。
ここでは、それぞれの方法のメリットやデメリットについて解説します。
親族内承継は、自分の子どもや妻などの親族に承継する方法です。
中小企業庁の統計を見ると、中小企業は大企業よりも同族に事業承継する割合が高く、特に中小建設業については約半数が同族継承です。
経営者の親族が後継者の場合、信頼できる経営者の親族であれば協力しようという気持ちになりやすく、取引先や従業員などからの理解を得やすいというメリットがあります。
さらに、早い段階で後継者を決定でき、教育などの準備期間を確保しやすいという点もメリットです。
中小企業庁による2022年度の「事業承継ガイドライン」によると、後継者候補の約半数が「経営者になるための準備期間として5年以上は必要」と回答しています。
経営者としての教育の時間を十分に確保することで、事業承継後の経営も問題なく進めることができます。
また、親族を後継者として選定する場合、株式などの財産を贈与・相続で引き継げるという点もメリットです。
経営者以外の人が株式などの財産を多く所有すると、経営に悪影響を及ぼす恐れがありますが、親族内継承ではそのようなリスク対策としてのメリットもあります。
親族のなかに、必ずしも経営者としての資質と意欲の両方を持つ人がいるとはかぎらないという点がデメリットです。
また、株式を分散させないために大半を後継者に渡す場合には、相続においてほかの相続人が損を被ってしまい、親族内での人間関係が悪化することもあります。
また、これまで経営に携わったことのない親族であれば、実際に働いてもらって会社の実情や仕事内容などを理解してもらわなければなりませんが、そのためにはある程度の時間がかかります。
後継者については、自社の役員や従業員から選定して継承する方法のほか、取引先の従業員や金融機関などの外部から選定して雇い入れる方法などもあります。
自社や取引先の従業員などから後継者を選定するので、多くの候補者をあげられるという点がメリットです。
豊富な人材のなかから経営者としての資質や意欲の有無などを見極めることができ、適任者が見つかる可能性が高いでしょう。
社内に長期間在籍している従業員を後継者として選定する場合には、経営方針の一貫性が保たれやすいというメリットもあります。
また、取引先や金融機関などから経営者を招き入れる場合には、経営状況の改善が見込めるという点もメリットです。
経営者との血縁関係がない人に承継する場合、経営者の親族・従業員・取引先などからの理解を得るのは容易ではありません。
経営に対して強い意欲を持っており適任である、ということを周囲に示せるような人でなければいけません。
特に、外部から招き入れる場合は相応の理由が必要です。
また、多くの候補者をあげられる一方、場合によっては適任者が見つからないこともあります。
さらに、株式や事業用資産を取得するための資金調達に難航して、個人保証の引き継ぎでも問題が起こる可能性があります。
M&Aは、株式や事業の譲渡により社外の第三者に承継する方法です。
親族内・会社内・取引先などに後継者の適任がいない場合でも、M&Aによって適任者が見つかる可能性があります。
M&Aは、感情ではなく利益を基準に第三者と取引する方法です。
条件が良ければ、多くの希望者が現れて適任者と出会える可能性も高まります。
もし大企業の傘下に入る形で譲渡できれば、従業員の待遇改善や経営の安定などが望めます。
経営者としては、事業の価値などに準じた売却益を獲得できるため、金額によっては順風満帆な隠居生活を送ることもできます。
M&Aを成功させるためには、磨き上げをしっかりおこなって魅力のある企業に成長させることが必要不可欠です。
会社の状況・希望売却額・従業員の待遇など、状況によっては条件の合う買い手が見つからないこともあります。
また、後継者の意向によって会社の方針が大きく変わる恐れがあり、必ずしも良い方向に向かうとはかぎらないという点がデメリットです。
事業承継を進めるにあたっては、具体的な事業承継計画を立てる必要があります。
関係者からの理解を得るためにも経営理念の策定や具体的な目標の設定は大切であり、以下のような手順で進めましょう。
まずは、経営理念や経営ビジョンを明確にします。
経営理念とは、経営者の経営に対する想い・価値観・態度・信条などのことです。
経営ビジョンとは、経営理念を元に策定される、将来像や具体的な事業の方向性を示すものです。
明確化された経営理念や経営ビジョンは後継者から従業員まで共有しやすく、次世代に向けての志や目標を一致させることにつながります。
会社の現状把握や課題解決を進めながら、中長期的な経営ビジョン・経営計画・将来の数値目標を設定します。
事業継承計画については、会社の事業規模・事業の方向性・売上高・経常利益などを数値化し、5年後や10年後などの会社状況をできるだけ具体的に示すことが大切です。
事業承継を円滑におこなうためには、事業承継にあたって想定される問題への対策を講じることが大切です。
以下で解説するポイントを押さえておきましょう。
親族内承継の場合、まずは社内の役員や従業員に事業承継計画の内容を理解してもらう必要があります。
次に着手すべきなのは、経営体制の整備です。
いきなり後継者候補へ事業を継がせるのではなく、段階的に権限を委譲していきます。
たとえば、1年目は取締役、3年目に専務、5年目に社長というように、少しずつ後継者に権限を委譲していくことでトラブルが起こりにくくなります。
親族以外の従業員などに承継する場合でも、社内の役員やほかの従業員などに事業承継計画の内容を理解してもらう必要があります。
さらに、現経営者の親族からの理解も得なければなりません。
M&Aの場合は、役員・従業員・取引先などに対して、M&Aによって第三者に事業承継することへの理解を得る必要があります。
事業承継では、後継者に対する社内教育も大切です。
経営理念・ノウハウ・ネットワークなどの自社の強みを教えることはもちろん、社内では各部門を横断して経験を積ませたりして、時間をかけた教育が必要です。
ほかにも、外部での後継者研修やセミナーを受講させる場合もあります。
株式の保有状況を把握し、財産分配の方針を決定します。
場合によっては、生前贈与や遺言書の作成なども必要になるかもしれません。
そのほかにも、事業承継では各種支援策を活用するという方法もあります。
一例として、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)による支援があります。
これは「後継者が非上場会社の株式などを経営者から贈与・相続により取得した」という場合に受けられる支援で、都道府県知事に対して、先代経営者から後継者への贈与・相続であることの認定を求める申請が必要です。
都道府県知事からの認定が下りると、贈与税・相続税の納税が猶予または免除されます。
帝国データバンクの全国企業「後継者不在率」動向調査(2021年)によると、後継者が不在状態の企業は全国で61.5%にのぼります。
「会社を潰したくない」という想いから、無理に経営者としてふさわしくない人物を後継者に選定すると、事業承継後の経営に問題が生じる可能性があります。
後継者問題に悩んでいるのであれば、社外の第三者へ事業承継できるM&Aを選択肢に入れるとよいでしょう。
M&Aを検討する場合、インターネットで売却先を探すという方法もあります。
たとえば「M&Aサクシード(旧:ビズリーチ・サクシード)」は、事業を売却したい側と買収したい側をつなぐマッチングサービスです。
マッチングサービスに登録すると、売り手側は条件にマッチした買い手からのオファーを待つことができます。
専任スタッフのM&Aサクシードコンシェルジュが、会社の可能性を引き出して納得のいくM&Aをサポートしてくれます。
また、気になる買い手に対しては売り手側からアピールすることもできます。
スムーズに事業承継をおこなうためには、会社の現在の状況に加えて、経営者や後継者候補の状況なども把握して綿密な事業承継計画を立てる必要があります。
事業承継計画表には、後継者の育成方法や育成完了までの期間などを細かく記載しましょう。
また、各計画の進捗状況について定期的に把握し、場合によっては軌道修正などの対応も検討する必要があります。
事業承継の場合、法的にクリアしなければならない手続きなどもあるため、事業承継計画の準備段階から弁護士などによるサポートを受けることも検討しましょう。
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