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代償分割で遺産分割するときに押さえておきたいメリット・デメリットや手続きの流れ

川村 勝之
監修記事
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相続が発生した際、相続人が複数いる場合には、遺産分割が必要となります。

しかし、全ての遺産が簡単に分割できるわけではありません。

特に、不動産や、長年続けてきた家族経営の事業などを相続人全員で等しく分けるのは簡単ではありません。

このような場合に有効なのが「代償分割」です。

代償分割は、特定の遺産を一人または複数人の相続人が受け取る代わりに、その代わりにほかの相続人に対して金銭などを渡す方法です。

本記事では、代償分割の概要、メリット・デメリット、適用すべきケースなどについて詳しく解説します。

売却したくない貴重な遺産がある場合の遺産分割方法として、代償分割をどのように活用できるかを理解しましょう。

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代償分割とは|代償金を支払って平等に遺産分割する方法

冒頭でも解説したとおり、代償分割とは相続人が特定の遺産を受け取る代わりに、ほかの相続人に対して代償金を支払う遺産分割の方法です。

代償金の代わりにほかの財産を提供することもできます。

この方法を取ることで、不動産のように分割しにくい遺産があったり、平等に分けにくい遺産があったりした場合にも、全員で公平に相続財産を受け取ることが可能となります。

この章では、代償分割をより詳しく理解するために、それ以外の遺産分割の方法や代償分割を選択するかどうかの判断基準を解説します。

代償分割以外の3つの遺産分割方法

遺産分割には、代償分割以外にも以下のような方法があります。

  • 現物分割:遺産をそのままの形で各相続人に配分する方法
  • 換価分割:遺産を売却して現金化し、その収益を相続人間で分配する方法
  • 共有分割:遺産を相続人全員の共有財産として保持する方法

たとえば、現物分割に適していない遺産や、売却をしたくない遺産を分ける場合などは、上記3つの方法での遺産分割が難しい場合があります。

そうした際に検討されるのが代償分割です。

代償分割を選択するかどうかの判断基準

代償分割は、以下の条件を満たす場合に選択されるのが一般的です。

代償分割を選択するかどうかの判断基準
  • 現物分割ができない・適していない
  • 対象の相続財産を売却したくない・できない
  • 代償金を支払うだけの余裕がある

たとえば、不動産を相続するケースで考えてみます。

不動産を売却して分割できればよいかもしれませんが、家族で暮らした家を手放したくない、など売却したくないと考えることも少なくないでしょう。

この場合、家を相続する方に経済的な余裕があれば、ほかの相続人に対し代償金を支払うことで解決する場合があります

代償分割を選択するメリット・デメリット

ここでは、代償分割を選択するメリットとデメリットについて、詳しく見てみましょう。

代償分割をおこなうメリット

代償分割にはいくつかのメリットがあります。

これらのメリットによって、相続人同士が納得しやすくなり、より効率的かつ公平な遺産分割が実現できる可能性が高まります。

詳しく見ていきましょう。

迅速・公平に遺産分割ができる

代償分割は、遺産を迅速かつ公平に分割する方法として有効です。

代償分割であれば、相続財産に不動産のような物理的に分割できない資産が含まれていて、かつその資産を売却したくない場合でも公平に遺産を分割できます。

また、相続人間の不平等を解消しやすくなるため、紛争のような状況も防ぎやすくなります。

結果的に、遺産分割も迅速かつスムーズにおこなえるようになるでしょう。

不動産や株式などを手元に残せる

代償分割を用いることで、不動産や株式など分割が困難な資産を手元に残しつつ、遺産分割をおこなうことができます

特に、家族で経営している事業や、相続人の一人が居住する家など、売却して現金化しにくい遺産がある場合にはこの方法が有効です。

相続税を節税できる可能性がある

代償分割によって被相続人の土地を相続する場合「小規模宅地等の特例」を活用することで、相続税の負担を軽減できる可能性があります。

小規模宅地等の特例とは一定の要件を満たすことで、被相続人の自宅や事業に使用されていた宅地の課税対象額を50~80%も減額できる制度です。

この制度は、主に以下のような土地を相続する場合に適用できる可能性があります。

  • 特定居住用宅地等:被相続人や被相続人と生計をともにしていた親族が住んでいた宅地
  • 特定事業用宅地等:被相続人や被相続人と生計をともにしていた親族が事業をしていた宅地(貸付事業を除く)
  • 特定同族会社事業用宅地等:被相続人や被相続人と生計をともにしていた親族の会社(または同族会社)として利用されていた宅地(貸付業務を除く)
  • 貸付事業用宅地等:被相続人や被相続人と生計をともにしていた親族が貸付業務をしていた宅地

代償分割をおこなうデメリット

代償分割には多くのメリットがある一方で、注意しなければならないデメリットも存在します。

代償分割を検討する際は、これらのデメリットも理解しておくことが必要です。

支払う人が自分で代償金を準備する

代償分割を選択する相続人は、ほかの相続人に対して代償金を支払う必要があります。

代償金は、遺産の価値にあわせる必要があることから、場合によっては大きな金額になることがあります。

そのため、代償金を支払うほどの経済的な余裕がないときは、そもそも選択することは難しいです。

なお、ほかの相続人の同意があれば分割での支払いができる場合があります。

不動産によっては不動産を担保とした借入れを利用することも可能です。

財産の評価方法で揉めるおそれがある

代償分割をおこなう際、不動産や株式など対象の財産の価値を評価し代償金の金額を決定する必要があります。

しかし、評価方法によって代償金の金額に大きな差が生じることから、相続人同士で評価額が決まらずに、意見が分かれることがあります。

財産評価でもめないようにするためには、必要に応じて弁護士や税理士などの専門家に、どのように評価すれば最も公平になるのかアドバイスを求めるとよいでしょう。

贈与税・所得税が発生するリスクがある

代償分割をする際の事情によっては、贈与税や所得税が発生するリスクがあります。

贈与税が発生する可能性があるケースの例として、以下があげられます。

  • 相続によって受け取った金額よりも、ほかの相続人に支払った代償金のほうが高い場合
  • 代償金を支払うことについて遺産分割協議書に記載していなかった場合

また、ほかの相続人に現金以外のものを渡した場合には、譲渡所得税が発生する場合があるので注意しましょう。

代償分割を検討する際には、できるだけ税理士などに相談することをおすすめします。

遺産分割で代償分割を選択するほうがよいケース

この章では、遺産分割で代償分割を選択するほうがよい具体的なケースを2つ紹介します。

相続人が、被相続人の家に住み続ける場合

相続人が現在、被相続人の家に住んでいるケースで、そのまま住み続けたいと考えている場合には、代償分割がおすすめです。

遺産である家を売却して分けるほうがシンプルですし、金銭的に多く受け取れる場合もあります。

しかし、家族で暮らしていた家を手放したくないと考えるのも、自然なことです。

代償分割を選択することで、家を手放すことなく公平に財産を分けることができます

相続人が、被相続人の事業を引き継ぐ場合

相続人が、被相続人の事業を引き継ぎたい場合も、代償分割を選択することが有効です。

被相続人の事業用財産には株式のほか、事務所などの不動産、特許、商標など事業運営に欠かせないものが含まれます。

自社株式などを売却して分割する方法もありますが、自身で継続させたいという相続人がいる場合は、代償分割で解決するケースが多いです。

代償分割を選ぶことによって、相続人が株式などの事業財産を集中して相続できるようになります。

その結果、相続人の考えるとおりに会社を運営しやすくなるでしょう。

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代償分割をおこなう際の遺産分割協議の進め方

代償分割を選択する場合、相続人同士でトラブルに発展しないように遺産分割協議を慎重に進めることが必要です。

以下、手順を簡単に説明します。

代償分割を提案する

不動産や株式など一人で相続したい財産がある場合は、遺産分割協議にて代償分割を提案します。

代償分割を進めるためには、ほかの相続人全ての同意を得ることが必要です。

遺産分割協議でほかの相続人の同意が得られず、最終的に家庭裁判所の審判で合意をはかる必要が生じた場合は注意しなくてはなりません。

審判で代償分割が認められるためには、現物分割ができないことや適正な代償金を支払えることなどの要件があります。

これら要件を満たして、審判で代償分割が認められるのは容易ではありません。

代償金の金額を計算・決定する

代償分割を選ぶことが決定したら、次に代償金額を決めます。

遺産分割協議では、代償金の金額は相続人の任意で決めることが可能です。

相続人の合意さえあれば、公平な金額でなくてもかまいません

たとえば、相続人が長男・次男の二人のみで、長男が4,000万円の不動産を相続し、次男が2,000万円の預貯金を相続するとしましょう。

この場合、両者が相続する遺産に2,000万円の差があるので、2,000万円÷2=1,000万円の代償金を長男が支払えば公平といえます。

しかし、両者の合意さえあれば、代償金がそれより少ない500万円でもかまいません。

なお、代償金と、ほかに相続した遺産をあわせた金額が法定相続分を大きく超える場合、贈与とみなされる場合があります。

その結果、贈与税が発生する可能性があるので注意が必要です。

代償金の金額について不安があれば、税理士や弁護士に相談するとよいでしょう。

合意内容をもとに遺産分割協議書を作成する

全ての相続人が代償金の額について合意に至ったら、その合意内容を正式な文書にするために遺産分割協議書を作成します。

この協議書には、遺産の具体的な分割方法、代償金の額、支払いの条件やスケジュールなど、遺産分割に関する全ての詳細を記載します。

将来的なトラブルを避けるためにも、協議書には遺産分割の詳細を具体的かつ明確にまとめることが必要です。

期日までに相続人に対して代償金が支払われる

遺産分割協議書に基づき、合意された期日までに代償金の支払いをすませることが必要です。

支払いは、銀行振込などの方法でおこなわれます。

代償金が支払われない場合は、代償金の支払いを求める訴訟や、家庭裁判所に紛争調整調停を申し立てることも可能です。

代償分割をする際の遺産分割協議書の作成方法

代償分割をおこなう際の遺産分割協議書は、遺産分割に関する合意内容を正確に記録し、トラブルを防ぐことが必要です。

ここでは、遺産分割協議書の基本的な書き方と、分割金の支払いに関する記載について解説します。

遺産分割協議書の基本的な書き方

遺産分割協議書の書き方に法的な決まりはありません

ただし、必要な項目が抜け落ちていると、あとからトラブルになる可能性があるため、注意する必要があります。

以下の項目については、必ず入れるようにしましょう。

  • 協議書のタイトル…一般的には「遺産分割協議書」と記載する
  • 被相続人の情報…被相続人の氏名、生年月日、死亡年月日、死亡時の住所など
  • 取得財産の内容…誰が、どの財産を、どのくらい取得するかなどの情報
  • 代償金の情報…代償金の金額や、支払い期日など
  • 作成日付…遺産分割協議書を作成した日付
  • 相続人の情報…相続人全員の住所、生年月日、氏名など

以上は、代償分割をおこなう場合の遺産分割協議書の必要項目です。

必要な情報に抜け漏れがないように注意して、作成してください。

代償金の支払いについて必ず明記する

代償分割をおこなう場合、遺産分割協議書には、代償金の支払いについて必ず明記しましょう。

具体的には、以下の内容を記載します。

  • 誰が誰に対し代償金を支払うか
  • 代償金の対象となる遺産の内容
  • 代償金の金額
  • 支払い期日

そのほか、代償金の支払いは一般的には銀行振込でおこなわれることが多いことから、以下の情報についても記載することで、トラブルを防げます。

  • 振込先口座の情報(銀行名・支店名・口座種別・口座番号・口座名義)
  • 振込手数料の負担者

遺産分割協議書に代償分割をすることを書かなかった場合、税務署から単なる贈与と判断されて贈与税が科されてしまうことも考えられます。

注意しましょう。

代償分割を選択した際の相続税の計算方法

この章では、代償分割を選択した際の相続税の計算方法を簡単に紹介します。

相続税の基本的な計算方法

まずは、基本的な相続税の計算方法を見てみましょう。

代償分割をおこなう場合にも、基本的な計算方法は変わりません。

相続税は、通常、以下の手順で算出されます。

  1. 遺産総額から基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を差し引く
  2. 差し引いた金額を法定相続分で分けて相続人それぞれで仮の相続税額を算出する
  3. 各相続人の相続税額から相続税の総額を求める
  4. 相続税の総額を各相続人の相続割合で按分する
  5. 相続人それぞれの相続税額から税額控除をおこない、相続人ごとに納付税額を確定する

代償分割をおこなう場合にも、基本的な仕組みは変わりません。

ただし、不動産を相続する場合、課税価格の計算には注意する必要があります。

詳しくは、次章で解説します。

不動産の課税価格の算出方法

続いて、不動産の課税価格の算出方法について見ていきましょう。

算出方法は、以下ふたつのパターンに分けられます。

相続税評価額を使い評価した場合
代償金を支払った方 課税価格=相続税評価額 - 代償金額
代償金を受け取った方 課税価格=相続税評価額 + 代償金額
時価を使って評価した場合
代償金を支払った方 課税価格=相続税評価額 - 代償金額 ×(相続税評価額 ÷ 代償分割時の時価)
代償金を受け取った方 課税価格=相続税評価額 + 代償金額 ×(相続税評価額 ÷ 代償分割時の時価)

たとえば、子ども三人が相続人であり、代償分割をおこなうケースについて考えてみましょう。

相続税評価額を使って評価した場合、土地の相続税評価額を5,000万円として、長男が長女と次男に代償金をそれぞれ2,000万円ずつ支払うケースでは、以下のように課税価格が算出されます。

長男の課税価格 5,000万円 - 4,000万円(2000万円×2) = 1,000万円
長女、次男の課税価格 2,000万円

非上場株式の相続税評価額の算出方法

相続で事業や自社株を引き継ぐ場合、自社株式(非上場株式)を特定の相続人が取得するために代償分割が選ばれることも多いでしょう。

非上場株式の相続税評価額は、原則として原則的評価方式によって評価されます。

この評価方式では会社の規模などによって計算方法を選択しなければなりません。

具体的には類似業種と比較してどのくらいの価値になるか(類似業種比準価額)や、純資産額などから算出されます。

一方、原則的評価方式が適さない(適用できない)特定の評価会社では、純資産価格方式によって相続税評価額を算出します。

特定の評価会社とは、株式や土地が資産の大部分である会社や設立してから間もない会社などです。

この場合、純資産価格などによって、相続税評価額が算出されます。

なお、いずれの場合も複雑な計算が必要です。

詳しい計算方法は、税理士や税務署に確認してください

代償分割に関して誰に相談すべきか

ここまで解説してきた通り、代償分割は複雑な計算や手続きが必要になります。

そのため、代償分割をおこなう場合には、弁護士や税理士へ相談することをおすすめします。

ここでは、代償分割に関して誰に相談すべきかを解説します。

弁護士|遺産分割協議などの相談がある方

遺産分割協議などの相談がある方は、弁護士への相談がおすすめです。

弁護士に依頼すれば、遺産分割協議において交渉や手続きなどを含めて一任できます。

特に、相続人同士で揉めている場合には、弁護士に介入してもらうことが強く推奨されます。

弁護士であれば、相続争いを解決するための有効な提案やアドバイスを期待できるでしょう。

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税理士|相続税申告などの相談がある方

税理士に依頼することで、相続税の計算や申告、事業継承税制(事業承継時に相続税や贈与税を延納・免除してもらえる制度のこと)など、相続税に関するあらゆる手続きのサポートを受けられます。

節税対策についてのアドバイスや、税務調査がおこなわれた場合の対応などについても任せることが可能です。

ただし、相続人同士で揉めている場合には、法的代理行為ができない税理士を代理人として依頼することはできません

その場合は、弁護士に介入してもらい、トラブル解決を目指すとよいでしょう。

まとめ|売却したくない遺産がある場合は代償分割を検討しよう

以上、本記事では代償分割について、詳しく解説してきました。

売却したくない遺産がある場合に、代償分割は遺産を公平に分割し、財産を保持するための有効な方法です。

この方法を選択する場合には、本記事で書かれているようなメリットとデメリットを慎重に検討する必要があります。

また、必要に応じて弁護士などにアドバイスを求めることも重要です。

代償分割を適切におこなうことで、相続人同士の納得感を高め、円滑な遺産分割の実現を目指しましょう。

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この記事の監修者
リフト法律事務所
川村 勝之 (千葉県弁護士会)
相談者に選択肢を提示し、最も理想に近い解決法を共に考えることを心がけており、コミュニケーションの取りやすさに定評あり。税理士・司法書士・公認会計士などの他士業と連携したトータルサポートも魅力。
ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
編集部

本記事はベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。 ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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