不動産相続に関する弁護士相談をご検討中の方へ
実家が農家を営んでいる場合、相続の場面でこのような悩みを抱える人は少なくありません。
農地の相続は、宅地などの一般的な不動産とは違い、農地法による厳しい規制があるため手続きも複雑です。
また、農地を引き継ぐことで相続税や固定資産税といった税負担が発生したり、兄弟姉妹の間でトラブルに発展したりすることもあります。
一方で、農地を貸し出したり売却したりすることで、有効に活用できる場合もあるので、状況に応じて最適な方法を選ぶことが重要です。
本記事では、農家を相続する際に知っておきたい基本知識や、農業をしない人が農地を相続するときの選択肢、相続するメリット・デメリット、相談できる専門家についてわかりやすく解説します。
農地相続で後悔しないために、ぜひ参考にしてください。
農家を相続する場合、まず以下の2つの手続きが必要になります。
ここから、それぞれの手続きの内容を詳しく解説します。
農地を相続する際、相続登記をしないままにすると、正式な所有者として認められず、将来の売却や相続の際にトラブルになるおそれがあります。
そのため、法務局で相続登記をおこない、相続した農地を相続人名義に変更しなければなりません。
申請にあたっては、主に以下の書類を所有権移転登記申請書と一緒に、不動産の所在地を管轄する法務局に提出します。
また、登録免許税として「固定資産税評価額×0.4%」の金額を支払う必要があります。
登記が完了すると、相続した土地の「登記事項証明書」を発行してもらうことができます。
この証明書は、次に説明する農業委員会への届出の際に使用します。
農地を相続した場合、農地の無秩序な利用や転用を防止して食料の安定供給を確保するために、農業委員会へ「相続の届出」をしなければなりません。
農業委員会は通常、市町村に設置されています。
ただし、農地が少ない地域では設置されていないこともあるので、その場合は自治体の担当部署に確認しましょう。
届出に必要なのは、所定の届出書と法務局で発行された登記事項証明書です。
なお、届出の期限は「権利取得を知った日から概ね10ヵ月以内」と決められています。
もし届出を怠ったり、虚偽の届出をしたりした場合は、10万円以下の過料に処される可能性があるので注意しましょう。
農業を継ぐ予定がない人が農地を相続した場合、とるべき方法はいくつか考えられます。
主な選択肢は、以下の7つです。
ここから、それぞれの方法を詳しく解説します。
まず、実家の農業を続けないのであれば、農地を売却する方法が考えられます。
農地を売却すれば、売却金を自分の生活やほかの投資へ回すことができるほか、農地を管理する手間からも解放されるでしょう。
ただし、売却には農業委員会の許可などの手続きが必要です。
また、農地を購入できるのは「営農計画を立てている」「農作業に常時従事する」といった要件を満たした個人や農地所有適格法人に限られるので、買い手探しは容易ではありません。
実際、農地の買い手が見つかっても売却価格が下がってしまう可能性もあります。
そのため、売却の可否や見込まれる価格について、事前にしっかりと調べておくことが大切です。
農地を相続した際は、農地としてではなく、宅地などに転用してから売却する方法もあります。
宅地は誰でも購入できるため、転用することで買い手が見つかりやすくなる点がメリットです。
また、利用の自由度が高いため、農地よりも高い価格で売却できる可能性があります。
ただし、転用するためには、農業委員会への申請に加え、原則として都道府県知事(または指定市町村長)の許可が必要です。
土地の条件によっては転用が認められない場合もあるので注意しましょう。
転用が認められるためには、住宅建築や駐車場利用など転用後の用途をあらかじめ確定し、事業資金を確保していることも証明しなければなりません。
農地を売却せず、農業以外の用途で自ら活用する方法もあります。
たとえば、宅地に転用すれば建物を建てて賃料収入を得られるほか、都市部であれば、駐車場として活用することで安定的な賃料収入が期待できるでしょう。
ただし、転用には農業委員会の許可が必要です。
また、投資額に見合うだけの収益を得られるかどうかの調査が不可欠です。
農地は、恒久的な転用が認められない場合でも、条件を満たせば一時転用が許可されることがあります。
一時転用は原則として最長3年間で認められ、その間に一時的な収入を得ることも可能です。
活用例としては、以下のようなものがあります。
ただし、一時転用の場合でも農業委員会の許可が必要です。
また、最終的には農地に戻す必要があるので、農業委員会に提出する事業計画書に、復元の時期や方法を具体的に記載する必要がある点に注意しましょう。
すぐに売却や転用をする予定がなく、農地のまま維持したい場合は、「農地中間管理機構(農地バンク)」を通じて第三者に貸し出す方法もあります。
農地バンクとは、各都道府県が設置する公的機関で、農地の貸し手と借り手をマッチングする役割を担っています。
個人間での農地の貸し借りは難しいですが、農地バンクを利用すれば安全に借り手を探すことが可能です。
農地を貸し出すことで賃料収入を得られるほか、借り手が農地を管理してくれるため手間が減るというメリットがあります。
ただし、貸付先は農地バンクが決めるため、誰に貸されるかは選べません。
借り手が必ず見つかるわけではなく、賃料についても希望が通らない場合があることを覚えておきましょう。
相続した農地の管理が難しい場合には、相続土地国庫帰属制度を利用する方法があります。
相続土地国庫帰属制度とは、一定の要件を満たした場合に、相続や遺贈で取得した土地の所有権を国に引き渡せる仕組みのことです。
本制度を利用すれば、管理や固定資産税の負担を避けられ、農地を維持する手間を減らせます。
ただし、利用にあたっては以下のような注意点があります。
これらの条件を確認したうえで、事前に準備をしてから申請しましょう。
農地の売却や転用、活用を考えていない場合は、相続放棄をするという方法もあります。
相続放棄とは、その名のとおり被相続人の財産を全て放棄する手続きのことです。
相続放棄をすれば農地を引き継がずに済むため、管理や固定資産税の負担を避けられます。
ただし、以下のような注意点があります。
そのため、農地以外に価値のある遺産があるかどうか、できるだけ早めに確認しておくことが大切です。
農家を相続することには、主に以下のようなメリットがあります。
ここから、それぞれのメリットについて詳しく解説します。
相続した農地を売却すれば、利益を得られます。
ただし、都市部のマンションや土地と比べると需要は限定されるうえ、買い手にも一定の条件が設けられていることから、希望する価格で売却できるかどうかはわかりません。
売却の可否や相場は、不動産会社や自治体に相談して事前に確認しておきましょう。
自分で農地を耕作しない場合でも、農地を貸し出すことで継続的に収益を確保できます。
借り手を自分で見つけるのが難しい場合は、自治体やJAを通して仲介してもらうとよいでしょう。
ただし、農地を貸す際には農業委員会の許可が必要であり、借り手の途中解約などによって管理の手間が発生する場合もある点に注意が必要です。
被相続人が生前におこなっていた農業をそのまま引き継ぎ、自分で農地を耕作することも可能です。
既存の設備や資源をうまく活用すれば初期コストを抑えられるので、継続した収益を生み出せる可能性があります。
ただし、収穫までには手間や時間がかかるため、採算が取りにくいリスクがある点には注意が必要です。
農地を転用して、駐車場や賃貸物件といった別の用途で活用することも可能です。
ただし、転用には農業委員会の許可が必要となる点に注意しましょう。
農家の相続にはメリットがある一方で、以下の5つのデメリットが生じる点には注意が必要です。
ここから、それぞれのデメリットについて解説します。
相続した農地は放置できず、雑草や害虫の駆除、鳥獣被害の防止、水路や農道の維持管理など、定期的なメンテナンスが必要です。
自分で管理する場合は大きな手間がかかり、外部に委託すれば費用が発生します。
また、農地を長期間放置すると「耕作放棄地」とみなされ、固定資産税が通常の約1.8倍に上がる点にも注意が必要です。
農地を貸したり転用したりして収益を得る方法はありますが、必ずしも安定した利益が出るとは限りません。
借り手が見つからなかったり、転用に制限がかかったりする場合もあります。
その結果、かえって「負の財産」となってしまうリスクがあります。
農業を営む人が減少している現状では、自分が相続した農地を次の世代が引き継いで管理するのが難しいケースも少なくありません。
そのため、自分が亡くなった際に相続人へ大きな負担を残してしまう可能性があります。
農地を相続したときは、相続登記だけでなく、農業委員会への届出も義務づけられています。
届出の期限は「権利取得を知った日から概ね10ヵ月以内」です。
期限を過ぎると、10万円以下の過料が科される可能性があるので注意しましょう。
相続税評価にあたり、農地は以下の4種類に区分されます。
それぞれの農地ごとに評価額の計算方法が異なるため、評価方法が複雑でわかりにくい点もデメリットといえます。
農地の相続は、ほかの財産と比べて手続きが複雑であり、トラブルが起きやすい点に注意が必要です。
代表的なトラブル例としては、以下の5つが挙げられます。
ここから、それぞれのトラブルについて解説します。
遺言がない相続の場合、農地を誰が相続するかは相続人全員の話し合いで決める必要があります。
そして、農地は宅地に比べて評価額が低いことから、相続人間の不満が生じやすく、遺産分割の方法をなかなか合意できないケースが多いです。
意見がまとまらなければ相続登記ができず、管理や売却、転用にも支障が出る可能性があるでしょう。
法定相続分で共有登記する方法もありますが、将来さらに権利関係が複雑化して管理が難しくなるリスクがあるので、できる限り一人の相続人が相続するのが望ましいといえます。
相続人間で合意がまとまらず、農地の売却や転用ができない場合、農地を放置すると耕作放棄地になってしまいます。
その結果、雑草や害虫が周囲に悪影響を与えてしまい、近隣農家などから損害賠償を請求されるリスクも否定できません。
また、農地を放置していた場合でも固定資産税がかかるので、無駄なコストが発生し続けてしまうでしょう。
農地の相続では相続税が発生しないケースも多いですが、市街地や転用可能な土地では宅地並みに高額な相続税が課されることがあります。
とくに面積が広い農地や市街地周辺の農地を相続する場合は、想定以上の税負担となる可能性があるため注意が必要です。
農地を売却・転用するには農業委員会の許可が必要なため、相続後すぐに自由に処分できません。
農地のまま売却する場合は、買い手が原則として農家に限られます。
また、売却には抵当権が設定されていないことが条件となることが多いですが、農地によっては地主からの借金で購入し、完済済みにもかかわらず抵当権が抹消されていないケースも見られます。
そして、宅地転用についても地域によって制限が設けられている点に注意が必要です。
農地を相続すると、手続きの複雑さや相続人同士の意見の違いから、さまざまな問題が生じる可能性があります。
相続方法に迷ったときは、信頼できる相談先からアドバイスを受けましょう。
農地の相続における主な相談先は、以下の6つです。
以下では、それぞれの役割や相談すべき場面について解説します。
弁護士は、相続全般を幅広くサポートできる専門家です。
いかなる訴額の訴訟でも代理人となれるため、相続人同士のトラブルや遺産分割協議、相続放棄の判断など、複雑な問題が予想される場合にとくに頼りになります。
司法書士は、不動産の名義変更や相続登記を得意とする専門家です。
農地の相続登記は書類が多く複雑ですが、司法書士に依頼することで手続きをスムーズに進められます。
また、認定司法書士であれば、140万円以下の簡易裁判所管轄の事案に限り訴訟代理も可能です。
税理士は、相続税の計算や申告、節税のアドバイスを得意とする専門家です。
農地は立地によって評価額が大きく変わるため、思わぬ高額課税につながることもあります。
税額が不明な場合や節税を検討する際には、税理士に相談すると安心です。
行政書士は、書類作成や届出手続きのサポートを得意とする専門家です。
農地相続では、農業委員会への許可申請や届出が必要になりますが、行政書士に依頼すれば書類作成や申請にかかる時間を削減できます。
また、相続手続きでは、遺産分割協議書、財産目録、相続関係の作成などを依頼できます。
不動産会社は、土地や建物の取引・賃貸・管理などを主な業務とします。
農地の売却にも対応しているため、すでにお世話になっている不動産会社がいる場合は初めに相談してみるとよいでしょう。
不動産会社では、売却価格の査定や買い手探し、売却までの流れを確認できるため、現実的な売却プランを立てる際に有効です。
農地バンク(農地中間管理機構)は、各都道府県が設置する公的な機関で、農地の貸し手と借り手をマッチングする役割を担います。
個人間での貸し借りは難しいため、農地の貸し出しを検討している場合に相談するのがおすすめです。
本記事では、農地を相続する場合の手続きや、相続するメリット・デメリットについてわかりやすく解説しました。
農地は食料を生産する重要な土地のため、宅地などの不動産とは異なるルールが多く、相続手続きは複雑です。
また、相続した農地をうまく活用できれば収益を確保できるというメリットもありますが、管理の手間や税負担が生じるといったデメリットも少なくありません。
そのため、農地の相続について自己判断で進めるよりも、第三者からのアドバイスを受けつつ慎重に手続きを進めるのがおすすめです。
相談先としては、トラブル解決を得意とする弁護士、不動産の登記を得意とする司法書士、税金に詳しい税理士、書類作成をサポートする行政書士などが挙げられます。
また、不動産会社や農地バンクに相談すれば、売却や貸し出しといった活用方法についても検討できます。
状況に応じて、最適な相談先に相談しましょう。
なお、「ベンナビ相続」を利用すれば、不動産の相続を得意とする弁護士を、相談内容やお住まいの地域に合わせて簡単に探せます。
農地相続を含めた相続全般の不安を減らすために、弁護士への相談を考えている方は、ぜひベンナビ相続をご活用ください。
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