不動産相続に関する弁護士相談をご検討中の方へ
「親が遺してくれた大切な土地が、かえって兄弟姉妹の仲を悪くする原因になったらどうしよう…」
両親の相続について考え始めたとき、多くの方がこのような不安を抱えます。
特に、遺産のなかに高額な土地や実家が含まれている場合、その分け方をめぐって家族が揉めてしまうケースは少なくありません。
とはいえ、土地のように分けにくい財産であっても、誰もが納得できる公平な相続を実現することはできます。
その代表的な方法が「代償分割」と「換価分割」です。
本記事では、土地の相続で悩んでいる方のために、この2つの方法について、それぞれの仕組みからメリット・デメリット、どんなケースに向いているのかまで、具体例を交えながら解説します。
遺産の中に現金だけでなく土地も含まれる場合、公平な相続を実現するには以下2つの方法を検討する必要があります。
それぞれの遺産分割方法について、詳しく見ていきましょう。
代償分割とは、特定の相続人が土地や不動産などを現物のまま相続する代わりに、ほかの相続人へ金銭を支払うことで遺産の公平な分割を実現する方法です。
このとき支払われる金銭のことを「代償金」と呼び、土地を相続した人が自分自身の預貯金などから用意して支払う必要があります。
具体例として、以下のケースを見てみましょう。
| 遺産 | 評価額6,000万円の実家の土地と建物のみ |
| 法定相続人 | 長男と次男の2人(法定相続分は各1/2ずつ) |
このケースにおいて、長男が実家(評価額6,000万円)を全て相続する場合、実家を相続する代わりとして、長男は自身の預貯金から、次男の相続分にあたる3,000万円を代償金として支払います。
これにより、長男は「実家に住み続ける」という希望を叶え、次男は「3,000万円の価値」を現金で受け取ることが可能です。
結果として、兄弟ともに3,000万円分の価値を相続したことになり、公平性が保たれます。
換価分割とは、相続した土地や建物を第三者に売却して現金に換え、その売却代金から経費を差し引いた金額を、相続人全員で分け合う方法です。
土地そのものを分けるのではなく、土地を「お金」に変えてから分ける点で、非常にシンプルな方法といえます。
たとえば先ほどのケースを例に考えてみましょう。
長男・次男ともに実家へ住む予定がなく、現金で公平に分けたいとします。
そこで兄弟が協力して実家を売却し、6,000万円で売れたとしましょう。
このとき、仲介手数料などの経費が200万円かかった場合、手元に残るのは5,800万円です。
これを法定相続分に従って2人で分けると、それぞれ2,900万円ずつの現金を受け取ることができます。
土地を相続する際、代償分割を選ぶ主なメリットは、以下のとおりです。
それぞれのメリットについて、詳しく見ていきましょう。
代償分割の最大のメリットは、土地という分けにくいものを現物のまま特定の相続人が引き継ぎつつ、ほかの相続人には代償金というわかりやすい価値を提供することで、公平性を確保できる点です。
これにより、「土地は欲しいけれど、ほかの兄弟姉妹に不公平な思いはさせたくない」という悩みと、「土地は要らないけれど、自分の権利分はきちんと受け取りたい」という悩みを同時に解決できます。
土地を売却せずに済むことも、代償分割が選ばれる最も大きな理由の一つです。
土地という財産を売却せずに済むことで、以下のようなメリットを得られます。
相続人の中に土地をどうしても手放したくない人と現金が欲しい人がいる場合、それぞれの希望が真っ向から対立してしまいます。
その点、代償分割は異なるニーズを持つ相続人たちの間で「落としどころ」を見つけるための有効な手段です。
全員が納得できる解決策を提示しやすいため、遺産分割協議がスムーズに進み、家族間の争いを避けることにつながります。
代償分割は、うまく活用することで相続税を節税できるメリットもあります。
その鍵となるのが「小規模宅地等の特例」です。
この特例は、亡くなった方が住んでいた土地や事業をしていた土地などを一定の要件を満たす親族が相続した場合に、その土地の相続税評価額を最大で80%も減額できるという制度です。
たとえば、相続税評価額が1億円の土地があったときにこの特例を使えば、税金の計算上、その土地はわずか2,000万円の価値として扱われることになり、相続税が劇的に安くなります。
ただし、小規模宅地等の特例は「誰がその土地を相続するか」によって使えるかどうかが決まる点に注意が必要です。また、特例を使える相続人や、面積・適用要件などが複雑で、具体的な適用の可否は税理士への確認が必要です。
対象外の相続人が土地を相続してしまうと、特例が使えずに多額の相続税を支払うことになりかねません。
もしも節税目的で代償分割を検討している場合は、相続人が小規模宅地等の特例の対象者であるかをよく確認しましょう。
メリットの大きい代償分割ですが、実行するにはいくつかの大きなハードルがあります。
安易に選択すると、かえってトラブルを招く可能性もあるため、以下のようなデメリットを正しく理解しておくことが不可欠です。
それぞれのデメリットについて、詳しく見ていきましょう。
代償金は、相続財産の中から支払うのではなく、土地を相続する人が自前で用意しなければならないお金です。
例えば、6,000万円の土地を相続し、兄弟姉妹に3,000万円の代償金を支払う場合、その3,000万円は自分自身の預貯金や、銀行からの借り入れなどで準備する必要があります。
高額な不動産の場合、代償金も数千万円単位になることが珍しくなく、十分な資金力がなければそもそも代償分割を選ぶのが難しいケースもあるのです。
代償金の額を決めるためには、まず「その土地がいくらの価値があるのか」を決めなければなりません。
しかし、土地の価格を決める評価基準には、実際に市場で売れる価格(時価)のほか、相続税を計算するための価格(路線価)、固定資産税を計算するための価格(固定資産税評価額)など、さまざま基準があります。
そのため、どの基準によって土地の価格を評価するかで相続人同士が揉めやすいのです。
公平を期すためには、第三者である不動産鑑定士に鑑定を依頼するなど、費用がかかる可能性があります。
代償分割は、手続きを間違えると相続税とは贈与税や所得税がかかってしまう可能性があります。
贈与税がかかるのは、まず遺産分割協議書に不備がある場合です。
遺産分割協議書に「代償分割として金銭を支払う」といった記載がないと、税務署から「これは代償金ではなく贈与だ」と判断され、高額な贈与税が課される可能性があります。
また、土地の適正評価額に基づいた本来の相続分を大きく超える金額を代償金として支払った場合、その超過部分は贈与とみなされることがあります。
さらに、資金の出所が不適切なケースも注意が必要です。
たとえば、遺産分割協議書に代償金であることやその金額を明記しないまま、長男が受取人に指定された生命保険金を兄弟姉妹で分けるための代償金に充てると、生命保険金は受取人固有の財産であるため、長男からほかの兄弟姉妹への贈与と判断されるリスクが生じます。
一方、所得税がかかるのは、代償金を現金ではなく株式や別の不動産など別の資産で支払う場合(代物弁済)です。
この場合、資産を時価で売却して現金化し、それで代償金を支払ったのと同じ扱いとなり、取得時からの値上がり益に対して譲渡所得税が課されることになります。
土地の相続の際、換価分割を選ぶ主なメリットは以下のとおりです。
それぞれのメリットについて、詳しく見ていきましょう。
換価分割の最大の魅力は、公平な遺産分割を実現できることです。
土地を売却して得られた金額をそのまま分けるため、一切の不公平なく遺産を分割することができます。
遺産総額が高額で相続税が発生する場合は、原則として相続開始から10ヵ月以内に現金で一括納付しなければなりません。
しかし、遺産のほとんどが不動産で手元に現金が少ない場合、納税資金の準備は深刻な問題となります。
その点、換価分割は不動産を現金に換えてから相続するため、現金の準備に困ることはありません。
代償分割では、土地を相続する人に多額の自己資金が必要でした。
しかし、換価分割では相続人が事前に大金を用意する必要はありません。
売却代金の中から、税金や経費を支払い、残ったお金を分けるだけです。
そのため、相続人の経済状況に関わらず、誰でも選択できる公平な方法といえます。
公平でわかりやすい換価分割ですが、一方で以下のようなデメリットが伴う点には注意が必要です。
それぞれのデメリットについて、詳しく見ていきましょう。
換価分割の最も大きなデメリットは、土地を売却しなければならないことです。
先祖から受け継いできた土地や家族との思い出が詰まった実家は、一度売却してしまえば二度と戻ってきません。
また、将来その土地の価値が上がる可能性や、賃貸に出して収益を得る可能性も売却と同時に失われます。
そのため、相続人の中に一人でも「土地を残したい」と強く願う人がいる場合、この方法は選択が難しくなるでしょう。
不動産の売却は、ボタン一つで完了するような単純なものではなく、時間も費用もかかる複雑な手続きです。
まず時間と手間については、信頼できる不動産会社を探して査定を依頼し、販売活動を進めたうえで購入希望者と交渉し、さらに契約を結ぶという一連のプロセスが必要になります。
この流れには数ヵ月単位の時間がかかるのが一般的です。
また、売却代金がそのまま手元に入るわけではなく、不動産会社に支払う仲介手数料(一般的に「売却価格の3%+6万円+消費税」)をはじめ、登記費用や印紙税などさまざまな経費が発生します。
これらは売却代金から差し引かれるため、最終的に相続人が受け取れる金額は目減りすることになるでしょう。
土地の売却価格は、自分たちの希望で決まるものではなく、その時々の景気や周辺の不動産市況に大きく左右される点にも注意が必要です。
特に、相続税の納税期限が迫っているなどの理由で売却を急いでいると、買い手から足元を見られ、相場よりも安い価格で買い叩かれてしまうリスクもあります。
その結果、期待していた金額で売れず、思ったより手元に残る現金が少なかったということも十分にあり得ます。
換価分割では、譲渡所得税がかかることも忘れてはいけません。
譲渡所得税は、土地を売却して得た利益に対してかかる所得税と住民税のことです。
土地の売却価格が、その土地を取得したときの価格(取得費)と売却にかかった費用(譲渡費用)の合計額を上回った場合、その差額に対して課税されます。
親や祖父母が何十年も前に購入した土地の場合、当時の売買契約書などが見つからず、取得費がわからないケースがよくあります。
この場合、税金の計算上、取得費は「売却価格の5%」とみなされてしまいます。
これにより、実際にはそれほど利益が出ていなくても、計算上は巨額の利益があったことになり、想定外の高額な税金が発生する可能性があるのです。
とはいえ、課税所得税の負担を軽減するための特例制度もあります。
例えば、支払った相続税の一部を取得費に加算できる「取得費加算の特例」や、一定の要件を満たす空き家を売却した場合に利益から最大3,000万円を控除できる「空き家の3,000万円特別控除」などです。
これらの適用の可否についても税理士への相談が重要です。
これらの特例をうまく使えるかどうかで、手元に残る金額が大きく変わってきます。
土地を代償分割で分けるのが推奨されるケースは、主に以下のとおりです。
一方で、土地を売却して現金で分ける換価分割が適しているのは、主に以下のようなケースです。
どちらの方法を選ぶかは、単なる手続き上の選択ではなく、その家族が土地という資産とどう向き合い、将来どのような関係を築いていきたいかという、家族のビジョンを反映する重要な決断といえるでしょう。
本記事では、相続した土地を現金で公平に分けるための2つの主要な方法、代償分割と換価分割について詳しく解説してきました。
代償分割は、土地を残したい相続人がいて、その人に十分な資金力がある場合に、家族の想いと公平な分配を両立できる優れた方法です。
一方で、換価分割は、土地が不要な場合に、誰もが納得できる客観的な公平性を実現し、納税資金も確保できる確実な方法です。
どちらの方法にもメリットとデメリットがあり、ご自身の家族構成、資産状況、そして何よりも「家族として何を大切にしたいか」によって最適な選択は異なります。
本記事で基本的な知識は得られたかと思いますが、実際の相続手続きには、不動産の正確な評価、税金の複雑な計算、そして法的に有効な遺産分割協議書の作成など、専門的な知識が不可欠です。
特に、相続人間の意見がまとまらない場合や、少しでも手続きに不安がある場合は、迷わず弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
弁護士は、法律と税務の観点から最適な分割方法を提案してくれるだけでなく、中立的な立場で相続人間の話し合いをサポートし、感情的な対立を避けて円満な解決へと導く手助けをしてくれます。
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