相続に関する弁護士相談をご検討中の方へ
一度は家族として迎えた養子と離縁したいと考えるのは、非常につらいことです。
しかし、関係の悪化や将来の相続トラブルを避けるために、養子縁組の解消を検討するケースは少なくありません。
本記事では、被相続人の視点から、養子縁組を解消するための具体的な手続きや解消を検討すべきケース、そして解消が難しい場合の対策について、わかりやすく解説します。
本記事を読めば、養子縁組解消に関する手続きや注意点を深く理解し、ご自身の状況に合わせて次の一歩をどう踏み出すべきか判断できるようになるはずです。
結論からお伝えすると、養子縁組は解消できる可能性があります。
ただし、そのためには解消したい養子との養子縁組が「普通養子縁組」であることが条件です。
そもそも養子縁組には、「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類があります。
この違いから、特別養子縁組は原則として離縁(養子縁組の解消)が認められていません。
普通養子縁組と特別養子縁組のどちらかわからない場合は、戸籍謄本(全部事項証明書)で確認が可能です。
なお、特別養子縁組の解消は原則認められませんが、養子、実父母、検察官のいずれかが請求し、下記の条件を満たした場合には例外的に認められます。
普通養子縁組を解消するには、大きく分けて3つの方法があります。
これらは段階的な手続きになっており、まずは当事者同士の話し合いから始めるのが基本です。
それぞれの手続きについて、詳しく見ていきましょう。
協議離縁は、養親と養子の双方が「養子縁組を解消する」という点で合意し、役所に「離縁届」を提出することで成立する方法です。
当事者同士の合意さえあれば、理由を問われることもなく、最も円満かつスムーズに手続きを終えることができます。
費用も戸籍謄本などの書類取得費用と交通費程度で済むため、金銭的な負担も最も少ない方法です。
協議離縁の手続きは、以下の流れに沿って進めます。
| 手続きの流れ | 内容 |
|---|---|
| ①養親と養子で離縁に合意 | お互いの意思確認が不可欠です。 |
| ②離縁届を入手し、記入 | 市区町村の役所の戸籍係で入手。養親と養子(15歳以上は養子本人が署名)が署名・押印します。 |
| ③証人2名に署名・押印を依頼 | 成人していれば誰でも証人になることができます。 |
| ④必要書類を準備 | 離縁届、戸籍謄本(本籍地以外に提出する場合)、本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)を準備します。 |
| ⑤役所に離縁届を提出 | 養親または養子の本籍地、もしくは所在地の市区町村役場に提出します。 |
ただし、養子が15歳未満の場合、離縁の意思決定は本人ではなく、その実の親などの法定代理人がおこないます。
協議での解決が難しい場合は、家庭裁判所に「離縁調停」を申し立てることになります。
調停離縁とは、裁判官と民間の有識者で構成される「調停委員」が、中立な第三者として当事者の間に入り、話し合いを進めてくれる手続きです。
調停委員が双方の意見を個別に聞き取り、解決案を提示してくれるため、冷静に話し合いを進めやすいというメリットがあります。
調停離縁の手続きの流れは、以下のとおりです。
| 手続きの流れ | 内容 |
|---|---|
| ①家庭裁判所に調停を申し立てる | 原則として、相手方(養子)の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。 |
| ②必要書類を準備 | 離縁調停申立書、養親と養子の戸籍謄本、収入印紙(1,200円分)、連絡用の郵便切手などを準備します。 |
| ③調停期日に家庭裁判所へ出頭する | 月に1回程度のペースで期日が開かれます。通常、当事者が顔を合わせずに済むよう、別々の待合室が用意されます。 |
| ④調停成立または不成立 | 話し合いがまとまり、双方が離縁に合意すれば「調停成立」です。合意に至らなければ「調停不成立」となり、手続きは終了します。 |
調停が成立すると、その内容が記載された「調停調書」が作成されます。
この調停調書は確定判決と同じ効力を持ち、たとえ相手が嫌がっても離縁届を提出することができます。
調停でも話がまとまらなかった場合の最終手段が、「裁判離縁(離縁訴訟)」です。
裁判離縁とは、家庭裁判所に訴訟を起こし、裁判官に「離縁を認めるべきかどうか」を法的に判断してもらう手続きです。
協議や調停と違い、相手の同意がなくても、裁判所が離縁を認めれば強制的に養子縁組を解消できます。
しかし、裁判で離縁を認めてもらうには、法律で定められた以下の3つの「離縁原因」のいずれかに該当することを、証拠をもって主張・立証しなければなりません。
| 離縁原因 | 例 |
|---|---|
| 相手方から悪意で遺棄されたとき | 養子が勝手に家を出て生活費を一切入れないなど、正当な理由なく同居や扶養の義務を果たさない場合。 |
| 相手方の生死が3年以上明らかでないとき | 養子と音信不通になり、生きているか死んでいるかすら3年以上わからない状態。 |
| そのほか縁組を継続し難い重大な事由があるとき | 養子からの暴力(DV)やモラハラ、著しい浪費や非行、犯罪行為など、親子関係が完全に破綻し回復の見込みがないと客観的に判断される場合。単に「性格が合わない」「疎遠になった」だけでは認められにくい。 |
裁判離縁は、法的な主張や証拠の提出が不可欠であり、手続きも非常に複雑です。
この段階に進む場合は、法律の専門家である弁護士のサポートなしで進めるのは極めて困難といえるでしょう。
養子縁組の解消は、感情的な問題だけでなく相続の問題とも密接に関わっています。
ここからは、将来の相続トラブルを防ぐという観点から、離縁を検討したほうがよい代表的な2つのケースを紹介します。
養子との関係が著しく悪化し、もはや親子としての信頼関係が失われてしまった場合は、離縁を検討すべきといえます。
なぜなら、養子縁組を継続している限り、養子は法律上、実の子どもとまったく同じ「法定相続人」としての権利を持つからです。
たとえ関係が悪く、「あの養子にだけは1円も財産を渡したくない」と考えていても、養子縁組を解消しなければ、あなたの死後に養子は堂々と遺産を相続する権利を主張できます。
もし、養子からの暴力や暴言、浪費などが原因で関係が悪化しているのであれば、「縁組を継続し難い重大な事由」として、裁判で離縁が認められる可能性もあります。
関係の修復が望めず、自身の財産を守りたい、そしてほかの相続人に迷惑をかけたくないという思いが強いのであれば、養子縁組の解消を検討しましょう。
あなた自身は養子と良好な関係を築いていても、あなたの実子と養子の仲が悪いというケースも少なくありません。
この場合、あなたが存命中は表面化していなくても、いざ相続が開始した途端、それまで抑えられていた感情が噴出し、深刻な相続トラブルに発展する恐れがあります。
特に注意したいのが「遺留分」の存在です。
遺留分とは、法律で定められた相続人が最低限相続できる遺産の割合のことで、養子にも当然認められています。
たとえば、あなたが「全財産を実の子どもに相続させる」という遺言書を書いていたとしても、養子は「私の遺留分を侵害している」として、実の子どもに対して金銭の請求が可能です。
これがきっかけで、子ども同士が骨肉の争いを繰り広げることになりかねません。
あなたの死後、子どもたちが円満に過ごしてくれることを願うのであれば、将来の火種をなくすために、生前の養子縁組解消を検討する価値はあるでしょう。
養子が離縁にまったく応じてくれず、裁判で認められるほどの明確な離縁理由もない場合でも、養子に渡る財産をできるだけ減らすために打てる手はあります。
ここでは、養子縁組の解消が難しい場合に検討したい、2つの相続対策を紹介します。
一つ目の対策は、「遺言書」を作成しておくことです。
遺言書があれば、法定相続よりも、自身の意思を優先させることができます。
たとえば、「長男に全財産を相続させる」「養子Aには財産を相続させない」といった内容の遺言書を作成しておくことで、養子に財産が渡るのを防ぐことが可能です。
ただし、ここでも注意が必要なのが遺留分の存在です。
養子には遺留分を請求する権利が残るため、遺言書で相続分をゼロにしても、あなたの死後、養子がほかの相続人に対して金銭の支払いを求める可能性があります。
このリスクを完全にゼロにすることはできませんが、遺言書の「付言事項」として、なぜそのような財産の分け方にしたのか、その理由を書き記しておくことで、養子が納得し、遺留分の請求を思いとどまってくれる可能性はあります。
遺言は、自身の意思を明確に示すための非常に強力な手法です。
法的に有効な遺言書を作成するためにも、一度専門家に相談することをおすすめします。
二つ目の対策は、「生前贈与」をおこなうことです。
生前贈与とは、その名のとおり、生きているうちに特定の人に財産を分け与えることを指します。
財産を渡したい実の子どもや配偶者などに前もって贈与しておくことで、相続が発生した時点での相続財産そのものを減らすことが可能です。
ただし、生前贈与にも注意点があります。
まず、年間110万円を超える贈与には贈与税という高額な税金がかかる可能性があります。
また、相続開始前の一定期間内におこなわれた特定の贈与は、遺留分を計算する際の基礎財産に含められてしまうルールがあります。
そのため、やみくもに贈与しても、思うような効果が得られない可能性もあるのです。
生前贈与は、税金の問題や遺留分との兼ね合いなど、専門的な知識が必要になるため、計画的に進めるようにしましょう。
養子縁組の解消は、財産を渡したくないという目的を達成するうえで有効な手段です。
しかし、実行する前に知っておくべき注意点も存在します。
感情的に進めてしまい後悔することのないよう、以下の3つのポイントを必ず押さえておきましょう。
養子縁組を解消すると、法定相続人が一人減ることになります。
これにより、相続税の計算における「基礎控除額」が減ってしまい、結果として納めるべき相続税が増えてしまう可能性がある点に注意しましょう。
そもそも相続税の基礎控除額は、以下の式で計算されます。
| 3,000万円+(600万円×法定相続人の数) |
例えば、相続人が実子1人と養子1人の合計2人だった場合、基礎控除額は「3,000万円+(600万円×2人)=4,200万円」です。
しかし、養子縁組を解消すると、相続人は実子1人だけになり、基礎控除額は「3,000万円+(600万円×1人)=3,600万円」に減ってしまいます。
同様に、生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)が減額されることも覚えておきましょう。
そのため、養子に財産を渡したくないという思いと、相続税の負担増を天秤にかけ、どちらがご家族全体にとってよい選択なのかを冷静に判断する必要があります。
養子が未成年(18歳未満)の場合、離縁手続きが少し複雑になります。
特に養子が15歳未満の場合は、離縁の話し合いは養子本人ではなく、その法定代理人とおこなうことになります。
養子が15歳以上であれば、本人の意思で離縁できますが、未成年であることに変わりはないため、離縁後の生活などを考慮し、実の親の同意を得ておくことが望ましいでしょう。
相手が子どもだからと軽く考えず、年齢に応じた適切な手続きを踏むことが重要です。
協議離縁や調停離縁においては、相手に離縁を納得してもらうための「解決金」の支払いが必要になるケースがあります。
養子からすれば、離縁は親を失うだけでなく、将来得られるはずだった相続権や扶養してもらう権利を失うことを意味します。
そのため、その不利益を補うための代償として、金銭を要求されることがあるのです。
解決金の支払いは法的な義務ではありませんが、話し合いを円滑に進めるための「潤滑油」として、解決金の支払いが有効な手段となることも事実です。
金額に決まった相場はないものの、養子縁組をしていた期間や、これまでの貢献度、離縁後の生活への影響などを考慮して決めるとよいでしょう。
円満な解決を望むのであれば、ある程度の金銭的な負担は覚悟しておく必要があるかもしれません。
養子縁組の解消は、ご自身の意思だけで簡単にできるものではありません。
相手の同意が得られなければ、調停や裁判といった法的な手続きに進まざるを得ず、時間も精神的な負担も大きくなります。
特に裁判では、法律に基づいた主張と、それを裏付ける客観的な証拠がなければ、離縁を認めてもらうことは困難です。
そもそも自分のケースで離縁が認められる可能性はあるのだろうかなどの不安や悩みを抱えたら、まずは相続問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談すると以下のメリットがあります。
何よりも、専門家が味方についてくれるという安心感は、精神的な負担を大きく和らげてくれるはずです。
養子縁組の解消というデリケートな問題だからこそ、一人で抱え込まず、信頼できる専門家の力を借りて、後悔のない解決を目指しましょう。
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