相続した土地の売却を考えたとき、多くの方が税金の問題に直面します。
実際に高額な税金が生じることもあるので、基本的な税制について正しく理解し、できるだけ損をしないように考えなければなりません。
本記事では、相続した土地を売却した際にかかる主な税金である「譲渡所得税」と「住民税」について、その計算方法や申告の手順を解説します。
節税するコツについてもわかりやすくまとめているので、ぜひ最後まで目を通してみてください。
相続した土地を売却して譲渡所得を得た場合は「譲渡所得税」と「住民税」がかかります。
「譲渡所得」とは、土地を売って手に入ったお金から、その土地を手に入れるためにかかったお金や、売るためにかかったお金を引いた、純粋な利益のことです。
この譲渡所得に対して、国に納める譲渡所得税と、居住地の都道府県や市区町村に納める「住民税」が課税される仕組みになっています。
そのため、相続した土地を売却する際には、これらの税金について事前に理解しておくことが大切です。
相続した土地を売却したときの譲渡所得税・住民税は、大きく分けて3つのステップで計算し、申告・納税をおこないます。
最初のステップは、税金の計算の元となる「譲渡所得」を計算することです。
譲渡所得は、以下の計算式で求められます。
譲渡価額とは、土地を売却して、買主から実際に受け取るお金のことを指します。
取得費とは、その土地を手に入れるためにかかった費用のことです。
相続した土地の場合、原則として、被相続人がその土地を購入したときの金額や購入にかかった仲介手数料などが取得費となります。
先祖代々の土地であったり、購入したときの契約書などが見つからなかったりする場合など、取得費がわからないときは、売った金額の5%を取得費とすることができます。
ただし、売却金額の5%は実際の取得費よりも安いケースが多く、税負担が大きくなりやすい点に注意が必要です。
譲渡費用とは、土地を売るために直接かかった費用のことです。
具体的には、以下のようなものが該当します。
上記の費用は、領収書などをきちんと保管しておき、正確に計算することが大切です。
「譲渡価額」「取得費」「譲渡費用」がわかれば、譲渡所得を計算できます。
例えば、譲渡価額3,000万円、取得費2,000万円、譲渡費用100万円だった場合、譲渡所得=3,000万円-(2,000万円+100万円)=900万円となります。
この900万円が、税金計算の基礎となる利益です。
ステップ1で計算した譲渡所得に、決められた税率をかけることで、実際に納める譲渡所得税と住民税の金額がわかります。
税率は、土地を所有していた期間によって異なります。
具体的には、「短期譲渡所得」になるか「長期譲渡所得」になるかで税率が変わります。
所得の種類 |
所有期間 | 所得税率 |
住民税率 |
短期譲渡所得 |
5年以下 | 30% |
9% |
長期譲渡所得 |
5年超 | 15% |
5% |
短期か長期かは、被相続人がその土地を取得した日から数えて、売却した年の1月1日時点で5年を超えているかどうかで判断します。
相続してから5年ではない、という点に注意してください。
例えば、ステップ1で計算した譲渡所得900万円が、長期譲渡所得に該当する場合の税額は、下記のとおりです。
もしこれが短期譲渡所得だった場合は、以下のようになります。
このように相続した土地の売却を考える際には、所有期間を正確に把握することが非常に重要です。
ステップ1で譲渡所得を計算し、ステップ2で税額を計算した結果、納めるべき税金がある場合は、「確定申告」で税金を納める必要があります。
確定申告は、土地を売却した翌年の2月16日から3月15日までの間におこないます。
確定申告には、以下のような書類が必要になるのが一般的です。
これらの書類を準備するには時間がかかることもあるため、早めに準備を始めることが大切です。
確定申告の方法は、持参・郵送・電子申告の3つがあります。
どの方法を選ぶにしても、期限内に必ず申告・納税を済ませるようにしましょう。
もし期限に遅れてしまうと、延滞税などのペナルティがかかる場合があります。
相続した土地を売却した際の譲渡所得税には、税負担を軽くするためのコツがあります。
ここでは、代表的な3つの節税のコツを紹介します。
土地の売却で利益が出た場合でも、一定の条件を満たせば、税金の負担を軽減できる特別な制度が用意されています。
特例を上手に活用することで、譲渡所得税を大幅に節約できる可能性があります。
相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(取得費加算の特例)は、相続した土地を売却する際にぜひ知っておきたい特例のひとつです。
取得加算の特例は「相続開始があった日の翌日」から「相続税の申告期限の翌日以後3年」を経過する日までに相続した土地を売却した場合、納めた相続税額のうち一定の金額を、譲渡所得を計算する際の「取得費」に加算できる制度です。
取得費が増えれば課税対象となる譲渡所得が減るため、結果として譲渡所得税・住民税が安くなります。
被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例は、被相続人が住んでいた家屋やその敷地を相続し、一定の要件を満たして売却した場合に、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる特例です。
主な要件としては、以下のものがあります。
マイホーム(居住用財産)を売ったときの特例は、住んでいる家とその敷地を売った場合に、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる特例です。
相続した家にしばらく住んだあとで売却する場合などに適用できる可能性があります。
税制上の特例は、それぞれ適用できる条件が細かく定められています。
場合によっては併用できるケースもあるので、まずは専門家に相談してアドバイスを受けることが重要です。
「取得費」と「譲渡費用」が大きければ大きいほど、課税対象となる「譲渡所得」は小さくなります。
つまり、税金が安くなるということです。
そのため、取得費や譲渡費用を漏れなく正確に計上することが節税の重要なポイントになります。
取得費に含められるものの例として、以下のものがあります。
もし書類が見つからなくても、諦めずに探してみましょう。
当時の預金通帳の記録などが手がかりになることもあります。
取得費が不明な場合は、概算取得費として、売った金額の5%を取得費にできますが、実際の取得費を計上できたほうが一般的に節税効果が大きくなります。
他方で、譲渡費用には主に以下の費用が含まれます。
判断に迷うものがあれば、税務署や税理士に相談してみるのがよいでしょう。
小さな費用でも積み重なれば大きな金額になり、節税効果も高まります。
譲渡所得税は「分離課税」の仕組みによって、給与所得などのほかの所得とは分けて税金が計算されます。
しかし、譲渡所得以外の所得がある場合、それらに対する節税対策を講じれば、トータルの税負担を抑えることが可能です。
相続した土地を売却する際には、税金に関していくつか注意しておきたいポイントがあります。
これらを知らないと、思わぬところで損をしてしまったり、手続きで困ってしまったりする可能性があります。
ここでは、特に重要な3つの注意点について解説します。
土地を売却する際の売買契約書は、「印紙税」の対象になります。
印紙税は、契約金額に応じて、決められた額の収入印紙を契約書に貼って納めるものです。
例えば、契約金額が1,000万円を超え5,000万円以下の場合、印紙税額は2万円となります。
契約書を2通作成して売主と買主が1通ずつ保管する場合、それぞれの契約書に収入印紙を貼る必要があるため、売主と買主がそれぞれ負担するのが一般的です。
譲渡所得税や住民税ほど高額になることは少ないですが、売却にかかる費用のひとつとして覚えておきましょう。
土地を売却した際の譲渡所得は、ほかの所得との損益通算ができません。
損益通算とは、ある所得で赤字が出た場合に、ほかの所得の黒字と相殺して、全体の所得を減らせる仕組みのことです。
譲渡所得は分離課税によって個別に税金が計算されるため、相続した土地を売却して損失が出たとしても、その損失を給与所得から差し引くといった運用は原則として認められません。
「土地を売って損したけど税金は安くなるかも」と期待してしまうと、あとでがっかりすることになるかもしれないので、この点はしっかりと覚えておきましょう。
特例を利用するためには、必ず確定申告をおこなわなければなりません。
たとえ特例を使った結果、納める税金が0円になったとしても、確定申告の手続きは必要です。
申告をしなければ、税務署は特例を使いたいという意思も、その適用要件を満たしているかどうかも判断できません。
確定申告を怠ると、特例の適用が認められず、本来払う必要のなかった税金を納めることになってしまう可能性もあります。
特例の利用を考えている場合は、必ず期限内に確定申告をおこないましょう。
どの特例が使えるか、どんな書類が必要かなど、不明な点があれば早めに税務署や税理士に相談することが大切です。
相続した土地の売却は、普段あまり経験することのない大きな取引であり、税金の計算も少し複雑に感じるかもしれません。
しかし、基本的な仕組みや流れ、そして活用できる特例などを知っておけば、過度に心配する必要はないでしょう。
大切なことは、まず現在の状況を把握し、正しい情報を集め、計画的に進めることです。
土地を売却して利益が出た場合は、翌年の確定申告を絶対に忘れないようにしましょう。
ただし、取得費がわからない場合の対応や、どの特例が使えるのかといった判断は、専門的な知識が必要になることも少なくありません。
税金の計算や特例の申請方法などに疑問がある場合には、無理せず税理士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
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