死後離婚とは、亡くなった配偶者の親族との間で、姻族関係(親族関係)を終了させることをいいます。
義実家との関係性を煩わしく感じている方は、死後離婚が解決策の一つとなるでしょう。
死後離婚をしても、亡くなった配偶者の遺産に関する相続権には影響が生じません。
しかし、配偶者の親族であるほかの相続人に悪い印象を与え、相続トラブルの遠因になる可能性があるので注意が必要です。
本記事では死後離婚について、概要・相続手続きに与える影響・注意点などを解説します。
死後離婚を検討している方は、本記事を参考にしてください。
「死後離婚」とは、配偶者が亡くなった後に、配偶者の親族との間の姻族関係を終了させる手続きの俗称です。
夫婦の一方が死亡した場合、生存配偶者はその意思表示によって、死亡した配偶者の親族との姻族関係を終了させることができます(民法728条2項)。
届出人の本籍地または所在地の市区町村役場に対して「姻族関係終了届」を提出すると、死後離婚が成立します。
姻族関係終了届の提出(死後離婚)は、法的な「離婚」には当たりません。
しかし、配偶者側の実家(義実家)との縁を切る点に注目して、俗に「死後離婚」と呼ばれることがあります。
死後離婚をすると、義実家とは姻族(親族)でなくなるので、義実家側の人間関係から遠ざかりやすくなります。
義実家への対応を煩わしく感じている方などには、死後離婚が有力な解決策となるでしょう。
なお後述のとおり、死後離婚をしても、亡くなった被相続人の配偶者として取得した相続権が失われることはありません。
したがって、死後離婚をした場合でも、遺産を相続することは可能です。
死後離婚を検討する際に、多くの方が懸念なさるのは、遺産相続・死亡保険金・遺族年金などへの影響の有無です。
死後離婚をしても、亡くなった配偶者の相続権や、死亡保険・遺族年金の受給権に影響は生じません。
したがって、死後離婚をするに当たり、経済的側面についてはほとんど心配する必要がないでしょう。
死後離婚をしても、亡くなった配偶者の遺産に関する相続権は失われません。
死後離婚はあくまでも、亡くなった配偶者の親族との間の姻族関係を終了させるものであって、法的な意味での「離婚」ではありません。
被相続人が亡くなった時点では、相続権を得られる配偶者であったことに変わりがないため、死後離婚をしても相続権は維持されます。
したがって、死後離婚をした場合であっても、亡くなった配偶者の遺産を相続することは可能です。
遺産分割協議にも参加できます。
亡くなった配偶者が生命保険に加入していた場合は、受取人として指定されていた方が死亡保険金を受給できます。
死後離婚をしたとしても、死亡保険金の受取人としての地位は失われません。
したがって、ご自身が受取人に指定されていれば、死後離婚をした場合であっても、死亡保険金を受け取ることが可能です。
国民年金または厚生年金保険の被保険者が亡くなった場合、亡くなった方によって生計を維持されていた遺族は「遺族年金」を受給できることがあります。
遺族年金の受給要件および受給対象者は、以下のとおりです。
遺族基礎年金・遺族厚生年金の受給資格を両方満たす方は、両方受給できます。
遺族基礎年金の受給要件・受給対象者 |
【受給要件】
以下のいずれかに該当すること (a)国民年金の被保険者である間に死亡したとき (b)国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の方で、日本国内に住所を有していた方が死亡したとき (c)老齢基礎年金の受給権者であった方が死亡したとき (d)老齢基礎年金の受給資格を満たした方が死亡したとき
※(a)(b)については、死亡日の前日において、保険料納付済期間(保険料免除期間を含む)が国民年金加入期間の3分の2以上あることが必要 ※(c)(d)については、保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間を合算した期間が25年以上あることが必要
【受給対象者】
以下のいずれかに該当する方 (a)子のある配偶者 (b)子
※子=18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方 ※子のある配偶者が遺族基礎年金を受け取っている場合、または子に生計を同じくする父もしくは母がいる場合には、子に対して遺族基礎年金は支給されない
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遺族厚生年金の受給要件・受給対象者 |
【受給要件】
以下のいずれかに該当すること (a)厚生年金保険の被保険者である間に死亡したとき (b)厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で初診日から5年以内に死亡したとき (c)1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けとっている方が死亡したとき (d)老齢厚生年金の受給権者であった方が死亡したとき (e)老齢厚生年金の受給資格を満たした方が死亡したとき
※(a)(b)については、死亡日の前日において、保険料納付済期間(保険料免除期間を含む)が国民年金加入期間の3分の2以上あることが必要 ※(d)(e)については、保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間を合算した期間が25年以上あることが必要
【受給対象者】
以下のいずれかに該当する方のうち、最も優先順位の高い方 (a)子のある配偶者 (b)子 (c)子のない配偶者 (d)父母 (e)孫 (f)祖父母
※子、孫=18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方 ※子のある妻または子のある55歳以上の夫が遺族厚生年金を受け取っている場合には、子に対して遺族厚生年金は支給されない ※子のない30歳未満の妻は、5年間のみ受給可能 ※子のない夫は55歳以上である方に限り受給可能(ただし受給開始は60歳から) ※父母または祖父母は55歳以上である方に限り受給可能(ただし受給開始は60歳から)
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遺族年金の受給資格は、死後離婚をしたとしても失われません。
したがって、受給要件を満たし、かつ受給対象者に当たる方は、死後離婚をしたあとも遺族年金を受給可能です。
死後離婚をしても、相続権が変更されることはなく、相続手続きについても具体的な影響はありません。
したがって、通常と同様の流れで相続手続きをおこなうことになります。
遺産を相続するかどうかの意思表示には、「単純承認」「相続放棄」「限定承認」の3種類があります。
①単純承認
資産・債務の両方を無制限に相続する旨の意思表示です。
②相続放棄
資産・債務をいずれも一切相続しない旨の意思表示です。
③限定承認
資産を相続しつつ、債務は資産額の限度でのみ相続する旨の意思表示です。
このうち、限定承認をおこなう方は比較的少なく、ほとんどの方が単純承認または相続放棄のいずれかを選択しています。
単純承認と相続放棄について、死後離婚をする方が対応すべき相続手続きの流れを解説します。
相続を単純承認し、遺産を相続する場合の手続きの流れは、大まかに以下のとおりです。
STEP01 遺言書の有無の確認
まず遺言書の有無を確認します。
遺言書が存在する場合は、原則としてその内容のとおりに遺産を分ける必要があるためです。
遺言書は、亡くなった被相続人の遺品を探すと見つかることがあります。
また、公証役場や法務局で保管されているケースもあるので、見逃さないように注意しましょう。
STEP02 相続人の調査・確認
相続権を有する相続人を確定するため、戸籍謄本などを取り寄せて調査・確認します。
STEP03 相続財産の調査
遺産分割の対象となる相続財産を調査します。
不動産や未公開株式などについては、金銭的な価値の評価もおこないます。
また、被相続人が負担していた債務(借金など)についても調査します。
STEP04 単純承認・相続放棄・限定承認の選択
相続財産の調査結果を踏まえて、単純承認・相続放棄・限定承認のいずれかを選択します。
ここでは単純承認を選択したものとします。
なお、単純承認と相続放棄については、相続人ごとに判断が異なっても構いません(限定承認については、相続人全員でおこなう必要があります)。
STEP05 遺産分割協議
相続人全員で話し合い、誰がどの遺産を相続するかを決めます。
STEP06 遺産分割協議書の作成
遺産分割協議がまとまったら、その内容を記載した遺産分割協議書を作成し、署名および実印にて調印します。
STEP07 相続税の申告
相続財産等の課税対象財産の総額が基礎控除額を超える場合や、小規模宅地等の特例・配偶者の税額の軽減の適用を受ける場合には、被相続人の納税地の税務署に対して、相続税の申告をおこないます。
STEP08 相続登記の手続き
不動産を相続した場合は、その所在地の法務局または地方法務局に対して、相続登記(所有権移転登記)を申請します。
上記のほか、預貯金については金融機関における相続手続きをおこなうなど、財産の種類に応じた名義変更手続きが必要になることがあります。
相続放棄をする場合の手続きの流れは、大まかに以下のとおりです。
なお、相続放棄の申述は原則として、相続の開始を知った時から3か月以内におこなう必要があります。
STEP01 財産調査をおこなう
相続放棄をすべきかどうか適切に判断するため、被相続人が所有していた資産と、負担していた債務の両方を調査します。
債務額が資産額を上回っている場合や、資産の管理が非常に大変な場合などには、相続放棄を選択した方がよいでしょう。
STEP02 必要書類の準備
相続放棄をすることを決めたら、家庭裁判所に提出する必要書類を準備します。
必要書類は戸籍謄本類が中心で、亡くなった被相続人と申述者の続柄によって種類が異なります。
書類の収集に時間がかかるケースもあるので、早めに準備を進めましょう。
STEP03 手続き費用の準備
家庭裁判所に相続放棄の申述をおこなう際には、申述書に800円分の収入印紙を貼付する必要があります。
さらに、連絡用の郵便切手数百円分程度の納付が必要です。
上記に加えて、弁護士に相続放棄の手続きを依頼する場合には、10万円から20万円程度の依頼費用がかかります。
これらの費用を準備しておきましょう。
STEP04 申述書の作成
家庭裁判所に対して提出する、相続放棄申述書を作成します。
相続放棄申述書の書式は、裁判所のウェブサイトからダウンロード可能です。
成人と未成年者で書式が異なる点に注意しましょう。
なお弁護士に依頼すれば、相続放棄申述書を代わりに作成してもらえます。
STEP05 申述をおこなう
家庭裁判所に対して申述書その他の必要書類を提出し、相続放棄の申述をおこないます。
STEP06 証明書の発行
相続放棄の申述が受理されると、家庭裁判所から相続放棄申述受理証明書が発行されます。
なお、相続放棄の申述が受理されたあとで、家庭裁判所から相続に関する照会書が送られてきます。
照会の目的は、相続放棄が認められない場合でないかどうかを、家庭裁判所において確認することです。
期限や法定単純承認(民法921条)などに注意しつつ、回答書を返送しましょう。
弁護士に依頼していれば、家庭裁判所の照会に対する回答も代行してもらえます。
死後離婚が相続権に影響を与えることはありませんが、相続トラブルの遠因となることはよくあります。
死後離婚に起因する相続トラブルを回避するためには、特に以下の3つのポイントに注意しましょう。
亡くなった配偶者の相続については、義実家の親族との間で遺産分割をおこなうことになります。
死後離婚をすると、義実家の親族との関係性が疎遠になったり、ご自身に対して悪感情が向けられたりするケースがよくあります。
そうなると、遺産分割の話し合いがうまくまとまらず、トラブルに発展してしまうリスクが高まってしまいます。
死後離婚に期限はないため、特に急いで手続きをおこなう必要はありません。
死後離婚をするならば、遺産分割が完了した後にする方が無難でしょう。
死後離婚をしても、義実家とご自身の子どもの間の親族関係に影響はありません。
しかし、義実家の親族がご自身に対して悪感情を向けるようなケースでは、子どもに対しても攻撃的な態度をとられることがあります。
子どもとしても、義実家の親族から攻撃されると、精神的に辛い場面が生じるかもしれません。
死後離婚をする際には、子どもにも義実家と疎遠になる可能性を理解してもらうため、事前にその旨を説明しておくことが望ましいでしょう。
配偶者が亡くなった時点で、配偶者の両親が存命中の場合は、将来的に配偶者の両親が亡くなった際、ご自身の子どもが代襲相続人となります(民法887条2項)。
子どもが代襲相続人となった場合、ほかの相続人(亡くなった配偶者の兄弟姉妹など)との間で遺産分割をおこないます。
その際、死後離婚によってほかの相続人に生じた悪感情が子どもに向けられ、相続トラブルに発展してしまうリスクがあるので注意が必要です。
なお、子どもが未成年者のうちに代襲相続人となった場合には、ご自身が法定代理人として遺産分割協議へ参加することになる点にもご留意ください。
死後離婚を検討する際には、以下の事項にも注意した上で、実際に手続きをおこなうかどうかを適切に判断しましょう。
死後離婚の手続きをおこなうと、その後に死後離婚を撤回し、義実家との親族関係を復活させることはできません。
死後離婚をする際には、義実家との親族関係が完全に失われてしまうことを十分に理解した上で手続きをおこないましょう。
配偶者が亡くなったあと、一定の期間が経過した段階で、複数回にわたって法要が開催されることがあります。
法要の主宰者が義実家の親族である場合、死後離婚によって悪感情を持たれていると、出入り禁止を言い渡されて法要に参加できなくなるなどの事態になりかねません。
こうした事態を防ぐためには、死後離婚の手続きを法要の完了後にすることなどを検討すべきでしょう。
亡くなった配偶者を祀るための系譜・祭具・墳墓は「祭祀財産」と呼ばれます。
祭祀財産は、通常の相続財産とは異なり、被相続人の指定や慣習などに従って承継者が決まります。
祭祀財産をご自身が承継したあとで死後離婚をした場合、義実家側から祭祀財産の譲渡を求められることがあるので注意が必要です。
死後離婚をしたとしても、祭祀財産の承継・保持が一切認められないわけではありません。
亡くなった配偶者の祭祀をおこなう人としてふさわしければ、祭祀財産を保持することはできます。
しかし義実家側としては、いわゆる「家」の考え方に基づき、縁を切った義理の娘(息子)のところへ祭祀財産を置いておくわけにはいかないと考えるかもしれません。
双方が祭祀財産にこだわる場合は、深刻なトラブルに発展してしまうおそれがあります。
死後離婚をする際には、祭祀財産の譲渡(返還)を求められた場合の対応についても、念のため検討しておきましょう。
介護を担当したなど、義両親のために無償で療養看護その他の労務を提供した場合には、義両親の相続において特別寄与料を請求できることがあります(民法1050条1項)。
しかし、特別寄与料を請求できるのは被相続人の親族のみです。
死後離婚をすると、義実家との親族関係が終了するため、義両親の相続において特別寄与料を請求できなくなります。
義両親の介護をおこなったことなどを理由に、特別寄与料の請求を検討している方は、死後離婚によって請求ができなくなる点に十分ご注意ください。
死後離婚をすると、亡くなった配偶者の義実家との親族関係は終了しますが、配偶者の遺産に関する相続権は失われません。
したがって、死後離婚をしても遺産を相続することは可能です。
ただし、死後離婚をきっかけとして義実家側から悪感情を向けられ、相続トラブルに発展するケースが見受けられます。
また、法要への出入り禁止を通告されるなど、相続以外の場面でもトラブルになるケースがよくあります。
死後離婚には期限がないので、長い目で見て適切なタイミングを模索しましょう。
遺産相続に関するトラブルや懸念点は、弁護士に相談するのが安心です。
具体的な状況に応じて、適切な方針や解決策のアドバイスを受けられるでしょう。
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