被相続人と同居して身の回りの世話や介護をしていた方にとって、相続で有利になるのかは気になるところでしょう。
遺産を多く受け取るにはどうすればよいのか、疑問に思っている方もいるのではないでしょうか?
本記事では「同居していれば遺産相続で有利になるのか」といった疑問や、遺産相続を有利に進めるための方法などについて解説します。
これから遺産相続を控えている方はぜひ参考にしてください。
「被相続人と同居して世話をしていたのだから、遺産を多くもらえるのでは?」と考えている方もいるでしょう。
しかし、被相続人と同居していたとしても、遺産相続で有利になることはありません。
同居をしていたからといって、法定相続分が多くなることはありません。
民法では、誰がどのくらい遺産を相続するかの割合が定められています。
この割合のことを「法定相続分」といい、遺言がない場合は法定相続分に従って相続するのが一般的です。
被相続人の配偶者が最優先で遺産を相続でき、次に子ども、父母・祖父母、兄弟姉妹の順に遺産を受け取ることができます。
このように、法定相続分は被相続人からみた続柄に応じて決められており、同居していたかどうかは関係ありません。
「被相続人と同居して長年介護をしていたのだから、遺産を多くもらえて当然だ」など、同居を理由に相続を有利に進めようとすると、ほかの相続人とトラブルになる可能性があります。
トラブルに発展した場合、遺産分割協議が滞ったり、家庭裁判所で遺産分割調停をおこなうことになったりして、遺産の相続に時間がかかるおそれがあるでしょう。
ほかの相続人と不仲になってしまうことも考えられるので注意が必要です。
同居していたという理由で遺産相続が有利になるわけではありませんが、例外的に遺産を多く相続できることもあります。
寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に特別に貢献した相続人が、ほかの相続人よりも遺産を多く相続できる制度のことです。
寄与分が認められた場合、その相続人は法定相続分よりも多くの遺産を相続できます。
被相続人と同居していた人にとって、寄与分は魅力的な制度でしょう。
しかし、寄与分を主張するのは簡単ではありません。
寄与分が認められるには、以下の5つの要件を満たす必要があります。
1つ目の要件は、相続人または相続人の親族であることです。
相続人となれるのは、基本的に被相続人の配偶者、子ども、父母、兄弟姉妹です。
被相続人と同居していた人がいずれかに当てはまる場合は、寄与分を主張できる可能性があるでしょう。
また、子どもの配偶者など、相続人ではない親族にも寄与分(特別寄与料制度)が認められる場合があります。
2つ目の要件は、被相続人の財産の維持・増加に貢献するような行為をしたことです。
「介護をしたことでヘルパーを雇う費用が浮いた」「被相続人の家業を手伝い売り上げに貢献した」など、被相続人の財産を減らさない、もしくは増やすような行為をした場合、寄与分が認められる可能性があります。
3つ目の要件は、通常期待される以上の特別な貢献をしたことです。
法律では、家族は互いに扶養する義務があります(民法877条)。
その義務の範囲を大きく超えている場合に、特別な貢献をしたと認められるのです。
たとえば「10年もの間、毎日つきっきりで介護にあたった」といった場合は期待以上の特別な貢献をしたと考えられ、寄与分が認められる可能性があります。
一方、子どもが親の身の回りの世話を週1〜2回していた程度では寄与分は認められにくいでしょう。
4つ目の要件は、無償または無償に近い貢献をしたことです。
報酬を一切受け取らずに仕事や介護などに従事していた場合、寄与分が認められる可能性があります。
一方、生活費・給与・報酬などを受け取っていた場合は、寄与分が認められません。
ただ生活費を含めて、一切お金を受け取っていないケースは少ないでしょう。
この場合、第三者を雇い報酬を支払うのと比べ差がどのくらいあるかを考慮します。
第三者に報酬を支払い仕事や介護を任せる場合に比べ、大幅に差があれば無償に近い行為と判断されるわけです。
5つ目の要件は、一定期間以上継続して行為をおこなっていたことです。
具体的には1年以上にもわたって療養介護をしていた場合、また、3年以上継続して家業を手伝っていた場合には、「行為に継続性がある」と認められる可能性が高いでしょう。
一方、「3日間だけ仕事を手伝った」「1ヵ月間だけ面倒を見た」など、期間が短いケースでは継続性があったとはみなされません。
被相続人と同居していた人は、どのようなパターンで寄与分が認められるのでしょうか?
ここからは、寄与分が認められる可能性があるパターンを3つ紹介します。
被相続人の事業・家業を、無償または無償に近い形で手伝っていた場合、家事従事型に該当します。
「被相続人が経営していた店の運営を無償で手伝っていた」「被相続人の農業にほぼ無償で従事していた」などのケースでは、同居による寄与分が認められる可能性があるでしょう。
被相続人の介護・看護をしたことでヘルパー代を浮かせた、といったケースは、療養看護型にあたります。
子どもが親をつきっきりで介護し、数百万円のヘルパー代を節約できていた場合、財産の維持に貢献しているので寄与分の要件を満たしていると判断されます。
この場合、特別の寄与をしたとみなされ、寄与分が認められるでしょう。
被相続人の身の回りの世話をしたことで生活費の負担を抑えた場合、扶養型に該当します。
被相続人が重いけが・病気を患っていた、十分な収入がなかった、などの理由で相続人が生活費の大半を負担していた場合、寄与分が認められる可能性があるでしょう。
ただし、被相続人が健康であった、十分な収入を得ていたなど、扶養の必要性がないのに扶養をしていた場合は、寄与分が認められないので注意が必要です。
家庭裁判所が寄与分によって遺産をどのくらい多く受け取るべきか計算する場合、寄与の方法や程度などさまざまな事情を考慮します。
ここでは、実際にどのような計算式で金額が算出されるか、療養看護型・扶養型における具体例をみていきましょう。
療養看護型の場合、「介護日数×介護報酬相当額×裁量割合」の計算式で求めた金額を受け取れます。
介護日数には、入院期間・施設入所期間・介護サービスを受けた期間は原則含まれません。
介護報酬相当額は、要介護度に応じて定められている介護報酬基準額を基にした金額で、一般的には1日5,000〜8,000円程度です。
裁量割合とは、個別の事情に応じて裁判所が定める割合のことです。
0.5〜0.9に設定されますが、一般的には0.7が採用されることが多くなっています。
たとえば介護日数が250日、介護報酬相当額が1日5,000円、裁量割合が0.7であれば、87.5万円を受け取ることが可能です。
扶養型の計算例は、過去の具体的な判例を基に紹介します。
この事例では、被相続人の妻が入院中、被相続人の子Aの妻が毎日病院に通っていたうえ、A夫妻で被相続人の身の回りの世話をしていました。
被相続人の妻が死亡したあとはAの妻が被相続人の食事を作り、日常的に面倒を見ていたといいます。
被相続人に認知症の症状が現れると、毎回の食事をAの家で摂らせるようにしたほか、被相続人がほかの子どもの家を訪ねる際はAが往復とも付き添っていました。
裁判所は、被相続人に認知症の症状が現れ始めてからの3年間について特別の寄与があったと認めています。
判決では、被相続人の扶養のために負担した金額を1日8,000円とし、その3年分の876万円(8,000円×365日×3)が寄与分として認められました。
寄与分が認められるには、証拠をきちんと準備する必要があります。
証拠を十分に揃えれば、相応の寄与分が認められる可能性が高くなるうえ、ほかの相続人とのトラブルを防ぐこともできるでしょう。
仮にトラブルに発展して遺産分割調停をおこなうことになっても、不利な状況に追い込まれるリスクを軽減できます。
寄与分を認められるのに必要となる主な証拠は以下のとおりです。
類型 |
主な証拠の例 |
家業従事型 |
・タイムカードなどの勤怠記録 ・契約書 ・取引先とのメール・書類・手紙など ・被相続人の確定申告書・税務書類 ・事業用の預金通帳 |
看護療養型 |
・要介護認定通知書 ・要介護の認定資料 ・診断書・カルテ ・介護サービス利用表 ・医療機関の領収書 ・介護日誌 ・介護状況を見ていた第三者の陳述書等 |
扶養型 |
・預金通帳 ・クレジットカードの利用明細書 ・家計簿 |
寄与分が認められなかったとしても、相続財産を多く受け取れる可能性があります。
ここからは、寄与分以外に相続財産を多く受け取る方法を3つ紹介します。
小規模宅地等の特例は相続税を算出するにあたり、被相続人が居住用や事業用として使用していた土地を相続する場合に、その土地の評価額を最大80%減額できる制度です。
評価額がどのくらい減額されるかはその土地の用途により異なります。
たとえば、居住用の宅地を相続する場合は、その土地の330㎡までの部分の評価額を80%下げることが可能です。
評価額が下がれば相続税を抑えることができるので、その分手取り額として受け取れる金額が高くなります。
被相続人の配偶者は、無条件で小規模宅地等の特例を利用することが可能です、
一方、配偶者以外の親族が特例をうける場合は、被相続人と同居していたことを含め以下条件を満たす必要があります。
被相続人が亡くなったあと自宅に戻った場合は、特例を受けられないので注意しましょう。
なお、同居期間に制限はないため、一緒に住んでいた期間が1週間と短くても特例の利用は可能です。
小規模宅地等の特例を受ける際に注意が必要なのは、相続税の申告が必要である点です。
相続税の申告は、相続財産の金額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合に必要となります。
そのうえで、小規模宅地等の特例を適用すれば相続財産が基礎控除額以下になるとしましょう。
この場合、結果的に相続税が発生しなくなるとしても、相続税申告をしなければ特例が適用されません。
被相続人に遺言を書いてもらえば、法定相続分とは異なる割合で財産を相続することができます。
被相続人が「同居して面倒を見てくれた◯◯に多くの財産を渡したい」といった旨の遺言を残していた場合、多くの財産を受け取れるわけです。
遺言によって同居している家族に多くの遺産を渡すことができますが、遺言の内容によっては、ほかの相続人が「遺留分を侵害されている」と訴えてくる可能性があるので注意しましょう。
遺留分とは、相続人が最低限受け取ることができる遺産を保障する制度で、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められています。
遺言でも、遺留分を否定することはできません。
そのため、遺言の内容が遺留分を侵害していた場合、「遺留分侵害額請求」がおこなわれ、遺言どおりの遺産相続ができないおそれがあるので注意してください。
なお遺留分の詳細については、以下記事で確認いただけます。
生前贈与とは、生きている間に自分の財産を他者に譲り渡すことです。
同居していた家族が遺産を多く受け取りたい場合、被相続人に生前贈与をしてもらう方法があります。
生前贈与をおこなえば、その分相続時の財産を減らせるので、相続税を抑えることができます。
なお、生前贈与には本来贈与税がかかりますが、「暦年贈与」という制度を使うことで毎年110万円までなら贈与税がかからなくなります。
相続時も贈与時も税負担を抑えられるので、税金対策をしたい方におすすめです。
以下のようなケースでは、遺留分を請求される可能性があるので注意しましょう。
上記のケースで贈与額があまりに高額だと、ほかの相続人の取り分が大きく減ってしまいます。
生前贈与でも遺留分を意識する必要がある点は覚えておきましょう。
同居を理由に遺産を多く受け取りたいなら、弁護士に相談・依頼するのがおすすめです。
ここからは、弁護士に相談・依頼するメリットを3つ紹介します。
弁護士に依頼することで、寄与分を適切に主張できるようになります。
弁護士の役割は、依頼人の利益を最大化することです。
そのため弁護士は依頼者がより多く寄与分を受け取れるように、以下のような対応をしてくれます。
被相続人が遺言を残していても、内容・形式の不備により無効となることがあります。
素人が遺言書を作成した場合、ルール違反があり無効になってしまうケースも少なくありません。
遺言が無効となれば、寄与分が認められなくなってしまうことも考えられるのです。
法律の専門家である弁護士に遺言書の作成を依頼すれば、もちろんこういった心配はありません。
また弁護士であれば、寄与分についてどのように遺言書へまとめれば有効かも熟知しています。
書き方が悪ければ、寄与分の主張が認められづらくなってしまう可能性も否定できません。
遺言書で実現したい内容がある場合は、弁護士に頼ったほうがよいでしょう。
そのほか、遺言には自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3つがあり、どれが最適かをケースに応じて判断してもらえるのも弁護士に依頼する大きなメリットです。
たとえば最も確実に遺言書の内容を実現できるのは公正証書遺言ですが、死期が迫っているなど時間がないこともあります。
そんな場合、遺言書が有効であることを証明する音声・動画などの証拠を集めつつ自筆証書遺言をえらぶという方法もあるのです。
弁護士であれば、こういった判断を適切におこなえます。
寄与分を主張すると、ほかの相続人とトラブルになるおそれがあります。
相続人同士のトラブルを解決するには法律的な知識が必要となるため、一般の人だけで対応するのは決して簡単ではありません。
その点、相続トラブルが得意な弁護士なら、法律の知識が豊富であるうえ相続人との交渉にも慣れています。
高度な法的知識を基にトラブル解決に導いてくれるので、相続を円満に終わらせられる可能性が高いでしょう。
被相続人と同居していたからといって、必ず遺産相続が有利になるわけではありません。
しかし、寄与分が認められたり、被相続人が遺言を残していたりした場合は、法定相続分よりも多くの遺産を受け取れる可能性があります。
遺産相続を有利に進めるには法律的な知識が求められるので、相続を円滑に済ませたいなら弁護士に相談・依頼しましょう。
弁護士に依頼することで、遺産を多く受け取れる可能性が高まる・スムーズに遺産分割できる・ほかの相続人とのトラブルを防げる、といったさまざまなメリットがあります。
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