遺族厚生年金は、厚生年金の加入者が亡くなったとき、生計を維持されていた遺族に支給される年金です。
配偶者や子ども、父母などが受給できる可能性があります。
しかし、受給者には優先順位があるうえ、条件を満たさないと受給できません。
また支給が停止される場合もあるため、制度内容を正しく理解しておくことが重要です。
本記事では、遺族厚生年金の仕組みや受給資格、支給金額を詳しく解説。
手続きの方法や支給が停止するケースについても解説するので、ぜひ参考にしてください。
遺族厚生年金は、厚生年金に加入していた方(または加入期間がある方)が亡くなった場合に、その方に生計を維持されていた遺族に支給される年金。
「生計を維持されていた」とは、具体的には次の条件を満たしている状態を指します。
別居していても、仕送りを受けていたり健康保険の扶養親族であったりすれば要件を満たします。
遺族年金は「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類。
国民年金の加入者が亡くなった場合は「遺族基礎年金」、厚生年金の加入者が亡くなった場合は「遺族厚生年金」の対象になります。
たとえば、会社員として厚生年金に加入していた夫が亡くなった場合、条件を満たせば遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方を受け取れる可能性があります。
一方、自営業で国民年金のみに加入していた夫が亡くなった場合は、原則として遺族基礎年金のみが支給対象です。
遺族厚生年金と遺族基礎年金は、いくつかの点で明確な違いがあります。
遺族基礎年金 | 遺族厚生年金 | |
---|---|---|
受給対象者 | ● 子のいる配偶者 ● 子 |
● 配偶者 ● 子 ● 父母 ● 孫 ● 祖父母 |
受給金額 | 831,700円(※)+子の加算額 | 死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3 |
※昭和31年4月2日以後生まれの方の場合
遺族基礎年金を受け取れるのは、原則として「18歳到達年度末までの子(または障害等級1級・2級の状態にある20歳未満の子)がいる配偶者」または「子自身」。
一方、遺族厚生年金はより対象範囲が広く、子のいない妻や、父母、孫、祖父母も対象となる可能性があります。
また遺族基礎年金は、子の人数に応じて加算されるものの、基本的には定額で支給されます。
対して遺族厚生年金は、亡くなった方の厚生年金加入期間や生前の収入(平均標準報酬額)に基づいて計算されるため、金額は人によって大きく変動します。
遺族厚生年金を受け取るには、一定の条件を満たしている必要があります。
亡くなった方と遺族、双方の条件が整って初めて認められるものです。
遺族厚生年金を受け取れるのは、「亡くなった方によって生計を維持されていた」遺族です。
ただし、対象となる遺族には優先順位が定められており、最も順位の高い方から順に受給権を得ます。
優先順位は、①子のいる配偶者(妻または夫)、②子、③子のない配偶者 ④父母、⑤孫、⑥祖父母の順。
対象遺族 | 条件 |
---|---|
1.子のいる配偶者 | 夫の場合は55歳以上の方 |
2.子 | 18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方 |
3.子のない配偶者 | 夫の場合は55歳以上の方 |
4.父母 | 55歳以上の方 |
5.孫 | 18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方 |
6.祖父母 | 55歳以上の方 |
たとえば、妻が受給資格を満たす場合、子や父母は原則として受給できません。
また子や孫が受給対象となるのは、18歳になった年度の3月31日までにあるか、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある場合です。
夫、父母、祖父母は55歳以上であることが条件です。
遺族厚生年金が支給されるためには、亡くなった方が以下1~5のいずれかの要件を満たしている必要があります。
- 厚生年金保険の被保険者である間に死亡したとき
- 厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で初診日から5年以内に死亡したとき
- 1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けとっている方が死亡したとき
- 老齢厚生年金の受給権者であった方が死亡したとき
- 老齢厚生年金の受給資格を満たした方が死亡したとき
ただし1と2のケースでは、保険料納付済期間が国民年金加入期間の3分の2以上あること、もしくは65歳未満であれば直近1年間に保険料の未納がないことが条件。
また4と5の要件では、保険料納付済期間、保険料免除期間、合算対象期間を合計した期間が25年以上ある方に限られます。
遺族厚生年金として受け取れる金額は、一律ではありません。
厚生年金への加入期間の長さや、加入期間中の平均収入(平均標準報酬額)に基づいて計算されます。
遺族厚生年金の具体的な金額を知るには計算が必要ですが、ざっくりとした目安をお伝えします。
たとえば、亡くなった夫の厚生年金加入期間が平成15年4月以降で300月(約25年)、妻が40歳未満の場合の早見表は次のとおり。
平均標準報酬額 | 支給金額 |
---|---|
20万円 | 246,645円 |
25万円 | 308,306円 |
30万円 | 369,968円 |
35万円 | 431,629円 |
40万円 | 493,290円 |
45万円 | 554,951円 |
50万円 | 616,613円 |
55万円 | 678,274円 |
60万円 | 739,935円 |
ただし、これはあくまで特定の条件下での試算であり、加入期間の時期や遺族の年齢などによって金額は変動します。
遺族厚生年金の基本的な年金額は、亡くなった方が受け取るはずだった老齢厚生年金の「報酬比例部分」の4分の3です。
報酬比例部分は厚生年金加入期間中の収入や加入月数に応じて計算される部分で、以下の計算式で割り出せます。
報酬比例部分=A+B A(平成15年3月までの分):平均標準報酬月額 × 7.125/1,000 × 平成15年3月までの加入月数 B(平成15年4月以降の分):平均標準報酬額 × 5.481/1,000 × 平成15年4月以降の加入月数 |
上記計算式で算出した、報酬比例部分の4分の3が遺族厚生年金の年金額です。
なお、自身の状況で遺族厚生年金がいくらになるかは「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で確認できます。
将来受け取る老齢厚生年金の報酬比例部分の見込み額が記載されているため、その額の4分の3が遺族厚生年金の目安と考えてください。
遺族の状況によって、遺族厚生年金に他の年金や加算が上乗せされ、受け取れる総額が増える場合があります。
たとえば、一定の条件を満たす子どもがいる場合や、妻が特定の年齢の場合などが該当します。
亡くなった方によって生計を維持されていた遺族が以下に当てはまる場合、遺族基礎年金の受給資格も満たします。
※または障害等級1級・2級の状態で20歳未満の子
遺族基礎年金の年金額は定額。
令和7年度の年金額は、831,700円に加えて、子の人数に応じた加算がおこなわれます。
たとえば子どもが2人いる妻の場合、遺族厚生年金に加えて、遺族基礎年金として年額1,310,300円の上乗せです。
遺族基礎年金の詳しい要件や金額については以下の記事を参考にしてください。
次のいずれかに該当する妻が40歳から65歳になるまでの間、中高齢寡婦加算として623,800円(年額)が加算されます。
65歳になると中高齢寡婦加算は終了しますが、その後は自身の老齢基礎年金を受け取れるようになります。
なお、中高齢寡婦加算は妻を亡くした夫には支給されません。
遺族厚生年金をいつまでもらえるかは、受給する遺族の方の続柄や年齢などによって異なります。
一生涯受け取れる場合もあれば、一定の年齢まで、あるいは特定の期間に限られる場合もあります。
妻が遺族厚生年金を受け取る場合、原則として生涯にわたって受給は続きます。
ただし、夫が亡くなった時点で妻が30歳未満であり、かつ子どもがいない場合には、受け取れる期間は5年間です。
また年齢に関わらず、再婚した場合(事実婚の状態を含む)には、遺族厚生年金の受給権は失われ、支給は打ち切られます。
子どもが遺族厚生年金を受け取る場合の支給期間は、原則として18歳になった年度の末日(3月31日)まで。
高校を卒業する年齢までがひとつの区切りです。
ただし、障害年金の障害等級1級または2級に該当する障害の状態にある場合は、受給期間が延長され、20歳になるまで受け取ることが可能です。
また、結婚した場合(事実婚を含む)や養子縁組によって亡くなった方以外の養子となった場合には受給資格を失います。
夫、父母、祖父母が遺族厚生年金を受け取る場合、原則、生涯にわたって受給が可能です。
ただし、受給権を得るためには、原則として亡くなった方の死亡当時に55歳以上であることが必要。
さらに、実際に年金の支給が開始されるのは60歳からとなります。
例外として、夫が遺族基礎年金もあわせて受給できる場合には、55歳から60歳の間でも遺族厚生年金を受け取ることが可能です。
なお、夫が受け取る場合、再婚した際には受給資格を失います。
遺族厚生年金を受給している方が65歳になり、自身の老齢年金を受け取る権利が発生した場合、遺族厚生年金と併給ができます。
具体的には、自身の老齢基礎年金は全額受け取ることが可能。
ただし、老齢厚生年金は調整がおこなわれます。
老齢厚生年金の額が遺族厚生年金の額以上であれば、老齢厚生年金を全額受け取り、遺族厚生年金は支給停止となります。
逆に、遺族厚生年金の額が自身の老齢厚生年金の額よりも高い場合は、老齢厚生年金を全額受け取った上で、差額分の遺族厚生年金が支給されます。
たとえば、老齢基礎年金が年額100万円、老齢厚生年金が年額50万円、そして受給している遺族厚生年金が年額60万円の場合で考えてみましょう。
この場合、自身の老齢基礎年金100万円と老齢厚生年金50万円、差額(60万円 - 50万円 = 10万円)の遺族厚生年金が支給され、合計160万円(年額)を受け取ることになります。
遺族厚生年金は自動的に支給が開始されるわけではなく、自身で請求手続きをおこなう必要があります。
窓口は、住んでいる地域を管轄する年金事務所、または街角の年金相談センター。
手続きに不安がある場合は、まずは年金事務所に電話で問い合わせて相談予約を取り、必要書類を確認してから窓口を訪れるとスムーズに進められるでしょう。
遺族厚生年金の請求手続きには、次の書類が必要です。
必要書類 | 詳細 |
---|---|
年金請求書 | 窓口で入手または日本年金機構ホームページからダウンロード |
戸籍謄本 | 死亡の事実、請求者との続柄がわかるもの |
世帯全員の住民票の写し | |
死亡者の住民票の除票 | 世帯全員の住民票の写しに含まれている場合は不要 |
死亡診断書のコピー | |
請求者の収入が確認できる書類 | 所得証明書、源泉徴収票など |
受取先金融機関の通帳等 | 本人名義のもの |
年金請求書には、亡くなった方と請求される方の基礎年金番号やマイナンバーを記入する欄があるので、年金手帳やマイナンバーカードなども準備しておくと手続きが円滑に進みます。
また、死亡の原因が交通事故や労災事故など第三者の行為による場合は、以下の書類も必要です。
遺族厚生年金の受給においては、いくつか注意しておきたい点があります。
せっかく受給権を得ても、支給が停止したり権利そのものを失ったりすることがあるため、しっかり確認しておきましょう。
遺族厚生年金は、一度受給が決定すれば永続的に受け取れるとは限りません。
以下のような特定の条件に該当した場合、年金の支給が一時的または永続的に停止される可能性があります。
また、夫が亡くなった時点で30歳未満かつ子どもがいない妻の場合、受給期間の5年を過ぎれば支給はストップします。
年金の請求権は、死亡日の翌日から起算して5年で時効により消滅します。
もし、5年以内に遺族年金の請求手続きをしなかった場合、原則として5年間に受け取れるはずだった年金は「時効消滅」となり、さかのぼって受け取ることはできません。
5年経過後に請求した場合でも、請求した時点以降の年金しか受け取れないことになります。
ただし、やむを得ない事情に限り、理由を書面で記載し申立手続をすれば時効完成が延長する可能性があります。
自身の状況に当てはめて考えた場合、遺族厚生年金の受給資格があるのか、金額はいくらになるのかなど迷う点や不安な点も多いかもしれません。
特に、家族が亡くなった後は、年金手続き以外にも相続などさまざまな手続きが必要となり、混乱してしまうこともあるでしょう。
そのような場合は、一人で悩まずに専門家である弁護士に相談することも有効な選択肢。
相続や年金問題に詳しい弁護士であれば、複雑な制度をわかりやすく説明し、必要な手続きをサポートしてくれます。
「ベンナビ相続」のようなポータルサイトを利用すれば、住んでいる地域や相談内容に合わせて、相続問題に強い弁護士を効率的に探すことができます。
初回無料相談に対応している事務所も多いので、まずは気軽に問い合わせてみてはいかがでしょうか。
遺族厚生年金は、厚生年金に加入していた方が亡くなった場合に、生計を維持されていた遺族に支給される年金。
①妻または夫、②子、③父母、④孫、⑤祖父母の順に優先順位の高い人が受給資格を得られます。
支給金額は厚生年金への加入期間の長さや平均収入に基づいて計算され、特定の条件を満たせば上乗せされた金額を受け取れます。
申請は自動ではなく自身での手続きが必要です。
自身が該当するかどうか、いくらもらえるかがわからない方は、年金定期便を確認するか弁護士に相談しましょう。
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