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「遺された家族の生活を支える」という目的のために、日本の公的年金制度には「遺族年金」という仕組みがあります。
亡くなった方が自営業者やフリーランスなどで「国民年金」のみに加入していた場合、遺族が受け取れる可能性があるのは「遺族基礎年金」です。
本記事では、遺族基礎年金の基本的な仕組みから、もらえなくなってしまう具体的なケース、そして万が一もらえなかった場合の対処法まで、わかりやすく解説していきます。
遺族基礎年金を受け取れるかどうか、まずは簡単な3つの質問でセルフチェックしてみましょう。
ここで「いいえ」がひとつでもあると、遺族基礎年金を受け取るのは難しいかもしれません。
まず最も大切なのが、亡くなった方(被保険者)が、国民年金保険料をきちんと納めていたか、という点です。
年金制度は、皆で保険料を出し合って支え合う仕組みです。
そのため、亡くなった方が生前に保険料を納めた実績がなければ、遺族が年金を受け取ることはできない可能性が高いでしょう。
遺族基礎年金を受け取れる遺族は、亡くなった方の「配偶者」または「子ども」です。
たとえ同居して生計を共にしていたとしても、故人の父母や祖父母、兄弟姉妹などは遺族基礎年金の対象にはなりません。
国民年金の遺族基礎年金は「子どものいる配偶者」または「子ども自身」が受け取るための年金です。
そのため、亡くなった方の配偶者であっても、遺族基礎年金の対象となる「子ども」がいない場合は、原則として遺族基礎年金を受け取ることはできません。
これは、遺族年金がもらえないケースで非常によくあるケースです。
なお、ここでいう「子ども」には年齢などの要件があるので、以下詳しく見ていきましょう。
3つの質問をクリアした方は、さらに詳しい受給要件を確認していきましょう。
要件は、亡くなった「被保険者側」の要件と、受け取る「受給者側」の要件の2つに分かれています。
遺族基礎年金を受け取るためには、亡くなった方が以下のいずれかの条件を満たしている必要があります。
ただし、老齢基礎年金の条件については、保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間並びに65歳以降の厚生年金保険の被保険者期間を合算した期間が25年以上ある方に限られます。
上記に加えて、死亡日の前日において「保険料の納付要件」を満たしていることが必須です。
保険料の納付要件には、以下2つの基準があり、どちらか一方を満たせば問題ありません。
例えば、長年にわたって保険料の未納期間がある方でも、亡くなる直前の1年間、きちんと保険料を納めていれば、特例によって要件を満たせる可能性があります。
遺族基礎年金を受け取る遺族(受給者)は、亡くなった方によって生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」です。
それぞれには、以下のように細かい要件があります。
| 対象 | 要件 |
|---|---|
| 子のある配偶者 | 亡くなった方の配偶者であり、かつ、下記の「子」と生計を同じくしていること |
| 子ども | 18歳になった年度の3月31日までの間であること |
加えて、20歳未満で、障害年金の障害等級1級または2級に該当する障害の状態にある子も「子」として受給者となります。
また、「生計を維持されていた」必要がありますので、収入要件があります。
受け取る側の年収が将来にわたって850万円以上(所得で655.5万円以上)あると認められる場合は、支給が停止されることがあります。
ここからは、実際に「国民年金の遺族年金がもらえない」あるいは「もらえなくなった」という具体的な5つのケースについて解説します。
ご自身の状況が当てはまらないか、しっかりと確認してください。
遺族基礎年金を受け取っている配偶者が再婚すると、その受給権は消滅します。
なお、「再婚」には法律上の婚姻届を提出した場合だけでなく、事実婚(内縁関係)の状態になった場合も含まれる点に注意しましょう。
(失権)
第四十条 遺族基礎年金の受給権は、受給権者が次の各号のいずれかに該当するに至つたときは、消滅する。
一 死亡したとき。
二 婚姻をしたとき。
三 養子となつたとき(直系血族又は直系姻族の養子となつたときを除く。)。
(後略)
これは、新しいパートナーと生計を共にすることで、経済的な扶助を受けられる状態になり、遺族年金の目的である「遺された家族の生活保障」の必要がなくなると判断されるためです。
遺族基礎年金は「子どものための年金」という側面が強い制度です。
そのため、その「子ども」が要件を満たさなくなると、年金の支給も終了します。
例えば、子どもが18歳になった年度の3月31日を過ぎた場合、子ども自身の受給権も、その子がいることで発生していた配偶者の受給権も、両方とも消滅します。
そのほか、遺族年金の支給が終了するケースは、以下のとおりです。
遺族基礎年金は、亡くなった方によって生計を維持されていた遺族のための生活保障制度です。
そのため、受け取る遺族自身に十分な収入がある場合は、支給の対象外となることがあります。
具体的な基準は、「年収850万円(所得に換算すると655.5万円)」です。
この収入は一時的なものではなく、将来にわたって継続すると認められた場合に、支給が停止されます。
ただし、これはあくまで支給の「停止」であり、受給権そのものがなくなるわけではありません。
そのあと、収入が基準額未満になれば、改めて支給を受けられる可能性があります。
遺族年金を請求する段階で不支給と決定される最も根本的な理由の一つとして、保険料の納付期間が不足しているケースが挙げられます。
具体的には、保険料の納付要件である原則3分の2以上納付、または直近1年間の未納なしを満たしていないケースです。
たとえ何十年も国民年金に加入していても、未納期間が多ければ要件を満たせないことがあります。
実際、年金事務所で請求手続きをする際に、亡くなった方の年金記録を確認した結果、納付期間が足りずに遺族年金がもらえないという結論に至ることは少なくありません。
自身のケースが不安な場合は、事前に年金事務所で故人の年金加入記録を確認させてもらうとよいでしょう。
公的年金は、1人が同時に2つ以上の年金を全額受け取ることはできないという「1人1年金」が原則です。
例えば、夫を亡くした妻が、すでに65歳を過ぎて自分自身の「老齢基礎年金」を受け取っているとします。
この場合、妻に遺族基礎年金の受給権が発生したとしても、「老齢基礎年金」と「遺族基礎年金」の両方を満額もらうことはできません。
受給者は、どちらか一方の年金を選択して受け取ることになります。
通常は、金額の高いほうの年金を選択するのが一般的です。
そのため、形式的には遺族基礎年金の受給資格があっても、自身の老齢年金のほうが高額であるため、結果的に遺族基礎年金はもらわないというケースが発生します。
年金事務所に遺族基礎年金を請求した結果、「不支給決定通知書」が届くことがあります。
不支給決定通知書とは、「あなたの請求は認められません」という正式な通知です。
しかし、その決定に納得がいかない場合、不服を申し立てる制度(審査請求)が用意されています。
例えば、「事実婚関係を認めてもらえなかった」「保険料の納付期間の計算に誤りがあるのではないか」など、決定内容に疑問がある場合は、諦めずに次のステップに進むことを検討しましょう。
なお、審査請求は、決定があったことを知った日の翌日から原則3ヵ月以内に、地方厚生局にいる社会保険審査官に対しておこないます。
審査請求でも決定が覆らない場合は、さらに社会保険審査会に対して「再審査請求」をすることが可能です。
ただし、これらの手続きは法律に基づいた専門的な主張や証拠の提出が求められます。
自分だけで進めるのが難しいと感じたら、弁護士や社会保険労務士に相談しましょう。
「子どものいない配偶者」であったり、保険料の納付要件を満たせなかったりして、遺族基礎年金がもらえないとわかった場合でも、落胆するのはまだ早いかもしれません。
国民年金には、遺族基礎年金の代わりとなる以下2つの給付制度があります。
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
死亡一時金は、亡くなった方が自営業者、学生などの国民年金の第1号被保険者として保険料を納めたにもかかわらず、老齢基礎年金や障害基礎年金を受け取ることなく亡くなった場合に、遺族に支給される一時金です。
まさに「保険料の掛け捨て」を防ぐための制度といえます。
死亡一時金は、保険料を納めた月数に応じて12万円から32万円が一度だけ支給されます。
一時金を受け取れるのは、亡くなった方と生計を同じくしていた遺族で、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順で優先順位が決められています。
ただし、遺族が遺族基礎年金を受け取れる場合は、死亡一時金は支給されません。
寡婦年金は、国民年金の第1号被保険者である夫が亡くなったときに、一定の要件を満たす妻に対して支給される年金です。
主な要件は以下のとおりです。
寡婦年金は、妻が60歳から65歳になるまでの5年間、夫が受け取るはずだった老齢基礎年金の4分の3の額が支給されます。
注意点として、「死亡一時金」と「寡婦年金」の両方の受給資格がある場合は、どちらか一方を選択しなければなりません。
遺族年金の制度は非常に複雑で、亡くなった方の年金加入状況や、遺された家族の状況によって、受け取れるかどうかが大きく変わってきます。
ご自身のケースではどうなるのか、本記事を読んでも判断が難しい、あるいは不支給決定に納得がいかないという場合は、決して一人で抱え込まないでください。
年金問題の専門家である社会保険労務士や、年金に詳しい弁護士に相談することで、ご自身の状況に合わせた的確なアドバイスをもらえたり、複雑な手続きを代行してもらえたりします。
専門家の力を借りることで、精神的な負担を軽減し、今後の生活の見通しを立てるための一歩を踏み出すことができるはずです。
無料相談に対応している法律事務所もありますので一度問い合わせるようにしてみましょう。
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