親の土地を兄弟で相続する場合、分割方法をめぐって意見が対立し、争いに発展するケースがあります。
仲のよい兄弟でも相続時には利益相反の関係になるため、土地相続では以下のような悩みや疑問を抱えてしまうでしょう。
土地は物理的に分割できないので、兄弟で相続するときは換価分割や代償分割などを検討してください。
また、兄弟の相続がもめやすい理由を知っておくと、対策も打ちやすいでしょう。
本記事では、土地相続で兄弟がもめる理由や、兄弟間の争いを回避する方法をわかりやすく解説していきます。
兄弟の法定相続分は同じ割合ですが、土地は物理的に分けられないため、公平な相続が難しくなります。
また、兄弟が一筆ずつ相続する場合でも、資産価値に差があればトラブルの原因になるでしょう。
相続が以下のような状況で発生すると、土地以外が相続争いの原因になる可能性もあります。
遺言書がない相続の場合、遺産分割協議によって財産の分け方を決定します。
一般的には法定相続分を目安にしますが、土地が一つしかなければ兄弟がもめる原因になるでしょう。
また、土地の評価額や利用価値はそれぞれ異なるので、複数の土地がある場合でも、公平に分割できるケースは滅多にありません。
ただし、遺言書があれば、必ず遺言に従わなくてはならないため、不公平な遺産分割であっても強制的に相続が決着します。
遺留分とは、必ず相続できる最低限の取り分です。
親の土地を兄弟で相続する場合、各自の遺留分は法定相続分の2分の1ですが、遺言書によって侵害された場合は高確率で相続トラブルになるでしょう。
たとえば、遺言書で長男に土地9,000万円、次男に現金1,000万円を渡すように指定がある場合、次男の遺留分侵害額は以下のようになります。
次男の遺留分は2,500万円ですが、現金1,000万円しかもらっていないため、差額の1,500万円が長男によって侵害された状況です。
遺留分の侵害額は現金返還が原則なので、長男が支払いを拒否する可能性があります。
家督相続とは、長子となる長男や長女がすべての財産を相続する考え方ですが、1947年に廃止となり、現在の法定相続に法改正されています。
しかし、一部の家庭には家督相続の考え方が根付いており、遺言書で長子にすべて相続させる場合や、長男・長女が家督相続を主張するケースもあるようです。
もはや旧時代の考え方ですが、親から家督相続を言い聞かされてきた長男・長女がいると、遺産分割協議はなかなかまとまらないでしょう。
主な相続財産が土地に偏っている場合、兄弟が争う原因となります。
地主の家系や、親が事業収入などを不動産投資に回している場合も、土地の評価額と金融資産のアンバランスから、相続争いに発展しやすいので要注意です。
親から土地の生前贈与を受けていると、ほかの兄弟から特別受益を主張される可能性があります。
特別受益とは、一部の相続人だけが特別な利益を受けている状況なので、親からマイホームの建築用に土地をもらっているケースなどが該当します。
特別受益は遺産の前渡しとみなされるため、特別受益者の相続分を減らし、ほかの兄弟の取り分を多くして調整しなければなりません。
しかし、生前贈与が特別受益に該当するかどうかの判断が難しく、基本的には特別受益を主張する側が贈与額を証明することになるので、なかなか結論が出ないでしょう。
親の財産維持や増加に無償で貢献した場合、寄与分の主張によってほかの兄弟よりも多めに相続できるケースがあります。
ただし、以下の条件を満たさなければ特別な貢献とはいえないため、簡単には寄与分を認めてもらえないでしょう。
仮にほかの兄弟が寄与分を認めたとしても、相続財産が土地に偏っていると、分割方法をめぐって争いになる可能性があります。
親が認知症や要介護状態になっている場合、同居している子どもが親の預金を使い込んでいるケースもあります。
キャッシュカードと暗証番号があれば預金は誰でも引き出せるので、相続発生時の残高が予想よりも低かったときは、兄弟による使い込みを疑ってみるべきでしょう。
また、同居している兄弟に多額の借金があると、「ほかの兄弟も同意している」などの理由で親を説得し、土地を勝手に売却している場合もあります。
兄弟で土地を相続する場合、公平に分割できないときは以下の方法を検討してください。
いずれもメリット・デメリットがあるので、特徴をよく理解しておくとよいでしょう。
土地の分筆とは、一つの土地を境界によって区切り、細分化する方法です。
分筆は物理的な分割方法といえますが、以下のメリット・デメリットを考慮しておく必要があります。
分筆のメリット |
分筆のデメリット |
・兄弟が別々の土地として相続できる ・用途別の地目に変更できる ・税金が低くなりやすい ・売却しやすくなるケースがある |
・測量費や登記申請の費用がかかる ・用途によっては税金が高くなる ・建物の建築や増改築が制限される ・売却価格が低くなる |
土地を分筆すると遺産分割がまとまりやすく、農地などの地目を宅地に変更すると、建物の建築も可能になります。
分筆によって面積が狭くなり、接道条件も変わると評価額が下がるため、固定資産税や都市計画税も低くなるでしょう。
ただし、測量費が30~40万円程度かかるケースが多く、居住用に使っていない場合は固定資産税が高くなります。
また、どのように分筆するかで土地の利用価値が変わるため、高値で売却できる場合もあれば、相場より低くなってしまう可能性もあります。
換価分割とは、土地の売却代金を兄弟で分ける方法です。
土地ではなく現金の分割になるので、換価分割するときは以下のメリット・デメリットを考慮してください。
換価分割のメリット |
換価分割のデメリット |
・公平な遺産分割が可能になる ・相続税の納税資金を準備できる ・代償金が不要 |
・土地を失う ・兄弟全員の同意が必要 ・売却価格が低くなる可能性あり ・譲渡所得税や仲介手数料がかかる |
換価分割は現金が手に入るため、相続税の納税資金を準備できます。
代償分割の際に発生する代償金も不要なので、土地に未練がなければ換価分割を検討してみましょう。
ただし、被相続人名義の土地は売却できないため、ひとまず代表者を決めて相続登記しなければなりませんが、反対者がいると換価分割は実現しません。
急いで売りたい場合は売却価格を下げなければならず、土地売却によって利益が発生すると譲渡所得税がかかります。
不動産会社へ支払う仲介手数料など、売却コストも考えておく必要があるでしょう。
代償分割とは、土地などを相続した人がその他の相続人に代償金を支払い、公平な遺産分割にする方法です。
代償分割には以下のメリット・デメリットがあるので、ほかの分割方法と比較検討する必要があります。
代償分割のメリット |
代償分割のデメリット |
・公平に遺産分割できる ・土地を単独名義で相続できる ・小規模宅地等の特例を利用できる |
・代償金の支払いが必要 ・代償金の決め方でもめる可能性あり ・贈与税や所得税がかかる可能性あり |
居住用や事業用の宅地などを代償分割によって取得すると、小規模宅地等の特例を適用できるので、土地の相続税評価額が大幅に下がります。
単独名義で相続した土地は兄弟の権利が絡まないので、次世代への相続もスムーズになるでしょう。
ただし、土地の相続人は代償金を支払わなければならないため、ある程度の経済力が必要です。
また、代償金をいくらにするかでもめてしまうケースが多く、遺産分割協議書の書き方によっては贈与税がかかります。
代償金を現金以外で支払った場合、譲渡所得税が発生する可能性もあるので注意してください。
土地の共有相続とは、法定相続分や兄弟間で決めた持分に応じて、共有名義で土地を相続する方法です。
共有相続は以下のようにデメリットが大きいため、あまりおすすめできる土地の分割方法ではありません。
共有相続のメリット |
共有相続のデメリット |
・土地の権利を公平に分割できる ・家賃収入などを公平に分割できる |
・土地の売却には全員の同意が必要 ・兄弟が認知症になると土地が凍結状態になる ・次回の相続が発生すると権利関係が複雑になる |
土地を共有名義で所有している場合、土地活用や売却の際には全員の同意が必要です。
また、兄弟が認知症になると、成年後見人を選任しなければ契約行為ができないので、土地売却は不可能になります。
換価分割や代償分割が難しいときは共有相続も選択肢になりますが、兄弟の持分を買い取り、早めに共有状態を解消しておくべきです。
土地相続に関わりたくないときは、相続放棄を検討してみましょう。
ただし、相続放棄には以下のメリット・デメリットがあるので、相続開始直後から準備しておかなければなりません。
相続放棄のメリット |
相続放棄のデメリット |
・遺産相続に関わらなくてよい ・借金の相続を免除してもらえる ・死亡保険金は受け取れる |
・土地や預貯金などを相続できない ・3ヵ月以内に家庭裁判所へ申し立てる必要あり ・単純承認が成立すると相続放棄は不可能 |
相続放棄すると最初から相続人ではなかったことになるため、借金の相続は免れますが、土地や預貯金などのプラス財産も相続できなくなります。
また、相続放棄を選択する場合、相続開始日から3ヵ月以内に家庭裁判所へ申し立てる必要があります。
期限後の相続放棄は原則として認められないので、土地以外の財産もよく調べておく必要があるでしょう。
3ヵ月以内に相続財産の預金などを引き出した場合、相続する意思があるものとみなされ、相続放棄が認められなくなるので注意してください。
兄弟間の相続争いが起きると、当事者同士では解決できない可能性があります。
土地相続をめぐる争いを回避したいときは、以下のように対処しておきましょう。
親が遺言書を遺していなかった場合、土地の相続人は必ず遺産分割協議で決定してください。
遺産分割協議によって全員の同意を得ない限り、法務局が相続登記の申請に応じてくれないため、土地の所有者にはなれません。
ただし、兄弟全員が法定相続分を主張すると遺産分割協議がまとまらないので、土地を相続する代わりに母親または父親の面倒をみるなど、ある程度の譲歩も必要です。
また、遺産分割協議には法定相続人しか関われないため、各相続人の配偶者を介入させないように注意してください。
法定相続人以外の人が相続に関わると、高確率でトラブルに発展します。
兄弟で話し合っても土地の相続人が決まらないときは、遺産分割調停も検討してください。
家庭裁判所に調停を申し立てると、調停委員が当事者の間に入り、和解を目指して話し合いを進めてくれます。
和解案にお互いが納得できれば、円満な兄弟関係に戻れる可能性もあるでしょう。
ただし、相手が和解案に応じなかった場合、自動的に審判へ移行するため、解決までの期間がさらに長くなります。
話し合いによる解決が難しいときは、弁護士に相談してください。
兄弟同士の話し合いがまとまらないときは、弁護士に相談してみましょう。
弁護士に相続財産や相続人の状況を伝えると、もっとも現実的な解決策を提案してくれます。
すでに兄弟間の争いに発展しており、相手との交渉がストレスになるときは、代理人に依頼してください。
また、弁護士は家庭裁判所へ提出する上申書も作成してくれるので、期限後であっても相続放棄を受理してもらえる可能性があります。
なお、土地の相続争いを調停で解決する場合、調停委員は中立的な立場の提案しかできないため、最終的には法定相続分どおりの分割を提案されるでしょう。
しかし、弁護士は依頼者の味方になり、最大限の利益を獲得できるように活動してくれます。
兄弟で土地を相続するときは、以下の点に注意しておきましょう。
土地には必ず固定資産税がかかるので、遺産分割がまとまらなくても、税負担の話し合いは避けて通れません。
相続人が複数いる場合、遺産分割協議が成立するまでの間、土地は全員の共有状態になります。
単独で相続する人を決める、または換価分割や代償分割などの方法を決めない限り、勝手な処分はできないので注意してください。
また、土地の分割方法が決まっても、相続登記が完了するまで所有権を主張できません。
2024年4月1日以降は相続登記の義務化がスタートするので、相続人の決定から3年以内に登記申請しなかった場合、10万円以下の過料になる可能性があります。
土地の相続人が決まっていなくても、固定資産税は毎年発生します。
固定資産税の納税通知書は代表相続人に送付されますが、ほかの相続人にも連帯納付義務があるため、法定相続分に応じた税額を負担しなければなりません。
代表者が納税したときは、各自の納税額を代表者の口座へ振り込むなど、税負担のルールを決めておく必要があるでしょう。
養子の兄弟や異母兄弟にも相続権があり、法定相続分も同じです。
養子縁組した場合、養子は養親の法定血族になるため、養親の相続に関する権利は実子と変わりません。
また、前妻との間に生まれた子どもは父親の直系血族になり、婚姻関係にない男女間の子どもであっても、認知されていれば父親の相続人になります。
戸籍の調査で養子や異母兄弟が判明したときは、必ず遺産分割協議に参加してもらいましょう。
土地の相続をめぐって兄弟間の争いが起きると、共有状態のまま次の相続が発生し、権利関係者がねずみ算式に増えてしまいます。
権利関係者が増えると、土地売却や土地活用の際に全員の同意を得られなくなり、事実上の凍結状態になってしまうので要注意です。
立地条件がよく、資産価値の高い土地でも有効活用できなくなるので、兄弟同士が元気なうちに遺産分割を決着させる必要があるでしょう。
兄弟の土地相続は争いが起きやすいので、換価分割や代償分割などを検討しておく必要があります。
土地の相続手続きが未完了のまま放置されると、最終的には事実上の凍結状態になってしまうため、兄弟間の争いは早急な解決が必要です。
すでに争いが長期化しており、解決の目途が立たないときは、弁護士のアドバイスも参考にしてみるべきでしょう。
弁護士に相談すると、争いが起きにくい土地相続の方法を提案してくれます。
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