相続が開始されたら、相続人は被相続の所得税額を算出・納付する準確定申告をしなければならない可能性があります。
期限を過ぎてしまうとペナルティが発生するなどデメリットもあるため、手続きの流れなどを把握しておくことが必要です。
本記事では、準確定申告の期限、基本的な流れや必要な手続き、申告を怠った場合のリスクなどについて詳しく解説します。
準確定申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヵ月以内です。
たとえば、4月1日に被相続人の死亡を知った場合、翌日の4月2日から4ヵ月後が申告期限となり、8月2日までに申告と納税をしなければなりません。
死亡を知ったのが、死亡から半年後などであった場合、死亡を知った日が起算日となります。
被相続人が1月5日に亡くなっていても、知ったのが6月10日であれば、10月10日までに申告と納税をすれば期限内に対応したことになります。
準確定申告をしないと、ペナルティとして加算税を追加で支払わなくてはなりません。
課せられる加算税の種類は、期限に遅れただけか申告をおこなわなかったのかや、悪質性の有無によって異なります。
以下、具体的にどのような加算税が課されるかみていきましょう。
準確定申告の期限に遅れると、延滞税がかかります。
延滞税の金額は、納付期限の翌日から納付日までの日数に応じて増えていきます。
延滞税の税率は、原則として納期期限の翌日から2ヵ月経過する日までは年7.3%、そのあとは14.6%です。
しかし低金利の状態が長期的に続いていることから、平成12年から税率が変動しています。
本記事執筆時点の税率(2023年1月~2024年12月)は、以下のとおりです。
ここでは、参考までに延滞税の計算例をみていきましょう。
所得税50万円の納付期限が2024年5月1日であり、同年8月1日に納付をしたとします。この場合の延滞税は以下のとおりです。
50万円×2.4%×61日÷365日=2,005円(1円未満切り捨て)
50万円×8.7%×31日÷365日=3,694円(1円未満切り捨て)
延滞税=2,005円+3,694円→5,600円(100円未満は切り捨て)
正当な理由がないのに申告期限までに申告をしなかった場合は、無申告加算税が課されます。
延滞税に加えて、支払わなければなりません。
2無申告加算税の税率は本記事執筆時点(2024年1月~)、納付する額が50万円までは15%です。
50万円超300万円以下の部分については20%、300万円超の部分については30%を乗じた金額となります。
ただし、税務署からの調査を受ける前に、自主的に申告をした場合は、ペナルティが軽減され、納付額がいくらであるかに関わらず無申告加算税は5%になります。
うっかり申告を忘れてしまっていたときや、申告しなければならないとわかっていても忙しくて申告できなかったときなどは、期限が過ぎたとしても気づいた時点で、税務署からの調査が入る前になるべく早く申告をしましょう。
たとえば、納付額が90万円だとすると、税務署による調査で無申告が発覚した場合に支払わなければならない無申告加算税額は、次のとおりです。
一方、税務署による調査の前に自主的に申告した場合に支払わなければならない無申告加算税額は、次のとおりです。
そもそも準確定申告は所得税法で義務として規定されているものです。
申告期限を過ぎているだけでも法律違反です。
正当な理由なく申告していなかっただけでなく、悪質な意図を持って準確定申告をせずに税金を納めなかったと判断されると、さらにペナルティとして重加算税が加算されます。
税務署の調査が入ったときに嘘をついたり、取引記録を偽装するなどして脱税を試みたり、隠蔽したりした場合がこれにあたります。
指定された期限内に申告できれば納付すべき税額に対して35%、期限を過ぎてしまうと40%の重加算税を支払わなければなりません。
準確定申告は、全ての相続人がしなければならないわけではありません。
どのような方が準確定申告をしなければならないのか、必要なケース・申告したほうがよいケース・不要なケースについて解説します。
被相続人が生きていれば、その年の確定申告をする必要があったのであれば、準確定申告をする必要があります。
具体的には、以下のようなケースに当てはまる場合に準確定申告が必要です。
被相続人が前年分の確定申告をすませる前に亡くなった場合、本年分にあわせ前年分の準確定申告も必要となるので注意ください。
この場合、前年分の準確定申告の期限についても相続開始を知ってから4ヵ月以内となります。
前年分の準確定申告についても期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヵ月以内です。
被相続人が個人事業主であり、かつ消費税の課税事業者であった場合には、消費税の準確定申告もおこなう必要があります。
期限は所得税の確定申告と同じで、相続開始を知ってから4ヵ月以内となります。
準確定申告の義務はなくても、準確定申告をすることで還付金をもらえる可能性があります。
たとえば被相続人が給与所得者で年末調整を受けていなかった場合、税金を納め過ぎたままになっているかもしれません。
還付を受けられる可能性があるので、準確定申告をするか検討した方がよいでしょう。
そのほか、以下の控除が受けられる場合も還付金を受けられる可能性があります。
必須ではありませんが、還付を受けるために準確定申告をするか検討するとよいです。
準確定申告をした方がよいか判断できない場合は、税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。
準確定申告をしなくてもよいのは、準確定申告が必要なケースや準確定申告をしたほうがよいケースに当てはまらない場合です。
具体的には、以下のようなケースがあてはまります。
準確定申告は、被相続人に代わって相続人全員でおこなう必要があります。
申告先は、被相続人の住所を管轄する税務署です。
準確定申告は、どのような流れでおこなえばよいのでしょうか。
ここでは準確定申告の流れと必要書類を解説します。
まずは必要書類を用意します。
準確定申告に必要となる主な書類は以下のとおりです。
準確定申告書という特別な書式はありません。
通常の確定申告書を利用しましょう。
確定申告書は、税務署の窓口や国税庁のホームページにて入手できます。
亡くなった方が会社員であれば、勤務先から源泉徴収票を発行してもらいましょう。
働いておらず、年金所得者の場合は加入先からもらうことができます。
控除による還付を受けたい場合は、控除証明書も準備しましょう。
相続人の代表者がまとめて還付金を受け取るには、ほかの相続人による委任状を提出しなければなりません。
準確定申告の申告義務は相続人全員にあります。
相続人が複数人いる場合は、相続人全員の住所・氏名・相続分などをまとめた「付表」の提出が必要です。
付表は全員が1枚に連署しても、別々の用紙になってもかまいません。
確定申告書には、相続人全員の署名が必要です。
相続人が複数人で遠く離れた場所に住んでいる場合、署名を集めるのに時間がかかる可能性があるので注意しましょう。
申告期限に間に合うよう、早めに準備をすすめることをおすすめします。
確定申告書の記載方法については、以下記事で詳しく解説しておりますので興味があればあわせて参照ください。
確定申告書を税務署に提出します。
窓口に書類を持参する方法のほか、郵送や電子申告を利用することも可能です。
準確定申告は2020年度から電子申告ができるようになりました。
電子申告は「e-Tax」とも呼ばれます。
電子申告をおこなう際は、相続人がそれぞれ個別に申告することができません。
したがって、代表相続人を決めてひとつにまとめ、代表相続人が手続きをする必要があります。
この際、代表相続人に準確定申告を委託することについて相続人全員が同意したことを証明するため、相続人全員が署名をした「準確定申告の確認書」という書類が必要です。
準確定申告をおこなうにあたって、注意したほうがよいことについても解説していきます。
相続人が複数いる場合は、相続した遺産の割合に応じて所得税を負担し、相続人各自が納付手続きをおこないます。
たとえば4人の相続人が遺産の1/4ずつ均等に相続していたなら、所得税も1/4ずつ納付することになるのです。
この場合、所得税額が10万円であれば、各自10万円×1/4=2.5万円ずつ納付することになります。
還付を受ける場合も同様です。遺産分割の割合に応じて、各相続人が還付金を受け取ります。
納税額や還付金の割合などは、確定申告書付表に記入する必要があります。
準確定申告により受け取った還付金は、相続したものとみなされ、相続税の対象になります。
還付金は、納め過ぎた税金を返してもらえる制度です。
そのため、税金を納めたのは亡くなった方であり、還付請求権は亡くなった方の権利であると考えられています。
ここからは準確定申告やその期限についての、よくある質問を紹介します。参考にしてください。
医療費控除は、準確定申告の期限が過ぎてしまっても受けることができます。
医療費控除を受けられる期間は、準確定申告の期限の翌年からさかのぼって5年分です。
準確定申告の期限に遅れると、ペナルティとして延滞税が課されます。
税金の支払いを逃れる意図があったわけでなく、忘れていただけだとしてもペナルティは免れません。
延滞税額は、所得税額に対して以下税率をかけて算出されます。
そのほか、正当な理由なく申告しなかった場合は無申告加算税が、偽装・隠ぺいなど悪質な行為があった場合は重加算税も課されます。
年金受給者の収入が公的年金のみでも、年間の受給額が400万円を超えていた場合は準確定申告が必要です。
なお、公的年金以外に合計20万円以上の所得があった場合も、準確定申告をしなければなりません。
準確定申告は、亡くなった方の代わりに相続人がおこなう必要がある手続きです。
その期限は相続開始を知った日から4ヵ月以内です。
期限を過ぎれば、延滞税・無申告加算税などが課されます。
そのため、早めに申告するのがよいでしょう。
手続きが複雑で難しいと感じる方や、期限に間に合わないかもしれないと焦る方は、信頼できる税理士に相談するのがおすすめです。
専門家の力を借りて、適切に準確定申告をおこないましょう。
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