遺族厚生年金(いぞくこうせいねんきん)とは、会社員や公務員として厚生年金保険に加入している被保険者が死亡した際などに、遺族が受け取れる年金のことです。
以前は会社員などの事業所や事務所に勤める人が対象の年金でしたが、2015年に公務員などを対象とする共済年金と統合されたことで、現在では対象者が拡大されました。
遺族厚生年金などの遺族年金は、「夫を亡くした妻のための年金」というイメージが強いかもしれませんが、一定の条件を満たしていれば妻を亡くした夫でも受給できます。
現代では、共働き世帯で妻がフルタイム勤務している家庭も珍しくなく、いざというときのために遺族厚生年金の仕組みを知っておくのは大切なことです。
この記事では、遺族厚生年金の支給要件・受給できる人・支給金額の目安や、請求する際の流れや請求時の注意点などを解説します。
【関連記事】遺族年金とは|受給資格と受け取れる支給額・受給手続き方法
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遺族年金とは、国民年金や厚生年金保険(および共済年金)に加入していた被保険者について、死亡などの一定の事由が生じた際に遺族に支給される公的年金のことです。
遺族年金は国から法律に基づいて支給される年金であり、支給要件・受給できる人・支給金額などについては法律で定められています。
遺族年金には、「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」「旧:遺族共済年金」の3種類があります。
これらの年金は被保険者が亡くなった際に遺族に支給されるものですが、遺族共済年金に関しては現在では遺族厚生年金と一元化されています。
2015年9月30日までに共済年金の被保険者が亡くなっている場合には(旧)遺族共済年金、それ以後に亡くなった場合には遺族厚生年金を請求できます。
遺族基礎年金は、自営業者・パート・アルバイトなど、厚生年金に加入しておらず国民年金の被保険者または老齢基礎年金の受給資格を満たした人が死亡した場合、一定の遺族へ支給される年金です。
遺族厚生年金(旧:遺族共済年金を含む)は、会社員や公務員などの厚生年金被保険者または老齢厚生年金の受給資格を満たした人が死亡した場合、一定の遺族へ支給される年金です。
「遺族基礎年金に遺族厚生年金が加算されて支給される」という、いわばプラスアルファの遺族年金といえます。
いずれの遺族年金についても、国民年金法または厚生年金保険法によって受給条件などが定められており、故人および遺族の双方が条件を満たしていなければ受け取ることができません。
ここからは遺族厚生年金について解説します。
遺族厚生年金については厚生年金保険法58条以下に受給のためのルールが規定されており、以下で確認していきましょう。
遺族厚生年金が支給されるのは、次の条件のいずれかに当てはまる場合です。
遺族厚生年金を受給するための前提条件として、死亡した人は次のいずれかの条件を満たしていなければなりません。
初診日とは、病気やけがなどについて、医師または歯科医師の診療を最初に受けた日のことです。
原則として、治療目的で医療機関で診察を受けた日がこれにあたり、会社などの健康診断は対象外とされています。
ただし、どのような診療が初診日として認定されるかは傷病によって判断が難しい場合もあり、基本的に初診日の判断は年金機構がおこなうので、詳しく知りたい人は専門家や年金事務所などに相談するのがおすすめです。
たとえば、初診日の扱いについては以下のような違いがあります。
老齢厚生年金を受けるためには、故人について「保険料納付済期間と保険料免除期間などを合わせた受給資格期間が10年以上」という老齢基礎年金の受給要件を満たしている必要があります。
詳しくは年金事務所や年金相談センターなどに問い合わせてください。
その際は、故人の基礎年金番号などを確認してから問い合わせるとスムーズです。
遺族厚生年金の受給対象者は「死亡した人によって生計を維持されていた以下の人達」であり、対象者のなかで最も順位の高いグループが受給します。
第一順位 |
・配偶者(夫:妻の死亡時に55歳以上、妻:年齢制限なし) ・子ども(条件あり※後述) ※第一順位のなかでの順位:①子どものいる妻・子どものいる55歳以上の夫>子ども>子どものいない妻・子どものいない55歳以上の夫 |
第二順位 |
・故人の父母(死亡時に55歳以上であること) |
第三順位 |
・故人の孫(子どもと同じ条件あり※後述) |
第四順位 |
・故人の祖父母(死亡時に55歳以上であること) |
「生計を維持されていた」というのは、故人と受給者が「同居していること(または別居しているが仕送りをしている・健康保険の扶養親族であるなどの事情があること)」や「前年の収入が850万円未満であること(または所得が655万5,000円未満であること)」などから判断します。
これらの条件を満たしていない場合には、受給できない可能性が高いと考えましょう。
妻は年齢に関係なく受給できます。
なお、夫の死亡時に30歳未満かつ子どもがいない場合は5年間の有期給付になります。
夫については注意が必要で、妻の死亡時に55歳未満の場合は受給権が発生しません。
夫が遺族厚生年金の受給権者になるのは「妻の死亡時に55歳以上であり遺族基礎年金を受給できる場合」にかぎられます。
この条件を満たせない場合、夫は遺族厚生年金を受給できずにほかの人が受給権者として扱われます。
さらに、夫の場合は妻の死亡時に55歳以上でもすぐには受給できず、原則として60歳から支給開始します。
例外的に、妻の死亡時に55歳以上の夫が遺族基礎年金をあわせて受給できる場合には、まだ60歳未満であっても受給できます。
なお、子どものいる配偶者と子どもについては、遺族基礎年金もあわせて受給できます。
18歳になる年度の年度末を経過していない子ども・孫や、20歳未満で障害年金の障害等級1級・2級の状態にある子ども・孫が対象になります。
子どもは配偶者と同様に第一順位ですが、第一順位のなかでも「子どものいる妻」や「子どものいる55歳以上の夫」よりは優先順位が低いため、これらの人が受給している間は子どもには支給されません。
また、孫は第三順位であるため、基本的に配偶者・子ども・父母などが生きている場合には受給権が発生しません。
遺族基礎年金とは異なり、遺族厚生年金は父母や祖父母も支給対象に含まれます。
なお、被保険者の死亡時に父母・祖父母が55歳以上60歳未満だった場合は、60歳から支給開始します。
一定の条件を満たしていて子どものいる配偶者や子どもの場合は遺族基礎年金と遺族厚生年金が、それ以外の場合は遺族厚生年金が支給され、具体的な金額は家庭によって異なります。
特に、遺族厚生年金は被保険者の収入によっても支給額が変わるので、以下の表はあくまでも参考程度に留めてください。
遺族厚生年金は、一定の条件を満たす子のある配偶者が受給資格を有する場合には遺族基礎年金+遺族厚生年金が、そうでない場合には遺族厚生年金のみが支給されることになりますので、具体的な金額は家庭によって異なってきます。
特に、厚生年金は被保険者の収入によって支給額が変わってきますので、次の表はあくまで目安程度に捉えていただければ幸いです。
遺族厚生年金の支給金額を調べるには、厚生年金加入期間中の故人の報酬額を確認する必要があります。
計算時は、2003年3月までの被保険者期間の月数およびその間の標準報酬月額の平均と、2003年4月から死亡までの被保険者期間の月数およびその間の標準報酬月額の平均を利用します。
計算式は以下のとおりで、基本的には式1を利用します。
ただし、式1の算出額が式2の算出額を下回る場合は式2が採用されます。
遺族厚生年金については、「遺族厚生年金の支給要件」にある①~④のどれに該当するかによって加入期間の月数の扱いが異なり、①~③を短期要件、④を長期要件といいます。
遺族厚生年金については、故人の妻が受給権者になる場合は「中高齢寡婦加算」や「経過的寡婦加算」などの制度を利用することで金額が増える可能性があります。
ここでは、遺族年金に関する制度について解説します。
中高齢寡婦加算は、次のいずれかの条件を満たす妻が遺族厚生年金を受給する場合に、40歳から65歳になるまで年額59万6,300円が加算される制度です。
経過的寡婦加算とは、「中高齢寡婦加算の対象になっていて、1956年4月1日以前に生まれて遺族厚生年金の受給権者である妻が65歳になったとき」や「1956年4月1日以前に生まれて、遺族厚生年金の受給権が発生した65歳以上の妻」などに加算される制度です。
対象者がある程度かぎられているほか、制度内容が少し複雑ですので、詳しくは年金事務所などで確認することをおすすめします。
遺族厚生年金を請求するには、基本的に次のような流れで進めます。
必ず必要な書類 |
|
年金請求書(国民年金・厚生年金保険遺族給付)様式第105号 |
・様式 ・記入例 |
死亡者の年金手帳 |
提出できない場合は理由書を提出 |
世帯全員の住民票の写し |
|
死亡者の住民票の除票 |
上記住民票の写しに含まれている場合は不要 |
請求者の収入が確認できる書類 |
所得証明書、課税(非課税)証明書、源泉徴収票など |
子どもの収入が確認できる書類 |
義務教育終了前は不要、高校在学中の場合は在学証明書または学生証の写しなど |
死亡者の死亡診断書(死体検案書)のコピーまたは死亡届の記載事項証明書 |
|
受取先金融機関の通帳等(請求者本人名義) |
預金通帳やキャッシュカードなど |
印鑑 |
認印でもよい |
死亡原因が事故などの第三者行為による場合に追加で必要な書類 |
|
第三者行為事故現況 |
年金事務所で要確認 |
交通事故証明や事故が確認できる書類 |
事故証明がとれない場合は事故の内容がわかる新聞記事など |
確認届 |
年金事務所で要確認 |
死亡者に被扶養者がいる場合、扶養していたことがわかる書類 |
源泉徴収票・健康保険証や学生証の写しなど |
損害賠償金の算定書 |
示談書など(すでに決定済みの場合) |
その他必要になる可能性のある書類 |
|
年金証書 |
|
合算対象期間が確認できる書類 |
遺族年金の手続きは「死亡の翌日から5年以内」におこなわないと時効で権利が消滅してしまうので、気持ちが落ち着いたら速やかに請求手続きを始めましょう。
わからないことは年金事務所などで教えてもらえるので、電話などで確認するのがおすすめです。
また、社会保険労務士などが提供する遺族年金の請求手続き代行サービスを利用するのもよいでしょう。
ここでは、遺族厚生年金の注意点を解説します。
遺族厚生年金を受給している人に以下の事由が発生したときは、受給権がなくなります。
また、遺族厚生年金の受給には優先順位があるので、自分より上位の受給権者がいる場合も受給できません。
一定の条件を満たした配偶者と子どもは「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」を両方受給でき、末子の18歳到達年度の3月31日を経過するまで支給が続きます(所定の等級の障害のある子どもの場合は20歳に到達するまで)。
この期間を過ぎたあとは遺族厚生年金だけが支給されますが、受給権者が妻の場合は65歳になるまで中高齢寡婦加算を受給できます。
妻が65歳になると、自分の老齢基礎年金が受けられるため中高齢寡婦加算はなくなります。
なお、そもそも子どもがいない場合や子どもが成人している場合は遺族基礎年金は支給されず、子どものいない30歳未満の妻の場合は遺族厚生年金も5年しか支給されません。
遺族厚生年金をいつまで受給できるかについては、よく確認しておきましょう。
遺族厚生年金については、基本的に上限なく非課税となり、確定申告の必要もありません。
ほかに所得があって確定申告が必要な場合でも、遺族厚生年金の受給に関しては申告不要です。
厚生年金保険法41条2項では、老齢厚生年金以外の厚生年金について、所得税・住民税ともに非課税である旨を定めています。
なお、老齢厚生年金については年齢に応じて一定額まで非課税になり、詳しくはNo.1600 公的年金等の課税関係|国税庁を確認してください。
遺族厚生年金は、死亡した被保険者の月収によっても金額が異なります。
被保険者の配偶者や子どもであれば遺族基礎年金などもあわせて受給できる場合もあり、十分な金額を受け取れる可能性があります。
請求する際は年金請求書や住民票などの必要書類を準備する必要がありますが、自力での手続きが不安な人や受給資格を満たしているかどうかわからない人は、まずは年金事務所などに電話してみることをおすすめします。
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