不動産相続に関する弁護士相談をご検討中の方へ
親から不動産を相続する際は、その建物の評価額が相続税に大きく影響します。
評価額が高く算定されれば税額も増えるため、「損をしない方法はないのか」と不安を抱える人も少なくありません。
また、相続税評価額の算出方法は、建物が一戸建てかマンションか、第三者に貸し出しているかなどによって異なるため、どのように算出されるのかを理解していないと、過大な負担や相続人間のトラブルにつながることもあります。
本記事では、建物の相続税評価額を算出する方法を徹底解説し、基礎知識から注意点、節税につながる考え方までをわかりやすくまとめました。
相続の場面で冷静に判断できる知識を身につけ、安心して次のステップに進むためにも、ぜひ参考にしてください。
建物の相続税評価額の算出は、「固定資産税評価額」を確認することから始まります。
そのうえで、建物の種類や利用状況ごとに異なる計算式を適用しなければなりません。
ここでは、それぞれのステップについて詳しく見ていきましょう。
建物の相続税評価額は、原則として市区町村が算定した固定資産税評価額を基準とします。
固定資産税評価額は毎年送付される「固定資産税納税通知書」に記載されているので、まずは通知書を確認してみましょう。
評価額が手元にない場合には、市区町村の資産税課で「固定資産税課税明細書」を取得可能です。
なお、固定資産税評価額は現在の建物を新築した場合の再建築価格に経年による減価を考慮して算定されているため、必ずしも市場価格や取得時の価格とは一致しない点に注意してください。
建物の相続税評価額は、原則として固定資産税評価額をそのまま使用しますが、建物の種類や状況によっては特別な計算が必要となります。
ここからは、以下のそれぞれのケースの相続税評価額の算出方法について、具体例を挙げながら簡単に確認していきましょう。
被相続人が自宅として利用していた一戸建ては、固定資産税評価額がそのまま相続税評価額となります。
たとえば、固定資産税評価額が1,500万円であれば、相続税評価額も1,500万円です。
ただし、土地部分には別途評価が必要なため、小規模宅地等の特例が適用されれば大幅に減額されるケースもあります。
区分所有マンションの相続税評価額も、固定資産税評価額に基づきます。
ただし、マンションの場合は共用部分が按分されて評価に含まれているため、登記上の専有部分の持分に応じて再計算が必要です。
具体的な計算式は、以下のとおりです。
|
相続税評価額 = 家屋の固定資産税評価額 × 区分所有補正率 |
区分所有補正率とは、令和6年1月1日から採用されたマンションの評価に利用される数値のことです。
建物の築年数や所有部分の階数などによって算出される変数で、簡単にいえばマンション一室の市場価格との乖離を補正するための係数を意味します。
たとえば、令和6年5月1日に相続が発生し、被相続人が居住していたマンションの家屋の固定資産税評価額が3,000万円で、区分所有補正率が1.22だった場合、相続税評価額は「3,000万円 × 1.22 = 3,660万円」となります。
なお、事務所・店舗用区分や低層小規模の区分建物などは対象外になります。
被相続人が、所有するマンションや一軒家を第三者に貸し出していた場合、その建物の相続税評価額は固定資産税評価額から借家権割合を控除して以下のように算出します。
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相続税評価額 = 自用の場合の相続税評価額(※) × (1 - 借家権割合) ※マンションやアパートの場合は区分所有補正率を加味する |
なお、2025年現在、借家権割合は全国一律で30%とされています。
たとえば、自用の場合の相続税評価額が3,000万円の物件を所有しており、第三者に賃貸している場合、相続税評価額は「3,000万円×(1-0.3)=2,100万円」です。
一棟所有の賃貸マンション・アパートの場合は、借家権割合に加えて実際に賃貸されている割合も考慮するため、以下のように相続税評価額を計算します。
|
相続税評価額 = 家屋の固定資産税評価額 × (1 - 借家権割合 × 賃貸割合) |
賃貸割合とは、相続開始時点において実際に賃貸されている独立面積の総和を、貸付可能な独立面積の総和で割った数値のことです。
たとえば、固定資産税評価額が3,000万円かつ、各部屋の面積が等しい10部屋のアパートを相続し、被相続人の死亡時に6室に入居者がいる場合、相続税評価額は「3,000万円 × (1 - 30% × 60%)= 2,460万円」となります。
アパートやマンションなど複数戸を賃貸している物件は、戸建の自宅と比べると、貸家・貸家建付地として評価額が下がりやすく、結果として相続税の節税につながるケースが多いといえます。
そのため、賃貸用不動産は相続税の節税に有利ともいえるでしょう。
さらに、土地についても貸家建付地評価によって減額されるため、建物と合わせて大幅に相続税評価額を下げることができます。
固定資産税評価額の評価替えは3年に一度おこなわれるため、亡くなる直前に建物の増改築をした場合は、その工事内容が固定資産税評価額に反映されていないことがあります。
その場合、追加された部分を考慮するために以下の計算式が用いられます。
|
相続税評価額 = 増改築前の家屋の固定資産税評価額 + (増改築の費用 - 死亡日までの償却費)× 70% |
このうち「死亡日までの償却費」は、「増改築費用 × 90% × 経過年数 ÷ 耐用年数」で求められます。
外壁の補修や壁紙の張り替えなど、修繕の範囲内であれば相続税評価額に加算する必要はありません。
以上のように、被相続人がなくなる直前に増改築をしていた場合の相続税評価額の算出方法は特に複雑なので、税理士などの専門家への相談がおすすめです。
建物を相続する際には、工夫次第で相続税評価額を下げ、相続税を節税することが可能です。
具体的な方法として、以下のようなものがあります。
ここからは、それぞれの方法について詳しく解説します。
建物を第三者に貸し出すと「貸家」として評価され、固定資産税評価額から借家権割合の30%を控除できるため、相続税評価額が下がります。
たとえば、相続が発生する前に固定資産税評価額が2,000万円の建物を賃貸に出せば、相続税評価額は1,400万円となり、課税対象額を大幅に減額可能です。
ただし、親族などに無償で貸している場合や、貸しに出しているだけでまだ入居者が見つかっていない場合などは軽減措置は受けられないので注意しましょう。
賃貸アパートやマンションは、入居率が高いほど被相続人が財産として所有している割合が低いとみなされ、その分相続税評価額を下げられます。
そのため、親族がアパートやマンションなどの賃貸物件を所有している場合は、相続開始前から空室対策を講じておくことが大切です。
なお、相続発生時に空室であっても、以下のような事情に当てはまる場合は空室として扱われず、賃貸割合に含まれる可能性があります。
相続発生直前にリフォームをすることも、相続税の節税には効果的です。
建物のリフォーム費用は建物自体の相続税評価額に組み込まれますが、ここで組み込まれる額は「使った金額から死亡までの償却費を差し引いたうえで70%をかけた金額」のみです。
つまり、現金をそのまま相続するよりも、建物のリフォーム費用にあてることで相続財産トータルでみたときの評価額を大幅に下げることができます。
建物の相続税評価額を正しく算出することは、相続税の計算を誤らないために非常に重要です。
しかし、評価額を算出する際には見落としがちなポイントや勘違いしやすい点がいくつもあります。
ここでは、建物の相続税評価額を算出する際に特に注意すべきポイントを紹介します。
相続税評価額を求める際に利用するのは、固定資産税の「課税標準額」ではなく「固定資産税評価額」です。
この2つは混同されやすいですが、課税標準額は固定資産税課税のために減額調整された値であり、相続税評価の基準にはなりません。
仮に課税標準額を使ってしまうと、実際よりも低い評価で計算してしまい、税務署から修正を求められるリスクがあります。
そのため、必ず固定資産税納税通知書で「評価額」の項目を確認しましょう。
建物の相続税評価額は、相続が発生した年に発行される固定資産税評価額を用います。
前年の評価額を使ったり、古いデータを基に計算したりしてしまうと誤った税額算定につながるので注意しましょう。
また、固定資産税評価は3年ごとの1月1日に評価替えがおこなわれ、一般的には時間経過とともに評価額が低下します。
最新の固定資産税評価額を用いないと、相続税を高く算出してしまうことがありますので気を付けてください。
相続税を大幅に節税できる「小規模宅地等の特例」は、土地の評価額を減額する特例であり、建物には適用されません。
小規模宅地等の特例とは、一定の条件を満たした自宅の敷地や事業用の土地について、50%~80%の総増税評価額の減額が認められる措置です。
建物自体の相続税評価額の減額にかかわるのは原則として借家権割合や賃貸割合・増改築費用のみであり、小規模宅地等の特例のような大幅な減額措置はありません。
被相続人が生前にリフォームや増築をしていた場合、その分は建物の評価額に反映させなければなりません。
ところが、相続発生直前にリフォームをおこなった場合は、登記簿や評価額にまだ反映されていないことも少なくありません。
その際、相続税評価額に加算されるべきリフォーム費用を見落とすと、税務調査で指摘され追徴課税となるおそれがあります。
そのため、工事の領収書や契約書を保管し、評価漏れがないよう確認することが重要です。
建物が共有名義であった場合、まずは建物自体の相続税評価額を算出し、そこに被相続人の持分割合で按分しなければなりません。
また、共有持分を複数の相続人で相続することになると、共有名義人を含めた当事者の関係性がどんどん複雑になっていきます。
このように、共有建物の相続は計算が複雑になるうえにトラブルが起きやすいため、早めに税理士などの専門家へ相談するべきです。
建物付きの土地を相続した場合、建物と土地は別々に評価され、それぞれに異なる計算方法が用いられます。
建物は「固定資産税評価額」がそのまま相続税評価額となるのが基本で、評価手続きは比較的シンプルです。
一方、土地は評価方式が複雑で、路線価方式か倍率方式のいずれかが適用され、評価額の算出には専門知識が求められます。
特に土地の評価は専門的で判断が難しく、評価額によって相続税額が大きく変わる可能性があるため、税理士など専門家への相談がおすすめです。
相続税は全ての人に発生するわけではなく、一定の条件を満たせば課税対象外となります。
ここでは、建物を含む家の相続税がかからない主なパターンを2つ紹介します。
相続財産の総額が相続税の基礎控除額以下の場合、相続税はかかりません。
相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という式で算出され、たとえば相続人が2人なら4,200万円が非課税枠です。
遺産総額がこれを下回る場合、相続財産のなかに不動産が含まれていたとしても、相続税は一切かかりません。
一般家庭の場合、不動産評価額を含めても基礎控除額を超えないことが多く、相続税の対象とならないケースが多いのも実情です。
配偶者に対する相続には「配偶者の税額軽減」という強力な特例があります。
これは、配偶者が相続する遺産について、法定相続分または1億6,000万円までのどちらか多い金額まで非課税とする制度です。
たとえば、妻が夫から自宅不動産と預貯金を相続した場合、それが1億円程度であれば相続税は発生しません。
ただし、将来その配偶者が亡くなった際には二次相続として課税対象となるため、次世代の相続を見据えた財産分割や節税対策をあわせて検討することが大切です。
本記事では、建物を相続した際の相続税評価額の算出方法や、節税方法などについて詳しく解説しました。
建物や土地などの不動産を相続する場合、評価額の算出方法や特例の適用条件によって相続税の額が大きく変わります。
そのため、相続税の算出や節税対策に不安を抱えている方は、できるだけ早い段階で税理士に相談することをおすすめします。
専門家に依頼することで、自分のケースに最適な評価方法や節税の選択肢を知ることができ、将来の相続トラブルも未然に防げるでしょう。
大切な資産を守るためにも、専門家の力を活用し、安心して相続手続きを進めてください。
本記事のうち税法の解釈・税額計算は一般的な説明にとどまるものであり、個別の税務判断、個別の税額計算、申告内容などは税理士にご相談ください。
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