不動産を相続したものの、その扱いに悩み、このような疑問を持っている方も多いのではないでしょうか。
結論からいうと、不動産は相続「前」ではなく、相続「後」に売却するほうが、お得になるケースが多いです。
本記事では、不動産を相続したあとに売却を検討する具体的なケースから、なぜ相続後の売却がお得なのかという理由について解説します。
実際に売却する際の手順や気になる税金・費用についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
不動産を相続した際、どのようなケースで売却が検討されるのでしょうか。
具体的なケースとして、以下のケースが考えられます。
それぞれのケースについて、詳しく見ていきましょう。
相続した実家が今住んでいる場所から遠かったり、すでにマイホームを持っていたりする場合、自分で住むのは難しいかもしれません。
また、賃貸に出すとしても、管理の手間や空室のリスクが伴います。
このような利用する予定がない不動産は、持っているだけで固定資産税や維持管理費がかかり続けてしまうため、売却して現金化するのが現実的です。
不動産は、ただ所有しているだけでも状態を維持するための手間と費用がかかります。
たとえば、庭の草むしりや建物の定期的な修繕、火災保険料などです。
管理が行き届かないまま放置してしまうと、建物の劣化が進んだり、近隣トラブルの原因になったりする可能性もあります。
こうした将来的なリスクや精神的な負担を避けるために、売却を選ぶ方も多いのです。
不動産は、現金のように簡単に分割することができません。
そのため、相続の際に兄弟姉妹など複数の相続人がいる場合、「誰が住むのか」「誰が管理するのか」「固定資産税は誰が払うのか」といった問題で、話がまとまらないことも少なくありません。
このような場合、不動産を売却して現金化し、その現金を相続分に応じて分ける換価分割という方法がよく用いられます。
換価分割は、相続人全員にとって公平で、後のトラブルを防ぎやすいというメリットがあります。
相続税の納税は、原則として現金納付のため、相続税額分の現金を用意するために不動産を売却するケースもあります。
このように不動産相続後に売却を検討するケースは、それぞれの事情によってさまざまです。
不動産の売却は相続「後」におこなうほうが金銭的なメリットが大きくなる可能性があります。
その理由は、相続後にしか使えない税金の特例があるからです。
ここでは、その具体的な理由を以下の4つのポイントに分けて詳しく解説します。
税金の計算では、不動産の価格を「評価額」という基準で考えます。
そして、相続税を計算するときに使うのは「相続税評価額(路線価)」で、これは実際に市場で売買される価格である「実勢価格」よりも低く設定されているのが一般的です。
目安としては、実勢価格の8割程度とされています。
一方、親が存命中に不動産を売却して現金で相続する場合、その現金の額面(実勢価格)がそのまま相続財産となります。
つまり、不動産のまま相続したほうが、相続税を計算する際の財産評価額を低く抑えられる可能性があり、結果として相続税の節税につながるのです。
「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」とは、相続した不動産を売却する際に、大きな節税効果が期待できる特例です。
通常、不動産を売却して利益(譲渡所得)が出ると、その利益に対して譲渡所得税という税金がかかります。
この利益は、売却価格からその不動産を買ったときの値段である取得費と売却にかかった経費譲渡費用を引いて計算します。
しかし、親が昔に購入した不動産などは、取得費がいくらだったかわからないケースも少なくありません。
そこで、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例を使うと、支払った相続税の一部を「取得費」に上乗せすることが可能です。
取得費が大きくなるということは、その分譲渡所得が圧縮され、結果として譲渡所得税を安くすることができるのです。
なお、この特例を利用するには、以下の2つの重要な条件を満たす必要があります。
この「3年10ヵ月以内」という期限があることで、「相続した不動産は3年以内に売ったほうがいい」といわれる大きな理由のひとつになっています。
「マイホームを売ったときの特例」はその名のとおり、自分が住んでいる家を売却した際に使える制度です。
「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」とも呼ばれます。
もし、相続した実家に引っ越しをして、自分のマイホームとして住んだあとに売却する場合、この特例を適用できる可能性があります。
この特例が適用されると、売却で得た利益から最大で3,000万円を控除可能です。
たとえば、売却益が2,500万円だった場合、この特例を使えば利益は0円となり、譲渡所得税はかかりません。
ただし、適用には「売却する家屋に実際に住んでいること」などの細かい要件があるので、税務署や税理士、弁護士への確認が必要です。
「被相続人の居住用財産を売ったときの特例」は、通称「空き家特例」と呼ばれる制度です。
亡くなった方が一人で住んでいた家を相続し、その家が空き家になったあとに売却する場合に利用できる可能性があります。
「マイホームを売ったときの特例」と同様に、売却で得た利益から最大で3,000万円を控除できるため、特に利用する予定のない実家を相続した場合に非常に有効です。
ただし、適用を受けるためには、以下の要件を満たす必要がある点に注意しましょう。
これらの要件は複雑であり、また、頻繁に法改正があるため、自分のケースが該当するかどうかは、不動産会社や税理士、弁護士などの専門家に相談するのが確実です。
では、実際に不動産を相続してから売却するまでは、どのような流れで進んでいくのでしょうか。
おおまかな手順を下記の7つのステップに分けて解説します。
不動産の所有者(被相続人)が亡くなることで、相続が開始されます。
ここが全ての手続きのスタート地点となります。
次に、亡くなった方が遺言書を遺していないかを確認します。
遺言書には、財産を誰にどのように分けるかが記されており、法的に有効な遺言書がある場合は、原則としてその内容に従って遺産分割をおこないます。
遺言書には、自分で書く「自筆証書遺言」や、公証役場で作成する「公正証書遺言」などがありますが、自筆証書遺言が見つかった場合は、家庭裁判所で「検認」という手続きが必要になることも覚えておきましょう。
遺言書がない場合や、遺言書で分割方法が指定されていない財産がある場合は、相続人全員で遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」をおこないます。
不動産のように分けにくい財産は、この協議で「誰が相続するのか」あるいは「売却して現金で分けるのか」などを決めましょう。
相続人全員の合意が得られたら、その内容を「遺産分割協議書」という書類にまとめ、相続人全員が署名・押印します。
この書類は、後の相続登記で必要になるため、大切に保管してください。
遺産分割協議がまとまったら、法務局で不動産の名義を亡くなった方から相続人へ変更する「相続登記」の手続きをおこないます。
相続登記手続きは、2024年4月から義務化されており、期限内におこなわない場合は罰金などのペナルティが科せられるため注意しましょう。
また、不動産を売却するにも、その不動産の名義が自分でなければ売ることはできません。
相続登記は司法書士に依頼するのが一般的ですが、権利関係が複雑でない場合は、自分でおこなうことも可能です。
相続登記が完了し、不動産の名義が自分になったら、いよいよ売却手続きのスタートです。
まずは、複数の不動産会社に査定を依頼し、いくらで売れそうかを確認しましょう。
不動産会社の査定額や担当者の対応などを比較検討し、信頼できる会社を選んで媒介契約を結びます。
媒介契約を結ぶと、不動産会社が販売活動を開始してくれます。
不動産の売却活動と並行して、相続税の手続きも進める必要があります。
相続税は、相続した財産の総額が「基礎控除額」を超える場合に申告と納税が必要です。
基礎控除額は「3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)」で計算でき、財産が基礎控除額以下であれば、相続税はかかりません。
なお、相続税の申告と納付の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10ヵ月以内です。
期限が短いため、計画的に準備を進めましょう。
無事に不動産を売却できたあと、忘れてはならないのが「確定申告」です。
不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合は、売却した翌年の2月16日から3月15日までの間に、税務署で確定申告をおこない、譲渡所得税を納める必要があります。
「取得費の特例」や「3,000万円特別控除」などの特例を利用する場合も、この確定申告の手続きが必須です。
利益が出ていなくても、特例を使って税金が0円になる場合は申告が必要な点に注意しましょう。
相続不動産の売却には、税金や手数料など、さまざまな費用がかかります。
あらかじめどのような費用が、どのくらいかかるのかを把握しておきましょう。
紙税は、不動産の売買契約書に貼る「収入印紙」にかかる税金です。
契約書に記載された売買金額によって、税額が変わります。
契約書記載売買金額 | 収入印紙 |
1万円未満 | 非課税 |
50万円以下 | 200円 |
50万円超100万円以下 | 500円 |
100万円超500万円以下 | 1,000円 |
500万円超1,000万円以下 | 5,000円 |
1,000万円超5,000万円以下 | 10,000円 |
5,000万円超1億円以下 | 30,000円 |
1億円超5億円以下 | 60,000円 |
5億円超10億円以下 | 160,000円 |
10億円超50億円以下 | 320,000円 |
50億円超 | 480,000円 |
記載金額のないもの | 200円 |
譲渡所得税は、不動産を売却して得た譲渡所得に対してかかる税金で、「所得税」と「住民税」の合計です。
計算式は以下のとおりです。
譲渡所得税 = (売却価格 -(取得費 + 譲渡費用)) ×税率 |
取得費とは、その不動産を最初に購入したときの代金や手数料などを指しますが、不明な場合は売却価格の5%を「概算取得費」として扱うことが可能です。
また、譲渡費用とは売却のために直接かかった費用のことで、仲介手数料や印紙税などが含まれます。
なお、譲渡所得税の税率は、不動産の所有期間に応じて以下の用に異なります。
所有期間が5年を超えるかどうかで税率が大きく変わるため、注意が必要です。
登録免許税は、不動産の名義変更(相続登記)の際に、法務局に納める税金です。
税額は、不動産の「固定資産税評価額」に税率である0.4%をかけて計算します。
たとえば、固定資産税評価額が2,000万円の土地を相続した場合、登録免許税は「2,000万円×0.4%=8万円」です。
上記の税金のほかにも、状況に応じて以下のような費用がかかる場合があります。
さいごに、相続不動産の売却に関してよく寄せられる質問について解説します。
相続した不動産を3年以内に売却したほうがよいのは、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」の適用期限が関係しています。
この特例は、支払った相続税の一部を不動産の取得費に加算できる制度で、譲渡所得税を大幅に節税できるメリットがあります。
しかし、この特例には「相続開始があった日の翌日から3年10ヵ月以内」という適用期限が定められているため、「相続後3年以内」がひとつの売却の目安とされているのです。
相続した不動産を5年以内に売却する場合の注意点は、譲渡所得税の税率です。
譲渡所得税の税率は、不動産を売却した年の1月1日時点での所有期間が5年以下か、5年を超えるかによって大きく異なります。
税率が倍近く違うため、もし売却を急いでいないのであれば、所有期間が5年を超えるのを待ってから売却するのもひとつの戦略です。
ただし、この所有期間は、亡くなった方がその不動産を取得した日から計算する点に注意しましょう。
不動産の売却は、相続「後」におこなうことで、さまざまな税金の特例を使える可能性があり、お得になるケースが多いです。
しかし、本記事の中で紹介した特例にはそれぞれ細かい適用要件があり、税金の計算も複雑です。
また、相続の手続き自体も、遺言書の有無や相続人の数によって進め方が変わってきます。
相続や特例の適用、不動産を売却すべきかなどの悩みや疑問が出てきたら、一人で抱え込まずに専門家に相談することをおすすめします。
相続税については税理士、相続登記については司法書士、相続人間でトラブルが起きそうな場合は弁護士への相談がおすすめです。
もちろん、売却を検討し始めた段階で、まずは不動産会社に相談し、査定や売却の進め方についてアドバイスをもらうのもよいでしょう。
相続手続きや特例の適用には時間制限があるため、どこに相談すべきか悩んでいる場合には、無料相談を受け付けている法律事務所に問い合わせてみましょう。
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