親と共同名義の不動産を相続することになった場合、取り扱いには気をつけなければなりません。
なぜなら、名義が共有のままだと、権利関係が複雑になったり、売却や活用に制限がかかったりするからです。
思わぬ不利益を避けるためにも、できるだけ早めに共同名義を解消しましょう。
本記事では、共同名義の不動産を相続する際の基本的な取り扱いや、共同名義をそのまま放置しておくリスク、共同名義を解消する方法などを解説します。
不動産の共同名義人が亡くなった場合、誰が持分を相続するかは状況によって異なります。
以下、ケース別に確認していきましょう。
死亡した共同名義人に相続人がいると、不動産をはじめとする財産は相続人に引き継がれます。
なお、相続人の範囲は民法で決まっており、配偶者は必ず相続人になりますが、配偶者のほかに誰が相続人になるかは、以下のように決まった順番があります。
相続順位 |
相続人 |
第一順位 |
子ども ※子どもが亡くなっている場合は、孫 |
第二順位 |
直系尊属(両親や祖父母など) |
第三順位 |
兄弟姉妹 |
たとえば、死亡した父親に配偶者と子どもがいれば、相続人は配偶者と子ども(複数いれば全員)です。
また、死亡した父親に配偶者がいるが子どもがおらず、妹がいる場合には、相続人は配偶者と妹になります。
死亡した共同相続人に配偶者や子ども、両親、兄弟姉妹がいなければ、相続人はいません。
この場合、「特別縁故者」という人物が不動産の持分を取得できる可能性があります。
特別縁故者とは、たとえば以下のような人物が該当します。
これらの方が家庭裁判所に財産分与請求を申し立て、特別縁故者として承認されれば、相続財産の相続権を得られます。
亡くなった方に相続人も特別縁故者もいなければ、相続財産は清算手続後に国庫に帰属するのが原則です(民法第959条)。
共同名義人が持分を自動的に取得できるわけではないため、共同名義人が持分を引き継ぐ場合には、相続財産清算人を通じた譲渡が必要となります。
相続財産清算人の選任のためには、1万円程度の費用がかかります。
選任後は、相続財産の中から清算人への報酬を支払わなければなりません。
相続財産の金額が少なく、清算にかかる費用や報酬を賄えない場合には、家庭裁判所にあらかじめ数十万円から100万円程度の予納金の納付が必要です。
複数名が共同で相続した不動産をそのまま共有名義にしておくと、さまざまなリスクが生じます。
そのため、遺産分割の話し合いが難しいと感じても、できるだけ早い段階で共有名義を解消するのが望ましいです。
ここでは、相続不動産をそのまま共同名義にしておく主なリスクを3つ解説します。
相続不動産の共有者の誰かが亡くなると、その人の持分はさらに相続され、新しい共有者がどんどん増えます。
共有者4人、5人と増えていけば、誰がどの程度持分を所有しているか把握するのが難しくなります。
つまり、次世代以降に負担をかけてしまうおそれがあるのです。
民法第251条によれば、共有名義の不動産を増改築・売却といった「変更又は処分」に該当する行為をするときには、全ての共有者の同意が必要となります。
たとえ自分が90%程度の持分を所有していようとも、ほかの共有者が一人でも反対すれば、増改築・売却はできません。
共有名義にすると、税金は持分割合に応じて支払う必要があります。
ただし、実際には納付書は相続人の代表者のみに送付されます。
そのため、まずは代表者が税金をまとめて支払い、そのあとほかの共有者から自分の負担分に応じた金額を受け取る、という流れになるのが一般的です。
しかし、負担分を払ってくれない相続人がいれば、争いが生じかねません。
ここから、共有名義を解消するための方法を紹介します。
共同相続人の属性により解消するための方法は異なるので、しっかりと確認しておきましょう。
共同名義人が相続人となっていれば、「現物分割」や「代償分割」による相続をおこなうのがおすすめです。
現物分割とは、不動産を特定の相続人一人が相続し、不動産以外の相続財産をほかの相続人で分割する方法です。
たとえば、相続人二人が評価額2,000万円相当の家と1,000万円の預貯金を相続する場合、家に住み続ける予定のある相続人一人が2,000万円の持ち家を相続し、もう一人が1,000万円の預貯金を相続します。
完全に等しい相続ではありませんが、話し合いによって「家に住み続けたい人に不動産を渡す」という希望を尊重しながら、おおむね公平な形で財産を分割できます。
代償分割とは、不動産を特定の相続人一人が単独で受け取る代わりに、ほかの相続人に代償金を支払う方法です。
たとえば、相続人二人が評価額2,000万円相当の家を相続する場合、家に住み続ける予定のある相続人一人が2,000万円の持ち家を相続する代わりに、残りの1,000万円(代償金)を支払えば、バランスが取れます。
こうした分割について当事者間で協議が調わない場合においては、共有物分割請求訴訟という民事訴訟手続の中で解決を図ることとなります。
亡くなった人と第三者が共同名義で不動産を所有していた場合、相続人がその不動産を取得しても、残りの持分は第三者に残ったままとなります。
このようなときは、不動産を相続した人と共同名義人との間で話し合いをおこない、いずれかの持分を売却・譲渡してもらったり、または持分を買い取ったりするのがおすすめです。
なお、相続するのが土地であれば、共有者それぞれの持分に応じて土地を分筆し、単独所有にするのも有効です。
ただし、接道状況や方角などによって評価額に差が出ることもあり、平等に分けるのは難しいケースや、分筆によって土地全体の価値が下がるケースもあるので、慎重に判断すべきでしょう。
共有名義の不動産を相続した場合、状況によっては相続税を納める必要があります。
そこで、ここから共同名義の不動産を相続した際に相続税が発生する仕組みや、節税のポイントについて解説します。
共有名義の不動産は、資金の負担割合に応じて持分が決まるのが通常です。
ただし、親子で不動産を共同名義で購入していた場合、相続税の対象となるのは「親が所有していた持分部分」のみです。
そのため、本来子どもが所有していた持分には相続税はかかりません。
つまり、単独名義の不動産を相続する場合と比較すると、税負担が軽減します。
なお、親が所有する財産全体が相続税の基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)を下回る場合には、相続税が発生しない可能性もあります。
共有不動産を相続する際には、「小規模宅地等の特例」を利用できます。
本制度は、以下のような被相続人が住んでいた自宅や事業で使用していた土地を相続した場合に、土地の相続税評価額を最大80%減額できるというものです。
種類 |
対象面積の上限 |
減額割合 |
特定居住用宅地等 |
330㎡ |
80% |
特定事業用宅地等 |
400㎡ |
80% |
特定同族会社事業用宅地等 |
400㎡ |
80% |
貸付事業用宅地等 |
200㎡ |
50% |
ただし、特例を適用するには細かな条件があり、適用できるかどうかはケースごとに異なります。
判断を誤ると特例が受けられない可能性もあるため、制度の利用を検討する際は、早めに税理士などの専門家に相談するのがおすすめです。
共同名義の不動産の相続は、トラブルの原因となりやすいです。
ただし、被相続人が事前に対策をしておけば、相続時のトラブルを防ぐことができます。
ここでは、トラブルを未然に防ぐための主な3つの方法を紹介するので、ぜひ参考にしてください。
不動産を共同名義にしていると、相続時に権利関係が複雑になりやすいデメリットがあります。
そのため、生前のうちに「単独名義」にしておくのが有効です。
単独名義に変更するための主な方法は、以下の3つです。
自分の共有持分をあらかじめ売却して現金化しておく方法もあります。
現金保有に切り替えることで、相続手続きの負担を軽減できます。
ただし、共有持分の売却は買い手が限られることがあるので、注意が必要です。
買い手が見つからなければ、共有持分の買取をおこなっている業者を探して相談しましょう。
単独名義への変更が難しい場合は、遺言書を作成しておくのも有効です。
不動産を誰に引き継がせるかを明確にしておけば、相続人同士の言い争いを防げるかもしれません。
遺言書を残して共同名義の不動産を相続させる主な方法は、以下の2つです。
不動産を共有名義のままにしておくと、権利関係が複雑になったり、固定資産税の負担をめぐって親族間でトラブルが起きたりするおそれがあります。
リスクを避けるためには、早めに共有状態を解消しておくことが大切です。
ただし、共有名義の解消にはいくつかの方法があり、状況に応じて適切な対応が異なります。
「どの方法を選べばよいのかわからない」と感じたら、相続問題を得意とする弁護士に相談するのがおすすめです。
専門家であれば、事情を踏まえたうえで、最適な対応をアドバイスしてくれます。
不動産の名義変更には、思った以上に時間がかかることもあります。
トラブルを防ぐためにも、できるだけ早い段階で弁護士に相談しましょう。
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