親が亡くなり遺産相続が発生したものの、直近で自己破産していた場合、遺産を相続できるのか気になってしまうでしょう。
結論から言えば、自己破産をしていても相続は可能です。ただし、タイミングによっては、相続財産が債権者への弁済に充てられたり、自己破産が認められなくなったりする可能性もあるので、注意が必要です。
本記事では、自己破産と相続の関係性や注意点、相続のタイミングに応じた適切な対応について解説します。
相続人が過去に自己破産をしていても、通常通りに遺産は相続できます。
自己破産の経験があっても、基本的には相続権に影響を与えないからです。
以下では、その理由について詳しく見ていきましょう。
自己破産の事実は相続欠格事由に該当しないので、遺産の相続権を失うことはありません。
そもそも民法によれば、相続人に「相続の欠格事由」がある場合に、遺産の相続権は失われます。
相続の欠格とは、相続に関するルールを大きく乱す行動をした人に対して、その人が遺産を受け取る資格を剥奪する仕組みです。たとえば、以下のような行動が該当します。
これらに自己破産は含まれないため、仮に破産手続きをおこなっていたとしても、通常通りに相続が可能なのです。
自己破産の手続きが裁判所によって正式に始まったあとに相続が発生した場合、相続によって得た財産は、「新しく手に入れた財産」として扱われます。
そのため、自己破産手続き開始決定後に遺産相続が発生しても、特にデメリットはなく、通常通りに遺産を相続できます。
自己破産をしても相続は可能ですが、仮に自己破産手続き開始決定前に相続が発生した場合、以下のような影響を与える可能性があるので、注意が必要です。
ここから、それぞれのポイントについて解説します。
相続によって受け取った財産も含め、自己破産の手続きが始まる前に持っていた財産は「破産財団」に含まれます。
破産財団は換価処分され、売却した得た利益が、破産者の借金の返済に充てられるのが原則です。
なお、「相続で得た遺産を借金の返済に使いたくない」と考えて、財産の存在を隠すような行動は絶対に避けましょう。
遺産を隠す行為は、法律上「免責不許可事由」とされており、最終的に自己破産に伴う免責(債務が免除されること)が認められなくなるおそれがあります。
自己破産の手続きは、主に以下の3つの種類があります。
このうち、処分しなければならない財産がなく、法律上の免責不許可事由にも該当しない場合には、「同時廃止事件」が利用されることが多いです。
同時廃止事件とは、破産手続きを開始すると同時に終了させ、免責手続きも同時に進行できる簡易的な手続きで、破産管財人が選任されないので、費用や期間があまりかからない特徴があります。
しかし、相続によってある程度まとまった資産を有していると「管財事件」として扱われる可能性が高くなります。
この場合、裁判所が選任した破産管財人が破産者の財産を調べて売却し、配当するなどの手続きを進めることになり、同時廃止のような簡易な手続きと比べると、時間も費用も多くかかってしまいます。
自己破産をするには、裁判所に支払い不能と判断してもらう必要があります。
支払い不能とは、多額の負債を抱えていて債務者が支払い能力を欠いており、弁済期にある債務を弁済できない状態のことです。
しかし、相続によって多くの財産を受け取り、借金を全て返せる状態になれば、支払い不能とはいえなくなります。そのため、自己破産が認められなくなる可能性があります。
たとえ相続財産だけで借金を完済できなかったとしても、相続財産を借金返済に充てれば数年程度で完済できるような状態であれば、支払い不能とはいえないとみなされる場合もあるでしょう。
自己破産手続きの前に遺産相続が発生した場合、相続人がとれる対応は以下の2つです。状況に応じて、適切な対応を取りましょう。
相続財産で債務を完済できそうな見込みがあれば、そのまま相続して債務返済を目指すのがよいでしょう。
自己破産にはさまざまデメリットがあるため、自力での完済を目指せる状況で、あえて自己破産を選択する必要はありません。
裁判所から破産手続き開始の決定が出る前であれば、「相続放棄」を選択できます。
しかし、自己破産するからといって、安易に相続放棄を選択してはいけません。
相続財産があるのに相続放棄する行為は財産処分とみなされ、免責不許可事由に該当する可能性があります。
また、相続財産があるにも関わらず相続放棄がおこなわれると、債権者の利益が損なわれることにもなりかねません。
そのため、自己破産前の相続放棄は「限定承認」の効果しか生じず、プラスの財産の範囲内で借金などのマイナスの財産も相続することになります。
自己破産と相続手続きに関しては、そのほかにも注意すべき点があります。
以下では、それぞれの注意点について詳しく見ていきましょう。
遺産分割協議では、誰がどの財産を引き継ぐかを自由に決められます。
そのため、特定の相続人が遺産をまったく受け取らないという取り決めも可能です。
しかし、破産予定者の相続人の相続分をゼロにするのは避けたほうがよいでしょう。
なぜなら、破産予定者が遺産を受け取らないことで、債権者に分配されるべき財産が減って債権者の利益を不当に損ねるので、「詐害行為」と見なされる可能性があるからです。
詐害行為と判断されると、破産管財人が否認権を行使して遺産分割の内容を取り消せます。
そうなると、協議の結果は無効となり、最終的には破産予定者が相続すべきだった遺産が破産財団に組み入れられ、強制的に換金されてしまいます。
また、遺産分割の方法が悪質だと判断された場合には、そもそも免責が認められないおそれもあるでしょう。
自己破産の申し立てをすると、通常であれば1ヵ月~2ヵ月程度で破産手続きが開始します。
この、「自己破産の申し立てから破産手続き開始決定までの間」に遺産相続が発生した場合、取り扱いが複雑になるので注意が必要です。
たとえば、遺産分割の話し合いをしている最中に破産手続き開始決定が出されると、破産者本人が話し合いに加われません。
代わりに、裁判所から選ばれた破産管財人が、ほかの相続人と協議を進めます。その結果、破産者に相続されるはずだった財産は破産財団に組み込まれ、売却されて債権者への弁済に充てられてしまいます。
また、破産者本人の相続放棄が原則として認められず、たとえ相続放棄をしたとしても、「限定承認」の効力が生じることになります。限定承認とは、受け取ったプラスの財産の範囲内で、マイナスの財産も引き継ぐ方法です。
このように、自己破産の申し立てから破産手続き開始決定までのタイミングに遺産相続が発生すると、自分の意思にかかわらず財産が処分される可能性があるのです。
自己破産手続き開始決定後や、自己破産手続き終了後に相続が発生した場合はとくに影響はありませんが、自己破産手続き開始決定前に相続が発生した場合には、相続財産が債権者への弁済に充てられる可能性があります。
もし自己破産手続き開始決定前に相続が発生しそうであれば、相続財産を一部借金返済に充てたうえで任意整理や個人再生を選択するといった手段を検討する必要があるでしょう。
ただし、とるべき手段はケースによって異なり、法律の専門知識がないと、どの手段を選べばよいか判断するのは難しいでしょう。
そのため、まずは相続問題を得意とする弁護士へ相談するのがおすすめです。
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