親が亡くなって実家を相続することになったものの、実家がいわゆる「事故物件」に該当する場合、取り扱いには注意が必要です。
そのまま相続してしまうと、売却や賃貸が難しいなど、思わぬ不利益を受ける可能性があります。
事故物件の特性やリスクを正しく理解したうえで、相続するかどうかを冷静に判断することが大切です。
場合によっては、相続放棄を選ぶべきでしょう。
本記事では、事故物件を相続する際の注意点や相続放棄をすべきケース、相続した場合の不動産の活用方法について解説します。
後悔のない判断をするためにも、ぜひ参考にしてください。
事故物件とは、一般に、人の死に関する心理的瑕疵がある物件のことです。
「心理的瑕疵」とは、買主や借主に対して心理的な抵抗感を抱かせることをいいます。
ただし、どんなことに抵抗を感じるかは人それぞれです。
そのため、以前までは「物件で人が亡くなった」といった事実を、必ずしも買主や借主に伝える義務はありませんでした。
しかし、2021年10月に国土交通省が「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を発表し、過去に人の死が生じた場合に告知すべきと考えられる基準がまとめられました。
現在では、主に以下のような物件が事故物件に該当します。
相続する財産が事故物件に該当する場合、通常の物件とは取り扱いが異なるので注意が必要です。
以下では、事故物件を相続する際の主な注意点やデメリットを解説します。
事故物件を売却したり貸したりするときは、その取引をするか否かにあたって買主や借主にとって重要な影響を与える可能性があることから、人の死が生じたという事実などを伝える義務があります。
これを「告知義務」といいます。
国土交通省発行のガイドラインによると、告知が必要な期間は以下のとおりです。
売買については、たとえ数十年前の事件や自殺であっても、買主に伝えなければなりません。
また、賃貸の告知義務は3年間が目安ですが、死因や社会的影響によっては、3年経過後でも告知が必要と判断されることがあります。
悩むようであれば、専門家に相談するのがおすすめです。
心理的瑕疵は、相続税評価額が減少する要因とはなりません。
そのため、事故物件でも通常の物件同様に相続税が発生するのが原則です。
ただし、物件が「事件現場」としてニュースや新聞で大きく報道されてしまい、買主や借主がまったく見当たらないなど、周囲との土地と比較して明らかに利用価値が下がっているなどの事情があれば、相続税評価額が下がる可能性があります。
相続税の最終的な評価額を決めるのは税務署です。
そのため、心理的瑕疵を相続税評価額に反映してもらうためには、税務署に対して不動産の価値が下がっていることを客観的証拠をもとに提示する必要があります。
税務署に対して説得力のある主張をするためには、専門家に相談するのがおすすめです。
できれば、事故物件の取り扱いに慣れている不動産会社や相続税に詳しい税理士などに相談しましょう。
事故物件でも、通常の不動産と同じように売却はできます。
しかし、買主や借主が抵抗感を感じるので、売却額は大きく下がる傾向にあります。
価格の減少幅は死因や発見時の状況によって異なりますが、相場の50%〜90%になるケースが多いです。
死因の種類 | 売却価格の目安 |
---|---|
殺人 | 相場の約50% |
自殺 | 相場の約70% |
孤独死(自然死) | 相場の約90% |
事故物件を所有しているだけでも、さまざまな費用がかかります。
まず、固定資産税は毎年必ず発生します。
事故物件だからといって税金が軽くなることはなく、一般的な不動産と同じように課税されるのです。
また、建物を長期間放置しておくと、少しずつ老朽化が進みます。
屋根や壁が傷むと修理費用もかかるでしょう。
状態が悪化したまま放置すると、台風などの自然災害で屋根や壁が壊れ、近隣の建物や車に被害を与えてしまい、損害賠償請求を受ける可能性もあるのです。
このように、事故物件を維持するだけでも経済的な負担になります。
活用する予定がないのであれば、できるだけ早めに売却を検討するのがおすすめです。
事故物件の相続にはデメリットが多いのが事実ですが、一方でメリットもあります。
まず、事故物件の相続税評価額が下がれば、相続人の税負担は軽くなります。
また、事故物件を相続したあとに不動産会社へ売却する場合、建物をそのままの状態で引き渡せます。
不動産会社がリフォームを実施するので、売却価格は通常の物件よりも安くなりますが、それでも売却によって多少の利益を得られる可能性があるでしょう。
もし事故物件が人気のあるエリアにある場合は、相続人自身がリフォームをして資産価値を高め、物件を活用すれば、収益を生み出せるかもしれません。
このように、事故物件であっても相続人にとってメリットとなる可能性もあるのです。
デメリットを踏まえ、事故物件を相続したくないのであれば、家庭裁判所に「相続放棄」を申述することで相続を拒否できます。
ただし、相続放棄を申し立てる場合には注意点があります。
以下では、相続放棄の主な注意点を紹介するので、しっかりと確認しておきましょう。
相続放棄をすると、被相続人の一切の財産を受け取れなくなります。
「事故物件だけを相続しない」ということはできず、全ての相続財産を放棄しなければなりません。
民法の取り扱いによれば、事故物件を現に占有している相続人は、相続放棄をしていないほかの相続人や相続財産清算人に引き渡すまでは、相続放棄をした相続人が事故物件を管理しなければなりません(民法第940条)。
つまり、相続放棄をして財産を引き継がない場合でも、管理責任が残ってしまう可能性があるのです。
なお、相続財産清算人を選任するためには家庭裁判所への申し立てが必要ですが、申し立て費用も相続放棄した相続人が負担しなければならない点も注意が必要です。
相続放棄をするかどうかは、状況に応じて判断するのがよいでしょう。
以下、主な判断基準を紹介するので、ご自身の状況に照らしてみてください。
事故物件を含む遺産を相続するか決める際には、口座預金などのプラスの財産と借金などのマイナスの財産のどちらが多いかを把握しておくべきです。
そもそも相続には、以下の3つの方法があります。
どの方法を選ぶべきかは、財産のバランスで決まります。
たとえば、プラスの財産が明らかに多ければ単純承認を選ぶのが一般的です。
一方で、借金やローンなどマイナスの財産のほうが明らかに多ければ、相続放棄や限定承認を選べば借金を背負わずに済みます。
正しい選択をするためにも、相続財産を正確に調べておきましょう。
亡くなった親族が長く住んでいた物件であれば、相続人にとっての思い入れも強いでしょう。
思い入れは、経済的価値では計れません。
ただし、思い入れがあるからという理由だけで相続をすると、のちに物件の処分に困ってしまうかもしれません。
感情面だけでなく、金銭的価値もある程度考慮するようにしましょう。
相続する財産の中にどうしても手放したくない財産があれば、たとえ借金が多くても相続放棄せずに借金の返済を検討する必要があります。
たとえば、自宅以外に現金や売りやすい不動産などがあれば、それを早めに売って借金の返済にあてる方法を検討しましょう。
しかし、自宅以外に目星となりそうな財産が無い場合や、すぐに売れないものしかなければ、自分の貯金や収入から借金を返すことになってしまいます。
いったん相続を承認すると、基本的には取り消せません。
現実的に返済できるかどうかを考えておきましょう。
普段は親族の関係が良好でも、相続が発生すると考え方や利害がぶつかり、関係がこじれてしまうケースは少なくありません。
相続放棄を選択すれば、相続人間の遺産分割協議に参加する必要がなくなるので、相続争いを回避できるでしょう。
被相続人の相続遺産の額が明確でないときは、「限定承認」を選ぶのも選択肢のひとつです。
限定承認を選ぶと、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続できます。
そのため、知らないうちに過大な借金を相続してしまうリスクを防ぐことが可能です。
ただし、限定承認は、必ず相続人全員で家庭裁判所に申し立てをしなければなりません。
相続人全員の意見が一致しなければ申し立てが難しくなる点には注意が必要です。
相続放棄をすべきか悩んでいるのであれば、弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士に相談すれば、相続財産を正確に評価したうえで、最適な相続方法に関してアドバイスをもらえます。
また、家庭裁判所での相続放棄の手続きも代行してもらえるので、煩雑な手続きについても一任することが可能です。
事故物件を相続した場合、どのように活用するかを考える必要があります。
主な選択肢は次の3つです。
ここからは、それぞれの活用方法について、詳しく解説します。
事故物件に対して強い思い入れがあり、相続人自身がそこに住める状況であれば、「自分で住む」という選択肢も考えられます。
ただし、被相続人の発見が遅れた場合、腐敗によって体液や血液が床や壁に染み込み、建物自体に大きなダメージを与えている場合があります。
その場合、修繕費がかさむ可能性があるため、物件の状態を事前にしっかりと確認しておきましょう。
相続した物件を賃貸物件として活用する方法も考えられます。
事故物件であっても、利便性が高く家賃が相場より安ければ、賃貸物件としての価値は高いでしょう。
ただし、事故物件の家賃は、周辺相場より10%〜50%程度低く設定しなければ借り手が見つかりにくいことが多いです。
また、建物の損傷が大きい場合、賃貸に出す前に数百万円単位のリフォーム費用が必要になる場合もあります。
心理的瑕疵はリフォームしても消えないので、借り手が見つかる保証はありません。
賃貸として活用する場合、物件に賃貸需要があるかどうかを事前に検討しておきましょう。
事故物件に自分では住まず、賃貸としての活用も難しそうであれば、売却するのが無難です。
物件を現金化できれば、他の目的に活用できます。
しかし、事故物件は一般の不動産よりも売却価格が下がる傾向にあります。
不動産会社によっては事故物件の取り扱いを断られるかもしれません。
ただ、事故物件を積極的に取り扱う買取業者も存在するので、いくつか候補を探しておきましょう。
相続した事故物件を売却する際、以下のような流れで手続きが進みます。
まず、事故物件がどれくらいの価格で売れそうか確認します。
そのうえで、売却しても借金を返済できる見込みがなければ相続放棄を選択すべきです。
被相続人に借金などがなければ、単純承認や限定承認を選択しましょう。
単純承認や限定承認を選択した場合、相続人全員で遺産分割協議をおこなう必要があるので、事前に相続人を確定させましょう。
確定のためには、戸籍謄本、除籍謄本などを取り寄せる必要が生じます。
相続人全員で遺産の分割方法を話し合い、事故物件を誰が相続するか決定します。
事故物件の相続では、相続人同士で折り合いがつかず、争いに発展するケースも多いので、不安があれば事前に弁護士へ相談するのがおすすめです。
遺産分割協議が終了したら遺産分割協議書を作成し、相続人が最寄りの法務局で相続登記をおこないます。
申請から完了までには、通常1週間〜10日程度の期間を要します。
手続きが完了すると、登記識別情報通知書が郵送されるので、大切に保管しておきましょう。
専門業者に依頼して、買い手を見つけてもらいます。
また、買い手候補者の訪問に備えて、遺品整理や室内清掃もおこなっておきましょう。
買い手が見つかって条件がまとまれば、売買契約を締結します。
締結後、売り手は決済日に代金を受け取り、名義変更手続きをおこないます。
売却後に利益が出た場合は、翌年の確定申告で譲渡所得税の申告と納税が必要です。
以下では、事故物件の相続に関してよくある質問をまとめました。
似たような疑問を持っている方は、ぜひここで疑問を解消してください。
相続放棄をする場合は、相続が始まったことを知ってから「3ヵ月以内」に家庭裁判所へ申し立てをおこなう必要があります。
しかし、申し立て必要な書類を集めたり、財産を調査したりすることを考慮すると、3ヵ月ぎりぎりで相続放棄をするかどうかを判断しているのでは遅い可能性が高いです。
3ヵ月はあっという間に過ぎてしまいます。
悩んでしまうかもしれませんが、なるべく早めに決断しましょう。
3ヵ月以内に相続放棄をするか否かを決定することができない場合には、家庭裁判所に対し、相続放棄期間の伸長の申立てをおこなう必要があります。
期間伸長を認めるかは、裁判所の判断となりますので、期間伸長が必要な理由は、詳細かつ具体的に記載すると良いでしょう。
相続人が全員揃って相続放棄すると、以下の事由が発生します。
なかには別途手続きが必要なものもあるので、事前に弁護士へ相談しておくと安心です。
事故物件を相続するかどうかは、故人との思い出や物件の資産価値など、さまざまな要素を踏まえて慎重に判断する必要があります。
相続する場合、事故物件の活用方法を検討しなければなりません。
売却や賃貸をする場合は市場価格が下がる傾向があるので、リフォームやリノベーションを施して買主や借主の不安を軽減する工夫が必要です。
また、相続を放棄する場合でも、家庭裁判所への申述期限など、注意すべき点が多くあります。
このように、事故物件の相続には多くのポイントがあり、対応を誤ると思わぬトラブルにつながるおそれもあります。
そのため、全てを自分ひとりで対応しようとせず、専門家の助言を受けながら手続きを進めることが大切です。
専門家の中でも、弁護士に相談すれば、事故物件を相続すべきかアドバイスをもらえます。
また、裁判所での手続きや書類の準備、相続財産の計算方法についてもサポートしてくれます。
事故物件の相続について少しでも悩みがあれば、できるだけ早めに弁護士などの専門家に相談しましょう。
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